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リアクション
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「なるほど。最近キルティがやたら人に見られると思ったら、リンスくんの写真が出回ってたからか」
東雲 秋日子(しののめ・あきひこ)は、リンスとクロエの写真を見ながら言った。
「こっちでも弊害? ごめんね」
謝ってくるリンスへと、
「リンスくんが謝ることないでしょ。ね、キルティ」
「そーですよー。むしろリンスくんやクロエさんは被害者なんですし! 大丈夫です、僕、見られるの嫌じゃないし〜♪」
女の子の恰好をしたキルティス・フェリーノ(きるてぃす・ふぇりーの)と共にフォローして。
「それより。困ってるんでしょ? なら助けてあげようじゃないの!」
提案してみた。
「サムライガンナーの名にかけて! ……ってわけでもないけど。困ってるなら、ね?」
「東雲……サムライだったんだ」
「あれ? 反応するとこ、そこ?」
「リンスくーん、僕が囮になって犯人を付き止めて写真の流出を止める、っていうのが秋日子さんの作戦なんですけどー。リンスくんの服借りてもいいですかー?」
秋日子とリンスがズレた会話をする一方で、キルティスは着々と作戦を進めるのだった。
所変わってヴァイシャリーの街。
「リンぷーが困っとるゆーなら、手ぇ貸したらななぁ」
俺に任せとけ! そう言って工房を飛び出した日下部 社(くさかべ・やしろ)だったが、未だ犯人の姿を見付けることはできず。
望月 寺美(もちづき・てらみ)と共に、きょろきょろと辺りを見回す。
「はぅ〜。ボクも写真に撮ってもらいたいです〜☆」
寺美の目的は、社のそれとは微妙に違うようだが、やる気はばっちりである。
かくして行われた写真屋捜しだが、手掛かりはまだ、ない。
工房では。
「…………」
「…………」
リンスの恰好をしたキルティスと、リンスが見つめ合う。
背丈や猫耳などの違いはあれど、それ以外はそっくりさんな二人である。
「わぁ、お洋服が一緒だともっとそっくりさん!」
思わず日下部 千尋(くさかべ・ちひろ)は声を上げた。
「やしろおにぃちゃん、リンスとまちがえちゃったりして」
クロエも便乗して、くすくす笑う。
「やー兄よりもラミちゃんが間違えるかもー。やー兄とリンぷーちゃんはお友達だから間違えないよ!」
「それもそうね!」
暗くなって危ないから、とお留守番を任された工房で、千尋は事を見守っていた。
「犯人ちゃんが捕まったら、クロエちゃん、一緒に写真撮ってもらおうね♪」
「うん! わたし、しゃしん、きらいじゃないわ!」
それはよかったと笑顔になる。だって一緒に思い出を残したかったから、今回の騒ぎで写真嫌いになっていたらどうしようと思ったのだもの。
「写真ってとっても素敵なものだって、ちーちゃん思うの。だからちーちゃん、写真好き♪」
一瞬でしかない日々の出来事を、切り取ってそのままで残しておけて。
それを見たら、すぐに思い出せる魔法の道具。
そんな素敵なものだから、嫌わないでほしい。
――リンぷーちゃんは、写真嫌いかなあ?
