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新年の挨拶はメリークリスマス

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新年の挨拶はメリークリスマス
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第6章


「ふむふむ、だいぶ分かってきましたよ……」
 クロセル・ラインツァートは呟いた。自分の両手を見つめて、なにやらブツブツと繰り返している。
「……何がです?」
 傍らの八神 誠一が尋ねる。彼らはデバガメ小隊としてカメリアに付き従っているが、カメリアが花びらで分身してしまったため、とりあえず一人のカメリアを本体ということにして話を進めていた。
 鬼崎 朔やファタ・オルガナたちはまた別のカメリアを追う面々の対処に向かっている。
 クロスは、まだ狐樹廊に追いかけられているのだろうか。
 それはそれとして、クロセルは答える。
「いやね、ここは夢の中だから何でもアリということなんですけど。その限界にチャレンジしてみたくなりまして」
「……ほぅ」
「色々細かいテストをしてみたんですが、どうも理論よりも感情が優先されるようです。そのクセ細かいところまで設定でしてやれば理論も通る……まあ、強い思い込みや想像力が必要なようですが」
 分かったような、分からないような。
「すると……どうなります?」

「こうなります」

 クロセルがパチンと指を鳴らすと、上空から風が吹き始めた。空気が震える。
「……あれは!?」
 誠一が珍しく驚いた声を上げた。そこには数機の輸送用ヘリコプターがいつの間にか飛来している。ヘリからは頑丈なワイヤーであるものがつるされていた。
 そのあるもの、とはまるで街全体を覆いつくすほどの大きさのプラズマディスプレイモニターだ。街中に発生した巨大ライトが煌々とモニターをライトアップする。

「はーっはっはっは! さらに!!」

 ゴゴゴ、と地響きがしたかと思うと街全体の外側から何かが迫ってきているのが見える。それは――巨大な観客席だった。
「あれは――ろくりんスタジアム!?」
「その通り!! 実際のスタジアムとはサイズも違いますが、これにてこの街は巨大なスタジアムになったのです!!」
 もう一度パチン、と指を鳴らすと天を覆うほどのプラズマモニターにバキュー夢で流されていた映像が映し出される。

「超巨大モニターとバキュー夢を直結しました、これでこの街にいる限り恥ずかしい思い出から逃げられませんよ……!!」
 何がこの男をそこまでさせるのかは分からないが、誠一は素直に感心して呟いた。
「これは驚いた……どうしてこんなことが出来るんで?」

「ふっふっふ。理性を保ちながらも、上手に脳のタガを外すのがコツです」
「脳のタガ……ですかい。そういうの得意そうですもんねぇ」
「ふっふっふ、何故でしょう、褒められた気がしませんね」
「褒めてませんから」


                              ☆


 その様子を、ブラックコートをまとい、静かに気配を殺したルイ・フリード(るい・ふりーど)が見ていた。高いTV塔のてっぺんにしゃがみ込んで町の様子を覗っていたルイ。街のあちこちで起こる騒ぎをあえて静観し、状況を分析していたのだ。

「またクロセルさんは……はた迷惑なことを」

 ルイが呆れ顔で呟くと、クロセルが出した巨大モニターに自分の顔を映し出された。
「あ」
 それは、ルイのクリスマスの思い出だった。
 パートナーたちのために作った『濃厚プロテイン〜ときめきクリスマス味〜』を振舞って、全員にボコされている。

 パートナーたち曰く『星のような味』がしたとか。
 そう聞くと美味そうに聞こえるが、飲んだ瞬間に星が見えたとあってはそうも言ってはいられない。

「まあ、別にそこまで恥ずかしい思い出じゃないですし……」
 自分の思い出が放映されていること自体は放っておいて、ルイは考えた。
「ともあれ、そろそろカメリアさんたちに接触したいですね……敵意がないことをうまく伝えませんと」
 ここしばらく静観していたおかげで、次に騒ぎが起こりそうなあたりも予想がついた。
「では、行きますか!!」
 TV塔の頂上から夜の街に飛ぶルイ。ブラックコートが、風ではたいめいた。


