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内緒のお茶会

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内緒のお茶会

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■ 契約の絆 ■ 
 
 
 
 思い思いに過ごす屋敷での時間。
 会場の心地よい雰囲気を『音』として感じ取った響未来は、小声でメロディーを口ずさんだ。
「あ、ミクちゃんが歌ってるー♪ ちーちゃんも一緒に歌ってもいい?」
 日下部千尋が気づいて、未来のメロディーに今日の楽しい出来事を思い出しながら歌詞を載せた。
 未来の澄んだハミングと千尋の可愛い歌声が会場に綺麗なハーモニーとなって流れる。
「綺麗……」
 その歌声に耳を傾けて、アイドルレア写真集・雨雪の夜(ぷれみあばんりんのれあしゃしんしゅう・くれっしぇんどすのう)は小首を傾げる。
 何故綺麗と感じるのだろう。会場の雰囲気にあっているから? 声自体が綺麗だから? それとも、もっと別の心の動きがそう感じさせるのか。
 流れる歌声を聞くともなく聞きながら、緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)はパートナーの霧雨 透乃(きりさめ・とうの)のことを話題に載せていた。
「私は透乃ちゃんと一緒に居ないことの方が珍しいので、今日のような状況は何だか新鮮です」
 こんな場だからこそ普段と違うことをしてみようと、掃除や料理も手伝うのはやめてみた。皆が動き回っているのを見ているのは落ち着かなかったけれど、いつもと違う新鮮さは十分に味わえている。
「透乃ちゃんが留守番ってのは確かに珍しいよな」
 透乃の1人目のパートナーでありながら、霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)は最も留守番が多い。家に残されることには慣れているが、透乃を残して出掛けるのは滅多にないことだ。
「私は自分で言うのも何だが、そこそこ正義感が強いんだ。だからそれに背くようなことをする場合や、単純にむいてないことをする時には留守番になったりするな。案外そういう人もいるんじゃないか? 理解してくれている故に、ってやつだな」
 泰宏が言うと、いいわねぇとポーレットがぼやく。
「あたしはフウリと一緒のことが多いわ。けど、くだらないところにばっかり連れて行かれるの。たまには留守番させてもらいたいもんだわ」
 あまりにも趣味が合わなさすぎるのだとポーレットは唇を尖らせた。
「ああ、嗜好の違いは難しいな。因みに私は透乃ちゃんと契約したことを半分くらい後悔もしているな。なかなか何かをするための動機が物騒だったりするのでな……それでも半分は良かったと思っているが」
 泰宏はポーレットに同意する。
 契約は似たもの同士に限らない。全く正反対の性格を持つものだったりもするし、主義主張が異なったりすることもある。
 結ばれた契約と異なる考えを、皆はどうしているのだろうと泰宏は不思議がった。
「私は勿論、婚約者として透乃ちゃんのことが大好きですが、それと同じくらい感謝もしているんです。契約当初の私は今よりもずっと後ろ向きで消極的で臆病で、そんな自分が嫌いでした。透乃ちゃんはそんな私を変えてくれたんです」
 方法は強引で力ずくだったから、当初は嫌だと感じたこともあるけれど、その結果今の自分があるのだと思えば、それも正解だったのだろうと陽子は話した。
「バートナーと婚約していらっしゃるのですか……」
 リースは透乃のことを話す陽子をじっと眺める。
「それであの……あっちの方面とか……いえ、何でもないです……」
 口に出す前に照れて、リースは途中で言葉を切った。
 リースは小次郎に出会った時、身体に電撃が走った。その時は有能そうには見えなかったのだれど、その感覚に押されるようにして熱心に小次郎を勧誘して契約を結んだのだった。
 今の小次郎との関係には不満は無い。無いのだけれど、今よりももう一歩進んだ関係になりたいとも思う。精神的なものだけでなく、身体も……とも思うのだけれど、自分からそんなことを切り出したら呆れられてしまわないか、嫌われてしまうんじゃないかと心配で言い出せない。
 パートナーという存在が近しいものであるだけに、どうやって最後の一線を越えたのか知りたいけれど……さすがにここでずばりと聞くのもはばかられた。
「彼女のことを愛しく思う?」
 雨雪の夜に聞かれ、陽子ははいと迷い無く答えた。
「何故そう感じる? その感情を言葉で表すとしたらどう表す?」
「理由……は分かりません。けれど透乃ちゃんのことを考えると、愛しくてたまらなくなります。透乃ちゃんの為に行動できることがとても嬉しいんです」
「そう……」
 陽子の言葉を雨雪の夜は心にたたみ込んだ。こうして多くの人の想いを知り、そして知ろうとすることによって、自分の記録の中に刻まれてゆく人との出会いの数々が蓄積されれば、いずれ自分にも人としての感情が分かる日が来るだろうか。
