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●秋、実りて

 芝は緑色だった。
 しかしそれは真夏の、あの、生命力に満ちた燃えるような緑ではない。
 その勢い、あるいは濃さがほどよく抜けた、やわらかな印象さえいだかせる淡く穏やかな緑だった。
 その緑を撫でるように、絹の肌触りを思わせる涼やかな風が吹いている。
 秋だ。
 秋はもう、遠くから聞こえる足音ではなく、この場所にいる。
 あれだけ暴れていた猛暑も、もう、遙か昔の物語のようではないか。
 詩人ならずとも詩のひとつでも吟じたくなるような好天、空はどこまでも高く、青かった。
 それがこの場所――ヴァイシャリーの外れ、百合園女学院のサブグラウンドの光景だった。
 ただ芝がひろがっているだけではない。グラウンドには目を惹く物がある。それも、たくさん。
 野点の準備をしているのだろう、目の覚めるような赤い毛氈(フェルト)が何枚も敷かれ、桐の箱に入った茶道具や番傘が運び込まれていた。
 それとは別に林をまたいだ場所には、厚さ数センチになるマットが準備されていた。ボクシングのリングほどの面積と形状になるだろうか。
 野外調理キットやバーナーの設営が成されているところを見ると、どうやら野外クッキング大会が行われる様子だ。
 このように目を惹くものは多かれど、やはり一番まばゆいのは、準備に精を出す乙女ら、つまり、女学院の生徒たちだろう。
 百花繚乱、いずれ劣らぬ清らかな少女たち、彼女たちはやがて準備を整え来客を待つ。百合園女学院を知るべく、訪なう他校の生徒たちを。

 今日の日は文化交流会、他校生にとっても、百合園生にとっても、この学校のことをもっと知るための一日となるだろう。