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目指せ! イコプラマスター!

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目指せ! イコプラマスター!

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○十一試合 アイビスアモン

「鬼羅星!」
「……え?」
「鬼羅星!」
 二度繰り返された。
「あ、ども……鬼羅星?」
 そのポーズから挨拶かもと判断した星渡 智宏(ほしわたり・ともひろ)は、同じ言葉を返した。天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)は満足そうなので、おそらく合っていたのだろう。智宏は「よろしくお願いします」と普通に言いたかったのだが、タイミングを逸してしまった。
 智宏のイコプラは“アイビス・エクステンド”。イーグリット・ネクスト(仮)仕様に改造されている。通常のネクストと違い、二挺のライフルにそれぞれ銃剣が取り付けられ、S−01ベースの変形機構の追加がされている。ちなみに完全変形もする。
 日々改造に勤しみ、飾ってうっとり眺めている智宏だったが、やはり実戦・開発の参考のための改造なのだからとこうして大会に参加した。
 アイビス・エクステンドを見た鬼羅は、「おおおお」と感嘆の声を上げるや、四方から眺め、上から見つめ、果ては持ち上げようとしたのでそれは大鋸に止められた。
「なかなかの改造……だが! オレも負けてはいないぞ!」
 鬼羅は“アモン”を取り出した。
「見よ! パテを盛っては削り、つや消しや汚しも入れ、ビームサーベルはクリアパーツ仕様!! 蛇腹剣もワンタッチで伸縮自在! さらにピアノ線で作ったので切れない! むしろ切れる!! 重量感を出すために重りも入れ、なんとスイッチを入れると目やクリア部分が光るこのこだわり!! 元がイーグリッドだと分からないほど手を入れたオレの最高傑作だ!!」
 確かに元が同じ機体とは思えないほどの改造っぷりである。
「そんなわけで! イコプラファイトォ!! レディイイゴオオオオオ!!」
 大鋸の掛け声を待たずに、鬼羅が叫んだ。つられて智宏もアイビス・エクステンドを出した。審判を無視したわけだが、まあいいかと大鋸は思った。試合は始まったし、誰も文句を言っていない。
 試合開始と同時に、アモンがビームサーベルを抜いた。
『アモンが最高速度でアイビス・エクステンドに近づく! アイビス、冷静にライフルで狙撃!』
「ヒット!」
『更にこれは、必殺技か!?』
「撃ち貫け! アイビイイイィィィス!!」
 二丁のライフルを合わせ、大出力のビームが発射される。アモンの腕が吹っ飛ばされた。
「まだまだああ!!」
『アモン、なおも切りつける! アイビス避けた! だがすぐにアイビスのライフルが一丁飛ばされる! おっとアイビス、またも冷静に距離を取る!』
 アイビス・エクステンドは再びライフルモードで引き金を引いた。
 間合いを詰められなかったアモンの足に直撃。機動力をなくし、その場で負けが決定した。
「くっそおおお!」
 嘆く鬼羅と対照的に、観客席の時禰 凜(ときね・りん)はほっと胸を撫で下ろしていた。思ったより智宏が冷静だったことに安堵もした。土壇場で熱くなり、周囲に迷惑をかけることも度々あるのだ。
 顔を上げると、智宏が振り返り、アイビス・エクステンドを掲げて手を振っていた。凛も笑顔で手を振り返した――その表情が固まった。
「ちっくしょおおお!」
 嘆くあまりに鬼羅が全裸になり、大鋸に連れ出されていた。

