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イコンVS暴走巨大ワイバーン

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イコンVS暴走巨大ワイバーン

リアクション



【4・頭脳戦】

 鳴神 裁(なるかみ・さい)アリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)の乗るイーグリットゴッドサンダーは、飛び回る巨大ワイバーンに狙いを定めマジックカノンでの射撃を行っているのだが。ただ撃っても命中率のわりに効果は薄く、とてもわりに合わない。
「うぅ、なんて硬さなんだよもぉ。このままじゃ学院まで押し切られちゃうよ」
「あそこまで暴走されていちゃ、もうどう考えても止めるのは無理だよね」
「いまの戦力だとしかたないよね。それなら、せめてなんとかしてここから遠ざけないと」
 それなら他の機体とも協力しないとということで、アリスは裁に言われ通信を行なっていく。一番に伝える相手は決まっていた。
『はい。こちら山葉聡だ』
「ごにゃ〜ぽ☆ ボクだよ、鳴神裁だよ」
「アリスだよっ、と。あんまりのんびりはしてられないね。アリスたちは、あのデッカいのを学院から離そうと思ってるんだよ。だから協力してっ!」
 聡たちへわずかに早口で通信し、応答を待った。
『聡さん。私としても、賛成です。倒すにしても一旦ここから離したほうが』
『そうだな。いまのところ大した作戦も思いつかないし、まずは被害を抑えないと』
 同意が得られたところで、裁は機体を巨大すぎる顔の近くへと移動させ。今度はマジックカノンの狙いを目につける。ぎょろぎょろとせわしなく動いている血走った黒目に、アリスが細かい照準を合わせたところで発砲していく。
 打ち出された魔力はまぶたのあたりをかすめ、巨大ワイバーンは唸り声を轟かせながら狙い通りにゴッドサンダーへと意識を動かしていく。
「ほらほらぁ! 鬼さんこちら、だよ!」
 聡もビームキャノンによる砲撃を、攻撃よりもひきつけることを優先してくれている。おかげで相手はこちらに食いついてきて。わずかに学院から離れ始めていく。
 引きつけていく最中、ゴッドサンダーのレーダーがなにかをとらえた、と思った頃にはすぐ傍に取り巻きの小ワイバーンが口を広げて襲いかかってきており。とっさに蛇腹の剣を振るわせる裁。
 その牽制にすぐ引いて高度を下げる小ワイバーン。それ自体はありがたいけれど、どうにも苛立ちを感じざるをえない。
「もぉ……あっさり逃げるんなら、そもそも向かってこないでよ!」
「しかたないよ。周りのみんなは、強引につきあわされてる感じだもん。ただ、アリスはこわがりながらも向かってくる子って、健気でステキだと思うけど」
 アリスの小悪魔的な発言はスルーし、射撃を再開させる裁。
 しかしこれがなかなか厄介だった。なにしろ近づきすぎると、巨大な体に跳ね飛ばされる。かといって逃げにばかり走って攻撃をおろそかにすると、こちらに食いついてこなくなる。そして問題はもうひとつ、
「マジックカノンもそろそろ弾切れだよね……近接攻撃でひきつけるのは、さすがに危険過ぎるかな」
 裁が呟くと、通信でそれを聞いていた聡が口をはさんできた。
『あんまり無茶しなくていいって。ここからは俺がメインでやってやる。距離をとりながら戦うのは、俺の得意分野だ。そっちは援護と、取り巻きの排除を頼む』
「あ、うん! わかったよ。まかせて!」
「ふぅん? なんだかいつになく男らしい感じだよね。アリスたちにアピールしてるのかな?」
『えっ!? い、いやそれは』
『ふふふふ……聡さん? こんな状況でナンパなんて、随分余裕があるんですね(ゴゴゴゴゴゴ)』
『さ、サクラ! 誤解だ! いまは戦いに集中してくれぇ!』

