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最終決戦! グラン・バルジュ

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第九章 VSギルヴィスト博士

 イービルブリンガーを目指す永谷たちは、まるで祭壇のような造りの大広間にたどり着いた。
 中心に向かって階段が競り上がっており、丘のような形状をしている。
「見つけたぜ!」
 逃げたデコボココンビを見つけた昶とカセイノが武器を構える。
「ふっふっふ……ゴーストの力さえあれば、貴様らなどひとひねりだっ!!」
 階段の向こうにいた二人は、壁にあったスイッチを押す。
 すると、床から培養器が出てきた。中に入っているのは、ゴースト。
 ゴーストは、恐怖に脅えた顔をしながら、悲鳴を上げている。
 しかし、その声は届かない。
「それっ――」
 培養器にあったボタンを押し、自分のゴースト兵器を押し当てる。
 すると、ゴポゴポと培養器の中に泡が増えていく。
 それに反比例して、ゴーストの身体がどんどん消えてゆき、やがて――

 培養器の中から、ゴーストが、消えた――

「ほ、補充完了だす〜」
 自慢げに語る太っちょを見て、クロスが憤る。
「なんて……ひどいことを……」
「ちょっとバカで憎めないヤツなのかと思ったら……おまえら、やっぱり悪党なんだな」
 許せねぇ、とフェザースピアを構えるカセイノ。
「くっくっく……覚悟するがいい!!」
 出っ歯の隊長が勝利したかのごとく言い放った。


