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第一回葦原明倫館御前試合

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第一回葦原明倫館御前試合
第一回葦原明倫館御前試合 第一回葦原明倫館御前試合

リアクション

   漆

  第一回戦
○第十九試合
 サー・ベディヴィア(さー・べでぃびあ)(蒼空学園)VS.グリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)(蒼空学園)

 身の丈ほどもある大剣――もちろん、殺傷力は皆無――を傍らに、グリムゲーテは試合場に立った。彼女は古い名家のお嬢様であると同時に、パラディンだ。
「これは奇遇ですね」
 相手のサー・ベディヴィアが何者であるか、グリムには全く分からない。サーというからには、騎士なのだろう。ならば近いところにいる人物ではあろう。
 ベディヴィアは「アーサー王伝説」に登場する「円卓の騎士」の一人――英霊なわけだが――だ。いわば騎士の中の騎士と言ってよい。それだけにパラディン同士の戦いは、かつてを髣髴とさせ、彼の気持ちを高揚させていた。
「あなたもパラディンなのね。それならば、遠慮する必要はないわね」
「その通りです」
「だったら一気にいくわよ! 息つく暇も、あげないんだから!」
 グリムはぐるりと剣を回した。そして地面を蹴った。剣は反動でスピードを上げ、ぐるぐる回り、風を切る音がベディヴィアの耳に届いた。
「同感です。――我が槍を受けて見せよ、ライトニングランス!」
 ベディヴィアが槍を振るった。穂先が雷撃を伴い、グリムの身体を二度襲った。
「キャア!」
 グリムは思わず叫び声を上げていた。心配になって見ていたパートナーの四谷大助がグリムの名を呼んだ。
「いつまでも……守られてばかりじゃいられないのよ!」
 グリムは剣を支えに辛うじて倒れることを防いだ。ベディヴィアの頭部へ向けて、その剣を再び回転させる。
「隙だらけですよ」
 ベディヴィアは腰を落とし、グリムの足を払った。倒れた彼女の喉元へ、穂先を突きつける。
 グリムは目を閉じた。完敗だった。


○第二十試合
 後藤 山田(ごとう・さんだ)(天御柱学院)VS.シエル・セアーズ(しえる・せあーず)(蒼空学園)

「どうして駄目なんだよ!?」
 選手専用通路で、裁のパートナーである山田は、麻羅に食って掛かった。
「どうかした?」
 騒ぎに気づいて緋雨がやってくる。
「こ奴がこの玩具を使いたいと申しての」
「オモチャじゃねえ! イコプラだ!」
 イコンのプラモデルのことだ。機械が内蔵されていて、戦いを手伝ってくれるらしい。
「駄目じゃろ、普通に考えて」
「だから何で!?」
「あのね、『やまだ』さん」
「『やまだ』じゃねえ! 俺の名は『サンダー』だ!」
「さんだー。このいこぷらとやらは、機械なんじゃろ? お主の魔力で動くのではなかろう?」
「ああ」
「なら駄目じゃ」
「だから何で!?」
 分からんか、と麻羅は山田を左目のみで見た。彼女の右目には、眼帯がかかっている。緋雨とは逆だ。その緋雨が答えた。
「御前試合は己の力のみで戦うもの。他人の――人じゃないけど――力を借りて戦ったところで、総奉行が納得すると思う?」
 む、と山田は腕を組んで考え込んだ。
「……分かった。俺は別にこいつがなきゃ戦えねえってわけじゃねえんだ。ちょっと今、こいつにハマッてるだけだからよ!」
 山田は肩を怒らせて試合場へ向かった。
 残されたイコプラを見て、緋雨が尋ねた。
「これ、どうしようか?」
「……なかなか可愛いではないか」
「え?」

