校長室
【2021ハロウィン】大荒野のハロウィンパレード!
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ハロウィンパレードの話を聞き、「商売チャンス到来!」と、その道沿いに屋台を出したのは健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)も同じであった。 ハロウィンということでジャック・オー・ランタン風のカボチャを看板に使った勇刃の屋台の売り物は、自慢の料理の腕を生かしたお菓子や軽食類である。 特に、お菓子はトリック・オア・トリートにも対応出来るよう腕を奮った。 だが……本命は別にあった。 「いらっしゃい! ほらほら、見てるだけじゃ腹が減るぜ?」 ドラキュラの仮装をした勇刃の前にはグツグツ煮立つ大きな鍋があり、薄茶色に濁った出汁の中に、大根、コンニャク、すじ肉、卵といったおでんでよく見る具材が食欲をくすぐる匂いと湯気を観客たちに向けて放っていた。 「美味そうだね。でも、普通のおでんとは違うような……」 足を止めた観客に、勇刃がニヤリと笑う。 「俺のおでんは、豚汁おでんだぜ!!」 「豚汁おでん!? そうか、この匂いは豚汁のそれか!」 「ああ、豚汁おでんはイチオシだ! このうまさをもっとたくさんの人に知って欲しいぜ!!」 匂いにつられて多くの観客が勇刃の屋台の前で足を止める。 だが、匂い以外につられて足を止めた者達もいた。 大きな胸を大胆にさらけ出したサンバカーニバルを思い起こさせる魅惑の仮装をし、スキル【名声】と【幸せの歌】で、お客を招きいれているのはセレア・ファリンクス(せれあ・ふぁりんくす)である。 「KY豚汁おでん、あなたのハートをバキューン!」 「あ、あなたのハートを、ば、バキューン……て。セレアさん、どうしてそんな台詞にするのよ?」 セレアに突っ込みつつ、恥ずかしげに胸の前を隠して呼び込みをしていたのは、カウガール姿の熱海 緋葉(あたみ・あけば)であった。 「あら? どうしてこの台詞にするか、ですって? ふふふ……わたくし、緋葉様の格好を見ると、つい……」 「止めてよ、恥ずかしい……」 観客達の視線を集めて顔を赤くした緋葉がセレアに頼むも、彼女は一切気にしない。 「さあ、緋葉様、カルミ様もご一緒にどうぞ! もっと多くのお客様を招きましょう!」 そう言って、また自作の歌を歌いだす。 「カルミー……」 全力全開とばかり、メガホンでたくさんのお客さんを招こうと叫んでいた魔女の仮装をしたアニメ大百科 『カルミ』(あにめだいひゃっか・かるみ)が緋葉を振り返る。 「何です? 緋葉さん」 「あのさ……勇刃がドラキュラなんだから、セレアはともかく、あたしもあんたと同じ魔女とかで良かったんじゃない?」 「……緋葉さん。この賑やかさを見てください」 カルミがそう言い、パレードや観客達を振り返る。 「凄く賑やかなこのパレード……カルミの燃えるコスプレイヤー魂が言ったのです。被ってはいけない、と」 「……」 緋葉はえっへん!と胸を張るカルミを見て、「説得の余地なしね」とガックリと肩を落とす。 思い返せば、勇刃がハロウィンパレードに屋台を出すぜ! と宣言したのを真っ先に後押ししたのは、他ならぬ緋葉であった。 「ハロウインパレードに屋台を出す、あんたとしてはいい考えじゃない」と、「折角だから仮装しましょう」と言ったカルミの意見にも首を縦に振った。 「あ、コスプレをするのね。んで、どんなのがあるのかしら?」 「緋葉さん、それは当日までのお楽しみです。大丈夫! カルミがバッチリな物をご用意しますよ?」 「へー、じゃあ、楽しみにしてるわ」 そして、当日。 「衣装って……えええ? ちょっとカルミ、何よこの服! 胸が見えちゃうじゃない!」 「あ、緋葉さんのコスプレ……これしか残ってないのです」 衣装に着替える更衣室で、緋葉はカルミから渡された衣装を前に暫し考えこむ。 「(この日のために、勇刃が豚汁おでんを必死に改良してた……あたしだけが着ないんじゃ……)」 「緋葉さんさんだけ私服なんて、ダーリンも残念がるでしょうね?」 