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魂の器・第1章~蒼と青 敵と仇~

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魂の器・第1章~蒼と青 敵と仇~
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 ルカルカがファーシーを抱き上げて飛空艇に乗せる。皆が移動手段を持っているわけでもないので、ヴォルケーノやヘリファルテに交代で乗ることにした。基本的にはのんびりゆるゆると歩くことになる。集合時間もだいぶ過ぎ、全員が揃った所でそれぞれ自己紹介をし合った。花琳・アーティフ・アル・ムンタキム(かりんあーてぃふ・あるむんたきむ)も、皆に明るく挨拶をする。
「初めまして、こんにちは! 朔お姉ちゃんの妹で、ブラッドちゃんの魂の片割れやっています! 花琳・アーティフ・アル=ムンタキムです! 皆さん、よろしくお願いしますね♪」
「「「「よろしくー」」」」
「「「「よろしくねー」」」」
 その愛くるしい笑顔に、皆の顔が自然と綻ぶ。花琳は、2日前の事件で魂を解放され、アリスとして転生した鬼崎 朔(きざき・さく)の本当の妹だ。表向き優しそうな印象であるが、その印象を使って自分の思い通りに事を運ぼうとする結構な腹黒小悪魔である。
 花琳は朔やブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)と一緒にファーシーの乗るアルバトロスに近付いた。スカサハはファーシーに元気良く言った。
「ファーシー様! スカサハもアクア様の所までお供するであります! ファーシー様の足が治るのなら、スカサハも全身全霊お手伝いするでありますよ!」
「ありがとう! ところで、この前の怪我は大丈夫? 腕が随分と壊れてたけど……」
「……えっ!」
 スカサハはどきりとしてファーシーを見た。心配を示す言葉の割に、何だか目が輝いているような……
「あんなの、自分で修理して直したであります! ……って、なんでそんな残念そうなのでありますか!?」
 期待……そう、もう紛れもない期待の目が、残念、というか物欲しそうなものに変わっている。お菓子が食べたいけどお小遣いが足りない、というような子供の表情に近いだろうか。ツッコミを受け、ファーシーははっと我に返って首を振った。
「そんなことないよ! 残念なんて。直したかったなー、なんて、うん……」
 本音が出ている。スカサハは思わずジト目になった。
「ファーシー様……」
「でも、すごいなあ……自分で直せるなんて……」
「むむむ…………そうだ!」
 うらやましそうに呟くファーシーに、スカサハは勢い込んで言った。
「ファーシー様! 足が治ったら、スカサハと一緒にアーティフィサーのお勉強をしましょうなのであります!」
「え? お勉強?」
「そうすれば、ファーシー様もスカサハも幸せであります!」
 一気に畳み掛ける。ちなみに『スカサハも』の後には『実験体にならなくて』という言葉が入ったりする。
「約束でありますよ!」
「う、うん……約束」
 2人が指切りをした所で、花琳がファーシーににっこりと笑いかけた。
「今日はよろしくお願いします♪ 花琳っていいます♪」
 内心で「このお姉さんにも可愛がられるようにしなくっちゃ♪」とか考えていることはおくびにも出さない。
「あ、うん、初めまして!」
 ファーシーが応えると、彼女はもう1度、改めて皆の方を振り返って言った。
「至れり尽くせり、皆さんのお世話をブラッドちゃんとさせていただきますね♪」
 …………。あ、腹黒でも人を傷つけるような結果は出したくないと思っているから、ご安心めされるよう。
「可愛い妹さんね、朔さん。……ところで、一緒に来てるのって、カリンさんよね? も、もしかして……わたし、戻すの失敗しちゃった?」
 ファーシーが少し心配そうに言う。カリンは、不貞腐れた顔で飛空艇から少し距離を取った所で所在なさげにしていた。銀髪ではなく、あの、デパートの1階で朔達に攻撃を仕掛けた時に変化した黒髪の状態である。醸し出される雰囲気も、どこか刺々しい。
「ああ、いや、そんなことはないよ……1度は元に戻ったし」
 困ったように朔は言う。アルバトロス周りの雰囲気を感じ取って、カリンは舌打ちをした。
(……だからボクは来たくなかったんだよ。あんなことした後で、こんな格好のボクの姿を見れば、誰だって警戒するに決まってるじゃん)
「じゃあ、どうして……?」
 ファーシーの呟きに、カリンはぶち切れた。つい、特技の威圧を使ってしまう。
「……あぁん? 好きでなりたくてなったわけじゃねぇよ! 朝起きたらこうなっちまったんだよ! 文句あるか!」
「きゃ」
 びっくりして、ファーシーは身を縮こめた。目をぱちぱちさせる彼女に、カリンはトーダウンして視線を逸らす。
「ちっ……、恫喝して悪かったよ。まあ、朔ッチ共々よろしく頼むよ」
「う、うん……」
「妹が離れたからだと思う……。少し粗暴になったけど、本質は今までのカリンと変わらない……もうあの時みたいな事にはならないと思う」
「そ、そっか……、わたしこそごめんね。じゃあ、改めてよろしくね!」
「おう」
 そんな2人の遣り取りを、そして花琳を見ながら、朔は思う。
(まさか、寺院に感謝することになるとはな……。花琳を……、大切な妹を取り戻せた……。それだけで嬉しい……)
 カリンは、昔の姿に少し戻ってしまったが、それでも仲直りができた。だからこそ――
(嗚呼……だからこそ、あの時尽力してくれたファーシーのために今回は動こう)
 ……前回の事件を起こした寺院の奴は、もうこの世に居ないのだから。
「ファーシー、道中は何があるか分からない……気をつけて行こう」
「うん!」