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すいーと☆ぱにっく

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すいーと☆ぱにっく

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 師王アスカ(しおう・あすか)はテーブルの上に小さな箱を見つけて表情を変えた。
「これ……ジェイダス様から!? わぁ、この前プレゼントした絵画のお礼かしら?」
 と、いそいそと蓋を開ける。こうなったら、手作りチョコを贈らなきゃ、と思ってチョコレートを手に取るアスカ。
「あ、それなら鴉にも渡さなきゃ」
 ぽつり呟いて、チョコを口へ入れる。告白されてから早数ヶ月、まだアスカは答えを出せずにいた。
 ぼーっと鴉のことを考えている内に、アスカの身体はチョコレートになってしまう。――わー、ファンタジー……って、何じゃこりゃー!?
「アスカー、いないのー?」
 オルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)は等身大アスカ型チョコレートを見てにやけた。
「あらあら、また凄いのを……やだ、あの子ったら少し胸大きく作っちゃって、願望入ってるわね」
 と、まじまじと眺める。しかし、アスカが作ったにしては何か違和感が……と、首を傾げるオルベール。
「アスカ、焼き菓子を作ったのだが味見を……って、何だこれは? アスカの、像……?」
 と、部屋へ入ってきたのはルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)だった。
「これは良く出来た作品だな、自分をモデルにするのはらしくないけど……」
「そうなのよね……気のせいか、わずかに呪の波動も感じるし」
 そして、お互いに顔を見合わせるオルベールとルーツ。
「おい、なんかチョコを贈られて像になっちまうって噂が……」
 蒼灯鴉(そうひ・からす)は部屋へ入るなり、叫んだ。
「アスカ!? なんてエロい……じゃなくて、待てお前ら! まさか、これって……」
 オルベールは鴉にやや冷めた視線を向けると、冷静に言った。
「その、噂の呪いにかかったみたいね。原因はこれ」
 と、メッセージカードを取り上げて見せる。そこにある名前は、鴉にとっては忌々しい相手だった。
「呪いを解くには、大切な人のキスが必要ね」
「……アスカの大切な人って、あ」
 ルーツが鴉の異変に気づき、はっと口を閉じる。落ち込んではいるようだが、それと同時に何やら恐ろしいオーラが見え隠れしていた。
「こうなったら、あの校長に頼んで呪いを解いてもらうしか――ちょ、バカラス!?」
 鴉がメッセージカードをぐしゃりと握りつぶし、アスカに背を向けた。
「あの校長を引きずり出すのは不可能だ。なら、この事件の犯人をとっ捕まえて、キス以外の解除方法を吐かせるしかねえ。女悪魔、協力しろ」
 と、部屋を出て行く。
「協力って、何でバカラスと…っ」
 困惑しながらも、オルベールは彼の後を追って出て行った。
 残されたルーツはアスカに改めて視線を向け、『氷術』をかけてから室内に冷房を入れる。

 五条武(ごじょう・たける)は風呂上がりだった。まだ身体が火照っており、髪の毛も濡れた状態だった。
 誰からのチョコレートであるか確認もせず、食べたいと思ってしまったから食べた。その直後、腰にタオルを巻いたまま、武はチョコレート像になってしまった。
「……」
 その姿を見つけた寄生型強化外骨格(きせいがた・きょうかがいこっかく)、通称ガイは笑った。
「クハハハハ、武、良い格好ではないか! よかろう、我がもっと素晴らしい姿にしてやろうではないか」
 と、身動きできない武を尻目に、ふりふりひらひらのレースがあしらわれたリボンを調達してくる。
「ふむ……」
 武の腰に巻かれたタオルを取り上げ、初めに大事な部分をリボンで隠した。
 それから身体中にリボンを巻き付けていくガイ。
「パラ実では……何と言ったか、これ。出凝麗死四(でこれーしょん)、だったか。なかなか楽しいものではないか!」
 武には女性のようなふくらみがないので、傍から見たらあまり楽しそうではなかった。しかし、ガイは楽しそうだ。心なしか鼻歌も聞こえてくる。
「……さあ、これでどうだ!」
 と、仕上げとして頭で大きなリボン結びをし、ガイは少し離れたところから武を眺めた。やはり男は男、可愛らしいというよりも滑稽だ。
「よし、もっと相応しい場所へ連れて行ってやろう」
 ガイはそう呟くと、武を壊れないよう慎重に持ち上げ、嫌な予感しかしない方向へ連れて行った。

