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ぶーとれぐ 愚者の花嫁

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ぶーとれぐ 愚者の花嫁
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第十章 羊飼いと依頼人

僕は守れるか分からない先の約束はしない主義なのだけど……少し先のことくらい構わないよ。 黒崎天音(夜桜を楽しみに)

父なる神よ。
青いドレスの雷神の策略で、テレーズ嬢を奪われてしまった私をお許しください。
私、ルドルフ・グルジエフは、悪知恵の働く悪魔たちのいやがらせにさいなまされながらも、迷える子羊を正しき道へ導こうと努力しました。
努力はまだ実を結んでいませんが、今日は、神の子の中でも、もっともみめうるわし、父なる神に近い存在、ジェイダス観世院様の像を悪魔の手より救いだすことができました。
この幸運に感謝します。
疲れはて、現世のあばらやに、天使ヴァーナーを連れて帰った私を待っていたのは、小悪魔セバスチャンではなく、かぐわしき薔薇の園からきた貴公子でした。

「天音おにいちゃんも、またマジェスティックにきたですか。
ボクは今日は、ルディおにいちゃんの手伝いをしてるですよ」

彼らの姿をみて、うれしそうにはしゃぐヴァーナーに、教会の長椅子に半ば横になり、天井の聖ニコライのフレスコ画を眺めていた彼は、そのまま、かるく手をあげました。

「やあ、ヴァーナー。この街は不思議だよね。街自体が十九世紀のロンドンを模していたり、ここの天井の絵には、聖者が描かれているのだけど、この教会はその宗派のものではないし。インテリアとして描いたのかな。
マジェスティックは、いろんな文化や情報が入り混じっていて、みててあきないよ」

黒髪の少年は、微笑を浮かべたまま、私に目をむけました。
ああ。やはり、彼は、薔薇の学舎の。

「神父。おかえり。待っていたよ。おや、手にしているのは、ジェイダス・観世院校長の像じゃない。どうしたの?
きみは本当にジェイダス校長が好きみたいだね。
さっき、ここにはってある写真もみたよ。なかなかよい趣味をしているようだね」

「黒崎天音」

私は彼の者を知っております。
ジェイダス様がおさめておられる薔薇の学舎を代表する人物の一人。
彼がメロン・ブラック博士の行方不明事件にかかわったらしいのは、街で歌われている童謡で知っておりましたので、いつか、この街で会えるのでは、と思っていました。
父なる神よ。 
今日は、なんと素晴らしい日だ。
ありがとうございます。

「名前を呼ばれたからには、はい、と答えればいいのかい」

天音の隣には、彼のパートナーとして有名な竜人もおりました。竜人の名は、たしか、ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)

「ブルーズおにいちゃんもいるです。これでルディおにいちゃんも安心ですね。ボクと一緒にがんばるです」

竜人は、天使のハグと口づけを受けても、表情一つ変えません。
しかし、天音のパートーナーなのだし、万が一はないとは思うのですが、竜人は、男なのですよね?
念のために、たずねてみるのも失礼なような気もするし。

「ヴァーナー。おまえも物好きなやつだな。
わざわざ厄介事に首を突っこんでおるのか。
我は、ここの用事があってきたのだ。
ふーむ。
あんな、ろくでもない手帳など、失くしてしまっても良いと思うがな。
いや失くすのは不味いか。ああいう物は、誰の目にもつかぬよう、きちんと焼却処分すべきだ。
だいたいこの神父は、本当に頼りになるのか」

「ひどいなブルーズ。
あれが僕にとって、大切な物だということは知ってる癖に」

「ブルーズおにいちゃんと天音おにいちゃんは、なにか困っているですか」

愛らしくヴァーナーが小首を傾げます。

「ああ。とてもとても困っているんだよ。
どうしようか。
このままでは、夜も眠れないな」

「それは大変です。
ボクが助けてあげるです。
どうしてあげればいいですか」

「じゃあ、僕が寝つくまで子守唄でも歌ってもらおうかな」

「わかりました。
歌をうたえば、いいですね」

「天音。
冗談もほどほどにしろ。
早く神父に用件を伝えたらどうだ。
ヴァーナー。神父。我らは探しものをしておるのだ」

竜人。ブルーズは、声からすると男性のようです。
安心しました。
さて、彼らの用件とはなんなのでしょうね。

「僕はヴァーナーの歌で安らかに眠りたかったんだけどね。
神父。君に依頼なんだけど。
この人に聞いたんだ。
君は困った人を助けてくれるんだよね。
この町に来た時、乗り合い馬車の待合所のあたりで女性にぶつかってね。
彼女、荷物を落としてしまって。
それを拾い集めるのを手伝ったんだけれど……。
その時に、僕の大事な物もあやまって彼女のバッグの中に入ってしまったらしいんだよ。
その代わりに、落ちているのを見つたのが、これ」

