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魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~

リアクション公開中!

魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~
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リアクション

 残された淳二は、プリムローズと魅音を先程のスペースまで連れて行くことにした。プリムローズは、完全に意識を失っている。彼女は抱き上げて運ぶとして……だからといって、こちらの少女も自力で歩けるようには見えなかった。ここで待っていてもらったとして、引き返してくる間に何があるかも分からない。
 どうしようかと思っていた時に、エスカレーターの向こうから走ってくる男女の姿が見えた。お互いに目が合い、2人はこちらにやってくる。
「どうしました? 何かお困りですか?」
 京子を探していた緋桜 霞憐(ひざくら・かれん)緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)椎名 真(しいな・まこと)だ。既に、霞憐の変化は落ち着いている。
 淳二が事情を説明すると、霞憐はすぐに頷いた。
「分かりました。私もお手伝いします。真さん、すみません、まだ京子さんが見つかっていないのに……」
 霞憐が申し訳なさそうに言うと、真はとんでもないと首を振った。
「聞き込みをするのにすごく助かったよ。ありがとう」

 霞憐が魅音を、淳二がプリムローズを抱えて避難スペースに向かう。その途中で、彼らは通路の脇で休息を取っている皐月達を見つけた。剣の花嫁らしき2人の体調がかなり悪そうだ。
 淳二が5人に近付く。
「……大丈夫ですか? 動けますか?」
「……うん、何とか……」
 夜空が答えると、壁に寄りかかっていた要も言う。
「俺もまあ、歩くぐれぇなら……」
「あちらに安全な場所を見つけました。そこまで移動できればベストなんですが……」
 そうして、全員で少しずつ移動を開始した。マルクスが夜空を支え、皐月は周囲を警戒する。
「一体、何が起きてんだ? 剣の花嫁の体調だけおかしくなるなんて。何か攻撃めいたものに遭ったって事は確かみてーなんだけど……」
 皐月が言うと、霞憐も屋上で話し合った時に出た話を伝える。
「はい、私達も人為的なものじゃないかと話していました。ただ、方法とか、犯人が誰なのかということまでは……」
「その犯人ですが、容姿が判りました。恐らく、手段も」
 先程あった出来事、その時に見たデジカメの映像について淳二は説明する。1人は少女。獣人なのか超感覚なのかは判別出来なかったが犬のような耳が生えていた事。赤茶色の髪を2つに分けて軽くくくっている。もう1人は中年の男性であるという事以外に大した特徴が無かったが、2人共ブラックコートを着ていた事。少女の方が大きめのバズーカを構えていた事。
「……このバズーカが原因だと思います。犯人はこの2人で間違い無いかと」
「症状については……、まず体調が悪くなる、というのは共通しているみたいだね」
「封印以前の記憶を思い出す、というケースもあるようですね」
 秋日子と霞憐が、交互に状況をまとめていく。
「それから、人格が変わる人と変わらない人がいるみたいですね。変わった人は……そのうち、姿まで変化していく。霞憐は、元々男の子だったんですが……」
 遙遠が言うと、霞憐は淡く微笑んだ。
「姿まで……!?」
 淡く微笑む霞憐に、秋日子が驚く。要をちらりと見て、それから首を何度か振った。
「えっと、そのお話ですけど〜」
 そこに、話を耳にした由宇が近付いてきた。静麻が霞憐の抱いた魅音に気付き、アクアと3人で話しかけようとしていた所だった。
「静麻お兄ちゃん!」
「魅音!」
「パートナーの方ですね。合流出来て良かったです」
 霞憐がそっと魅音を渡す。そんな遣り取りを心から安堵した表情で見届けてから由宇は言った。
「変わってしまった人格は……えと……そう、以前の剣の花嫁さん達のものなのだと言ってました〜。使い手……契約者さんが違うと、人格も違う、と……。この話は、知り合いのパートナーさんが教えてくれたんですけど……」
 話をしているうちに、一行は閉店跡である避難スペースに辿り着いた。プリムローズと夜空、要、魅音を休ませ、皆でその言葉の意味を考える。
 マルクスが言う。
「……つまり、人格の変わった花嫁は今の契約者の前に別の契約者がいたという事だな。人格が変わらず、身体に変調を来した所で止まっている場合は変わる人格が存在しない初契約という事か」
「……『もう、この肉体は私のもの』……」
 その時、座り込んだ魅音が呟く。
「そう、言ってたよ。ボクと同じくらいの女の子だったけど、大人っぽい話し方で……」
 魅音はそうして、カフェで見た一部始終を全員に話した。ついでに、ファーシーという青い髪の車椅子少女との会話も一通り。
「それって、何かをしないと元に戻らないってことかもしれませんわね」
「……犯人達を問い質すしかないでしょうね。この囲いの外で、彼らを殺……捕まえようとされている方々もいます。その会話内容も含め、まとめた情報をデパートのインフォメーションにも伝えておきましょう」
 アクアの言葉を受けてこう言うと、淳二は一旦避難スペースを離れていった。
「……ファーシー……」
 皐月は、彼女が落ち込んだ様子で1人何処かに行ってしまったというのが気になった。脚の事、そして彼女は今、ラスの言葉に迷いを感じているのかもしれない。何を思って、ラス達を追い掛けなかったのか――
 だけど、今ここで夜空が被害に遭って苦しんでいる。彼は、事件解決の為に犯人達を追いたいと思っていた。
 とはいえ、『どちらも』なんて選べる筈も無く。
「……英雄など、何処にでも居る」
 迷っているのを察したのか、マルクスが皐月に向けて言う。
「……?」
「お前の救いたい物は、けれどお前が救うべきでも、お前に救われるべきでも無いのかもしれない。
 ――だから、お前はお前の為すべきを為せ、皐月」
「…………」
 僅かな驚きと共にマルクスを見詰めていた皐月は、しばらくしてその表情を引き締めた。
無言のまま避難スペースを飛び出そうとする彼を、夜空が呼び止める。
「……皐月」
 振り返ると、夜空は淡い笑みを浮かべていた。
「ねぇ、安心した? 自分が、“初めて”で」
「……!」
 唐突なその問いに、一瞬息が詰まった。
 そう、夜空は人格が変わらなかった。即ち、皐月が初めての契約者だという事だ。しかし、それが何だというのか。もし夜空が変わってしまっても――
 やがて、夜空はいつも通りに気軽な調子で言った。
「……冗談。んな器小さくないよね、皐月は」
「……封印すんぞバカ夜空」
 なまじ冗談とも思えなかったが、とりあえず皐月は軽口で返した。
「やってみなー。ま、悔い残さないてーどに行ってくれば? あたしは待ってるからさ」
「……行ってくる」
 弱々しく、ひらひらと手を振る夜空を残して皐月は外へと出て行った。
 ――掌の大きさなら知っている。
 ――救おうとするものに対して、救えるものが限りないことなんて、最初から理解している。
 ――そもそも救おうだなんて事自体、おこがましい事なのかもしれないけど。
 ――でも、それでも、護りたいから。