「ふむ……その感情は、パートナーを好ましく思う、というのとは異なるものなのであろうか?」
 ジュレールも興味津々に質問を差し挟む。
「好ましい……確かにそれもありますけれど、それだけではないような気がします」
「それだけではない、か……どうも分からぬな」
 真剣な表情でジュレールは考え込んだ。
 ジュレールの願いは、『人になること』だ。自分でも馬鹿げた願いだとは思うのだけれど、戦闘以外の経験を積んでゆくことにより、人に近づくことができるのではないかと考えている。幸いというべきか、パートナーのカレンは感情のままに動き、感情を露わにする方だから学ぶには事欠かない。ただし……恋愛を除いては。
 どうもカレンは恋愛というものには相当疎いようで、ジュレールがその感情を学ぶ機会がないのだ。
「恋愛感情……」
 ぽつりと呟いて、テディはどよんと沈みこんだ。
 テディにとって二度目の生を与えてくれたパートナーの陽の存在がすべてで、全力でそれに執着してきた。大切にもしてきたと思う。なのに……そこに恋愛感情がないことを陽に看破され、プロポーズを断られてしまったのだ。
 よりどころとしていた陽に拒絶され、自分はひとり。
(さみしい……かなしい……)
 無力感と喪失感に苛まれるけれど、それは自分の勝手な思いこみで好きだ好きだと迫った自分が悪かったのだと……今ならわかる。けれどどうしたらいいのかは分からない。
「……パートナーと分かり合うにはどうしたら良いんだろうな」
 ため息混じりに吐き出したテディの言葉を耳に留めて、給仕をしていたクレアが答える。
「恋愛に関してはよく分からないけど、パートナーと仲良くやっていくコツは、お互いに隠し事をしないことなんだって」
「隠し事?」
「隠し事をしないようにしようとすれば、お互いの話をよくするようになる。相手の話をよく聞いて、自分の思っていることをきちんと伝えることが、絆を強くすることにつながるんだっておにいちゃんが言ってたよ」
 契約したからといって、即座に相手のことが分かるようになる訳ではない。契約の絆を結んだ後は自分たちの歩み寄りでその絆を強くしていかなければとクレアは言った。
 テディにとって陽はすべてで、契約した時点で主従の絆は固く結ばれたと思っていた。だが……陽にとってはどうだったのだろうか、と改めて考えてみれば……自分が舞い上がっていた時、陽が何を話そうとしていたのか、ちょっと戸惑った表情が何を語っていたのか、その本当の気持ちを自分は知らない。
「あたしもね、ホントは五千年前に一度死んじゃってるから、みゆうが契約してくれなかったら今ここには居ないし、プリムとも蛇の王様とも会うことはなかった。それにあの子にも……。そしたらここでこうしてお茶することもなかったんだよね」
 だからといって未憂に執着してるわけじゃないけど、とリンは笑った。
「だからすっごく感謝してる。みんなに会えて良かった、会わせてくれて良かった、って思ってるんだー」
 契約がもたらした、新しい生命、新しい人生。リンは死ぬ前のことはあまり覚えていないのだけれど、これが二度目の命なんだということはちゃんと分かってる。
「契約って不思議だよねー」
 力を与え、生命を与える『契約』。それがなければ地球人がパラミタに来ることはなかっただろうし、パラミタがここまで急激な変化を迎えることもなかっただろう。
「あたしもプリムも蛇の王様も、寿命のない種族なんだよね。みゆうは自分が死んだとき、あたしたちに何か影響が出るのを心配してるみたいだけど……」
 不慮の事故等でパートナーを喪うよりも、寿命で亡くしたときの方がパートナーロストの影響は少なくて済むのではないかと言われている。けれど一度結ばれた絆がある限り、何の影響も無くとはいかない。リンたちは寿命のある未憂と契約した時点でパートナーロストのリストも同時に引き受けたことになる。
「でも、何も影響出ないほうが寂しいなーって思わない? だってパートナーなんだから」
 未憂にはわざわざそんなこと言ったりはしないけど、とリンは得意げに顎をあげた。
 
 
 離れていても、お茶会は内緒でも、
 パートナーとの絆は結ばれている。
 離れていても、お茶会は内緒でも、
 こうしてパートナーのことを考えている。
 
 あの日――絆を結んだ契約の時からずっと。
 もし相手が失われたとしても、その先までずっと。
 
 
 

担当マスターより

▼担当マスター

桜月うさぎ

▼マスターコメント

 
ご参加ありがとうございました。
パートナーには内緒のお茶会、楽しんでいただけたのなら嬉しいです〜。
ほんわかしみじみと書かせていただきました。
いつもに増してぎりぎりなので、個別・称号はあまり発行出来てませんが、皆様からのアクションはどれも楽しく読ませていただいてます〜。いつも楽しいアクションをありがとうございます。

 
またいつか、こうしてパラミタ人だけで集まれるといいですね〜。