                              ☆


「やぁあぁぁ〜!!!」
 師王 アスカ(しおう・あすか)は素っ頓狂な叫び声を上げた。
「ん、どうした? ……ぶっ!!!」
 さらにパートナーである蒼灯 鴉(そうひ・からす)はアスカの指差すものを見て盛大に吹き出した。
 まあ、突然上空に現れたプラズマモニターに自分達が映り出したのだから無理もないが。
 それを見て、もう一人のパートナーであるルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)は苦笑いを浮かべた。
「ああ、映ってしまったのか。……これはクリスマスか……ふむ、空京の美術館……ああ、サンタの絵画展をやっていた時の」
 映像にはルーツはいない。それもそのはず、これはアスカと鴉のデートなのだ。
 画面は、まだ待ち合わせに来ないアスカを待っている鴉。ふと、アスカは気付いた。
「……あれ、私時間ちょうどに行ったはずだけどぉ〜? 画面の時計は一時間も早いよねぇ? そんな前から待ってたの?」
「う、うるせぇ! たまたま時間が空いてて暇だったんだよ!!」

 楽しみで待ちきれませんでした、と鴉の顔に書いてあるがそこはあえてスルーの方向で。

 それに問題はそこではないのだ。このまま放映されるということは、美術館で二人仲良くサンタ展を見て、食事をして、ベンチで休憩をして――
「その先まで放映されるということよね〜!!」
「冗談じゃねえぞ!!!」

 アスカと鴉は同時に叫んだ。
 何しろ、とあるパーティで鴉が一方的にアスカに告白し、さらにその場で唇を奪って以来、二人の関係はどうにもギクシャクしていた。しかも、鴉は状況が状況だったのでアスカに返答は要求せず、表面上は紳士的な対応を心がけていた。
 取り繕っていた、と言ったほうが近いが。
 それがようやく、ここのところお互いの態度が打ち溶けてきたところだったのだ。アスカの心はまだ決まっていないし、鴉にどう返事をするのかは決めていないが、こんなことがきっかけでまた鴉と気まずくなるのはゴメンだった。

「何としても放映を中止させるわよ〜!!」
「当たり前だ!!!」

 夢の中なのをいい事に、アスカはどこからともなくワイルドペガサスを呼び寄せ、背中に飛び乗る。
 鴉は小型飛空艇オイレに飛び乗った。ルーツも同乗する。

 目指すはカメリアがいるであろう放送局、その付近でクロセルたちと一緒にいるカメリアを見つけた。
「見つけたわ〜!」
 そこらのホームセンターでは売っていないような巨大な大網を取り出すアスカ。トラッパーを使ってこれで一行を一網打尽にしてしまおうという魂胆だ。
 だが、八神 誠一は迫り来るアスカと鴉にいち早く気付いていた。
「おっと……カメリア嬢、こっちへ」
「? うむ」
 応戦しようと身を乗り出すカメリアを制して、誠一はカメリアを路地裏へと誘導する。そこに鴉とアスカたちも続いた。
「逃がすかってんだよ! 今すぐあの放映を止めやがれ!!」
 画面では、まだアスカと鴉はサンタ展を見ているところで、そこまで恥ずかしいシーンはない。
「ははは、よほど恥ずかしいシーンが流れると見えるねぇ、大丈夫、今のままでも充分恥ずかしいですよ。いやあ、若いっていいですねぇ」
「んだとぉ!?」
 嘲笑して挑発する誠一に釣られて、鴉は路地裏に小型飛空艇のまま突入する。だが。

