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新キマクの闘技場

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新キマクの闘技場

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 激闘のせいか少し乱れた黒のオールバックの素顔になって倒れるジャジラッドに歩み寄る椿とトマス。
「……フ、王以外にも孤児院のガキどもを大事に思うヤツがいたとはな……計算外だったぜ」
「おまえ、本当にあのワイバーンに食わせたのか?」
 未だ怒りの鎮まらない椿がジャジラッドの首根っこを掴む。
「今後の空京大学やシャンバラの為にも、王の本来持つ力の片鱗の一端を垣間見る絶好の機会だと思い、わざわざ手のかかる仕込みをしただけのことだ。事前にバルバロイの口の中に細切れにしたランドセルと子供服を含ませておくのは、苦労したがな」
 椿が、フゥーと長い安堵のため息をつき、「不器用すぎるだろう」と踵を返して去っていく。
 椿と入れ替わるようにトマスが倒れたジャジラッドに近づき、傍にしゃがむ。
「おまえ、何をするつもりだ?」
「応急処置だ。これは只のフェアな勝負事であって、傷つけることが本来の目的ではないからな」
「人のマスク、銃撃で吹き飛ばしておいてよく言うぜ。これだから正統派の連中は甘いって言うんだ」
 フッと上空を見上げて笑うジャジラッドが、照明の中の一つの小さな影が目にとまり、目を細める。
「……? !! おい、おまえ、逃げろ!!」
 いきなりトマスに叫んだジャジラッド。
「え?」
 トマスが上空を見上げたその瞬間!!
――ズシャアアアァァァーーッ!!
「トマス!!」
 入り口から出てきたミカエラが叫ぶ間もなく、上空から舞い降りた闇黒ギロチンがトマスとジャジラッドを砂埃と共に吹き飛ばす。
 龍騎士の面が吹き飛び素顔の顕になったトマスとジャジラッドが倒れる中、その中心にベルフラマントをはためかせる一人の長身の男が立っていた。
「雑魚め。正統派の者などに負けおって……」
 冷徹な黒い瞳をジャジラッドに向けて立つのは、フェイタルリーパーの三道 六黒(みどう・むくろ)であった。
「く、くそ……いきなり攻撃とは」
「トマスか……おぬし、わしの相手を存分にしてくれるのであろうな?」
「ふざけるな!!」
 トマスがダメージのため震える手で六黒に銃を構える。
「フッ」
 六黒が闇黒のギロチンを放ち、トマスの銃を真っ二つにする。
「!?」
 大剣を振り上げる六黒。
「トマス!!」
 叫ぶミカエラの傍を疾風の如く駆け抜けていく人影。
「くっ!! ダメージのせいで身体が……!?」
「弱い者が正義を語るとは、笑止!!」
 トマスの首めがけて振り下ろされる大剣。
――ガシィィッ!!
 六黒の大剣から血が滴り落ちる。
 目を閉じていたトマスがゆっくりと目を見開く。
「王!?」
 トマスの首に振り下ろされた大剣を、血がにじむ王の手が止めている。
「……てめえら、やり過ぎだぜ?」
 最後の選手であるトマスの姿が見えない事に不安を感じた王は、闘技場の選手出入口にて、先の試合を見守っていたのであった。
「王か……」
 大剣を肩まで引き寄せ、六黒が冷ややかに笑う。
「わしの相手、おぬしがするか?」
「ああ……こっちには、もう俺以外にまともに戦える戦士が残ってないからな、俺がやってやるぜッ!!」
「面白い。さあ正統派ども、何を以て正統を語るか。その御託、わしを倒してから並べて見せよ!!!」
 トマスの傍に走り酔ったミカエラが彼を六黒から庇うように抱きしめる中、ついに正統派とキマクの穴の試合は、最後の一戦を迎える。
 そして、ここまで星を五分と五分にした激しい死闘の終わりが、嵐の前の静けさのように近づいてくることを観衆は感じていたのであった。