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【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ

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【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ
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リアクション


・お昼の空京市街


「参ったな……」
 柊 真司(ひいらぎ・しんじ)は息を漏らした。
 ここ、空京までヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)と一緒に買い物に来ていたのだが、途中ではぐれてしまったのだ。
(ヴェルリア、今どこにいる?)
 精神感応で呼び掛ける。
(えーっと、繁華街のどこかだと思いますが……)
(今から迎えに行くから、周りに目ぼしい建物が無いか教えてくれ)
 とはいえ、ヴェルリアのことだ。目の前に見える建物にさえ辿り着けないことさえあるのだから、あまりあてにはならない。
(目ぼしい建物……あ、『MARY SANGLANT』の看板が見えます)
(分かった。じゃあ、その店の前で待っててくれ)
 真司にはあまり馴染みはないが、『MARY SANGLANT』といえば人気の高い女性向けのファッションブランドだ。
(あのあたりは混んでそうだ……)
 そのブティックのある一帯は普段の休日も混み合っている。しかも今は、空京万博の開催を間近に控え、さらに夏休みということも相まって一層人通りが多い。準備期間中であるためか、学生と思しき若い姿が目立つ。運営期間に入ったら、もっと多くの人で賑わうのだろう。
 ともあれ、この状況ではそう簡単に落ち合えるとは思えない。ヴェルリアが人混みに流されてしまっているかもしれない。むしろ、その可能性の方が高いくらいだ。
 精神感応で彼女の気配を感知しながら、『MARY SANGLANT』のブティックへと歩を進めていく。
 その途中、きょろきょろと周囲を見回している女の子の姿が目に映った。自分と同じように、連れとはぐれてしまったのだろうか。
 ふと、髪を束ねる水色のリボンが特徴的なその少女と目が合った。
「おにーさーん、この近くで女の子見なかった? 白くて小さい子なんだけど」
「いや、見てないな」
 そういえばヴェルリアの外見も、白くて小さい女の子と言えるかもしれない。
「俺の連れも、見た目はそんな感じだ。途中ではぐれたから、探しているんだが……」
「何歳くらい? こっちは十歳くらいだよ」
「十三、まあ中学生くらいだ」
 少し考える素振りをした後、目の前の少女が微笑を浮かべた。
「おにーさん、ここは一つ、一緒に探してみない? あ、拒否権はないよー」
 だったら聞くな、と突っ込みたいところだったが、言葉にするより早く少女に腕を掴まれ、そのまま引っ張られてしまう。
「多分、『MARY SANGLANT』の近くにいるはずなんだよねー。クリスちゃん、『服なんかよりも甘いお菓子が欲しいのです』って文句言ってたけど、バケツパフェ奢るからちょっと付き合って、ってお願いしたら喜んで来てくれたんだー。だから、今はバケツパフェのために大人しくしてるはずだよ」
「しかし、これでは小さい子供の姿を見つけるのは難しくないか?」
「ん、だいじょーぶ、だいじょーぶだよー」
 どうにも不安になってくる。
「いざとなったら、これで合図送れば気付くと思うからー」
 棒状の柄のようなものを握り、スイッチのような部分を彼女が押した。
 直後、それが槍の形状となる。
「紫電槍・参式ー!」
 ちょっと前にたまたま見たアニメに登場していた、二十二世紀から来たネコ型ロボット風に少女が言った。
「これで電撃を発生させれば人も離れるから、一発であたし達の姿が分かること間違いなし」
「……その前に、間違いなく警察沙汰になる気がするんだが」
 彼女と一緒だと、自分も同罪とされかねない。さすがに、停学処分というのはもう勘弁だ。
「あはは、じょーだんだよ、冗談。いくらあたしでも、そこまでバカなことはしないよー。さ、気を取り直していこー!」
(……面倒な人に絡まれたものだ)
 すっかり少女のペースに巻き込まれてしまう真司であった。

