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契約者の幻影 ~暗躍する者達~

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契約者の幻影 ~暗躍する者達~
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第6章(3)

「いらっしゃいましたね。あちらの方々が六黒の縁ある者達ですか」
 三道 六黒(みどう・むくろ)を追って来た者達を帽子屋 尾瀬(ぼうしや・おせ)が眺める。その目は一見穏やかそうに見えるが、相手の仕草や外見から脅威となる対象を見逃さない為に永倉 八重(ながくら・やえ)達に注がれている。
「ようやく追いつきました……三道 六黒、貴方をこれ以上、好きにはさせません」
「永倉の娘か……わしを追って何とする?」
「決まっています。私の全力を持って貴方を討つ。それが私のすべき事です」
「フ……陣八の仇故か」
(仇……?)
 六黒と八重のやり取りを見守りながらも、榊 朝斗(さかき・あさと)は気になる言葉に疑問を抱く。二人の因縁、それは一体何なのか。
「いいえ、違います! 父は確かに貴方を救おうとして戦い、殺された。でも私が今貴方に刀を向ける理由は仇討ちなんかじゃない。悪に加担する者がいる限り、その陰で泣く人達がいるのなら……私がその陰を払いたい。私の手の届く場所を明るく照らしたい! だから、私は私の信じる正義の為に、貴方を討ちます!!」
「悪か……何を以て悪とするか、ぬしが決めつけて良い物か? 惑うて立ち止まるよりは良し。だが思考を止め、受け入れられぬ者を悪と決めつけた時点で、ぬしの歩みがこれより早まる事は無きと知れ……走り、なお考えよ。この未熟者がッ!!」
「――!」
 六黒の気迫が八重を襲う。だが、それに圧されて退く訳にはいかない。そんな彼女の背中を押したのはルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)だった。
「八重さん、負けないで。少なくとも今、貴方が感じている正義は間違っていません」
「ルシェンの言う通りだよ。僕の中の心もあの人を止めないといけないって言ってる」
 更に朝斗が続く。戦場で刃を交えた因縁を持つ朝斗にもまた、六黒は己が気迫をぶつける。
「成程、己自身は見えてきたようだが……それで終わりか? 木石にあらねば周りも常に変わっている。己を知ったならば、相手を知れ。斃す者を背負う覚悟を負え。もしそれが出来ぬと言うのなら……戦場に立つな!!」
 物事には常に変化がある。それを示すように突如朝斗を狙う影が現れた。とっさの所で攻撃を回避するが、足場を破壊した者の姿に見覚えがある事を認識する。
「貴方は……伊吹 藤乃(いぶき・ふじの)さん……?」
「お久し振りですね、榊 朝斗。最後にお会いしたのは……そう、ナラカエクスプレスの時でしょうか」
「そうだね……その時とは少し雰囲気が違うみたいだけど」
「あの時はうちの奈落人に身体を譲ってましたので。意識は共有していたので私自身も記憶は持っていますけどね。さて、せっかくお会いしたのです。貴方にも破壊神様の教え、とくと伝えて差し上げましょう」
 先ほど足場を破壊した斬業剣斧ジャガンナートを構える藤乃。そのまま朝斗に襲い掛かるかと思われた時、今度はジークフリート・ベルンハルト(じーくふりーと・べるんはると)が現れた。
「ふはははっ! 待つのだ、破壊神に仕えし者よ。貴様の相手、魔王であるこの俺がしてやろう!」
「あら、魔王を名乗られし方ですか……宜しいでしょう。まずは貴方からお相手しましょう」
 二人が足場を移し、朝斗達から距離を取る。更に邪魔が入らないように、雷獣 鵺(らいじゅう・ぬえ)が足止めを行ってきた。
「ぬえ〜ん。藤乃の破壊の妨害もワタシの事を知ろうとするのも嫌だから……ちょ〜っと眠って貰おうかな?」
 鵺のヒプノシスがアイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)を襲う。強力な眠気は機晶姫であるアイビスにも影響を及ぼし始めた。
「アイビス、しっかりして!」
 すかさずルシェンが眠気を解消する。すると再び鵺がヒプノシスを使ってきた。
 