「覚悟するのは、君たちだよ――」


 突然聞こえたのは、少ししゃがれながらも、どこか知性を帯びた声。
 瞬間、出っ歯と太っちょの身体に、大きな穴が開いた。
「へっ?」
「えっ?」
 驚いた顔のまま、前のめりに倒れる二人。
「勝手にゴーストを使うなんて、誰が許可したんだい?」
 二人の後ろに佇んでいたのは、白衣を着た痩身の男。
「まったく、私の研究の邪魔をしないでくれよ――と、そうだった」
 痩身の男は、ゆっくりメンバーたちへと顔を向ける。
「私はギルヴィスト。ギルヴィスト博士とでも呼んでくれ」
 日向のような微笑みを湛えて自己紹介するギルヴィスト博士
「なっ、アイツが?」
 イメージとのギャップに、昶は驚きを隠せない。
「早速だけど、君たちには死んでもらうとするよ。イービルブリンガーの製造には相当な時間を掛けたんだ。これをを破壊されるのは辛すぎる」
 取り出したビンを取り出すと、それを一気に呷った。
 しばらくすると、腕が灰色に変色し、バキバキっと音を立てて硬質化していった。
「これはゴーストの力を薬にした特別なものでね。身体強化だけでなく、こんなことも出来るんだ」
 両腕を目の前に突き出す。
 直後、急速に両腕が伸び、ムチのように撓る。
「さて、それじゃあかかってくるといい」
 バシンと、腕を床に叩き付ける。
 それが合図となったかのように、クロスが走り出した。
「それっ! パワーブレスッ!!」
 ビュウ、と深遠の槍を振り回して、ギルヴィストの左腕に狙いを定めて攻撃していく。
 何度も、何度も、穂先が素早く左腕を切りつける。
 左腕も反撃に転じようと五指をクロスの首筋へと伸ばす。が、近づくたび、簡単に打ち払われていく。
 片手で扱えて動きやすい上に、パワーブレスで強化されているため、回避することやいなすことに特化している状態なのだ。当然といえば当然である。
(――いけるっ!!)
 クロスがそう思った瞬間、今度はギルヴィストの右腕が、真横から襲ってきた。
「させねえよっ!!」
 彼女のピンチに飛び出したのは、昶。
 迷刀『ゆる村』でギルヴィストの右腕を防いだ後、気合で押し戻す。
「凍えよっ!! アルティマ・トゥーレッ!!」
 冷気を帯びた刀身を大上段に構えて飛び上がると、天から地へ一気に振り下ろした。
 ガギン、と右腕と刀身の接触面から火花が散った――かと思うと、その場所に氷が?生えた?。
 生えた氷は右腕全てを埋め尽くすかのように広がってゆき、あっという間に氷漬けにしてしまった。
「ありがとうございます。昶さん!」
 再び左腕を攻め続けるクロス。
 その時、後ろに何者かの気配を感じた。
「霜月さん、腕を斬り落とします。ご協力を」
「わかりました――やりましょう!!」
 返事を聞いて、クロスは再び動き始める。
「みんながんばってください〜。それっ! オートガード! オートバリア!」
 元気な声で、ヴァーナーが全員の物理防御と魔法防御を上げる。
「これなら百人力ですよ。感謝します!」
 霜月が、強化光条兵器を発動させ、走り出す。
 すかさず、クロスも後を追う。
「しつこいな――でえい!!」
 腕をくねらせながら二人を仕留めようとするギルヴィスト。
「くっ――やっぱり、ハンパじゃない力ですね」
 槍で押さえながら、クロスが踏ん張る。
「でも、負けません――」
 タイミングを見計らい、ステップバックで距離を取る。
 そして、床に足がついた瞬間、前へと大きく進む。
 目の前には、大きく振りかぶられる巨大な手。
 その掌を目掛け、クロスは渾身の力で槍を投げつける。
 きらり、と一瞬だけ煌いた穂先は、恐ろしい速さで左掌を貫き、壁へと縫いつけた。
「しまった――」
 さすがに焦りを見せたギルヴィストが、槍から外そうともがく。
 だが、予想以上に深く刺さっているらしく、なかなか外れない。
「ええい! くそっ!!」
 噛み砕くのではないかと思うほど歯を食いしばって悪態を吐くギルヴィスト。
 そんな彼が見たのは、無駄のない素早い動きで左腕に肉薄する霜月の姿だった。
「うおおおおおおおおおおっ!!」
 気合の篭もった咆哮と共に、居合刀の形をした強化光条兵器を撃ち下ろす。
 バギン、と鉱物のような音を立てて、左腕が床に落ちる。
「ぐう、ああああああああっ!!」
 ギルヴィストの顔には、最初会ったときの怜悧な表情は消え去っていた。あるのは苦悶の表情と、玉のような汗ばかりだった。
「はぁ、ぐっ――許さんぞ、貴様らああああっ!!」
 ふいに、今まで凍っていた右腕が小刻みに震えだす。
 ブウォン、と超音波が聞こえてきそうなほど微動が数秒、続いた。
「ええいっ!!」
 ギルヴィストの声に反応するかのようにして、右腕を覆っていた氷が、一瞬にして砕け散る。
「なっ――」
 驚きを隠せない昶。
 まるで氷塊だったそれが、一瞬にして元の腕に戻ったのだから、当然だろう。
(腕が残り一本になったとはいえ……強いな――)
 フェザースピアを構えながら、カセイノは横に視線を移す。
 こんな危機的状況にも関わらず、リリィはまだ逃げずにいた。
(まだいたのか……こいつはこいつで思うところがあるんだろうな。だったら――)
 ふっ、と短く息を零すと、
「リリィ、パワーブレスを頼む!!」
「えっ!? ちょ、いきなりは……って聞いてませんし!」
 すでに走り出していたカセイノに向かって、急いでパワーブレスを使用する。
「くらいやがれっ!!」
 まるでバッタのような跳躍をした後、右腕に攻撃を繰り出していく。
 カセイノの迫撃に次ぐ迫撃によって、幾多もの火花が起こる。
 押しているのは、カセイノ――のはずだった。
「そんなもので――終わりかああ!!?」
 まるで今まで手加減をしていたとでも言うかのように、右腕の動きが急に素早くなる。
 直後、最も近くにいたカセイノを弾き飛ばした。
「ぐうあっ!!」
 投げ出された後、一度低くバウンドし、そのまま床を滑って元いた場所まで戻される。
 頭のどこかを打ってしまったのだろうか、カセイノは気を失っていた。
「た、大変! 今回復してさしあげますからね!」
 リリィがヒールを使い始めた。