 ――手を。

              ◇◇◇◇◇◇

 写真の娘の代わり……。自分とそっくりの別人の写真を見せられれば、ピノがショックを受けるのも無理ないだろう。そして、その言葉、経緯について直に会話を聴いた魅音はだ
「魅音……」
 静麻は、魅音と目線を合わせる。
「?」
 魅音は確かに幼馴染とよく似ているし、同じ名前を与えた。だが。
「俺は魅音をあいつの代わりとして扱った事は無い。閃崎・魅音は誰かの代替品なんかじゃないからな」
「…………」
 魅音は束の間きょとんとしてから、うれしそうに笑った。
「……うんっ!」
「……では、ここで1曲演奏しますね〜。幸せの歌なんかいいかもです。絶対になんとかなりますよ〜」
 由宇がアクアに目配せして、エレキギターを演奏する。他にやるべき事があるような気がするが、アクアは、メロディーに合わせて幸せの歌を歌い始めた。たとえ効果が無くても、由宇はめげずにギターを弾き続けるだろう。少しでも皆が、楽になるように。
(必死になっててかわいいですし、協力してあげるのも悪くないですわね)
 演奏しながら、由宇は思った。
(私には契約してくれる剣の花嫁さんはいないようですし、ちょっとうらやましいのですよー。でも、契約していてもしていなくても、皆さんの大切な人な事には変わらないとおもうのです)
 だから、悲しむような事態には絶対させないようにしないと、と音を奏でる。綺麗な音楽が鳴り響く避難スペースに、淳二が戻ってくる。
「とりあえず伝えておきました。スタッフの話だと、カフェからも各学園にそれなりの通達が出ているらしいです。主に『フーリの祠』の調査についてですね。ファーシーが喧嘩めいたものをした事も知っていました。まあ、詳しい内容までは伝わっていませんでしたが……俺達は、どうします?」
「私は皆さんの看護をしたいと思います。ここは少し殺風景ですし、暖かいお飲み物や毛布をご用意出来たらと」
 霞憐が言うと、淳二はスペースをざっと見て、最後に、眠っているミーナに視線を向ける。
「そうですね。このフロアなら手に入りやすそうですし……。あと、被害に遭われた方が気付きやすいように少し壁を開放しましょうか。簡単に取り外せそうですから」
「俺も騒動の犯人はとっちめたいが、こうあっちこっちで騒いでいるとそっちを止める方優先かねぇ」
「……なるべく1箇所に集まっていた方が良いでしょうし、被害に遭われた方に事情を説明する必要も出てくると思います。……変化してしまった場合、割り込むのは難しい気がしますが……」
 静麻の言葉に、淳二は考えつつそう言った。
「ここが避難所か」
 そこに、短い髪をした美女が、避難スペースを訪れた。エミリア・パージカル(えみりあ・ぱーじかる)だ。彼女の後ろには如月 正悟(きさらぎ・しょうご)がついている。
「今回の件、発生の理由や症状など、何か知っていたら教えてほしいのだが」
「あ、はい。えーと……」
「あっ、ちょっといいか?」
 そこに、4人の男女が歩いてきた。セシル・レオ・ソルシオン(せしるれお・そるしおん)水晶 六花(みあき・りっか)アスティ・リリト・セレスト(あすてぃ・りりとせれすと)
カイルフォール・セレスト(かいるふぉーる・せれすと)だ。
「剣の花嫁に攻撃してるやつを探してるんだけど、何か知らないか? りくが……」
「…………」
 六花の涙の跡を見て、淳二達は事情が分からないまでも、何かひどい事があったということだけは察する事が出来た。それを聞くようなことはせず、彼らは静かにデジカメを示す。
「これが……犯人達の姿です」