 そうした彼女たちの痴話喧嘩……もとい作戦を回線の中で聞いたコンクリート モモ(こんくりーと・もも)ハロー ギルティ(はろー・ぎるてぃ)の乗るコームラントカスタムは。
 それを踏まえた上で、モモもまた作戦を立てて。機体にコンテナを抱えさせ、あるポイントへと急いでいた。
「どっちに行くネ、モモ? あっちに協力しなくていいノー?」
「わかってる! だからこそ、引き離してから確実に倒せるようにしておかないと!」
「ン、もしかしてリアルなプランがあるんデスカ?」
「うん。あのスピードじゃ射撃は当らないし、動きを止められなければ接近戦にも持ち込めない」
 でも、と前置きしてから。かつて、あるドラゴンに敗北を喫したことを思い返す。そしてそこから考え出した作戦を提案していく。
「大きくてもワイバーン……。ドラゴンじゃない。ドラゴンが最強なのは、力もさることながら知能が高いから……」
「つまり? どういうことなのヨ?」
「要するに、騎乗用にされるワイバーンはより獣に近いの。だから、動物としての本能も根強く残ってるはずだわ。そこで」
 コンテナを軽く持ち上げて、作戦の要であることを示す。
 ギルティは出撃前に、モモがあの中にいろいろ詰めさせていたのを思い出し。なんとなく作戦がわかってきた。
「コンテナの中に食堂の肉と浮遊機晶石を入れて空中に浮かべれば、狩猟本能で襲ってこないかしら? と思ってね。こうして準備してきたの」
「ふむふむー。それで、コンテナを襲ってきたあとはどうするつもりデスー?」
「中には火薬も入ってるし、咥えたところを打ち抜けばかなりのダメージになるはずよ」
「なるほどネー。でもそううまくいくノー?」
「それは……わからないけど。皆で包囲する時間は稼げると思う」
「そうネ。なんにしても、まずはやってみてからデス」
 話している間に、モモは見定めておいた場所で停止する。
 そこは、戦闘状況や鳴神裁や山葉聡たちの引き寄せ作戦からやってくる位置をシミュレートし、学院に被害が及ばず、かつ皆が疲弊しすぎないギリギリのラインであった。
 いまさらだが、天御柱学院のある海京は海上都市。つまりは海の上に存在している。
 ちょっと離れた程度では、あの巨大ワイバーンがやられて海へダイブでもすれば、それだけでどうなるかは想像するまでもない。
 そのことを計算した上での位置にコンテナを宙に浮かべておき。
 自分達は狙撃位置である海面付近に陣取ることにする。邪魔が入らないよう、光学迷彩でイコンをカムフラージュさせるのも忘れない。
 待っている間に、作戦内容を通信で伝え終え。あとはうまく誘導してくれるかどうか。
 聡たちから回線で返答はなかったが。おそらく聞こえてはいるだろう。
 そう信じて待つ時間は、とても長く感じられたが。
 実際にはわずか五分足らずで目標の巨大ワイバーンは、こちらへと飛んできた。
 順調だと思いつつも、モモの手がわずかに汗ばんでくる。やはり緊張は止められないようで。こくりとのどを鳴らすと、肩にも力が入ってきて。落ち着かなくてはということだけが頭を支配していく。
「モモ、リラックス、リラックス。狙撃外したらそれこそギルティネ〜!」
 そのまま焦りに心を囚われそうなところへ、ギルティのいつもの口調が届いてきた。
「そんなに殺気立ってると、ワイバーンに気付かれてしまうヨ」
 いつもと変わらぬその調子に、モモはふっと肩の力が抜けるのを感じた。
 そして、ついに連れられてきた巨大ワイバーンがコンテナの位置にさしかかった。見向きもされなかったらどうしようという不安はあったが、すでにモモの緊張は薄らいでいる。
 やがて飛翔のスピードのまま、標的はコンテナを噛み砕く勢いで咥えた。
「モモ、今だ!」
 大形ビームキャノンが、コンテナめがけて発射された。
