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リアクション
「何よぉぉ、どーせあたしなんて、演出する以外に能の無い、ダメ精霊よぉ……ぐすっ……」
と、泣くアドルフィーネ・ウインドリィ(あどるふぃーね・ういんどりぃ)。
エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は裾を引っ張る彼女をなだめつつ、戦況を見ていた。
「きっと、あたしなんてきっと、見向きもされないに違いないのよぅ……不必要なんだわ、いてもいなくても同じ……」
「そんなことないから落ち着け、な?」
「ぐすっ……そうね、キミくらいしかあたしのことなんて、見てくれない、見てくれないのよぉ……」
しばらくすれば疲れて眠るだろうが、続々と酔っていく仲間たちを見ていると、エヴァルトとしては一刻も早く前線へ戻りたい。
「どーせ、あたしなんて何も……演出しか……演出、だって……」
アドルフィーネが小さく欠伸を漏らした。
まだ何か言いたそうにしていたが、その内にくたっとエヴァルトへもたれかかってしまう。
「アドルフィーネ? ……眠った、か」
エヴァルトは彼女が寝息を立てるのを確認し、そっとその場に寝かせてやった。
そして気を取り直し、『バトルアックス』を構えた。
伐採を開始してから数十分。
『パワードアーマー』と『血煙爪』で武装した本郷涼介(ほんごう・りょうすけ)は『ブリザード』を放った。
それまでの地道な氷属性攻撃が効いたのか、ようやくまたたびトレントたちの動きが止まる。
「よし、今の内に伐採を――!」
と、『血煙爪』を構える涼介。その姿は昔のメタルヒーローを思わせた。
しかし、中心人物であるはずのトレルが見当たらない。
後方を振り返ると、彼女は離れたところで座り込んでいた。いい加減に酔いが回って気持ち悪くなったのだ。
「ぁー……がんばってー……」
と、力なく声援を送るトレル。
涼介は今動けるメンバーを確認し、凍り付いたトレントの一本に狙いを定める。
どちらかというと犬っぽいクリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)は少し心配だった。
「クリス、早くしないと溶けちゃうよ」
と、刀を構える神和綺人(かんなぎ・あやと)だが、彼は猫っぽい。
今のところは花粉症にかかっていない様子だが、いつ酔い出すかと気が気でないのだ。
「は、はいっ」
綺人が『アルティマ・トゥーレ』で凍らせた刀を振るってトレントにダメージを与える。
すかさずクリスが『ライトニングランス』を繰り出せば、以前に傷つけられた箇所から大きく亀裂が入る。
「これで終わりだっ」
と、マイペースにトレントへとどめを刺す綺人。
最後の悪あがきとでもいうように、倒れたトレントからものすごい量の花粉が舞った。
「大丈夫ですか? アヤ」
「え、僕は大丈夫だよ?」
と、綺人は心配げにこちらを見るクリスへ顔を向けた。
「それなら良いのですが……」
――とにもかくにも、一体のトレントを無事に伐採できて良かった。
そう思ってクリスが息をつくと、突然、綺人にぎゅっと抱きしめられた。
「あ、アヤ……!?」
どうやら、先ほどの花粉でついにやられてしまったらしい。
酔った綺人を抱きしめ返しながら、クリスはどこか安心した様子で微笑んだ。
「ゆっくり休みましょうか、アヤ」
『血煙爪』を幹に入れ始めると、またたびトレントが嫌がるように身悶えた。
涼介は冷静に相手の動きを観察しながら刃を進めていく。
他と比べたら地味だが、やはり、伐採と言ったらこれだろう。
「ーっ! ーっ!」
言葉にならない悲鳴を上げるトレント。
「っ、あと少し……」
ぎゃぎゃっ、と音を立てる『血煙爪』。
やがて、終わりが見えてきた。
半分より先まで刃が入ると、幹が悲鳴を上げ始めた。
そして、トレントはばさっと枝を揺らしながら地面へ落ちる。――伐採完了だ。
『激励』で後方支援をしていたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)だが、今のままではトレントたちを伐採し終えるのに時間がかかってしょうがない。
「ずいぶんと数も減ってきたし、ずっと支援してもいられないわね」
と、周囲の様子を確認して言う。
「やはり、またたびの実は栄養豊富と聞きますし、無理して倒すこともないのでは?」
空京稲荷狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)が煮え切らない態度で口を挟んだ。
「それも一理あるけど、あれを見てもそう言える?」
と、リカインは自分たちの後ろを指さした。
「にゃんにも言わないで突然いにゃくなってから、どれだけ心配したと思ってるのかにゃー」
「姉貴……今はそれどころじゃないんだけど……」
サンドラ・キャッツアイ(さんどら・きゃっつあい)に絡まれて、アレックス・キャッツアイ(あれっくす・きゃっつあい)は困惑していた。
「あにきったらにゃあ、ちょーっとくらいお仕置きしたって、罰は当たらにゃいよねぇ……?」
「え?」
何か不吉な台詞が聞こえて目を丸くするアレックス。
「えいっ!」
と、構わずにサンドラは『ライトニングブラスト』を放った。
「うわっ、ちょっと待って姉貴!」
酔っているためか、ろくに狙いが定まっていなかった。そのせいで乱れ撃ち状態となり、アレックスは必死になって避けた。
「……まあ、確かに」
と、視線を前へ戻す狐樹廊。
サンドラの酔い方は他と比べても危険だ。その原因がまたたびトレントであれば……、仕方がない。
「乱撃! ソニックブレードォォ!!」
エヴァルトの放ったソニックブレードは次々と幹を斬りつけていく。
だが、トレントが倒れる様子はなかった。
もう一度『乱撃ソニックブレード』を放とうとした時だった。
前へ出てきたリカインが『疾風突き』を繰り出した。
その強力な突きにより、幹がぎしっと音を立てる。
「たーおーれーるーぞー!!」
と、エヴァルトはその方向にいる仲間たちへ注意喚起した。
最後の一本が鈍い音を立てて倒れると、どこからか歓声が沸いた。
「終わったぞ!」
「思ったよりも長かったわね」
呆然とその様子を見て、トレルも呟く。
「やっと……終わった……」
これでまたたび花粉症は、直に収束を迎えるだろう。
しかし、その場には未だ酔っぱらいが多くいた。
「にゃははー、にゃんでうまくあたらないんだろうにゃー? えいっ、えいっ」
「だから姉貴、謝るからもうやめてー! 悪かったよ、姉貴ぃ!」
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