「ッ!?」

 飛空艇で入り込むにはギリギリの路地、狭い空間が瞬間的に煙幕で満たされる。
「しまった!!」
 一瞬で視界を奪われた鴉。行き止まりになっている通路に気付きはするものの、飛空艇は急には止まれない。
「!!!」
 後に続くアスカも状況は同様だ。突然目の前が煙幕で満たされ、鴉の乗る飛空艇が目の前でクラッシュしたのだ。こちらは小回りの効くペガサス、辛うじて追突は防いだものの、空中で身動きが取れない。
「はいよっと」
 煙幕の中を、カメリアを連れた誠一が飛び出して、鴉とアスカが入ってきた方向へと駆けた。ことのついでとばかりに、アスカの乗るペガサスにさざれ石の短刀を打ち込む。
「え? きゃーっ!!!」
 さざれ石の短刀は刺した生物を石に変える危険な武器だ。瞬間的に石化して、ペガサスは落下する。

「ほい、一丁あがりっと」
 軽い口調で誠一は走り去って行く。暗殺家一族に生まれた誠一の面目躍如の働きであった。

 飛空艇からは鴉とルーツが出てきて、辛うじてそれぞれの無事を確認し合った。
「我はとりあえずカメリアを追う、鴉はアスカを頼む!」
 ルーツは煙幕が晴れるのを待たず走り出す。飛空艇が墜落して多少のダメージを負った鴉は、とりあえずアスカを確保することにした。
「大丈夫か!?」
「う、うん……」
 ペガサスも低空飛行だったので、落下によるダメージはない。

「ち、俺たちも追うぞ!!」
「待って、血が出てる〜。手当てしてからじゃないと〜」
「言ってる場合かよ、急がねえと」
「ダメよ〜、体の方が大事だわ。確かに恥ずかしい思いをするのは嫌だけど……冷静になってみると、そこまでの実害はないわけだし〜」
 見ると、鴉は飛空艇がクラッシュした際に怪我を負ったのか、頭部と腕から血を流している。命に別状はないが、追撃を行なうのは無理だ。
 だが、鴉も譲らない。
「うるせぇ! 実害はある! 俺が嫌だ、それで充分だろう!!」
 子供のような理屈でアスカの心配を振り切ろうとする。
「待ってよぉ、どうしてそこまで――」

 ぴたり、と鴉の動きが止まった。しぼり出すように、呻く。
「――嫌なんだよ」

「え?」

「嫌なんだよ! クリスマスの――あの日のおまえの服装も表情も、仕草も空気だって、全部俺の、俺だけの思い出なんだ! 他のヤツになんか見られてたまるかってんだよ!!」
「――」
 アスカは硬直してしまった。勢いでつい言ってしまった鴉も動けないでいる。二人とも、顔が真っ赤だ。
 そんなことをしている間に、巨大モニターを始めとするTV画面では、アスカと鴉のクリスマスが放映されていた。


『ほらよ、クリスマスプレゼントだ』
 美術館を出て食事をした後、暗くなった街並みを散歩した二人。ベンチに腰掛けて休憩していると、鴉は懐からプレゼントを取り出してアスカに渡した。
『え……、あ、ありがとう……!!』
 包みを開けて中身を見ると、それは貴石のペンダントだった。当る光の種類によって色が変わる美しい石がある、例えばアレキサンドライトなどだ。その貴石もそうしたものの一種なのだろう。アスカの手の中で町明かりを反射して色を変えていく。
『……綺麗ねぇ……』
 アスカがうっとりと眺めると、鴉がそれを手に取った。
『……?』
 不思議な顔をするアスカに、そのペンダントを着けてやる。こうするともっと綺麗だ、と言いたかったが言えなかった。
『あ、ありがとう……』
 照れたように微笑むアスカの姿は、確かに鴉の惚れた欲目を除いても充分に魅力的であった。
 今さらながら、アスカは気付く。
『あ! 私、プレゼントなにも用意してない……』
 あたふたと何かあげられるものは、と探すアスカ。鴉はその様子がおかしくて、ぷっと吹き出してしまった。
『いらねえよ何も。俺がやりたくて贈っただけだからな』
 へっ、と軽く笑う鴉。だがアスカのほうはそうもいかない、ポーチを覗きこんで何か入ってないか探すが、そんなところからプレゼントが出てきたら苦労はいらない。
『え〜、ダメよそんなの〜』

