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ティーカップパンダを探せ!

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ティーカップパンダを探せ!

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【7・残り19時間】

2日目 P.M.14:00

 もう二日目の昼間も過ぎた頃。
 傭兵連中から逃げ切った飛空船は、今は周囲を崖に囲まれた場所に隠れており。
「もっと捜索の効率をあげないといけませんわよ、ななな様」
 そこでなななはセシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)と話し合っていた。
「でも、具体的にどうするんですか?」
「いい考えがありますわ。私のこの頭のアホ毛と、ななな様のアホ毛同士をくっつければきっとアンテナの感度が増すはずですわ」
 なにやらこちらも電波じみた発言で、セシルはなななに顔を近づけていき。こつんとおでこをくっつけた。
 はたから見ればキスでもしようかという格好になななはちょっと焦る。
 しかし本当にこれでティーカップパンダが見つかるならと、なななも気合いを入れて電波受信をしようと試みていく。
「うううう…………!」
「むむむむ…………!」

 そして。しばらくがんばってみた結果――

「あら……いけませんわアザトース様、まだ封印を解くべき時では……」
 セシルはなにか変な電波を受信して、なにもないあさっての方向へと話しかけはじめ。
「なななはM76星雲からやってきた宇宙刑事だよ……決してドリームなお店の未来人でも、軟体動物的な侵略者でもないからハッキリしておかなイカ?」
 なななもまた、妙な電波を受信してしまったらしくぶつぶつと独り言をつぶやいていた。
「ちょ、ちょっと! なななちゃん。しっかりして!」
 そこへやってきたアルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)に、ゆさゆさと揺さぶられ。ハッと目を覚ますななな。
「あれ? ななな、一体なにを……」
「一体なにを、って。意識失うほどになって何してたのよ」
「それはその。ちょっと捜査効率をあげるために、いっしょにがんばってみたんだけど」
 と、ななながセシルのほうを振り返ると。まだ空気とおしゃべり状態のご様子で。
「……さまざまな混沌の中で……私には……たくさんやることがあるのですわ……」
「わあ! ちょっとちょっとだいじょうぶ!?」
 がっくがっくとなななに揺すられ、セシルもようやくぱちくりと目をしばたたかせて、正気に戻ったようだった。
「あ、あら? アザトース様はいずこへ? さっきまでそこにいらしたのに」
 もとい、まだすこし電波の世界に片足をいれているようだった。
「やっぱりそう簡単に、電波の感度をあげることはできないのかな」
「うーん。でもたしかに受信の効率がよくなればもっとパンダも見つかるわよね」
 ふむ、と顎に手をあててなにやら考えはじめたアルメリア。
(確か昔、紙とアルミホイルでパラボラアンテナを作った人がいたっていうのをどこかで見たことがある気がするし、きっと出来るわよね)
 なにかを思い立った様子で、荷物をひっくりかえして工作を開始していく。
 博識や財産管理も活用させ、やがてアルメリアは一時間足らずで自作のパラボラが完成させていた。
「できたわ! さあ、なななちゃん。これをどうぞ」
 出来上がり品をさっそくなななのアホ毛と合体させて、頭の上にパラボラアンテナが存在する奇怪な少女が誕生した。
 すこし恥ずかしげにしていたなななだったが、唐突に目を閉じ、精神統一していったかと思えば。カッと覚醒モードみたいな勢いで目を開き。
「どう? なななちゃん」
 そして。
「ななななっななー。なななはレベルがあがった。HPが7あがった。SPが7あがった」
「なにかまた違う電波拾ってるぅーっ!?」
「好きな昆虫はナナホシテントウ。好きなことわざは七転び七起き。好きな映画は七人の侍。愛読書はNA×A。好きな声優は水樹――」
「ツッコミどころたくさんだけど、とりあえず七転び八起きだよ!」
「しっかりしてくださいませ、ななな様!」
 アルメリアとセシルにダブルゆさゆさされて、ハッと我にかえるななな。
 慌ててパラボラを取り外し、ふぅと息をついた。
「やっぱりこれじゃダメみたいだね……大艦隊は、もうかなり近づいてる筈だし。どうしたらいいのかな」
 どうにも気ばかり焦ってきているのか、なななは動揺を身体にまで表しはじめ。無意味にうろうろと右往左往していたが。
「ちょっと!」
 そこへ近づいてきたのはリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)たち。ペガサスのディジーも一緒である。
「ななな君! 今するべきことは宇宙警察の大艦隊に怯えること? それともそれを回避するために一刻も早くパンダを見つけること?」
「え。そ、それは」
「パニックになってても何も解決しないわよ!!」
 激励より咆哮に近いリカインの叫びに、なななは多少なりとも平静を取り戻したようで。
 ひとまず一旦岩に腰をおろしておいた。以前にも、リカインにこうして鋭い声をかけられた経験があったからかもしれない。
 リカインはそのまま対面の岩に腰掛けて。
「で? そのパンダの電波ってどんな感じなのよ」
「えっと。言語化しようとするとムツかしいけど、基本的に静電気が走ったようになって、身体が震えてくるんだよ。色で例えるなら白に近い黄色かな」