「フフフ、やっぱり人がモノになるのってイイね! 昂ぶるよ!」
 と、笑うマッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)。今回の事件の首謀者である{#シャムシエル・サビク}の協力者だ。
 あちこちに仕掛けた呪いのチョコの行く末を見守りつつ、ばれないように『黒影』を使用して影に潜み逃走を続けている。
 ――しかし、マッシュは気づいてしまった。

「髪の毛をちょっと分けて下さらないかしら、医学的検知から呪いの素の成分を調べさせて頂きたいのです」
 と、イナ・インバース(いな・いんばーす)はラナへ頼んだ。
「もしかしたら、製造場所の特定ができて、捜査の手伝いになるかもです」
「そうですね……ですが」
 と、不安げな視線を美緒に向ける。気が済んだレロシャンは外に放り出されてすっかり静かになっていたが、片胸がなくなってしまった美緒を、これ以上傷つけたくはなかった。
 先ほどから我に返った正悟とネノノがチョコレートを盛って直そうとしているが、本当にあれで大丈夫なのだろうか――?
「そんなに心配なさらないで下さい。本当にちょっとだけですので」
 と、イナは言う。
「分析が終わり次第、すぐにお返しいたします」
「……そうまで言うなら、許可しましょう」
「ありがとうございますっ」
 イナは美緒の後ろへ回ると、慎重に髪の毛の先端数センチを切り離した。
 チョコ化した人間の成分分析も大事だが、クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)は呪いのチョコを探して回っていた。
 思ったよりもチョコ化事件は騒動になっておらず、呪いのチョコを見つけるどころか、他にチョコ化した人を見つけるのもやっとの状態だ。犯人探しをしている人間はいるようだが……。
「呪いのチョコを欲しがっているというのはキミか」
 情報網を頼りにたどり着いたのはイーオンだった。バレンタインに惑わされず、そっくりそのまま呪いのチョコを持っている唯一の人間だ。
「ああ、呪いを解く為に解析をしようと思ってね。ありがとう」
 と、イーオンからチョコレートを受け取るクリストファー。
「なるほどな。ところで怪しい人物を見かけなかったか?」
「俺は見てないが、パートナーのクリスティーが作戦を練って犯人をおびき出そうとしてるよ」
 箱と添えられたメッセージカードを観察しながらクリストファーが答えると、イーオンがにやりと笑った。
「それならば協力しよう。犯人にはお仕置きが必要だ」

「あわわ、一度シャムのところに戻った方が良いかも」
 と、マッシュは再び影に身を潜めた。きちんとしっぽを掴まれないようにして。

 ラナと外で会話を交わしていたクリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)は、犯人が姿を現さないことにもどかしさを覚えた。
「犯人に心当たりは?」
 と、特技の『演劇』で慌てた様子を演じるクリスティー。ラナも同じように演技をしたまま答える。
「いえ、それがまったく……」
 おろおろと戸惑う二人だが、誰かに見られている気がしない。クリスティーの予想は外れていたのかと思った時、何者かが二人の元へやって来た。
「不審な人物が街から出て行くのを見た人がいるそうです!」
 冬山小夜子(ふゆやま・さよこ)だ。
「ってことは、まさか逃げられた?」
「はい、正しくは怪しいしっぽの目撃情報なのですが」
 はっとしたラナが叫んだ。
「追いましょう!」

 別方向から怪しい人物を追っていたレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)ミア・マハ(みあ・まは)は突然、行く手を塞がれた。
「こ、これは……っ」
「チョコレート、だよね?」
 それは動くチョコレート、『バレンタインアンデッド』だった。
「まさか、これも犯人の仕業じゃなかろうな」
「でも、倒さなくちゃ前に進めないよっ」
 と、戦闘態勢に入るレキ。そんな彼女にミアの呟きが聞こえてきた。
「いや、待てよ。まさか、こやつらを食べるとチョコ化するのでは……」
「ちょっとミア、変なこと考えちゃ駄目だよ。今は倒すのが先!」
 チョコレート化した人間にチョコを盛ったらどうなるか、ミアはとても興味があった。しかし、今目の前にいるのはそれとは別のチョコである。
 じりじりと距離を詰めてくるアンデッドにレキが半歩後ずさった時だった。
「ひゃーっはっはっは、食べても良いがどうなるか知らんぞ?」
 と、遠くから声がした。
「それに呪いといったら……術者を倒して解除に決まってるだろう。つまり、アンデッドを操ってる俺様だぁ!」
 と、声高に叫ぶゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)
「そんな! でも、目撃情報とは違う人だよ。どうしよう、ミア?」
「ふむ、厄介な相手に遭遇してしまったようじゃな」
 レキとミアは覚悟を決めると、――狙いをゲドー一人に定めた。