『……んじゃあ、ひとつプレゼントをもらうとするかな……』
『……え?』

 完全に不意を突かれた。鴉の声に顔を上げるといつの間にか顔が目の前にある。
『――』
 鴉の唇が軽くアスカの唇に触れた。初めての時とは違う、とてもやさしいキス。

『――メリークリスマス』
 怒っていいのか恥ずかしがっていいのか分からず、真っ赤になって複雑な表情を浮かべるアスカに向かって、鴉はささやいた。


 だがそんな思い出も、アスカと鴉の目には入らない。今は画面と同じように真っ赤になった鴉とアスカは路地裏で硬直したままだ。
 アスカが、鴉の背中に語りかけた。
「そんなに……クリスマスのこと、大事な思い出……だった?」
「……当たり前だろ」
 その一言が、アスカの耳に心地よく降った。
 まだ返事はしていない、まだ鴉は恋人じゃない……でも。
 つい、と一歩前に出たアスカは、背中から鴉を抱き締めた。
「ありがと……。あの日は言えなかったけど……メリークリスマス……」


                              ☆


 茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)は目をつぶってくい、くいと指を動かしている。パートナーの茅野瀬 朱里(ちのせ・あかり)は、その様子を不思議そうに眺めた。
「衿栖、何をしてるの? 人形もないのに……」
「……うん」
 うわの空で答えた衿栖、あくまでも意識は指先にある。
 衿栖は人形師だ。普段は自分が作った人形、リーズとブリトルを糸で操れるのだが、この夢の中にはその人形はいないらしい。
 だが、衿栖もまたカメリアが夢の中だから何でもアリ、と言った事に気付いていた。ひょっとしたら自分にもできるのではないかと思い、そこに人形繰りの糸があるかのように集中してみる。

 集中して、集中して、集中して――

 指をくい、と動かすと建物の陰から可愛い人形が顔を出した。朱里が声を出す。
「あ!」
 ちなみに糸はない。糸はないが、衿栖には見えない糸が見えていた。
「よし――いける!」
 やおら両手を振りかぶっていつもやっているように見えない糸を繰る。その動きに合わせて次から次へと現れる人形たち。

 ――その数、ざっと数十体。

「すごいすごい! 衿栖ったらいつの間にこんな!?」
 その光景に手を叩いて喜ぶ朱里。だが、衿栖は黙って首を横に振った。
「ううん、残念ながらこれは夢の中だからできること。現実ではたぶん私の限界は二体まで。でも――この感覚は覚えておかなくちゃね」
 見ると、TV画面には衿栖が映っている。
 作ったばかりの人形を手に、複雑な表情をして部屋を後にしているところだ。
「さあて、アレを阻止するためにも、本気の追いかけっこ、始めましょうか!!」

 ちょうど、カメリアが上空を飛行しているのが見えた。一人だ。
「よし、見つけた! 行きましょう、朱里!!」
「うん! いっけぇーーー!!!」
 衿栖が操る人形数体を大剣に乗せて、フルスイングでカメリアに投げつける朱里。
 めいめいに銃や剣で武装した可愛い人形たちは、空中のカメリアに向けて攻撃を開始した!
「――何じゃ!?」
 さすがのカメリアも動転したらしい。くるくると横回転をしながら上下に高低差をつけて飛行し、人形の照準を狂わせる。

「なかなかやるわね。」
 衿栖も屋根伝いに走りながら、次々と人形を操る。朱里も次々に人形を飛ばし、援護した。
「まだまだいくよーっ!!!」

「ほう、人形使いか……これは楽しめそうじゃな!!」
 手近な人形を炎術で焼き払おうとするカメリア。だが、それを巧みな指捌きで避ける衿栖。
 これほどの数の人形を操作するのは、腕の問題ではなく、まず不可能だ。何しろ衿栖の指は10本しかない。
 だが、夢の中という環境がそれを可能にしていた。