「しばらく凍結状態だった上に、強化された物理攻撃ダメージの軽減――というかほぼ無効化、ってことは――」

 声が、響く。
「属性攻撃は、効果ありそうってことで――いいらしい!!」
 彼らの後をつけてきていた唯斗、エクス、睡蓮、プラチナムが、一斉に攻撃を仕掛けてくる。
「エクス、凍てつく炎を俺の両手に!」
「まかせるがよい!」
 賢人の杖を振ると、炎が右手に、氷が左手に宿った。
「プラチナ、轟雷閃、合わせろよ」
「はい」
「ふん、作戦を立ててきたようだが……やらせはしないっ!!」
 まるで蛇のように、うねり、そして唯斗たちへと喰らいついていく右腕。
 巨大な豪腕が、真横から振るわれる。
「邪魔すんな!」
「ええ、そうですとも!」
 唯斗たちの行動に反応した永谷とルイが飛び出し、右腕の動きを少しでも止めようと尽力する。
「がごっ!!」
 当然のようにルイの武器になっていたクドが、再び奇妙な声を上げ始める。
「おっと、すみません!」
 礼を言いながら、唯斗たちは駆け抜ける。
 足を動かしながら神速と軽身功を自身に使い、身動きの取れない右腕へと迫る。
「舐めるなああっ!!」
 永谷とルイの妨害を振り払うかのようにして、右腕が暴れ始めた。
 そしてすぐ、自由の身となる。
 近くには、超神速で迫っていた唯斗の姿――
「タイミングが悪かったな! この距離ではかわせまい!」
「と、普通は思うんですがね――睡蓮!!」
「了解です。兄さん!」
 睡蓮は腕を掲げた。
 ただそれだけ――
 ただそれだけで、今まさに牙をむき始めている右腕の動きが、絵画のように止まる。
 睡蓮のサイコキネシスが、発動したのだ。
「何!?」
 ギルヴィストの顔が醜く歪む。
「うおりゃああああああっ!! 黒焔氷撃!!」
 突き出された右手から爆炎が起こり、続いて叩きつけられた左拳からは、何本もの氷錐が右腕を貫いていく。
「ぐっ――」
「これで終わりじゃないんですよ――プラチナッ!!」
 唯斗を飛び越えるようにして現れたプラチナムがレプリカ・ビッグディッパーを振り上げる。
「いきます――轟雷閃!」
 雷光を放つ稲妻が、ギルヴィストの右腕へと直撃した。
 大きく響く重低音が、空間に木霊する。
 唯斗たちの属性攻撃を受けまくった右腕は、まるで炭化したかのように黒くなっていた。
 もはや、使い物にならないと、誰の目にも明らかだった。
「くっ、リリィ、サンキュ……。さぁて、第二ラウンドといこうじゃねーか!」
 そのとき、回復し終わったカセイノが立ち上がり、少しよろめきながらも走っていった。
 永谷、昶、ルイがそれに続く。
「両腕は無くなったぜギルヴィスト! 覚悟おおおっ!!」
「ひ、ひいいいっ! 許してくれえええっ!!」
 人が変わったかのように、哀願し始めるギルヴィスト。
「へっ、何を今更――」
 耳を貸すことなく突っ走るカセイノたち。
(何か、違和感がある――あっ!!)
 その時、異変に気がついた北都が叫ぶ。
「気をつけて! まだ終わりじゃない!!」
「……何だって?」
 声に気がついた昶が足を止める。
「助けてくれ――なんてな」
 瞬間、ギルヴィストの腹部から、三本目の腕が飛び出してきた。
 フックが繰り出され、向かってきた三人を一気に吹き飛ばす。
「ふっ、はははははっ!! 人間の腕は二本だなんて、常識にとらわれ過ぎだぞ」
「なんという卑怯――いや、ここまで来ると珍妙とも言いますかね……」
 呆れたように、クロスがため息を吐く。
「なんとでも言うがいい。さて、これが私の切り札だ――存分にかかってきたまえ」

「なるほど。それがもう切り札ってことは、もう何もないって認識で合ってるんだな?」
 
 再び、どこからか――声。
「おっしゃ。ならとっとと終わらせますかね!」
「目標、補足しました」
 紫音たちと、永太たちである。
「可愛い子、美人さん達、ついでに普通の人の為にそんな物騒なもの、破壊させてもらうぜ! アストレイア! 俺に力を!」
「我、魔鎧となりて我が主を護らん!」
 魔鎧となって、紫音に装着するアストレイア。
「私も、がんばりますよ。ザインもミニスも――頼んだよ」
 気合を入れて走っていく紫音と、それに続く永太。
「紫音、みなさん、援護しますぇ」
 ぐっ、と両手を上げると、ギルヴィストの腕へと向け、サイコキネシスを発動させる。
 まるで細かい糸で縦横無尽に絡められたかのように、少しだけ動きが遅くなった。
「僕も手伝います! せいっ!!」
 北都もまた、サイコキネシスで動きを制しようとする。
 腕の動きの制限に更なる拍車がかかった。
「主様たち、援護じゃ!」
 そして、アルスがパワーブレスをかける。
「みんなサンキュー!! いくぜえええっ!!」
 スライディング気味で床を滑り、ギルヴィストの腕の真下へと入り込むと、ロケットパンチを打ち付けた。
 ほぼ垂直から抉りこむアッパーを受けて、腕が跳ね上がる。
「チャンスだぜ。世要!!」
「わかったでござるよ!」
 印を結ぶと、世要は詠唱を始めた。
「焼き払う聖紅、豪炎の牢となりて焼き尽くせ!! ファイアストーム!!」
 大蛇のごとくとぐろを巻いた炎が、丸呑みせんとばかりに腕へと絡み付いていく。
 そのまま身を焦がしたところへ、さらに――
「うおおおおおおっ!!」
 気炎を上げながら飛びかかった永太が、怪力の籠手で殴り飛ばす。
 さらに上へと飛ばされ、天井にめり込む。
「しまった!!」
 今度こそ本当に身動きが取れない状態になった。
「今だ! 総攻撃のチャンスだぜ!!」
 紫音の号令とともに、メンバーが動き出した。
「えいっ!!」
「あたしもがんばるよ〜。それっ! 雷術!」
 側にいたザイエンデがレーザーブレードで斬りつけた後、ミニスの雷が腕を迸る。
 それでもまだ、ギルヴィストの腕は動く。
「結構しつこいですわね……」
「まかせろ! もう一回やってやるぜ! 三度目の正直だ!」
 リリィの言葉に、再び立ち上がるカセイノ。
「最後だけに、かなり頑丈だな……だけど絶対、諦めない!!」
「ああっ! 紫音、かっこええなぁ……うちらもまだまだきばるで!」
 紫音もまた、攻撃の準備を整えて向かっていく。