天音は、指輪を一つ私の手の平に置きました。
小さな宝石、たぶん、ダイヤがはめこまれたシンプルなデザインの指輪です。
指輪の内側には、名前が彫りこまれていました。
テレーズ。

「これは、おそらく、マリッジリングではないでしょうか」

私の問いに天音は頷きます。
婚約指輪ですか。そう言えば、はるか以前に、私も。
苦い思い出ですね。

「持ち主にそれを返して、代わりに彼女が持っていってしまった僕の手帳を取り戻して欲しいんだ」

「指輪はともかく、天音の手帳には、興味はありますが」

つい、私は口をすべらしてしまいました。

「勿論、報酬はあるよ。これは前払い分」

彼は、今度はコインを三枚、私に渡してくれました。

「ゴルダのコインさ」

ゴルダとは、たしか、ア・ハーンと呼ばれる所在の明らかでないまぼろしの国? で使われている通貨ではなかったでしょうか。
これは、貴重なものです。

「おもしろいものを持っているのですね」

「その価値がわかるの? 
君は意外と博識だね。
君の所は三人所帯だと聞いたから三枚。
それから、僕の「黒革の手帳」だけど……努々中を見たり、別の手帳と間違えたりしないよう、お願いしたいね」

「手にしても開くな、と」

私の問いに、天音は、なんともいえない妖しい笑みを浮かべました。
ブルーズはやきもちを焼いているのか、私と天音のやりとりを不機嫌そうにきいています。

「あんなもの、灰燼と化してしまえばいい。これを機会に捨ててしまえ」

「そうは言うけれど君にとっての思い出だって、詰っているものだと思うけどね?」

「それなら鍵の掛かる金庫に入れて、二度と持ち歩く事はしない事だ。
おまえのあれは物騒すぎるぞ」

「君が手帳の使い方も否定する、石頭のドラゴニュートだとは思わなかったよ。
僕は僕らしく手帳を使っているつもりさ」

「天音おにいちゃんの手帳に、なにが書いてあるですか?」
ヴァーナーの質問には、ブルーズが返事をしました。

「人にはとても見せられぬものだ」



地獄行きだッ! リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)(ンカポカ計画 第2話)

神様。
私は不幸です。
このリカイン・フェルマータをお救いください。

でも、神様にこうしてもお願いしても、すぐにご利益があるかわからないので、私のいつまでも待てないんで、神様の代理人の神父様のところへ行きますね。

ヘンなパートナーがたくさんいるとか、理由もなくやたらとからまれるとか(暴力沙汰は大歓迎!)、私は、日頃からけっこう不幸です。
まるで気にしてませんけど。
わかりやすく言うと、美人で、我慢や人付き合いが苦手なさっぱりした性格で、喧嘩の強い私には、なぜか、不幸がよってくるのよ。
なぜかしら。
ひょっとして、夜の街灯に虫が集まる原理かな。

「こんにちは」

噂にきく、マジェの迷い人無料相談教会に、私が訪ねていくと、ちょうど、黒い服の男の人が先客さんたちと立ち話をしているところだった。
鼻眼鏡をかけた若い男の人がたぶん神父で、話している女の子三人は、私と同じ相談者っぽい。
順番、順番。最近、成長した私は、割りこんだりしないわよ。
彼女たちがすむまで待ちましょうか。
教会の中は壁が崩れてたり、天井に穴があいてたりしたけど、案外、片づいてるわ。
長椅子に腰かけてふとあたりを見ると、どこかで会った顔がなん人か他の席に座ってる。
緑の髪の子は、ヴァーナーちゃんね。
神父と女の子たちの話を薄く笑いながらきいてる美形男子が、黒崎天音くん。
隣の眠そうなドラゴニュートくんは、彼のパートナーでよかったかしら。
あの竜くん、強いのかな。黒崎くんのパートナーなんだから、修羅場は踏んでそう。
一度、戦ってみたいな、なんて。
あ。ヴァーナーちゃんがこっちに気づいた。近よってくる。

