シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

テーマパークで探検しましょ

リアクション公開中!

テーマパークで探検しましょ

リアクション


1.

「みーなー、ぎょうれつすごいの……。ならぶの?」
 と、フランカ・マキャフリー(ふらんか・まきゃふりー)は首を傾げた。
 巷で流行っている探検型アトラクション『ゴルゴーン』の前に出来た行列を見て、ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)は唸る。
「うーん、どうしようか……」
 探検型と言うだけあって客の回転は早そうだが、行列が短くなることはない。
 ぎゅっとミーナの手をとって、フランカが渋る様子を見せた。あの人混みに入っていくのが嫌みたいだ。
「しばらくしたら空くかもしれないし、それまで別のアトラクションで遊ぼうか」
 と、ミーナは幼い彼女へ言った。
「うん!」
 フランカが頷くのを確認し、ミーナはパンフレットを取り出す。ここから近いところにあってフランカが楽しめそうなものといえば……――。
 フランカは目をきらきらと輝かせた。
「おうまさん? おうまさんがぐるぐるだー!」
 メリーゴーランドだ。
 作り物の馬が並んでぐるぐると回転する。どちらかといえば小さい子向けのアトラクションであるため、断然空いていた。
「ふらんか、あのこにのってくるー!」
 と、ミーナの手を離れたフランカは、つぶらな瞳の白い子馬へ向かって駆けていく。
「いってらっしゃい」
 ミーナはその姿を見送ると、柵の外からフランカを眺めた。
 準備が整ったところで、馬たちが一斉に走り出す。
「みーなー!」
 見てみてー、と言わんばかりの笑顔で手を振るフランカ。
 ミーナもにこにこしながら、無邪気にはしゃぐ彼女を微笑ましく見ていた。――冒険型アトラクションでは遊べなかったけど、フランカちゃんが楽しそうだからいっか。
 パーク内には他にも、楽しく遊べるアトラクションがいくつもある。ミーナは一人、頷いた。

 途中で入り口が二つに分かれ、マリカ・メリュジーヌ(まりか・めりゅじーぬ)伊吹藤乃(いぶき・ふじの)は右側へ進んだ。ガイド役のキャストから注意事項を聞かされて、さらに奥へ進むと洞窟が見えてきた。
「思ったよりも暗いですね」
 と、マリカは藤乃の手をちらちら見やる。
「そうですね……アトラクションとはいえ、気をつけないと」
 藤乃は彼女の様子を察して、そっと手をとった。ぎこちなく握って、洞窟内へ共に足を踏み入れる。
『ステンノ洞窟』は小さな灯りが点々とあるだけで薄暗かった。足元はでこぼこの地面で、心なしか空気も湿っぽい。
 まるで本物の洞窟のようだ。藤乃は、マリカの手が少し震えているように感じた。
「あの、マリカさんは、好きなものとかありますか? 趣味とか」
 と、恐怖心を和らげようと、話題を提供する。
 マリカははっとすると、ドキドキしながら答えた。
「趣味は、庭の手入れですね。花が好きなので……地上でもザナドゥでも、これだけは変わりませんから」
「そうなんですか。いいですね、私も花は好きです」
 と、藤乃が明るい顔を向ける。すると、マリカが顔を上げて尋ねた。
「藤乃様は、何か趣味とかありますか?」
「私ですか? 私は――」
 二人とも洞窟の薄暗さなど、すっかり気にならなくなっていた。