「それって、一匹一匹違うの?」
「ううん。繁殖期かどうかとか、オスメスとか関係なく同じ電波だけど……それがどうかしたの?」
「べつに。ちょっと気になっただけよ」
 リカインとしては、質問自体に意味があるかという話ではなく。
 敢えて言葉で答えてもらうことで、電波感覚を研ぎ澄ませられないかと思ってのことだったりする。
 そうしてなななとリカインが話している一方。残るパートナーはというと、
 狐樹廊はティーカップパンダの足跡らしきものに、サイコメトリを行使していた。
「ふむ。これは残念ながら、繁殖期のものでないようですね……ん、こっちの足跡は?」
 シルフィスティことフィスは、ディジーとじゃれている。
「ちょっ、こら! フィスに魔法の木の葉をはりつけないでよ!」
 急降下したりはたまた急上昇したりと。傍目には遊んでいるようだが、一応は狐樹廊の護衛についている。
 なんにせよどちらも、さほど成果をあげている様子は今のところなかった。
 そんな彼女達の隣では、
「♪〜」
 常に幸せの歌を奏でている朝霧 垂(あさぎり・しづり)が捜索を続けている。
 彼女はトレジャーセンスが反応する場所へと、頭にのっけた垂ぱんだうさぎを近づけ反応がないかと調べていたが。見つかるのは、同じわたげうさぎくらいだった。
「やっぱりそう簡単には見つかりそうもないか」
さらに、垂が立つ崖の下では風森 巽(かぜもり・たつみ)が登山用ザイルを命綱にして、朝のうちに崖の穴に仕掛けておいた自前のティーカップを調べていたが。それに入ってくれた形跡はないようだった。
「うーん。ヤドカリやタコみたいにはいかないな。パンダたち、一体どういう経緯でティーカップの中に入ってるんだろ」
 ぼやきながらも、諦めずあちこちの崖穴を上へ下へと動いてくまなく見回っていく。
 パワードレッグやパワードアームで、手足が疲れないようにしているおかげでロッククライミングをしばらく続けられたものの。発見できるのは、ティーカップゴブリンくらいがせいぜいで。
 ここにはいないのか……と、上にあがってきたとき、
 ふと視線を向けたなななが巽の格好を見て声をあげる。
「きゃあ! なに? ま、まさか宇宙刑事の一員? もう地球に潜入してたの!?」
 突然の奇声に、場の全員がなにごとかと注目し。
 その対象が自分だと気づいて、巽は慌てて弁明をはかる。
「違うよ! 宇宙刑事でもパラミタ刑事でもないよ! 仮面ツァンダーだよ!」
 事実ヒーローの着ぐるみ、その名も『仮面ツァンダーアクションスーツ』着用状態なのだが。それこそがなななの目には、宇宙刑事に見えたということなのだった。
「だってその格好、知り合いの宇宙刑事とそっくりだもん!!」
「いや、確かにシャイでダーな宇宙刑事と名前は似てるけども! 思わず焼結しちゃいそうなパワードスーツ、たまたま着込んでるけども!」
 ヒーローが必死に釈明している、なんだか妙な光景がそのまましばらく続いたが。
 やがてなななも、どうやら別人と理解してくれたようで。
「ごめんなさい。その奇抜な感じが、ほんとによく知り合いと似てたから」
「いえいえ。わかっていただければいいんです」
 やれやれ人騒がせな……と、苦笑する皆々。
 だが。
 笑っていられるのはそこまでだった。
 最初は、ヒュンヒュンという風を切る音がどこかから耳を刺激して。その音の正体を知る頃には、なななの左腕を手裏剣がかすめていた。
「きゃっ!」
「!? なななさん!」
 腕をおさえるなななに、巽と垂が前へと立ち塞がり。
 リカインもなななに駆け寄って支え。フィスは狐樹廊を守るような位置取りで構え。アルメリアやセシルも警戒で身を固くする。
「ななな君、平気?」
「だっ、だいじょうぶ。かすっただけだよ」
 と、なななは言っているものの。
 浅い傷のわりに苦痛に顔を歪めているのが、場の全員にわかった。
「心配しなくていいでゲス。死ぬような毒は使ってないでゲスよ」
 そして森のなかから姿を現したのは、傭兵龍騎士であろう男だった。
 ただ。そいつが乗っている生物が、なぜか巨大甲虫であることがどうにも不自然に見えた。
 卑怯なやり口や、雑魚くさい語尾からしても、もしかして下っ端な人なのかな。という想像が浮かぶななな。
「大体クィントゥスは、まどろっこしくていけねぇんでゲス。オレ様はオレ様のやり方でやらせてもらうでゲス」
 しかも独断の奇襲であることがもろバレの発言。これでやられ役であることが誰の目にもわかった。
 もっとも当人はそれに気づかぬまま薄ら笑いを浮かべつつ、再び手裏剣を無意味に決めポーズっぽい感じで投げてきた。
 対していた垂は、仕込み竹箒を抜刀して真空波を放った。
「ほげ?」
 そのまま間抜けすぎる声とともに、真空波の攻撃をその身にくらって真後ろに吹き飛ばされた。ついでにはね返された手裏剣が腕に刺さって、うぎゃあうぎゃあとうめいている男。
 全員が、なんだかげんなりする気分だった。
「帰ったらそっちのボスに伝えろ。ティーカップパンダが欲しいなら一緒に探せ、なななは仲間だから渡せないけど、パンダは俺達の所有物じゃないからな!」
 垂の叫びを聞いているのかいないのか、男はよろめきながら巨大甲虫の背に乗りなおして早々と逃げ帰っていった。一体なにしに来たんだアイツは、というのが全員一致の感想だった。
「集団の組織には、たいていああいうおマヌケさんがひとりはいるものなのよね……」
「そんなことよりななな。治療に一度飛空船に戻りましょう。フィス、おねがい」
「あ。うん、わかったわ。ディジー、さっきみたいにオイタしないでよ」

