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第二章 迎撃

「いきなり大多数が街道に居るのは不味いですわ。ゴブリン達が警戒をして、襲って来ない可能性があります。皆さん、申し訳ないのですが街道から少し離れた場所で身を隠して頂いて待機を御願いしますわ」
 それぞれが思い思いの場所に散っていく。
「それと、あの方を呼んで頂けますか?」
 近くにいた生徒にレティーシアは声を掛ける。
 レティーシアに呼ばれたのは本郷 翔(ほんごう・かける)だった。
「翔さん。予想される襲撃には、まだ時間があります。皆さんに軽い軽食を振舞って頂けますか?」
「分かりました。少しでも寛いで頂ける様に準備を致します」
 消える様に翔は動いていた。
「あら?」
 レティーシアの隣には既に紅茶のセットが出来ており、翔は遥か遠くで軽食を仲間達に振舞っていた。
「どうぞ」
「ああ、助かる」
 湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)は差し出されたお握りを受け取る。
「翔さんは、何でここに?」
 亮一は翔の着ている服を見て、フッと沸いた疑問を翔に尋ねた。
「戦闘要員ではありませんが、少しでも皆さんの御役に立てればと思いまして」
 優しく翔は笑うと亮一に紅茶の入ったカップを差し出した。
「す、凄いな」
 何時の間にか用意された紅茶に素直に亮一は驚く。
「執事ですから」
 そう言うと、翔は他の人へと軽食を運んでいった。

「全員、戦闘態勢!」
 全員が軽食を終えた頃、レティーシアの声が響き渡った。レティーシアは指示棒を手に見晴らしの良い丘に立っていた。
「迎え撃て!」
「ブヒッ!フゴフゴッ」
 樹月 刀真(きづき・とうま)が整備している街道に目をやると、ゴブリン達が続々と街道に現れていた。
「ゴブリン共が来たか」
 身を隠す必要も無くなり、刀真は『隠れ身』を解除する。臆する事も無く、ゴブリン達の前へと歩み出た。
「失せろ、環菜の邪魔はさせない」
「フゴっ?」
 不意に現れた刀真にゴブリン達は顔を見合わせるが、直ぐに下卑た笑いを浮かべる。
「顕現せよ……『黒の剣』!」
 黒い片刃の刀身が刀真の手に握られていた。
「フン」
 直ぐに近くに居たゴブリンの首を音も無く刎ねる。
「ブ――」
「消え失せろ」
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は風上へ立つと『隠形の術』を解いた。
「此処なら十分でしょう」
 『しびれ粉』を風の流れに乗せて振り撒いていく。
「フゴビッ!」
 動き回っていたゴブリン達が急に地に倒れていった。
「狙い……撃つ!」
 倒れ伏すゴブリンの頭部を月夜のラスターハンドガンが撃ち抜いていく。
「環菜街道でこれ以上好き勝手はさせません」
 「ゴブリンの数が多いわね」
 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は呆れる様にゴブリン達を工事用車両の上から見下ろしていた。スキル『ファンの集い』によって、リカインの周囲のゴブリン達は混乱をしているのか仲間同士で殴り合っていた。
「しかし、私の周囲だけが無事でも意味が無いわよね。私も前へ出ないと」
 リカインは息を大きく吸い込むと『咆哮』を紡ぐ。
「――♪ ――♪」
 歌のようにも聞こえるその声は血気盛んなゴブリン達を次々に地に沈めていく。
 リカインはゆっくりと歩を進めて行く。ゴブリンがリカインの行く手を阻もうとするが構わない、『咆哮』によって脳を麻痺させ動けなくさせる。
(早く終わらせないとね)
 リカインとは対照的に何かが壊れていく音が響き渡っていた。獅子神 刹那(ししがみ・せつな)である。
「あ、こら、逃げんじゃねー!」
 刹那がゴブリンを追いかけ回し、一匹撃退する度に何かが壊れていく。本人に悪気は無いが、ゴブリン以上の活躍をしている様な気がしないでもない。刹那の刀がゴブリンに当たらずに空振りすると、重機の一部が凹んでいたりした。
「人様のもんを盗むのは感心しねぇ」
 刹那は素早い手数で空振りを補い、ゴブリンを追い詰めていく。
「一意専心、大胆に踏み込んで一撃で決めるぜ!」
 行き場を失ったゴブリンを刹那の刀が斬り捨てる。
「ふう。ぶった斬りゃ全部解決!って単純なら楽なのによ」
「ッ、数が多いな」
 湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)は小型飛空挺『オウルアイ』に乗り、上空から街道を見渡していた。至る所からゴブリンが次々と現れてくる。