「リカインおねえちゃん。こんにちは、です」

まずは、ハグとちゅー。この子の場合は、これがあいさつよ。

「おねえちゃんも相談にきたですか」

「うん。まあね。私、いろいろ不幸で」

「そうなんですか。それは、よくないです。
ルディおにいちゃんはいま、レイナおねえちゃんと神さまについてのいけんをたたかわせているです。
ちょっと、まっててほしいです」

戦い?
いいわね。乱入しようか。

「こっちの人は、リカインおねえちゃんのパートナーさんですか」

サンドラ・キャッツアイ(さんどら・きゃっつあい)アレックス・キャッツアイ(あれっくす・きゃっつあい)
双子なの。会ったことなかったっけ」

「こんにちは。ヴァーナーちゃん。
ここの神父は女嫌いって話だけど、あなたが普通に接してもらえてるなら、私やリカも問題ないかな」

「サンドラおねえちゃん、よろしくです。
ボクはこどもだし、サンドラおねえちゃんもボクとおんなじ感じだから、きっと、へいきですよ。
リカインおねえちゃんはあくまってよばれるかもしれないです。
でも、ルディおにいちゃんは、いい人なので、そうだんしたほうがいいですよ」

「ちょっと、ちょっと、いま、なにげに言っていたけど、私があなたと同じってどういう意味?
子供?
つまり私は、発育不全?
ヴァーナーちゃん、私の胸をみて、そう言わなかった」

「ん。んんんん。そ、そんな、ごかいです。
みてないです。
しらないです」

サンドラは普段は優しいお姉さんだけど、胸がP(ぺタ)なのにふれると大変よ。
ヴァーナーちゃん、地雷踏んだかな。

「そりゃ・・・まあ・・・ねえ。
言われても事実なんで、過剰に気にするほうがどうかと思うんっスよ。
姉貴は、Pを気にしすぎじゃないっスか」

「Pって、言うな!」

あー。サンドラの怒鳴り声で、耳が言いたくなるわ。
アレックスはいつものように順調に、戦火を拡大させてる。

「兄貴は黙ってなさい。
こんな幼女にまでバカにさて私は、私は」

「ボクはばかにしてないです。
サンドラおねえちゃん、気にしないでくださいです」

「その言い方はなんだ!」

「ううううう。すいませんです」

「いやヴァーナーちゃんは、まったく悪くないっスよ」

サンドラもアレックスもお互いを姉貴、兄貴って呼ぶから、どっちが上なのか、私にもわからないわ。
黙っていれば、おとなしそうな感じのいい双子なんだけどね。
「リカインおねえちゃん、二人がけんかしそうです。
ボクのせきにんです。
とめてください」

ヴァーナーちゃんが私に抱きついてきた。

「ううん。
違うって。
おもしろいから、放っておこうよ。
この子たち、いつも、こうなの」

「むーん。そうなんですか」

「フハハハ、気持ちいいは「せいぎ(正義or性技?)」です!」

「いま、へんなこえがへんなこといったです!」

突然の奇声に、ヴァーナーちゃんが驚いてるわ。
忘れてた。こいつも連れてきたんだった。

「いい? 聞こえないフリをするのが大事よ。
相手をしたら負けよ。おしまいよ」

「おしまいはいやです」

「エロスとは、老若男女等しく与え与えられるもの。
神からの人類への贈り物だ。
愛を交わす相手を選ぼうなどとは、それだけでも不愉快なのに、目の前の相手の性別も満足に判断できんエセエロ河童の分際で、性別によって扱いを変えようなどとは片腹痛いわ!
土台この世に男と女しかいないと思っていることからして大間違いなのだ!
オXマやXナベぐらいはまだしもXタXリは一体どうなる?!
ニXーハーX、オXコの娘、ココロハオXトコのおXサマ、ボX女、ヴィXュアX系XックXンド、性の世界はかように奥深い。
いや、性別がある奴はまだいい・・・。
人の欲望は果てない。アXシュX男爵のような、どっちもないエロ河童に出会ったら、どう対応するつもりか説明してみせろ」