  ○アイビス−アモン×


○第十二試合 イクスシュラウドゴッドサンダー

「ぐごおぉぉぉ……」
 観客席で一際大きな鼾をかいているのは、柊 真司(ひいらぎ・しんじ)だ。パートナーのアニマ・ヴァイスハイト(あにま・う゛ぁいすはいと)は、周囲の冷たい目にぺこぺこ頭を下げることで対処していたが、アレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)が出てきたので真司を揺り起こした。
「Zzz……」
 が、一向に起きない。揺らしたためか鼾は止まったが、目を開ける気配すらない。
 真司はこの一週間、アレーティアと共に“イクスシュラウド”の改造に勤しんできた。といっても昼間は学校だから、専ら夜に作業をしていたのだが、おかげでほとんど寝ていない。ちなみに仮眠は授業中に取っていたのだが、同じ条件のアレーティアが元気なのは、彼女が魔道書だからだろうか。
 マスターが起きない。きっとお母さん――アレーティアのことだ――が怒るに違いないと思ったアニマは一大決心をし、カバンから油性の黒マジックを取り出した。

 アレーティアは観客席を振り返った。アニマと真司が手を振っている。真司の動きがぎこちないのは、寝不足のせいだろう。少々悪いことをしたかな、と彼女は思った。
 対戦相手は後藤 山田(ごとう・さんだ)の“ゴッドサンダー”だ。
「ごとう、やまだ?」
とアレーティアが首を傾げると、
「やまだじゃねぇ! サンダーだ、サンダー! 振り仮名振ってあるだろう!」
「……ああ、だから『ゴッドサンダー』か。つまらん洒落だな」
「ンだとぉ!?」
 アレーティアは決意した。何があっても本名では呼ばず、「やまだ」で通そうと。なぜならば――。
「ファイッ!」
「こいつを食らえ!」
 ゴッドサンダーがイコン用まじかるステッキを振った。しかし、イクスシュラウドは冷静にそれを避けると、そのまま間合いを詰める。
 が、ゴッドサンダーの方が速かった。
『空裂刀がイクスシュラウドを薙ぎ払う! 一度、二度! ――いや、二度目はビームサーベルで相打ち!』
 ゴッドサンダーが何かの体勢を取ったのを感じ取り、アレーティアは離れるよう指示する。
其は神の鳴動、裁きの雷! 轟け神鳴雷槍(ゴッドサンダー)!」
『大型ビームキャノンが炸裂!!』
 ――そもそも名前が好かない。「サンダー」? 雷なんて、雷なんて……。
「大嫌いじゃっ!!!」
 そう、アレーティアが最も苦手とするものは、「雷」であった。山田もゴッドサンダーも、まさに最悪の相手と言えよう。
『イクスシュラウド、ビームサーベルで突っ込んだ! しかしゴッドサンダーはそれを冷静に捌く! 試合終了! 勝者、ゴッドサンダー!』
「どうだああ!!」
 山田は拳を天に突き上げ、喜びを共有しようと振り返った。
「あーえらいえらい、やまだ」
「だからサンダーだっつてんだろ!」
 鳴神 裁(なるかみ・さい)は、そんなパートナーの反応が面白くて「やまだ」「やまだ」を連呼した。

「すまない……負けてしまった」
 観客席に上ったアレーティアは、がっくりと肩を落としていた。
「仕方がないですよ……相手が雷なんですから」
 アレーティアに設計されたためか、アニマも雷が苦手で、先ほどの必殺技の際には耳を塞いだほどだった。
「……真司?」
 アニマはハッとした。
 耳を塞いだために、支えていた手を離してしまったのだ。真司はだらしなく椅子に寄りかかっていた。瞼には「目」が描かれている。
「……アニマ? これはどういうことじゃ?」
「えーと……」
「ぐごおぉぉぉ……」
「真司貴様あぁぁぁ! わらわが負けたのはおぬしのせいじゃ! そうじゃ、そう決まった! 起きて海より深く反省せんかあぁぁぁ!!」
「ぎゃあああああ!?」
 雷が嫌いなくせに、アレーティアは【ライトニングブラスト】で真司を起こし、真司は何が起きたか分からぬまま、今度は気絶した。

  ×イクスシュラウド−ゴッドサンダー○