(普通に店を見ながら一緒に歩いていたはずですが……いつの間にはぐれちゃったんでしょうか)
 『MARY SANGLANT』の前で、ヴェルリアは真司の姿を探していた。
 こちらに向かっているとのことだったが、下手に動くと人混みに流されそうなため、今は大人しくしている。
(……それにしても、まさに「人ゴミ」ね。彼の目の前でこれを消し去ったら、どんな顔をするかしら?)
 現在、ヴェルリアの中には二つの人格が混在している。主導権を握っているのは、海京クーデター後に呼び起こされた方だ。
 そちらが本来の人格であるが、四年前に深層意識に封印され、その代わりに今の人格が形成された。真司と出会ったのは封印されて間もない頃である。
 風間に成り済ましていた黒川によって、もう一方の人格の消滅と引き換えに完全に封印が解かれたと思っていたが、真司に気絶させられた後に目を覚ますと、まだ辛うじて残っていたことに気付いた。
 それからは、いかに真司ともう一人の自分を絶望に叩き落してやるかを考えながら息を潜め続けている。
「むー、あの槍女は一体どこをほっつき歩いてるですか」
 そう独りごちる声がヴェルリアの耳に入ってきた。声のした方を向くと、不機嫌そうに頬を膨らませている、十歳くらいの白い少女の姿がある。
(待ち合わせ、もしくは私と同じようにはぐれてしまったのでしょうか……?)
 彼女と目が合う。
 その時、真司から精神感応を受けた。
(ヴェルリア、ここだ! 今目の前まで来ている)
 真司の手が視界に入った。
 その隣には、青いリボンの少女がいる。近くの女の子が彼女の姿に反応しているのを見ると、あの少女が連れ、あるいは保護者ということなのだろう。
(ちょうどいいわ。あの二人の目の前でこの子を――)
 だが、少女から異質な空気が放たれていることに、ヴェルリアの本来の人格は気付いた。
(やめておくのです。既にお前の意識は、わたくしの支配下に入っているのです)
 いつの間にか、ヴェルリアのすぐ隣に彼女がいた。
(そんなこと考えてるくらいなら、お菓子をたらふく食べた方がよっぽど有意義です。分かったですか、腹黒傲慢女)
 この少女、只者ではない。
 直接、本来の人格に語りかけてきたこと、移動したことを感知出来なかったことから、おそらく対象の認識を支配する力を持っているのだろう。似たようなものに心当たりはある。
(……いいわ、まだしばらくは夢を見させてあげる)
 そこから先は、もう一つの人格に委ねた。
「なんとか合流出来たな」
「まさか一緒にいるなんてねー。びっくりだよー」
 真司と少女の目的が、同時に達成された。
「一体どこにいたのです?」
「どっか行っちゃったのはクリスちゃんでしょ? いつの間にかいなくなって……」
「むー、ただ甘い匂いがしたからそっちに行っただけです。そしたら……って悪いのはわたくしなのです!」
 何やら女の子同士がそんなやり取りをしているのが聞こえてきた。
「じゃあ真司、せっかくですからこの店も見ていいですか?」
「ああ。
 それじゃ、俺達はこのへんで」
 真司が二人の少女に別れを告げ、店の中に入ろうとした。
「ちょいと待った! おにーさんには手伝ってもらったことだし、ここはあたしの行きつけの店だから、少しお礼をさせて欲しいな」
 笑顔を浮かべたまま、ヴェルリアを見てくる。
「洋服選びは、この美少女ファッションコーディネーターのエミカ・サウスウィンド(えみか・さうすうぃんど)ちゃんにお任せ♪」
「……自分で美少女って言うか?」
 などと苦い顔をしたまま真司がぼやいた。
「んー、何か言った?」
「いや、別に」
 
 その後、真司とヴェルリアはこの迷惑娘にバケツパフェまで付き合わされることになった。