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貴女に贈る白き花 ~日常と戦いと~

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貴女に贈る白き花 ~日常と戦いと~
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エピローグ(2)
 
 
「はい、ボクから皆にプレゼントだよ」
 神崎 輝(かんざき・ひかる)はパートナーの三人に花を贈っていた。世話をしたりされたり互いに助け合う形ではあるが、家族同然だと思っている輝にとっては三人とも感謝をする存在なのだ。
「ありがと〜、こうやって花を実際に貰うと、頑張って取り返して良かったって思うよね」
 シエル・セアーズ(しえる・せあーず)が貰った花を抱きしめ、そして広場の花々を見る。ここに飾られているシルフィスの花も、昨日の戦いで取り返した物が使われていた。
「こんなに素敵な物も見られたしね。ここで歌ったら気持ち良さそう」
「うん、さすがに今歌う訳にはいかないけど、いつか花に囲まれた場所で歌ってみるのも面白そうだね」
「社長に相談してみる? プロモーションビデオを作って〜って」
「あはは、それいいかも!」
 輝の冗談にシエルが笑う。フラワーアートという芸術に囲まれたこの空間は、確かにいい歌を生み出しそうな空気に満ちていた。
 
「綺麗ですわね……あたし達の努力が広場にいる皆さんの笑顔の一助になれたのでしょうか」
 ユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)が広がる光景に目を細める。空賊である彼女達にとって、花畑を上空から見る事はあってもこうして花に囲まれる機会は余り無いだろう。
「うん……多分、なれていると思う」
 少し後ろをリネン・エルフト(りねん・えるふと)が歩く。普段から会話に沈黙が混じりがちな彼女だが、今は別の意味での躊躇いがあった。それに感付いたヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)が背中を押す。
「リネン。あたし達は『シャーウッドの森』よ」
「……? うん……」
 一瞬何の事か分からず首を傾げる。だが、リネンはヘイリーが言いたい事にすぐ気付いた。そして勇気を出して、前のユーベルに並ぶ。
「……ユーベル」
「何ですか? リネン」
 振り向いたユーベルに花を差し出す。リネンにとって、ユーベルは最初に契約したパートナーであり、姉とも母とも言える存在だった。だからこそ、リネンがシルフィスの花を贈る相手には一番相応しい。
「あたしに……ですの?」
「うん……ずっと言えなかったけど……いつもありがとう、ユーベル」
「こんな日が来るなんて……ありがとうございますわ、リネン……」
 大切そうに花を持つユーベルと、顔を赤くして立つリネン。そんな二人を遠目に見ながら、ヘイリーは満足そうに頷いた。
「やりたい事をやる。本当はそれでいいのよ」
 
「花梨姉ぇ! これは俺達からだ!」
 篁 大樹が元気良くシルフィスの花を差し出した。受け取った篁 花梨はどうして自分が花を貰うのかさっぱり分からず、首を傾げる。
「えっと……? この花束は一体何なんでしょうか? カーネーションに似ていますけど……」
「これはシルフィスの花さ。母の日に渡すカーネーションの代わりに、母親みたいに世話をしてくれる人への感謝の気持ちとして渡すらしいから、俺達で用意したんだ」
「ごめんなさい、花梨ちゃん。透矢さん達がしている事に気付かないように、私が協力してたんです」
 篁 透矢(たかむら・とうや)火村 加夜(ひむら・かや)がほんのちょっとだけ悪戯めいた笑みを浮かべる。花梨はそれでようやく理解すると、透矢や大樹、他の兄弟達を見回す。
「もう……皆して意地悪ですね。でも……有り難うございます」
「……ふふ、まだ喜ぶのは早いですよ」
 既に喜んでいる花梨に加夜が包みを渡す。花束を透矢に預けて包みを解いてみると、クリスタルガラスで出来た花瓶が姿を現した。その花瓶には『花梨』の花が表面に彫られている。
「お花を貰うなら、やっぱり花瓶もあった方がいいでしょうからね。使ってくれると嬉しいです」
「綺麗な花瓶ですね……ありがとう、加夜ちゃん。大事に使わせて貰いますね」
 加夜の手を取ってお礼を言う花梨。二人を見ながら大樹が透矢に話しかけた。
「もしかして、美味しい所全部加夜姉ぇに持ってかれた?」
「まぁいいんじゃないか? 花梨が喜んでくれるのが一番だからな」
 透矢も花梨達を見る。二人の女の子は、とても幸せそうな顔をしていた。
 