 そうして。
 リカインに言われ、ディジーの背に乗せられなななは一旦飛空船に戻ることとなった。
 余計な時間だけくわされることになったのが悔しいなななだったが、連日の疲れがまた出たのか。治療を受ける最中に、そのまま寝入ってしまうのだった。
 それを確認後、
 便乗して飛空船に乗り込んだ朝霧垂は、司令室へと足を運んでいた。
 そこでは藩大佐が、さきほど狐樹廊が持ってきた、サイコメトリで得た記憶をソートグラフィーで画像化させたものをパソコンにアップロードして眺めていた。
「……どうにも画質が悪いな。携帯電話で撮ったものならやむをえんが」
 そうした細かな情報も欠かさず目を通す大佐にわずかに感心する思いで、
「すまない。すこしいいか」
「なんだ?」
 大佐は首だけこちらを向いてきた。
「繁殖期のティーカップパンダは、見つかりそうなのか?」
「勿論見つけるつもりでやっている。あとはオスを見つけるだけだしな。そう時間はかからんだろう」
「そう言えばさ『繁殖期』って自然に訪れるものなんじゃないのか? んでだ、例えば今日『繁殖期中のティーカップパンダ』を発見したとしても、それが明日も繁殖期であるとは限らない訳だろ、永遠に繁殖期中って訳じゃないだろうし。なら一定数の雄と雌を飼い続けて繁殖期を待った方が確実なんじゃないのか?」
「…………」
「それくらいクローニングと同時に進行できるだろ?」
 垂の提案を黙って聞いていた大佐だったが。
「残念だが、外交というものは一分一秒を争うものだからな。すぐに繁殖期のティーカップパンダを揃え、交渉の準備をはじめておく必要がある。以上だ」
「…………」
 今度は、垂が沈黙させられる番だった。
 大佐は言い終えると、また首を元に戻してしまうのだった。