私はカバンから本を取りだすと、問答無用で思いっきり、遠くへ投げ捨てた。

「いまのは、なんだったですか」

禁書写本 河馬吸虎(きんしょしゃほん・かうますうとら)
一応、私のパートナーよ。
そのうちカバの姿になって、こっちへ歩いてくるかもしれないけど、お願い、無視してちょうだい」

「むむむむむ。ぱーとなーさんとふくざつなかんけいなんですね」

「自分が性風俗の禁書を持ち歩くとは、私も想像してなかったわ」

「そこのあなた。
さっきから騒がしいですね。少し静かにしていただけませんか」

冷やかな声。
神父と話していた女の子がこっちをむいているわ。
ロングの銀髪、赤い目のかたい表情の子。
少しは楽しませてくれるかな。
あーあ。
私って、本当に不幸ね。
またケンカを売られちゃった。
待ちくたびれたし、売られたからには買わないと。

「サンドラ、アレックス。行くわよ」

私は、席を立った。



安心してください。殺しはしません。ああ、先程は手元が狂ってしまったのです。申し訳ありませんでした。レイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)(ホレグスリと魂の輪舞曲)

お嬢様が国民。
アルマ様が氷術波状攻撃部隊隊員。
私が給仕として所属している「雪だるま王国」のマジェスティック支部が、立ち上がったようなので、お嬢様と神父様のお話がすめば、そちらにお邪魔してもよいかと思います。
でも、しかし、神様をめぐる議論は、なかなか終わりそうにありませんね。
あら。
お嬢様にマナーを注意された方たちがこちらにやってきました。

「なんの御用でしょうか」

「私、不幸なの。
きっと、悪魔にとりつかれてるのよ。
時々、おかしな声もきこえるし。
神父くんに相談にきたんだけど、さっきから、神父くんと話してるきみのお仲間さんも神様にくわしいんでしょ。
ちょっと、悪魔祓いしてくれないかな。
私の悪魔は凶暴だから、てこずると思うけど。
いいでしょ」

そのお綺麗な女の方は、にっこりと笑われました。
笑顔はまるで、化粧品のポスターのようなのですが。

「いいわけがありません。
なにをおっしゃられているのか、意味がよく」

「おぬしにからまれる理由がよくわからぬのだが、そんなに悪魔祓いを所望か。
どうしてもというなら、わしがまず話をきこう。
わしは、アルマンデル・グリモワール(あるまんでる・ぐりもわーる)
いまはこんななりをしているが、ソロモンの魔術書じゃ。
神父と話しておるわしのパートナー、レイナ・ミルトリアは、いかにも、元修道女なので、おぬしらの相談はまったくのお門違いではない。
レイナは取り込んでおるので、わしとそこの リリ・ケーラメリス(りり・けーらめりす)が相手をさせていただく」

アルマ様が応対してくださいました。なのに。

「金と銀の瞳の頭よさげなお姉さんでなく、意外と気の強そうな髪のキレイなメイドさんでもなくて、さっき、私を注意してくれた、無表情なあの子がいいな。
彼女、なにをそんなに話しこんでるの。
私もお話を聞いてみましょ」

(ごめんなさいね)

(ウチの師匠は短気なんで、もうしわけないっス)

彼女についている、よく似た顔をした女の子と男の子が、小声でこっそり、私たちに謝りました。
謝るくらいなら、からんでこなければいいと思います。
もっとも当事者は、謝っていませんが。

「信仰は人それぞれ・・・とよくいいますが・・・神父の名をかたりながら特定の方の幸福を祈らないなど、神を崇めるに値せぬ・・・と思います」

「神が信者を選ぶのではなく、信者が信仰する神を選ぶのです。
神は万人を愛そうとされているが、すべての人が神の子になろうとするわけではありませんね。
ですから、我が神の子でない方は、私の信仰では、救うことはできません」

「そもそも、あなたの神とはなんなのです。
あなたは、どの宗派の神父なのですか」

「どの宗派かと問うならば、既存の信仰は棄て、私は、自らの神を見つけました」

「つまり、誰の許可もとらずに、勝手に神父を名乗っているのですね」

「私の父なる神にお許しをいただいております」

「その神とはどこでお会いになったのです」

失礼にも、いやいやといったふうで語る神父様相手に、お嬢様は、根気よく話しておられます。
神学に造詣のない私が聞いていても、ここの神父様の信仰は異端のようですね。
神父と名乗るのも実は、正しくないような。
私たち三人が訪ねてきた時も、今度はキングギドラか、とつぶやいておられました。
キングギドラって、なんですか。
なに教の経典にでてくるのでしょう。