「なるほど、そういうことだったのね」
 と、崩城亜璃珠(くずしろ・ありす)は呟いた。
「それにしても、綺麗な人……」
 と、マリカの隣に立つ女性を見て冬山小夜子(ふゆやま・さよこ)も言う。どこかで見たような顔だったが、薄暗い中では判別が付かない。
 少し距離を置きつつ、二人は後を付けていた。
 マリカに誘われて小夜子とともにテーマパークへやってきた亜璃珠だったが、マリカが突然離れてしまったのだ。不思議に思って探したら、長身の女性と『ステンノ洞窟』でデートしているのが分かった。
「ねぇ、小夜子? それよりもこの格好、かえって目立つんじゃないかしら?」
 と、亜璃珠は隣を歩く小夜子を見た。
 マリカにばれないため、亜璃珠はコートを着させられていたのだが、その姿はどう見ても暑苦しい。
「もう夏服の季節だっていうのに、コートは熱いわ……」
 と、げんなりする亜璃珠に小夜子は少し苦笑いを浮かべる。
「さすがに、コートは失敗だったかもしれませんね」
 しかしサングラスの内側で、小夜子は目を細めた。灯りの下、汗ばむ亜璃珠の横顔がいつになく色っぽく見えたのだ。
 幸いなことにここは洞窟。薄暗いために他人の目など気にならない。
「バレないためですし、我慢して下さい」
 と、小夜子は言うと、亜璃珠の首もとに顔を近づけた。
 ぺろりと首筋をなめられてびくっとする亜璃珠。不意打ちに目を丸くして彼女を見る。
「あ、御姉様、足元気をつけて下さいね」
 と、小夜子が楽しそうに言うものだから、亜璃珠も思わず口元を緩めていた。
 マリカがデートしているのだから、こちらだって二人の時間を満喫させてもらおう。そう考えながら、亜璃珠は前方へ視線を戻した。

 気合いを入れて探検に臨むのは良いが、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)の場合は入りすぎだった。
 薄暗い洞窟にミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)がびくついていると、察したエヴァルトがその小さな手を取る。
「これで大丈夫だ」
 ぎゅっと手を握られて、ミュリエルは飛び上がるほど嬉しくなった。きゅっと握りかえして、エヴァルトの歩く速度に付いていく。
 進めば進むほどに足場は悪くなり、岩を上っては降りて、安定したかと思うと狭い通路へ突き当たる。
 ミュリエルが怪我をしないよう、慎重に気を遣いながら進むエヴァルトだったが、険しい岸壁が見えてきたときはさすがに立ち止まった。
 他の参加者たちは必死に上を目指している。左右に空いた空洞、それが運命の分かれ道だ。
「ど、どっちへ行くんですか?」
 と、ミュリエルが尋ねると、エヴァルトは彼女を抱き上げた。『ドラゴンアーツ』をフルに活用し、岸壁を上り始める。
「金と妹分の安全のためなら、ルールなぞ!」
 スキルの使用は禁止だが、エヴァルトは金のためなら手段をいとわなかった。
 極めつけに『トレジャーセンス』で宝のありそうな方を察知し、左の穴へ向かう。自力で上る人たちを尻目に、いち早く穴の内部へとたどり着いてしまうエヴァルトたち。
 そこはさらに薄暗く、ミュリエルは思わずパートナーの首にぎゅっとしがみついた。
 ずんずんと信じて進んでいくエヴァルト。前方から女性二人の悲鳴が聞こえたが、エヴァルトは臆さない。
 しかし、やがて現われたそれに彼は歩みを止めてしまう。かさかさと地面や壁を這う音。そして足元をうろうろと動き回る、無数の虫たち。
 見る見るうちにエヴァルトの顔から血の気が引いていき、はっと駆け出す。
「虫だけは嫌だぁぁーっ!」
 両目をぎゅっと閉じ、とにかく虫のいない場所へと突き進むエヴァルト。前方を進んでいた藤乃がとっさにマリカを抱き寄せて彼を回避する。
 自身の身体が壁に当たって傷つくのも構わず、ひたすら走る。その腕の中でミュリエルも目を閉じ、振り落とされまいとしていた。
 するとエヴァルトの爪先に石が当たり、バランスが崩れた。はっと目を開け、そのまま前方へ倒れそうになっていることに気がつくエヴァルト。このままではミュリエルが危ない――!
 とっさに身体をひねって仰向けになると、エヴァルトは尻から地面に落ちた。
「――怪我はないか、ミュリエル」
「……だ、大丈夫です!」
 と、ミュリエルは目をキラキラさせながら頷いた。守ってもらえたことが嬉しかった。