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リアクション
■■■
蒼空学園、図書室。
「ね、ねえ、三月ちゃん? その……なんで私たち、こんなことになってるんでしょう?」
苦笑いを浮かべた杜守 柚(ともり・ゆず)は、傍らに立つ杜守 三月(ともり・みつき)へと視線を向ける。
そんな柚たちの前には、
「急げ! すぐそこまで教師軍が来てるぞ!」
「入り口をふさぐんだ! 棚を移動して、ドアをふさげ!」
そう大声で騒いでいる反乱軍の生徒たちがいた。
「た、確か、私たちは図書室で治療の勉強しようと思って、本を読んでたんだよね?」
「そうだね。なんかいつの間にか、巻き込まれたみたいだよ。しかも彼ら、ボクたちのこと反乱軍の生徒だと思ってるみたいだし」
今、図書室は反乱軍の緊急避難所となっている。必然的に、その場にいるのは皆、反乱軍ということになり、柚たちもいつの間にか反乱軍だという認識を周囲からされていた。
「おい、お前らも、こっちにきて手伝え!」
「は、はぃ!」
勘違いした生徒のひとりが、柚に手伝うよう告げる。とっさ的に柚も返事をしてしまい、三月は苦笑いを浮かべた。
しかし、
「な、なあ? なんかドアの向こう、急に静かになってないか?」
図書室のドアに耳を当て、音を探っていた生徒の言葉が響く。数人の生徒がドアに集まり、同じように耳を澄ました。
「……ホントだ。さっきまであんなに大勢の教師軍がいたのに」
「まさか、撤退したのか?」
「そんな馬鹿なことあるわけ、」
生徒のひとりがそうつぶやいたその時だ。
――バァンっ!
「うわっ!」
突如、ドアが蹴破られる。金具がはずれ、木製の重い扉が入り口付近にいた生徒たちの上に倒れ、何人かの生徒が下敷きになる。
そして、ドアを蹴破った何者かは、姿を消して、図書室内に侵入する。
しかし、スキル「超感覚」を使用していた三月には、敵の動きが読めていた。
「そこだ!」
三月の雅刀がきらめく。ガチンと音を立てて、姿なき侵入者の武器と刃がぶつかった。
「……ちぇっ。バレちゃいましたわ」
そうつぶやき、姿なき侵入者、セシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)はその姿を現した。
「私の『隠形の術』を見破るなんて、やりますわね」
「あれ? あなたひとりなんですか? ほかの教師軍の方々は?」
「教師軍? ……ああ、さっき外でギャーギャー言ってた方々のことかしら?」
柚の言葉で、ようやく思い出したようにセシルは手をたたいた。
「あんな連中、残らずブチのめしてやりましたわ。今頃、廊下の向こうでいい夢でも見てるんじゃないですか」
えっへんと胸を張り、セシルは自信満々に告げる。
「そんなことより、早く戦いましょう! あなた方なら、少し楽しめそうですわ」
「仕方ないね。柚、下がってて。ここはボクが」
雅刀を構え、三月がセシルと対峙する。
それに満足そうな笑みを見せ、セシルも自慢のスマッシュアンカーを構えた。
だがしかし、
「いいえ。ここは私がやります」
そう言うと、柚が三月の前に出る。手をかざし、すばやくスキルを発動させた。すべてを溶かす酸のスキル「アシッドミスト」だ。
しかし、その霧は、セシルに届く前に、霧散してしまった。
「……ふふっ、どうやら失敗したみたいですわね」
「ゆ、柚!」
ニヤリとセシルが笑みを浮かべる。慌てて三月が柚のほうを見つめる。
「では次はこっちの番ですわ。さあ、私の攻撃を食らっ……え、きゃ、きゃあああーーーっ!」
セシルが攻撃に移ろうと踏み込んだその瞬間、セシルの足元の床が抜け落ちた。そのままセシルはどうすることもできず、ただ悲鳴を上げて、下の階へと落ちていった。
柚のアシッドミストはしっかり発動していた。柚が放った酸は、見事にセシルの周囲の床を溶かしていたのだ。
「……ふぅ。よかった。なんとかうまくいったわ」
「柚。さすがだね」
その柚の働きに、三月も満足げに頷く。
だが、
「でも……もう少し、霧のコントロールは練習したほうがいいかな」
「え? あ、……ああーーーっ!」
ちらりと横を見る三月。柚の放った酸の霧は、見事に図書室の一部の本たちを、悲惨な状態へと変えていた。
学園内で始まった宿題戦争。
戦いの激しさが最大まで高まったその頃、蒼空学園学園長山葉 涼司(やまは・りょうじ)は出張先のイルミンスール魔法学校から学園へと帰宅の途についていた。
「まったく、登校初日ぐらい落ち着いてられないのか、うちの学園は」
事前にとある生徒から連絡を受けていた涼司は、イライラとした様子で学園へ向けて歩いている。
そんな領事の両サイドを、想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)と想詠 瑠兎子(おもなが・るうね)が付き添って歩いていた。二人は一応、学園長の護衛という名目で一緒に居る。
「まあまあ、山葉学園長。そうカリカリしないで」
「そうそう。リラックス、リラックス」
イライラしている涼司を気遣い、夢悠と瑠兎子は話しかける。しかし、いまいち二人の声は涼司には届いていなかった。
「……ねぇねぇ。山葉学園長、すごいイライラしてるわね?」
「そりゃあ、そうでしょ。いきなり電話で『学園で暴動が起こってる』なんて聞かされたら」
苦笑いを浮かべ、夢悠は涼司に同情する。だがすぐに顔を引き締め、瑠兎子のほうを見た。
「いい、お姉ちゃん。僕たちの仕事は、山葉学園長を落ち着かせて、この件について冷静に対応させることだよ」
「うん! そうすれば、愛しの雅羅ちゃんにも感謝されて、あーんなことや、こーんなことをお願いできることに……ぐふふっ」
いやらしい笑みを浮かべる瑠兎子。さすがにそこまで考えてはいないが、夢悠も何かしら雅羅に感謝してもらえるかもとやる気十分だった。
そうこうしているうちに、学園が見えてきた。
「あの、山葉学園長? くれぐれも落ち着いて冷静にですよ?」
「わかってる。俺だってガキじゃないんだ。そんな馬鹿みたいに怒鳴ってどうこうしようとなんてしねえよ」
心配するなと言うと、涼司は学園の中へと足を踏み入れた。
「ふぅー……ただいま、我が学え……ん?」
だが、その動きが止まった。
悲鳴と負傷者であふれかえる校庭。
あちこち壊れた校舎。
そこかしこから飛び出す雷撃系のスキルやら、どこからともなく聞こえる破砕音。
瞬間――ブチンッ――、涼司の中で、理性が吹き飛んだ。
「な、……何してんだ、ごらぁあああああああああああああああああああああああああーーーーっ!」
涼司の怒声は、学園の校内放送よりも大きく響き渡り、一瞬にして第一次宿題戦争は幕を閉じたのだった。
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