 
 母の日という本来の意味で考えたら、この二組は外せないだろう――
 
「……花束?」
 クコ・赤嶺(くこ・あかみね)メイ・アドネラ(めい・あどねら)アレクサンダー・ブレイロック(あれくさんだー・ぶれいろっく)、二人から渡された花を見て疑問に思う。
「シルフィスの花って言うんだぜ。ボク達で取り返して来たんだ!」
「……? どういう事? 霜月」
 赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)に説明を求める。彼によると母の日、ツァンダの花屋が行っている事、そして花が盗賊に奪われ、それを取り返す為に二人が盗賊達と戦ってきた事。それらをひっくるめた説明が先ほどのメイの一言らしい。
「――という訳です」
「そうだったの。二人だけっていうのは褒められた事じゃないけど……良く頑張ったわね」
 クコがメイとアレクサンダーを撫でる。霜月はそれをただ見守っていたが、その霜月にも、二人の子供が花を差し出した。
「私にもですか? 基が母の日ですからクコだけでも――」
「でも霜月にもお世話になってるから。メイちゃんと二人で、霜月にもあげようって決めてたんだよ」
「……そうでしたか。ならその厚意を無にする訳にはいきませんね。有り難うございます。二人共」
 今度は霜月が二人の頭を撫でる。子供達が思いやりを持ってくれた事が、貰った花以上に嬉しく感じるのだった。
 
「はい、ママ!」
 ピュリア・アルブム(ぴゅりあ・あるぶむ)が花のような笑顔と共に花束を渡す。受け取った蓮見 朱里(はすみ・しゅり)は二人の子供を優しく抱きしめた。
「有り難う、ピュリア、健勇。二人が頑張って取り返したこのお花、凄く綺麗よ」
「へへっ、母ちゃんが喜ぶと思って頑張ったからな」
 黄 健勇(ほぁん・じぇんよん)が自信を持って言う。また子供達だけで危ない事をされると心配ではあるのだが、今はそれを指摘する野暮な真似はせず、ただ子供達の想いをかみ締めていた。
「なぁ母ちゃん。今日は父ちゃんもこっちに来るんだろ?」
「えぇ、そうよ。四人揃ったらお買い物をしましょうね。今日は二人の為に美味しいお菓子を作ってあげるから」
「お菓子! やったぜピュリア!」
「うん! えっと、ピュリアが食べたいのはねぇ――」
 三人で手をつなぎ、もう一人の家族の下へ歩いて行く。それはいつもの――そして、かけがえの無い日常の姿だった。
 