「梓、ゴブリンが現れた。そちらに向かっている。迎撃を頼むぞ。こっちは何とかする」
 HC越しに地上へ連絡を亮一は入れ、通信を切った。
「俺もやるしかないか。一輝さん、行けますか?」
「俺に任せな!」
 天城 一輝(あまぎ・いっき)は操縦桿を下げると一気に小型飛空挺を降下させていく。
「邪魔はさせないぜ」
 操縦桿を離し、一輝は銃座へ滑り込む。
「行くぜ!」
 機関銃の引き金を引き、対地射撃を行う。弾丸が空気を裂いて、雨の様に地上へ降り注ぐ。
「ゴブ――」
 ゴブリンが到達する前に、一輝の対地射撃で複数体を同時に薙ぎ払っていく。
「射撃は任せろ。おまえはフォローと次の指示を頼む」
「了解!」
 亮一は下げていた高度を再び上げ、一輝の死角になる位置のゴブリンをセフィロトボウで潰していく。
「ッ、これならいけそうだ。一輝さん、20時の方向を頼みます」
「了解だ」
 前後左右をそれぞれがカバーし、回るようにゴブリンの襲撃を抑え込んでいく。
「こっちは片付きました。一輝さんは?」
「ああ、こっちも終わった」
 ゴブリン達は持っていた武器を放り捨てて、逃げ出していった。
「此処ら一帯のゴブリンは撤退しました。哨戒に戻りましょう」
「ああ、俺も深追いをするつもりは無い」
「了解しましたわ」
 高嶋 梓(たかしま・あずさ)は亮一からの通信を受け、レティーシアに現状の報告をする。
「こちら、梓。レティーシアさん、ゴブリンが此方にも現れました。直ちに迎撃に当たります」
「了解ですわ。そちらもお気をつけて」
 短い通信を終えると、傍にいるアルバート・ハウゼン(あるばーと・はうぜん)ソフィア・グロリア(そふぃあ・ぐろりあ)に声を掛ける。
「ソフィアさん、アルバートさん。宜しく御願いします」
「梓殿、お任せ下さい」
「しっかりと街道を護ってみせますわ」
 長剣バスタードソードを抜き、アルバートは街道とゴブリンの間に割って入った。
「目標捕捉、戦闘を開始します」
 ソフィアは六連ミサイルポッドを構え、ゴブリン達へミサイルを一斉発射する。ミサイルはアルバートを越え、ゴブリン達を焼き尽くしていく。
「ミサイルの着弾を確認、白兵戦へ移行します」
 光刃の刃を出現させ、ソフィアはアルバートに続いて駆け出す。
「梓様は援護を御願いしますわ」
「お任せ下さい!」
 アルバートは既に2体ものゴブリンを斬り伏せていた。
「はあぁ!」
 豪快に振り切った長剣でゴブリン達を薙ぎ払い、街道から遠ざける。
「我が名はアルバート・ハウゼン! 女王の剣なり! 街道を汚すものは斬り捨てる!」
 アルバートの気迫に押され、ゴブリン達は足が前へ出られずに居た。
「排除します」
 ゴブリン達の動きが止まった所を、ソフィアの光刃が通過していく。
「ブヒ――」
 悲鳴にも似た小さな声を出し、ゴブリン達は倒れていく。
「梓様!」
「いきますわ。光術!」
 梓の手から光球が現れ、不規則な軌道を描きながらゴブリンへ衝突する。ソフィア達の近接戦闘から辛くも逃れたゴブリンを梓の光球が吹き飛ばしていく。
「……サイコキネシス」
 死骸となったゴブリンの剣が中に浮かび、近くに居るゴブリンの首を刎ねる。
「ブッ」
「御見事ですわ、梓様」
 最後のゴブリンを征し、ソフィアは辺りを改めて確認する。
「梓様、レティーシア様へ御報告を御願いします」
「ええ、レティーシアさんの心配事は減らしていきたいですから」
 「ユリウス、其方にもゴブリン共が迫っている。頼んだぜ!」
「我、了解なのだよ」
 人気のない整備中の街道でユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)は一輝からの通信を受けていた。
「ふん!」
 ユリウスは防御スキルを自身と街道へ重ね掛けし、文字通り街道を護る鉄壁となる。そして、ゴブリンの襲撃は予想されていた事、敢えて見える位置にトパーズを置いた小型飛空挺に殺到するゴブリン達に向かってユリウスは猛然と突撃する。
「街道整備の邪魔はさせないのだよ!」
 フェザースピアを振り回し、長いリーチと遠心力を使いゴブリンの身体を纏めて吹き飛ばしていく。トパーズに夢中で不意打ちを喰らう形になったゴブリン達は、構えを取る前に息絶える形となった。
「此方は片付いたであろう、パトロールに戻らせてもらう」
「裁さん、ゴブリン達が来ましたよ」
 装備された魔鎧ドール・ゴールド(どーる・ごーるど)は、『謎料理』の蒼汁スライムを弄っている鳴神 裁(なるかみ・さい)に声を掛けた。