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しっぽ取り宝探しゲーム

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しっぽ取り宝探しゲーム

リアクション

5.

 地面に落ちたテディベアの汚れを払っていたセルマは、ふと視線を感じて顔を上げた。
「やっぱりハンターにゃん!」
 神野永太(じんの・えいた)燦式鎮護機ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)だ。
 永太はセルマめがけて氷術を放ち、ザイエンデへ言う。
「今の内に逃げるにゃん、ザイン!」
「はいです、にゃん」
 そして足元を氷で固められたセルマの横を、あっという間に通り過ぎていく永太とザイエンデ。
「あ、こちらの道では遠回りになりますにゃん」
 と、地図を見たザイエンデが言う。
「本当にゃん?」
 永太が地図をのぞき込み、ザイエンデが自分達の現在地を指し示す。
 二人は一度その場に立ち止まると、今来た道を振り返った。近道を目指すのであれば、どう行くべきだろうか。
「あまり戦闘はしたくないしにゃー」
「……このままでは優勝できません、にゃん」
 と、ザイエンデは言うと、永太に構わずダッシュローラーを使って道なき道を走り始めた。
「あ、ザイン!」
 慌てて追いかける永太だが、彼女の姿はあっという間に見えなくなってしまう。彼女に追いつけない限り、これでは失格だ。
「ぁー……」
 せめて、審判に見つからないことだけを祈る永太であった。

 やはり木の上を移動していると、ハンターに見つかりにくい。
 猿の一種であるキンシコウに扮した佐々木弥十郎(ささき・やじゅうろう)は、その独特な移動方法により、すでに数名のハンターからしっぽを取り上げていた。
「迷彩塗装のおかげうきー」
 と、弥十郎。同じようにニホンザルになりきっている熊谷直実(くまがや・なおざね)は言った。
「宝箱はもうすぐでござる。気は抜けないでござる」
 すっかり木々にとけ込んでいる猿たちだが、何か間違えているような気がする。
「もし審判が近くにいたら、あまり喋らない方が良いと思ううきぃ」
「どうしてでござる?」
「……おっさんの語尾は、ニホンザルじゃないうき」
 はっとする直実だったが、すぐに気配を察知して足を止めた。
「ハンターでござる……!」
 直実の近くから地上を見下ろした弥十郎は、そこにいた少女と目が合ってしまった。
「ここから先へは行かせませんこん!」
 と、水橋エリス(みずばし・えりす)は彼らに向かって雷術を放つ。
「うきゃー!」
 木の上にいた猿たちはとっさに地上へ落ちる。そして直実は事前に捕まえておいた森の動物をエリスの方へぶん投げた。
 エリスはそちらに注意を向けそうになったが、構わずに二人へ向き直る。
「こうなったら戦うしかないうっきー!」
 と、覚悟した弥十郎は飛び跳ねた。野生の猿がそうして移動するように、横向きに。
「……え?」
 キンシコウになりきっている様子の弥十郎。しかし、いくらなりきっているとは言え、動きがぎこちない。
 エリスはこちらへ向かってきた弥十郎の動きを読んで避けると、すぐさま彼の背後へ回って長いしっぽを奪い取った。
「あ!」
「取られたでござる!」
 確かにこのゲームで動物になりきることは重要だが、ハンターに遭遇した時くらいは普通に動いてくれて構わない。
「これであなたたちはゲームオーバーですこん」
 と、エリスは勝ち誇った顔を二人へ向けた。