 シエルは輝のパートナーでアイドルだ。ごくごく普通の女の子で、こんなの相手にイコプラを使ったら顰蹙を買ったな、と山田は思った。
「お嬢ちゃん、悪いこた言わねえ。怪我しない内に帰りな」
「そうはいかないよ! 私は輝と約束したんだから! 頑張るって!」
 シエルは片手サイズの槌を持っている。プリーストなので、刃のある武器は普段から使わないのだろう。
「俺の稲妻級の一撃、あんたに受けきれるかな? 嵐神憑依、雷・鳴・壱・閃!」
【ヒロイックアサルト】を乗せ、山田は竹刀を鋭く突いた。轟雷が放たれる。
「キャアアア!」
 シエルの叫び声が響く。観客席からは、ファンの怒声が飛んだ。
「ひでぇぞ、やまだ!」
「女の子相手に何するんだ!」
「もう少し手を抜け!」
「うるせえええ! 俺の名はやまだじゃねえ! サンダーだ! それに俺も女だ!」
「お前なんか女じゃねえ!」
という声には、裁がすっ飛んでいって一発くれてやって、両者とも道三から注意を受けていた。
「どうだ? 降参する気になったか?」
「まだまだ……」
 シエルは手の平を胸に当てた。パアッと光が灯る。
「……【ヒール】か。プリーストは便利だな。だが、待ってやるほど親切じゃねえよ!」
 山田が竹刀を振り上げた。
「そう簡単に負けるわけには、行かないんだから……!」
 シエルはたった今まで自身に当てていた手の平を、山田へ向けた。眩い光が山田を襲う。
「くっ!」
 山田の目が眩んだその瞬間、シエルは槌を両手で握り、渾身の力で薙いだ。
「――!!」
 山田の意識が一瞬飛んだ。彼女はにやりと笑った。
「……はは、あんた稲妻級にすげーぜ」
 シエルもにっこりと笑い返した。ファンになりそうだよ、と山田は内心呟いた。


○第二十一試合
 よいこの絵本 『ももたろう』(よいこのえほん・ももたろう)(葦原明倫館)VS.ゲイル・フォード(げいる・ふぉーど)(葦原明倫館)

「え? 一人足りない? 参加予定者が来なかった? はあ……それは仕方がありませんな。しかし、なぜ私が? え? 決める時にいなかったから? 何ですか、その学級委員を決めるような決め方は」
 そんなわけで、ゲイル・フォードは参加することになった。

 なったはいいが、三十センチほど目の下にある小さな子のつむじを見て、ゲイルはうーんと唸った。
「……ちと尋ねるが、貴殿はまこと、あの『桃太郎』なのですか?」
「あっ……あの、あの、ボク、あの……ゴメンナサイ……そうです……」
 最後の方は小さくて聞き取りづらかったが、どうやらそうらしい。シャンバラ人であるゲイルだが、「桃太郎」の伝説はよく聞かされている。お供の猿、犬、雉は獣人かもしれないとゲイルは踏んでいるのだが……これはいくら何でもイメージが違いすぎる。
「ももー! しっかり戦えー!」
「そうだ、ももたろう! つくもんついてるんだろ! 死ぬ気でやれば何とかなる!」
「あんたが言うな!」
 観客席のイランダが北斗を殴った。右目の下が真っ赤に腫れ上がる。
 二人の声にも、イランダが北斗を殴った音にも、ももたろうはびくっとする。もう泣きそうだ。
「……これは早く終わらせるべきでしょうな」
 ゲイルは呟いた。試合開始の合図にも、ももたろうは構えすら取らず、両手を胸の前に握っておどおどしている。
 攻撃しようにも、こう怯えられてはどうにも出来ない。いっそ降参してくれればいいのだが――。
「ももっ!!」
 イランダの声に、ももたろうは泣きべそをかきながら突っ込んできた。手にした竹刀をとにかくぶんぶんと振り回している。
「おっと」
 ゲイルはそれを跳ね返した。
「うっ、ひぐっ、うっ」
 ……可哀想だ、とゲイルが思った瞬間、ぽかりと竹刀が彼の頭を打った。「一本!」と道三が告げる。これはいかん、負けてしまう、とゲイルはももたろうの足を払った。
 ぺたりと転んだももたろうに、トドメを刺す気にはなれず、そのまま座っていてくれよ、とゲイルは祈ったが、再びイランダの怒声が飛んだ。
「もも!!」
「はいっ!!!!」
 ほとんど何のダメージもなく、ぴょこんとももたろうは立ち上がった。
「……」
「……」
 ゲイルとももたろうは、睨み合うことも出来ず、ただ見合った。
「……引き分け」
 道三は、嘆息してそう告げた。