 ――さあ、みんなの心を響き合わせよう

   素直な想いを分かち合って、素敵な思い出を作るんだ――

 ヴァーナーの幸せの歌がその場に響き渡る。
「みなさん、がんばってください!」
「いいねぇ! やる気も出てきたぜ! 世要も、援護頼む」
「了解でござるよ」
 再び詠唱する世要の目の前では、カセイノ、紫音が槍と拳をギルヴィストへと交互に繰り出していた。
「ランス――バレストッ!!」
 豪槍の一撃に、
「則天去私っ!」
 光輝の拳が重なっていく。
 もちろん、物理攻撃だけではない。
「今アシストいたしますわ! バニッシュ!!」
「主様たち、手助けしてしんぜよう――落ちよ、天のいかずちっ!!」
「燃え尽きるがいいでござる! ファイアストーム!」
 リリィの光、アルスの雷、世要の炎が、腕を破壊していく。
「さて、もっかいやるとしますかね――エクス!」
「まかせよ!」
 再び、唯斗の両手に炎と氷が付加される。
「俺がとどめってことで、いいんですか――ねっ!?」
 拳の連撃を放つ唯斗。
 それが、終了の合図となった。
 煙を立ち昇らせながら、力なくずるずると落ちてくる巨腕。
 ズドン、とまるで大砲のような音を鳴らしてから、そのまま動かなくなった。
「あっ……そ、そんな……」
 苦痛と狼狽を露にするギルヴィスト。
 左腕を斬りおとされ、右腕を灰にされ、切り札である最後の腕も今、斃された男は、まさに絶対絶命であった。
「覚悟はいいですね?」
「容赦はしませんよ」
 余力を残したクロスと霜月が、無防備となったギルヴィストへと走る。
「ひっ、あぁあぁっ!」
 許してくれとばかりに身じろぎするが、二人の足は止まらない。
 二方向から交差気味に加えられる斬撃を受けて、ギルヴィストはそのまま倒れた。

◆◇◆

「それでは朔望、行きますよ。」
「はい」
 一言答えると、朔望は鮮やかな銀糸の刺繍が施された黒いローブを纏い始める。
 彼女の魔鎧の形態なのだ。
 ギルヴィストを倒した後、イービルブリンガーを探す作業が始まったのだが、そこまで時間はかからなかった。
 ギルヴィストが立っていた位置、すなわち円状の床の下にイービルブリンガーはあった。
 まるでカメラのレンズのように、下に向かうたびに先細っている形状だった。当然発射口は小さかったが、禍々しさは十分すぎるほど伝わってきていた。
「はっ――」
 器用に下へと向かった朔望と霜月は、共にイービルブリンガーへと破壊しまくっていく。
「私も手伝いますよ〜」
 睡蓮が上から、破壊の協力を買って出た。
 火天魔弓ガーンデーヴァの弦に矢を番え、引き絞る。
「あとは――サイコキネシスで加速と軌道修正を」
 目標に鏃を向けて、一気に引いていた手を離す。
 ひゅん、と風を切る音と共に、中空を駆け、そして――イービルブリンガーを貫いた。
 ガラガラ、と山崩れのような騒音を奏でながら、大量破壊ゴースト兵器は、この世から姿を消した。
 まるで、今まで利用されてきたゴーストの怨念と怒りがギルヴィストの悲願を壊し回っているかのような、そんな光景だった。
「その妄執と一緒にナラカに旅立ちな」
 紫音の発言が、終止符の何よりの証だと、そこにいたメンバーは皆、理解していた。