 
「アスカ、そろそろ回復したか?」
「駄目〜もう少し〜」
 広場の陰になった所、製作スタッフの休憩所として使われている場所で蒼灯 鴉(そうひ・からす)師王 アスカ(しおう・あすか)を膝枕していた。
 普通逆じゃないかと思うが仕方が無い。実際の所、疲労によってダウンしているのはアスカの方なのだ。
「しかし、本当にギリギリだったな。それを間に合わせたアスカもアスカだが」
「それ褒めてるの〜?」
 シルフィスの花がこの広場に届いたのは昨日の夕方だった。フラワーアートのメインであるシルフィスの花は使用する数が多く、本来であれば昨日の朝に届いた花を一日かけて設置していく予定だったのだ。
 結局今日の開催に間に合わせる為には徹夜しか無く、アスカは文字通り不眠不休で作業を続け、なんとか太陽が昇る前に完成させる事が出来たのである。
「でも良かったわ〜、招待状まで出しておいて間に合いませんでしたじゃお話にならないもの」
「見た感じだと出した奴殆どが来ていたみたいだな。花を贈る事もしてたみたいだし、アスカとしては期待通りか?」
「そうねぇ、皆が花を渡す切っ掛けを作ってくれたらって思ってたから、そういう意味では大成功だわ〜」
 話しているうちにようやく回復して来たのだろう。アスカが何とか身を起こす。鴉は肩を抱くようにしてそれを支えると、空いた手でシルフィスの花を一本手繰り寄せた。
「まぁ何だ。今日はよく頑張ったな。これは俺の――」
 花を渡そうとした鴉の動きが止まる。せっかくそれなりに良い雰囲気だったのに、それを邪魔するKY花妖精がすぐそばに現れたからだ。
「あらラルム。どうしたの?」
「あの……アスカに、これ……プレゼント」
「これってシルフィスの花? ありがと〜ラルム。嬉しいわ〜」
 アスカがラルムの頭を撫でる。そして気合を入れて立ち上がると、コリをほぐすように伸びをした。
「さてっ、ずっと力尽きてる訳にもいかないわね〜。お花の様子をみてこなくちゃ」
 広場の表側へと出て行くアスカ。ラルムもそれに続こうとしてが、突き刺すような視線を受けて立ち止まった。
「……おい、ちび。良い所で出てきてくれるじゃねぇか。あれか、花妖精だから空気の読み方も逆なのか」
「う……? カ、カラス……怒ってる……?」
「怒ってねぇさ。何、ちょっと力を篭めた話し合いをするだけだ」
 それを言うなら心ではないか。そんな突っ込みも無意味なほど、鴉の周囲に渦巻く怒気は凄まじいものとなっていた。
「……いぢめる?」
 
 
 

 ――こうして様々な想いが行き交い、パラミタにおける母の日は終了した。だが、常に綺麗な終わり方をするとは限らないのが人生である。
 
 
「……な、なんじゃこりゃ」
 母の日から少し経ったある日、七枷 陣(ななかせ・じん)の下に地球にいる母から手紙が届いた。花を贈る際にメッセージカードを添えたので、その返事だろう。
「リーズくん。リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)くん。ちょっとこっちに来なさい」
「ふぇ? どうしたの陣くん?」
「そこに正座」
「正座」
 大人しく従う。次の瞬間、陣はリーズのもみ上げを両方引っ張り上げた。
「痛い痛い痛い痛い!」
「やかましい! 一体手紙に何書いた!」
「て、手紙!? 手紙って七海ママの――って痛い痛いって!」
「それ以外にあるか! 何書いたらこんな返事が来るんや!」
 もみ上げから手を離し、陣が母からの手紙を突きつける。そこにはただ一文、こう書かれていた。
 
「ベビーベッド用意して待ってるな♪」
 
 ちなみに、リーズが書いた手紙の内容はこうだ。
 
 七海ママへ
 
 母の日って記念日に合わせて綺麗なお花を3人でお金出し合って買ったよ
 気に入ってくれたら嬉しいな〜
 
 ――リーズ――
 
 PS.やっと陣くんがボク達の事を愛してくれたよ♪
 
 
 ついでに言うと、小尾田 真奈(おびた・まな)の手紙はこうだ。
 
 お義母様へ
 
 母の日と言う行事に因んでシルフィスの花を贈らせて頂きました
 お気に召しましたら幸いです
 またそちらへお邪魔しますね
 
 ――真奈――
 
 PS.ご主人様が私達を愛してくれました。今……これ以上ない位幸せです
 
 
「…………」
「あの……陣くん?」
「何生々しい事手紙に書いとるんじゃゴルァ!!」
「あ痛痛痛! 痛い痛い痛いってば〜!!」
「親孝行とか柄にも無い事考えた結果がコレだよ! 今度帰省してみぃ! あの腐れロリ母親、絶対72通りの孫の名前とか考えとるわ! いっそ天界の力で時を戻してくれ!」
「あ、あのご主人様。もうそれくらいにしてあげた方が……いずれにせよ、いつかは知られる事なのですから」
 真奈が控えめに陣を止める。その間も両手はリーズのもみ上げを引っ張ったままだ。
「痛いよ〜! 真奈さんも似たような事書いてるのに何でボクだけ〜!?」
「そこにもみ上げがあるからや!」
「理由になってないよ〜!」
 