 まるで、自分の神経がそのまま人形に伸びて繋がっているような感覚。
 まるで、自分が人形そのものになったかのような感覚。

 衿栖はその感覚にすっかり夢中になっていた。
「やばいですよコレは……楽しすぎる……!!」
 傍らでは朱里が巨大モニターを見上げて叫んでいた。
「あー! 朱里の綺麗な思い出が放映されてるー! こらー、肖像権の侵害だー!!」
 画面には20歳くらいの美しい女性が、恋人と思しき男性とイチャイチャとクリスマスを楽しんでいる様子が映っていた。
 朱里は13歳くらいに見えるが彼女は吸血鬼、見た目の年齢どおりである筈もない。どうやらはるか前――100年くらい前の出来事らしい。
「へえ――けっこう美人じゃない」
 衿栖は朱里の過去よりも今は人形繰りに夢中とばかりに、朱里のイチャイチャシーンを背景にカメリアとの集団追いかけっこを続けるのだった。

「はぁ……まったく、楽しそうにはしゃいじゃってまあ」
 相田 なぶら(あいだ・なぶら)はその様子を近場のビルの上から眺めていた。その側にはパートナーの木之本 瑠璃(きのもと・るり)の姿。
「まったく、他人の思い出を踏みにじるとは許せぬのだ。なぶら殿、あの者をとっちめてやらねば――」
「ああ、そうだな……ん、どうした瑠璃?」
「な、なぶら殿……? なんだか笑顔あとても怖いのだぞ……?」
「ん、そうか? そんなことはないよハハハ」
 白々しい、という言葉がとても似合ういい笑顔だった。
 何しろ生まれてこの方20年、ただの一度も恋人なんかいた試しがないというのに、他人の素晴らしいイチャイチャクリスマスなんぞ見せつけられても楽しい筈もない。
 瑠璃を不安がらせないようにと笑顔を作るなぶらだが、内心かなりイライラしていた。
 瑠璃はというと、そんななぶらに不安を覚えながらもカメリアを捕らえようという意思に変わりはない。
「よし、まあいい――どうあれアレはやりすぎだ。捕まえてお仕置きしてやらないとな。さあ、行くよ瑠璃」
「うむ、正義の拳で制裁を加えてやるのだ!!!」

 とはいえここは夢の中、何が起こるか分からないからと、なぶらは瑠璃に先行することにした。ナイトの剣、シュトラールを構えてビルの壁を駆け下りて行く。
「どりゃあぁぁぁっ!!!」

「――何じゃ!?」
 すっかり人形との追いかけっこを楽しんでいたカメリアは、なぶらの動きに反応が遅れた。
 ビルから飛んだなぶらのシュトラールから発せられた幾筋もの光線がヒットする。
「――っと!!」
 ダメージには耐えたものの、その隙を衿栖が見逃すはずもない。体勢を崩したカメリアを一瞬で包囲した人形が構えた機関銃を一斉掃射した。
「ったたたたた!!!」
 空中を跳ねるカメリア。着地したなぶらは上空を見上げて合図した。
「――瑠璃、今だ!!」
「了解なのだーっ!!!」
 なぶらを真似てビル壁を駆け下りた瑠璃はふわりと飛び、上空から鳳凰の拳でカメリアに襲いかかった。
「おおぅ!?」
 背中に瑠璃の全体重と両拳の打撃を受けて、たまらずに瑠璃ごと落下するカメリア。
「正義の拳に貫けぬものはなーいっ!!!」
 地面に叩きつけられたカメリアは、そのままどろんと花びらに戻ってしまった。
「何だ……本物じゃなかったのか。一発ブン殴ってやろうと思ったのに」
 とぼやくなぶら。
「とりあえず充分殴ったと思うのだよ?」
 いやいや、やはり子供のしつけには飴と鞭だよ、と呟いてまた他のカメリアを追いかけるなぶらと瑠璃だった。

 衿栖は落ちた花びらを手に取って、呟いた。
「カメリアさん……鬼ごっこは、楽しかった?」