秋日子とキルティスを送り出すリンスを、千尋は見つめた。
街に到着した秋日子は作戦通りキルティスを囮に使った。とはいえ、先導させているだけだが。
「……秋日子さん、視線が多すぎるのですが」
「服まで借りてるからねー」
それに男装時のキルティスだと、性格や雰囲気も若干似ている。とあらばこの視線は必然と言えよう。
「あの、もしかして人形師さんですか?」
そして早速、かけられる声。どこにでもいそうなお嬢さん二人組である。手には、写真。
キルティスが面倒そうな顔をする前に割り込んで行って。
「残念。この子はキルティ、私のパートナーだよ」
「え?」
「その写真についてちょーっと訊きたいことがあるんだけど、いいかなー?」
有無を言わせぬ笑みを浮かべて、質問タイム突入。
一方、広場では。
「おおー、ええ写真ばっかやないか♪」
カメラを持つ人全員に突撃をかけるといったゴリ押し作戦で紺侍を見付けるに至った社が、写真を見てはしゃいでいた。
「これなんかええね♪ 被写体の良さをよぉわかって撮っとる感じがするわ〜♪」
次々とアルバムをめくって、思った通りの感想を口ににする。
「褒められると照れるっスよ。つーか怒らないんスか?」
「うん? 何を?」
「オレ、アンタの友達困らせてるんスよ?」
「うん、怒るのは後な。先交渉したいねんけど、ええ?」
「交渉?」
紺侍が訝しげな表情をした。
「人に迷惑かけるような仕事、嫌にならへん?」
写真を見た時に、思ったこと。
それは、撮影者が楽しんでいないような感じがするということ。
「皆に喜ばれる仕事の方がええやろ? どや? キツネくんが嫌やなかったら、ウチに来んか?」
「ウチって?」
「俺、846プロダクションの社長兼プロデューサーなんよ」
名刺を渡して、にっこり笑う。紺侍はぽかんとしていた。
「で。846プロの専属カメラマンとして仕事をしてみんか? きっとウチのアイドル達も喜ぶし、ウチなら正規のルートから写真を売ることも可能やで!」
話に付いていけないのか、それとも胡散臭いと思っているのか定かではないが。
社は言いたいことを言って、立ち上がる。
「ま。ええなー思ったらその番号に連絡してぇな。いきなり専属とかじゃなくて、バイトからでもええよ」
名刺を指差し、言う。名刺には社の携帯と、会社の番号が記載されている。
「あれ?」
と、それまで空気を読んで黙っていた寺美が素っ頓狂な声を上げた。
「なんや?」
「リンスさんがいます〜。こんにちは〜リンスさーん♪」
ぶんぶん、手を振った先には、秋日子とリンスの恰好をしたキルティスが居て。
――秋日子さんちのキルティスくんか〜、寺美アホやな勘違いして。
ぷくく、と含み笑いをしていたら、
「げっ、人形師?」
紺侍も勘違いしていた。
ささっと荷物をまとめて、
「社さん!」
「お? なんや〜?」
「お話、あざっした。嬉しかったっス」
綺麗に一礼して、走って行く。
――うーん。
――あれで上手く行ってくれるとええねんけど。
社なりに問題解決を考えた末、思いついたのが勧誘だった。別な仕事の紹介をして、人が嫌がることはやめさせて、丸く収まればと。
「うあー、逃げちゃった……! くっ、サムライガンナーの名にかけて! 追うよキルティ!」
追いついた秋日子が悔しそうに言うのを、「まぁまぁ」と横から宥めてみた。
「秋日子さんお疲れのようやし、ちょーっと休んでいかへん?」
「えっでもリンスくん困ってるんだよ。写真を止めるよう言わなきゃ……って、社くん、何か考えでもあるの?」
「んー、まぁ、一応な」
ふうん、と頷いた秋日子がベンチに腰掛ける。顔を立ててくれたことに「おおきに」と礼を言って、少し離れて腰掛けた。
目の前では、
「はう!? リンスさんじゃなくて、キルティスさんでしたか〜! それにしてもそっくりです、お二人が並んでいるところを撮ってみたいくらいです、はう〜♪」
寺美が大げさにリアクションをしていて、
「……はぁ。一言二言、言いたいことがあったんですけど……」
リンスに負けず劣らず低めのテンションで、キルティスが紺侍の逃げた先を見ていた。
「人の困ること、やめてくれるとええなぁ……」
ぽそり呟いた一言に、秋日子が「そうだね」と同意してくれた。
空で、鳥が鳴く。
夕暮れ時にさしかかっていた。
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