「ぬえ〜ん」
「アイビス!」
「ぬえ〜ん」
「起きて!」
「ぬえ〜ん」
「寝ちゃ駄目!」
 
「……あの、私はいつまで寝起きを繰り返せば良いのでしょうか」
 それは、鵺の精神力が尽きるまでである。
 
「さぁ、参りますよ」
 藤乃の剣斧が足場を砕く。対するジークフリートはその先へと跳んで行き、何かを詠唱している。やがて近くの足場が粗方破壊された頃、藤乃が動き出した。円盤状の乗り物であるアンリミテッド・メサイアに乗り移ると、ジークフリートが乗っている最後の足場を破壊すべく、絶零斬を放った。
「身も心も凍りなさい。その凍った身を、私が破壊して差し上げます」
「……ふはははっ、かかったな!」
 攻撃が来る直前、ジークフリートが飛行翼を展開して空中へと上がる。そのまま藤乃へと近づくと、詠唱完了した闇術をお返しに放った。
「闇よ、在れ」
 絶対闇黒領域などで強化された闇が藤乃を襲う。それは視界を奪い、浮遊を困難にするには十分だった。
「さぁ落ちろ! 身も心も凍るのは貴様の方だ!」
 激突を懸念して動きの鈍った円盤を奈落の鉄鎖で引き摺り下ろす。続けてブリザードを詠唱し、氷術のように効率良くは行かなくとも水面の表面を凍らせて見せた。
(これは、さすがに私の身が危険ですね。かくなる上は――)
「さあ、我が闇を受け眠れい! これがラストシューティングだ!!」
 最後には罪と死を。自身の持つ最高の闇をくれてやろうと、ジークフリートの魔道銃に魔力が篭っていった。その時――
「えい」
 藤乃の飛ばしたイカ墨がジークフリートの目に命中した。
「ぬ、ぬぉぉぉ!? 闇が、闇がぁぁぁ!」
(念の為に持って来て正解でしたね。破壊神様に献上出来たのが亀型の岩場だけというのが物足りなくはありますが……無理は禁物ですか)
 空中でのた打ち回るという器用な真似をしているジークフリートの隙を突き、周囲の氷を割って脱出する。そのまま藤乃は煙幕を展開すると、不毛な睡眠バトルを続けていた鵺を回収して脱出して行った。
 
 
「百戦を練磨し、猶も力求めるこのわしを、そしてこのわしの想像を、遥かに越えて見せよ!」
「喰らい付け……! 動きの先を、二手先を読むんだ!」
 行動を予測し、朝斗と八重の攻撃をかわす六黒。対する朝斗は六黒を拘束する為、ワイヤークローをサイコキネシスで操り続けていた。
「八重、左だ!」
「えぇ!」
 更に八重はブラック ゴースト(ぶらっく・ごーすと)を足場代わりに跳び、進行方向を塞ぐように動き回っていた。
「まだだ、この程度ではまだ――む?」
 回避を続ける六黒の先で鵺との戦いから解放されたアイビスが二門のレーザーガトリングを構える。
「この速度であれば外しはしません。狙い撃ちます」
「ふむ。ならば」
 六黒が第二段階として虚神 波旬(うろがみ・はじゅん)の力を解放する。神速と軽身功を使って速度を増すと、葬歌 狂骨(そうか・きょうこつ)が周囲に展開していたアンデッド達すらを足場として利用し、銃撃をかわしてみせた。
「やはり一番の脅威はあの朝斗という者ですね。さぁ六黒、貴方の次なる強さを見せてごらんなさい」
 尾瀬がレプリカ・スターブレイカーを放り投げる。六黒はそれを素早く回収すると、自らの武器として装着した。
「ただひたすらに相手を打ち倒そうとするのであれば、それは語る言葉を持たぬ獣。ならばこちらも一匹の獣として相手をしてやろう」
「くっ!」
 力と速さを増した六黒の攻撃を、朝斗が幻影を利用してギリギリ回避する。こうなった状態の六黒の攻撃は一発貰っただけでも危険な事は分かっているので、自身の速度を限界まで上げて対抗する事にした。
「風よりも……雷よりも速く!」
 飛行翼を使い、戦場を飛び回る。そしてほんの一瞬のチャンスを作る為に、朝斗は奥の手であるアクセルギアを使用した。
「ブレイブハート! モードチェンジ!」
 斧型をしていたブレイブハートが剣型へと変わる。ライトニングウェポンを付与した一撃は六黒の右腕を斬り付け、スターブレイカーを弾き飛ばす事に成功した。
「ゴースト、今よ!」
「了解だ!」
 その隙を逃さず八重達が勝負に出る。ゴーストが加速ブースターを使用し、その勢いを利用して八重が大きく空を舞った。愛刀、紅嵐に炎を纏わせた自身最高の一撃。それが――
 
「これが私の全力全開!! フェニックス・ブレイカーーーー!
 
 
 魔法少女ヤエ 第11話 『砕ける刃、堕ちる翼』
 
 
「……フ、ぬしの心、折らせて貰ったぞ」
 六黒が剣をしまう。そばには呆然と膝をついている八重と、『折れた紅嵐の刃』があった。
 
 八重の一撃。それは隙の出来た六黒に命中したかに見えた。
 だが、直前で魔鎧である狂骨を纏った六黒は『耐電フィールドを張っていて自由の利いた』腕でガントレットに収納した剣を取り出すと、八重の一撃を真っ向から受けて見せたのだ。六黒の全てを乗せた一撃は八重の武器を砕き、この勝負を決定付けていた。
「父の形見すら砕いたわしが憎いか? だがこれが現実だ。ぬしが再び自身の正義を貫けるかどうか……楽しみにしておこう」
 敢えて追撃を行う事はせず、悠然と去って行く六黒。だが、八重を放置して六黒を追う事は朝斗には出来ず――そして、八重自身にも出来なかった。