「いつまでもグチャグチャ言ってないで、勝負してすっきりカタをつけたら、いいんじゃない」

あの、綺麗な顔の乱暴者の方が、お嬢様と神父様の間に割って入りました。

「私は、リカイン・フェルマータ。
悪魔つきなの。
どちらか私の悪魔を落としてくれない?
どっちでもいいわ。
先に落としたほうが聖職者として実力が上ってことで、文句ないでしょ」

「さっきの騒がしい方ですか。
おもしろいことを言われますね。
エクソシストは、ある意味、専門職です。
それができるからといって、信仰の深さとは関係ありません」

「カインよ。
悪魔は、なんじの努力によって打ち払うものだと思います。
まずは、その髪を切り、服装をかえることからはじめてはいかがですか」

「つまり、悪魔つきの一人も救えない、どっちも口だけ聖職者さんなのね」

リカイン様は胸を張って堂々とそう言われました。
まるで、勝利宣言のようです。

「父なる神は、あなた自身の力に希望を託しているのです。
それがわからないのですか。
しかし、レイの神はすべてのものの幸福を願うのでは、ありませんでしたか?
ただ、願うだけで直接は、なにもなさらないのが、あなたの宗派の教義なのでしょうか」

「神父くんは自分教で、きみはちゃんとした宗教の聖職者なんでしょ。
でも、なにもできなら結局、同じじゃない」

「おいおい、おぬしは、教会にいる聖職者を心霊関係の業者と混同してはおらぬか?
神への信仰は、オカルト趣味とは違うものじゃ。
神や悪魔がどうのよりも、ようするにみなが日々を幸福に暮らすためのルールを一人ではなんだから、みんなで守ろうというのが、宗教の信者の日々の現実なのじゃよ。
聖職者は、ルールの尊守者であり、監督者じゃ。
あまり、レイナを挑発するのはやめてもらおう」

アルマ様の言う通りです。
お嬢様を怒らせるのは、よくありません。
私からもリカイン様に一言、言っておきましょう。

「悪魔祓いなら、まっとうな聖職者よりも、魔術師や錬金術師のところへ行ったら、どうです。
メロン・ブラック博士の残党たちが、この街のあちらこちらで、いろいろいかがわしげな商売をされているそうですよ。
死後の世界をみにゆくとか。悪魔を呼びだすとか。
呼べるのなら、追いだせるんじゃないでしょうか。
リカイン様。どうぞそちらへ」

「私に、余所へ行けって。
本人もパートナーも揃って敗北宣言ね。
私の悪魔に全面降伏するの。
わかったわ。かんべんしてあげる。
今度、会う時までにもっと修行して徳をあげておいてね」

敗北宣言?
この方、どういう神経をしているのかしら。
でも、どこかへ行ってくれるなら、ここで、お嬢様を刺激され続けるよりは。

(すいません。失礼します)

(悪気はないアライグマなんで、うらまないで欲しいっス)

パートナーの双子と去ろうとしたリカイン様の背中に声をかけたのは。

「待ちなさい。
ふふふふふ。
慣れないことなので、多少は手荒くなるかもしれませんよ。
あなたの悪魔、ワタシが始末してさしあげますっ。
切捨て御免!」

お嬢様。
私がとめようとした時には、すでにお嬢様は、裏人格全開で、満面の笑みを浮かべながら、リカイン様に飛びかかっていました。
人に痛み、苦しみを与えるのをよろこびとする裏人格。
こうなったお嬢様は、歯止めのきかない凶悪な存在です。
大惨事になる前にとめなくては。

「ようやく本気になったわね」

困ったことに、リカイン様も両拳を顎の下にあげ、お嬢様を迎え撃つ構えです。
お嬢様の炎の魔法とリカイン様の拳が交わろうとした、その時、戦いをさえぎるように、一人の男性が神父様のところに駆けよってきました。

「神父様。
お助けください。
アンベール男爵のせいで、このままでは、身の破滅です。
財産を騙し取られました。
お願いです。神の御慈悲を」

その方、初老の男性の、あまりの取り乱しように、お嬢様とリカイン様、他のこの場にいるすべての人が動きをとめました。