「アヤ、あれって……」
「罠だにゃー」
 犬耳しっぽを着けたクリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)と、猫耳しっぽを着けた神和綺人(かんなぎ・あやと)は立ち止まった。
 十メートルほど先に一本のロープが低い位置に張られている。気付かずに通り過ぎようとすると、あれに引っ掛かって転んでしまう罠だろう。
「ということは、近くにハンターがいるわん」
 と、クリスはやる気満々に言う。犬の中でもゴールデンレトリバーを意識しているだけあって、可愛いだけではなさそうだ。
「さっさと倒して、先へ行こうにゃ!」
「はいわん!」
 ジェンド・レイノート(じぇんど・れいのーと)はロープから手を放していたので気付かなかった。そろそろ待っているのにも飽きたので、ぐいっとロープを引っ張ってやろうかとも思ったのだが、ようやく相手にしてくれる人が来たようだ。
「うぎゃああああああ!」
 雷術を受けて悲鳴を上げるゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)。ジェンドはロープを思い切り引っ張った。
「あ、間違えたぴょん」
 その勢いで道へ出てくるゲドー。キリンになりきっているはずの彼だが、その頭に着いているのはキリンの耳ではなくて角だ。やっぱり珍獣にしか見えないと思いながらも、ジェンドは相方の行く末を見守ることにした。
「良い運動になりそうわん」
 と、クリスがゲドーを見据える。クリスもまた、食欲の秋を満喫しすぎて体重計に乗れなくなっていた。
「くっそー、お前らが幸福なせいで俺様が不幸を被るんだきりん! 何故きりん!?」
 綺人とクリスは目を丸くした。
「かくなる上は――」
 と、何かすごそうな呪文を唱え始めるゲドーだったが、隠れているはずのジェンドが出てこない。確かに、今目の前にいる二人はとても強そうだ。自分たちが勝てるはずもなく……。
「クリス、落とし穴まで掘ってあるにゃん!」
「ずいぶんと用意周到わん。でも、私たちの勝ちですわん」
 と、ゲドーのしっぽを抜き取るクリス。
「えぇ!? お、おお、おい! 待つきりん! まだ勝負は決まって――」
 慌てて二人を追うゲドー。ジェンドはそんな相方の姿が見てられなくて、ぴょんと草むらから飛び出す。
「ゲドーさんの仇だぴょん!」
 と、落とし穴を避けて行こうとするクリスのしっぽに手を伸ばす。
「っ……!」
 はっとしたクリスが振り返ると、うさぎ耳としっぽを着けたジェンドがクリスのしっぽを奪い取っていた。
「アヤ! 取られてしまったわん!」
「あー、やっぱりもう一人いたにゃ。ここで僕たちはゲームオーバーにゃん」
 しゅんとするクリスの肩に、綺人は優しく手を置いた。

「ハンターの数が減って来たにゃー」
「確かにわん」
 ハンターでもないのに、東條カガチ(とうじょう・かがち)椎名真(しいな・まこと)はすでにいくつものしっぽをゲットしていた。
 二人とも超感覚を発動させている為、耳としっぽが二倍である。それも容赦がないことから、二人の名はセルマの次に広まっていた。
「あ、あれってハンターじゃないかにゃ?」
 と、前方で金色のしっぽを手にしているうさぎを指さす。
「うさぎのしっぽは取りにくいけど、やりがいがありそうわん」
 と、真もそれを認めた。
 ふと気配を感じて振り返ったジェンドは、すぐに向かってくるカガチの姿に気付く。
「しっぽ置いてけにゃ! ハンターにゃ! ハンターだろお前!」
 と、叫びながら近づいてくるカガチ。ゲドーとあまり大差のない変人の出現に、ジェンドはくるりと背を向けた。
「遅刻しちゃうぴょん!」
 と、走り出す。うさぎはそう、急いでいるのだ!
 すると、足に何か引っかかって転んでしまった。自ら掘った落とし穴に落ちることはなかったが、これはやばい。
「さあ、覚悟するわん!」
 トラップを張った真が言うと、追いついたカガチがジェンドの尻から丸っこいしっぽを奪い取る。
「にゃ! 椎名くん、あっちにもいるにゃ!」
 と、道の先に待ち構えるエリスを指さすカガチ。――そして二人は、再びハンターを狩りに行くのであった。