リアクション
(さあ、これ、どうしましょうかね) ☆ ☆ ☆ 「ハーコー! ただいまー!!」 「あ、お帰りなさい、ソラ――ぅごぼぼっ!?」 玄関をくぐった直後。 ソランは廊下をモップで拭き掃除していた竜螺 ハイコド(たつら・はいこど)の口に、いきなり女体化薬を突っ込んだ。 どうやってだまして飲まそうか? などと策を弄したりはしない。 いつだってド真ん中、直球勝負な女、それがソラン・ジーバルスである。 「飲んだ? ねぇ、全部飲んだ? ハコ」 ニコニコ笑って空き瓶を口からはずすソラン。 ハイコドはといえば、いきなり瓶を突っ込まれるわ、しかもその中身を一気飲みさせられるわで、すっかり青ざめてフラフラしている。 げほがほごほっとせき込んだが、すでに腹の中に収まった液体は一滴も出てはくれなかった。 「もう……なんなの、ソラ。一体何を飲ませたの?」 「おいしくなかった?」 「いや、まずくはなかったけど」 しまった、先に少し味見をしておくべきだったか、とちょっともったいなく思う。 何しろ非合法のなぞの薬。どんな味なんだろう? そんなことを考えて手の中の空き瓶を見ていたら。 「く……っ、うううううーーーーっ!!」 ハイコドが苦しみ始めた。 自らを抱き締めるように腕を回し、よろめいて壁に当たる。そのまま、ずるずると床にへたり込んでしまった。 普段ならこんなハイコドを見れば心配に青ざめ、傍らにつくソランだが、今回ばかりはつい、期待の目で見てしまう。 どきどき、わくわく。 (どんなかわいい子に変わるのかなー? もちろんハコのことだから、かわいいに決まってるんだけどっ!) 「あっ……あああああーっ!!」 虹色の輝きに包まれ、シュワシュワ白い湯気に包まれるハイコド。 光が治まり、湯気が消えたとき、そこにいたのは――ハイコドだった。 「あれ?」 思わず目がテンになるソラン。 「もしかしてあの薬、不良品だった?」 「……薬って何? 一体何を飲ませたわけ…っ」 ようやく体の痛みが治まったハイコドは、ほっとするあまり涙ぐんでしまった。 「あれ? ハコ…?」 膝の間に両手をついた彼の左肩が、襟から出ている。ずり落ちたそれを無意識に引き上げるハイコドを見て、ソランは気付いた。 「ハコ、縮んだ?」 「え? 何言ってるの、ソラ」 「ちょっと立って」 「えっ、えっ?」 とまどっているハイコドを強引に立たせると、分かった。やっぱり目線がいつもより下だ。 ハイコドはひと周り小さくなっていた。 「分かりにくいなぁ。んー、ちょっとまつげが濃くなって、なで肩になったくらい?」 胸、絶壁だし。 (まぁ、これはハコのお母さんもそうだから、予想できてたことではあるよね) 「じゃあこっちは?」 「あっ…」 細くなったウエストから、ズボンの中に手を入れる。 「やっ……ちょ、ソ、ソラ!?」 「あー、やっぱりない」 ってことは、だ。 キラーン。ソランの目が光った。 「レッツ・トラーイ!」 やっぱりコスプレの定番といえばこれ! メイド服を筆頭に、ワンピースにゴスロリにアイドル服! ソランは次々とハイコドに着せては記念写真を撮っていく。当然ペチコートの下の下着も女物である。フリフリレースの中から男物のパンツが見えていたりしたら興ざめだ。 ハイコドも、最初のうちは女の体にとまどって抵抗していたが、ソランの選択した下着をつけ、化粧をほどこされて鏡の前に立っていると、だんだんその気になってきた。 ムードマジックというか、部屋中フリフリの洋服だらけで、ソランしかいなくて、そのソランも一緒に着替えて「かわいー」とか「きれいー」とか言われながらコスプレの合わせなんかしていると、もうガーターを止めることにも抵抗が全くなくなってる自分に気付いたりして、我ながらコワイ。 実際、鏡の中の自分って、客観的に見て、かわいい女の子だと思うし。この服に合う口紅の色は何かなー? とか考えてたりして…。 「……もう少し胸があったらなぁ…」 ソランに髪を整えてもらいながら、ハイコドはこぼした。 「どうして?」 「だって、ソラ大きいし……そうしたら、ソラの気持ちが……もっと分かるかな、って思って…」 かあぁっと赤く染まった頬を見て、ソランはたまらずギュッとハイコドの頭を抱き締めた。 「ハコったらかわいーーーっ!!」 「……ひゃんっ」 次のコスプレ用にと出してあった獣耳を甘噛みされて、一気に脱力するハイコド。そのまま、ぽすん、と腰かけていたベッドに仰向けに押し倒された。 「……ソラ?」 「ハコ、ほんとにかわいい。もうガマンできないよ」 ちゅっちゅとあごを吸い、のどに触れるようなキスをした唇が、鎖骨に舌を這わせる。 「え? あ、あの……ソラ? 僕、今女の子だよ?」 「胸ないの、いつもじゃん」 いや、そこはそうだけど……肝心のところがオンナノコになってるわけで。 「ひゃっ…」 つつーーっとソランの舌が胸の真ん中を滑り降り、へそに触れた。 「ソラ、くすぐったいよ。……ソラ?」 舌の動きは止まらない。 「そ、ソラ!」 「もう無理。我慢できない。ハコがこんなにカワイイからいけないんだよ? だからこれは、おしおきなの」 戻ってきたソランが、熱い息を吹き込みながら耳元でささやく。 「ハコは絶対動いちゃダメ。耐えるだけね。だって、おしおきだから」 ソランの頭が再び沈んでいく。 「ん…っ、く……んんん…っ」 全身を伸びきらせ、ソランからの甘い拷問に耐えるハイコドは、切れ切れの浅い息を吐き出しながら訊いた。 「そ、ソラン…」 「んー? なぁに?」 「今、思いあたったんだけど……これって、時間経ったらちゃんと僕、男に戻れるよね……ね?」 「うーんー……ま、いいじゃん、戻らなくても。今だって胸ないからこれまでと変わんないって」 ソランのあっけらかんとした答えに先からの何もかもが吹っ飛んで、夢から覚めた思いでハイコドは身を起こした。 「変わってるよ! 大事なとこが変わってる!」 「だーいじょーぶ。そこは手術でつけたりとったりできるんだからっ」 だから今はこっちに集中集中。 ソランは再びハイコドを押し倒した。 ――ソランさん、それヒドイです。 |
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