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リアクション
「なかなか動きませんね……」
山田の手帳に書かれた不良生徒達……特に武術部を名乗る野蛮人共は真っ先に仕掛けてくるに違いない。
そう考えて備えていた山田だったが、なかなか仕掛けてくる気配がない。
「まぁいいでしょう、メインディッシュは後に取っておくとして……今のうちにボーナスの為の点数を稼いでおきましょう」
魔方陣によって増幅された山田の感覚が標的を捉える。
(ふむ、鉛筆の中に何か仕込んでますね……古典的な方法を……)
その生徒は確かにカンニングペーパーを用意していた。
だが、あまりにもひどい問題を前にそれは何の役にも立たなかったのだが……
しかし通用しようがしまいが、山田にとっては関係ない。
そこにカンニングの意思が確かに存在したという、動かぬ証……それだけで充分だった。
「まず一人……消えてもらいましょうか……」
指で眼鏡をクイッと支えると片方のレンズの色が変わった……その眼鏡は山田の魔術具なのだ。
眼鏡に魔力が収束する。
「失格ですっ!」
山田の眼鏡からキラキラと輝く何かが放たれる。
その輝きはまっすぐにその生徒を捕らえると、次の瞬間……そこには氷柱が突き立っていた。
透き通る氷柱の中に、生徒の姿が見える……
「皆さん、理解できましたか? 私の前でカンニングをするとこうなるのです……彼にはテスト終了まで、そのままでいてもらいましょう」
右手の教鞭で氷柱……生徒を指しながら、山田が眼鏡を直す、眼鏡の色が戻った。
……その様子をすぐ近くの席から朱宮 満夜(あけみや・まよ)が見つめていた。
(ボーナスの為に点数を稼ぐ? そんな事の為に……ひどい)
このまま山田を見過ごせば、多くの生徒が犠牲になる……なんとか阻止しないと……
『カンニングの用意のない自分が山田の攻撃を受ける事で問題にする』という考えはあったのだが、テストが終わるまで氷柱、ではこの場での犠牲者を減らす事が出来ない。
(何か良い方法はないかしら……)
満夜が方法を考えている間にも氷柱の数は増えていった。
「山田の奴、好き放題しやがって……」
鬼崎 朔が強く拳を握り締める……そろそろ我慢の限界だ。
同じ武術部の赤羽 美央と相田 なぶらに視線を送る。
「いよいよ、その時のようですね……対魔法戦闘、用意」
犠牲になった生徒のおかげで山田の攻撃パターンを見ることが出来た、やはりその魔法攻撃力は侮れない。
もし防ぎ切れなければ、自分も新たな氷柱の仲間入りとなる……だが、そう簡単にはやらせない自信が美央にはあった。
盾を手に立ち上がる。
「ん……そろそろ仕掛けるのか」
なぶらは柔軟をしていた、もう体はだいぶほぐれたようだ。
……よし、良い感じだ、やれる。
「俺もたまにはがんばるさ……山田、正々堂々全力勝負だ!」
剣を山田へ向け、宣戦布告する。
「あいつら、あの山田相手に正面から挑むつもりなのか?」
周囲の生徒達もこれには注目せずにいられない。
「なかなか面白くなってきましたね……」
そんな生徒達の中にレイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)の姿もあった。
「もうしばらくは様子を見ますか……」
(ワタシが仕掛けるのはコレに飽きてからでいい……)
まだ時間はたっぷりある、せっかくだから時間一杯楽しむつもりのレイナだった。
「ついに来ましたか、落ちこぼれの野蛮人が!」
待ってましたとばかりに山田が邪悪な笑みを浮かべる。
「クズは一人残らず、失格です!」
眼鏡のレンズが両方とも青く染まり、周囲に冷たい風が巻き起こる……山田も全力のようだ。
「山田ぁぁ!」
「我らイルミンスール武術の力を……」
「しっかり味わってくれよ!」
3方向から一気に山田に迫る。
「は、馬鹿はこれだから困ります!」
山田の手帳が勢いよく開かれる……そこには彼ら武術部の行動予測が詳細に書かれていた。
「赤羽 美央、お前はその防御力を頼りにカウンターを狙う、予測どおりです」
これまで見せていた攻撃とは違う、打ち付けるような吹雪が美央を襲う。
「く……反撃を封じるつもりですか……」
威力はさほど高くなく、盾で防ぎ切れる程度だが、広範囲の面で絶え間なく来る攻撃は反撃の余裕を与えない。
「もちろん、封じるのは反撃だけではありません」
「!!」
美央の足元が、徐々にではあるが……凍りついていく……
「そのままいけば身動きが出来なくなるのも時間の問題ですね……残るは、二人……」
しかし、山田が美央に注意を向けている間に二人は山田に接近する事に成功していた。
「油断しすぎだぜ、山田」
「このまま挟み撃ちだ」
「魔法攻撃主体の私の弱点である接近戦を挑んで来る……それも、予測どおりです」
山田がパチンと指を鳴らす……
二人の前に人影が立ち塞がった……この時の為に山田が雇っておいたバイトだ。
「くそ、こいつ……」
なぶらがバイトに切りかかると、まともに戦おうとせずに逃げ回る。
「じゃ、邪魔するな!」
一方、あくまで山田だけを狙い突破をはかる朔にはしがみついてきた。
『まともに戦う必要はありません、この二人を妨害するだけの簡単なお仕事です』
バイトの二人は事前に山田から言われた通りの仕事を忠実にこなしているのだ。
つまり、自分からは特に何もせず、二人が山田に向かっていった時にだけ、その妨害をする。
そして動きの鈍ったところを山田が魔法で狙い撃つ……完全に武術部の裏をかいた戦術だった。
「くそ、汚いぞ……ぐぁっ!」
「朔!」
「汚い? これが頭を使った戦い方というものですよ、馬鹿には理解出来ないでしょうけどねぇ!」
朔に攻撃魔法を叩き込むことに成功し、勝ち誇る山田。
武術部、絶体絶命のピンチだった。
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