 様々な人たちの思惑が交錯しながら、時間だけが刻々と過ぎ。
 二日目の太陽が沈んでいった頃。
 アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)は、可愛らしいティーカップパンダを自分でも飼いたいという思いのままひとり探しにきていたが。
「またゴブリン……全然見つからないものね」
 あても無いままティーカップパンダを探しに出ていたので、成果は全然のようだった。
「さてと、日も暮れちゃったし、そろそろ切り上げようかな…………え?」
 ふと、空を見上げるとそこには傭兵連中のワイバーンがいた。
 下から眺めた限りでも、なんだか飛び方が荒々しいそいつらの動きに。嫌な予感がアリアの胸をよぎり。そして、連中の目にこちらをとらえられた。
「おぉ? なんだ。あいつは」
「あの電波女じゃねーみてーだけど。なんかカワイイ子じゃねーの」
「見回りなんぞ暇だと思ってたら、こりゃおもわぬ獲物が転がってきたもんだわな」
 傭兵たちは、アリアを確認するやすぐさま降下してくる。
「きゃっ!」
 構えるより前に、傭兵たちのワイバーンが巻き起こした風にあおられるアリア。
 男たちはワイバーンの背から飛び降りるなり、倒れたアリアへとのしかかって手足を掴み、抵抗できない状態へと持ち込んでいく。
「へへっ、もしかしたらティーカップパンダを隠してるかもしれねぇよな」
「そういやー。あのパンダってよく女の胸に潜り込むって聞いたぜー」
「ほう! そいつぁ、確かめないといけないわな」
「ふぁ、あんっ! そんなところに……んぁあん! か、隠してなんか、嫌っ!」
 聞く耳もたぬ男たちは、強引に彼女の胸元を大きく肌蹴させる。
 当然ながらなにもいないが、それよりも男たちにとっては露出させた胸にこそ興味があり。手を伸ばして揉みしだきにかかる
 アリアの涙も男たちにはなんの意味も持たせず、叫びは誰の耳にも届かなかった。
「んん〜? いねぇなぁ」
「けどどこに隠してるかわからねーぜ?」
「そうとなりゃあ、調べてみるしかねぇわな」
「い、いやっ。やめてぇええっ!」
 そのまま衣服を無理矢理に脱がされ、下着姿を晒させられるアリア。
 だがやはり隠していないものを出現させることは叶わない。
「もう放してくださいっ……いやあああああああ!」
 ここまでくれば獣のような男たちは止まらず、下着すらも剥いでしまい。
 そこからはもう言葉の応酬はなく、ただただアリアには苦痛の時間だけが流れた。
「よぉ、このままオレらはアジトに戻っちまおうぜ」
「そうだなー。苦労してパンダ探しなんて、元々やる気しなかったしー」
「まったくだ。クィントゥスも電波女のケツ追ってるし、真剣にやる必要ないわな」
 時計の長針がひとまわりして、彼女がぐったりと力尽きたのをみて、
 男たちはそのまま、夜の闇の中アリアを連れ去っていってしまうのだった。