 結局そんなやり取りがしばらくの間続けられていた。
 後日、匿名の相談掲示板に『恋人との情事が母親にバレました』というタイトルの投稿があったという。
 
 めでたしめでたし。
 
「めでたく無いわ!」

担当マスターより

▼担当マスター

風間 皇介

▼マスターコメント

 こんにちは。風間 皇介です。
 無事に第六作をお届けする事が出来――無事?
 
  
〜今回の予想外〜

・参加人数
 
 LC96名って何ですか……
 まさか別行動可能というだけでここまで増えるとは正直予想外でした。
 多分よっぽど時間が取れない限り、この形式は今後取らないかな、と思います。
 とかいいながら一定条件での強制分割のシナリオ案なんかがあったりするのですが。
 (いつやるかは全くの未定ですが)
 
 
・潜入組
 
 〜シナリオガイドより〜
 「その為気配を消せるアイテムやスキルがあれば神殿までは簡単に行けるでしょう」
 
 潜入組:40名(敵対PC、人質PC除く)
 うち気配を消すアイテムかスキルを装備していた方:19名
 
 
 ……神殿まで行けない!?
 
 さすがに半数以上が条件を満たしていないのは予想外でした。
 (幸い人数その物が多いから攻略自体に支障はありませんでしたが)
 三作目でもあったのですが、ガイドに明示した条件は、判定の甘い風間でもある程度厳しく取らざるを得ません。
 理由はその条件に応じた装備やスキルを設定してきた方との間に不公平が生じる為です。
 
 なので今回は、最初に神殿に向かえたのは隠れ身系装備・スキルを持っていた方のみとさせて頂きました。
 それ以外の方は装備やアクションに応じて強襲組か迂回組に回って頂いています。
 (魔鎧や隠れ身があってもパートナーが迂回に回る場合など、一部例外があります)
 この場合、アクション通りの行動を取っていない場合が多々ありますが、ご了承下さい。
 特に神殿に潜入して○○をする、は全ボツです。辿り着けませんから。

 次回以降にもこういった条件指定はあると思うので、今後はお気をつけ下さい。


・日常
 
 結構自宅のアクションが多かったり、夜になって必然的に自宅が舞台になる事が多かったです。です、が……
 自宅の方は家のある都市か地方を書いてもらう様にするべきだったなと後悔しています。
 一応基本的には所属学校のある場所に家があるという認識で書いているのですが、そうでない設定の方がいる可能性を考慮し、「どこどこの都市で〜」という描写はしないでいます。
 その分ツァンダ等からの距離・時間的な要素をリアクションに盛り込めなかったのでそこが失敗でしたね。


・日程
 
 さすがに母の日当日に事件が起きて解決して花を配って、は難しいだろうと思って母の日『手前』としたのですが、結構当日前提なアクションがありました。
 これに関しては前日と当日の二日構成にしてどちらか片方にアクションをかけられるようにするか、いっそ当日でも良かったかなと思っています。
 なので時間指定アクションの一部は別の時間、別の場所で行っている場合があります。ご了承下さい。
 特に花を購入するアクションは軒並み夕方以降にズレ込んでいます。

 
・称号、個別コメント
 
 申し訳ありません。今回時間が無いのでかなり簡略化&テンプレです。
 (これを書いている時点で締め切り直前なので)
 といいいますか、140人超の称号って……!


 既に次回作「古の守護者達 〜遺跡での戦い〜」は参加者募集が締め切られていますが、最後はいつもの言葉で。
 

 それでは今回はこの辺で。次回また、篁ファミリーの冒険にお付き合い下さい。