 ビームが到達するまでの時間がとんでもなく遅く感じられたが、やがて咥えられた状態のコンテナとぶつかり。閃光と爆音が、上空を支配した。
 しかし今の攻撃でも牙が数本折れ口内とのどが焦げ、わずかに高度が下がった程度らしいのが驚愕するところだが。それでも動きは明らかに鈍っている。
「イーグリット乗りのみんな、後は任せたデース!」
「よし。私たちの出番なのだよ」
「菜織様。気を引き締めていきましょう」
 飛び出したのは綺雲 菜織(あやくも・なおり)有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)のイーグリット不知火。山葉聡のコームラントも後ろに控えている。
 いつのまに聡の機体がこちらへ来たのかというと。菜織たちがさきほど連絡をつけておいたのである。ついさっき聡がモモのほうに応答できていなかったのは、先に菜織の回線と話していたからだったりする。
 じつは菜織もまた、ここからどうするかの作戦を練っていて。
 その過程で、とある仮説を打ち立てていた。
「私は、あそこまで鱗が軋んでいるのは、おそらく理由があるのではないかと思っていて。そこから灼熱のブレスを何度も放射させている点を踏まえて、ある仮説を立てたのだよ」
『それでその、仮説っていうのは?』
「おそらく、体内に熱が篭り続け、それが苦しみの要因となっているというもの。それなら冷やすことで苦しみからは解放できるはずであろう、と思う」
 その説明に、聡は半信半疑のようだったが。
 止められる可能性があるなら、やってみてもいいという結論になって。ある作戦を提案しておいた。
 内容に合意はとったものの、飛び出した今頃菜織の頭にはわずかに疑問が浮かんだ。
「自分で言ったことではあるけど。本当に体内に熱が篭っているのかどうか……」
「問題ないと思います」
 答えを期待したわけではなかったが、美幸が口を開いていた。
 菜織と聡が通信で話したり状況の確認を行っている間に、サーモグラフィを使って巨大ワイバーンの熱分布を調査しておいたのである。
「結果として、裏付けはとれました。やはり、体内が高温のようです」
 手早く凛とした口調での報告が、菜織にはこのうえなくたのもしく聞こえた。
 おかげで迷いなく、不知火をわざと相手の鼻っ面の前を横切らせることができた。さっきの爆発で気が立っているおかげで、すぐに誘いにのって攻撃対象をこちらに向けてくれた。
「質量が大きいのなら、風圧も大きいのだろうな」
 言葉をもらしながら不知火を急降下させ、海面のギリギリをジグザグに飛行させていく。
 翼の風圧がやはり機体をもろに揺らしてくるので、操縦は気が抜けない。
 操縦に集中している菜織に代わり、美幸は巨大ワイバーンの動きを注意深く観察していた。作戦には、炎のブレスが重要な意味を持ってくる。それゆえブレスを放つ予備動作を見落とさないように、くいいるように外が映っている画面に注目している。
 そのとき、巨大ワイバーンは顎を下げ、空気を吸い込みはじめた。
 それがなにを意味するか、容易に想像できる。
「今です。菜織様!」
 合図と同時に、菜織は機体をフルスロットルで加速させた。
 直後、不知火がさっきまでいた位置の海が爆発的に蒸発した。正しくは爆発で蒸発した、かもしれないが。
 そんなことを思いながら聡は大形ビームキャノンを、海面めがけて放射し。ただでさえ吹き上がっていた海水の量がさらに強まった。
 巻き起こった水蒸気にまぎれ、菜織は機体を垂直上昇させる。

「グ、オオオオォォォォォ……!」

 巨大ワイバーンの咆哮が、徐々に落ちついていくように聞こえた。
 ブレスの放射に加えて、これだけの水を浴びれば多少なりとも冷やす効果があるのではと考えての、この作戦。
 うまくいったのかどうか。場の全員が固唾をのんだ。