「うう……これしかないのなら、いいわ、着るわよ!」 緋葉は胸元がザックリとしたカウガールの衣装を見て、溜息をついた。 回想していた緋葉の傍でカルミがまたメガホンで叫んでいる。 「屋台で商品をたくさん買うとカルミのグッズがもらえるキャンペーンも実施中ですよー!」 「あんたのグッズて何?」 「えっと、この前残ったストラップ、うちわ、クリアファイル……まだまだいけそうな位たくさん残ってるのです!」 「……にしても、凄い売上ね。やるわね、勇刃。相変わらず料理の腕前は凄いわね」 緋葉が豚汁おでんをテキパキと売り続ける勇刃をチラリと見る。 「(それにしても、あのバカ……こんな恥ずかしい格好してるのに、全然見てくれないだなんて……)」 「ダーリンのためにも一緒に頑張りましょうね、緋葉さん!」 「……はぁ。もうイイわよ。やればいいんでしょ、やれば!」 負けず嫌いである緋葉が声を張り上げ、観客達を屋台に勧誘し始めると、セレアが彼女に近づき、 「緋葉様。あなたのハートをバキューン! を忘れていますわ?」 「あ……あ、あなたのハートを、ば、バキューン! ……これでいいのね?」 指で銃を真似た緋葉が覚悟を決めて台詞を放つ。 「フ……どうも君に撃たれてしまったみたいですね」 「は?」 片手を胸に当て、もう片手で魔界の花を握ったエースがゆっくりと緋葉に近づいてくる。 「これは素敵なお嬢さん、花をどうぞ」 「あ……ありがとう」 エースから貰った魔界の花を見つめる緋葉。 「パレードが来るまでは屋台巡りをウチの子としていたんだけど、いやいや、大荒野に可憐に咲く野の花につられてね……」 全ての女性を尊重する、24時間365日基本レディーファーストな紳士のエースゆえの行動であったが、こういう事にあまり免疫の無かった緋葉はナンパだと思い込んでしまう。 「え? まさか、あたしと付き合いたいの?」 「いえいえ、そうなれば幸福かもしれませんが、物事には順序というものがあると思います」 エースが育ちの良さを感じさせる物腰でそう言い、屋台でひたすら豚汁おでんを作る勇刃をチラリと見る。 「それに、お嬢さんにはもう気になる人がいるみたいですし……」 「え……!!」 エースの視線を追った緋葉が、ハッと驚く。 「ど、どうして……そう、思うの?」 思わず声が上ずる緋葉。 「女性が自ら魅力的になろうとする理由なんてそれ位しかないでしょう? あ、彼には言いませんから」 エースはそう言って、また懐から魔界の花を二輪取り出し、そっとその匂いをかぐ。 「俺の花は、全ての素敵な女性に贈るものです。気になさらないで下さい。それと……もうすぐウチのお子様がそちらにご迷惑をかけると思いますので……先行したお詫びも兼ねてですけど」 赤い顔をしたままの緋葉を残し、エースはカルミとセレアにもご挨拶に向かうのであった。 「仮装パーティは楽しいし。クマラは屋台の食べ物と聞いて絶対行くと言い張るし。祭りを満喫しようかな?」 エースがハロウィンパレードに参加を決めたのは、そういう軽い気持ちであった。 しかし、「祭りとなると黙っていないんだよ、ウチのお子様(クマラ)が……」という予想は見事に当たった。 部屋でクマラに「俺、パレード行くけど?」と言った途端、 「オイラ今食べざかりだから、連れてけっ」 いつまで食べざかりなのか知らないが、ベッドの上であまりにジタバタするクマラにエースが口を開く。 「育ち盛りだし!とが言い張るけど、お前……去年から身長1ミリも伸びてないぞ? しかも2度ほど10歳の誕生日パーティしてるじゃ……」 べしべしべし、と反論しようとしたエースを叩くクマラ。 「あっ何をする!?」 「行く、行く、行くーーーッ!!」 「……くっ……やるな! おまえ!!」 ネージュの屋台の前では、特製の『ジャック・オ・ランタンのプリンパイシュー』をクマラ、アンネリーゼがそれぞれ食べて感想を言い合っていた。 先攻は、屋台の前で「うーまーいーにゃー」と叫んだのはクマラであった。 「カスタードクリームとカボチャクリームと生クリームのトリプル攻撃にゃ!! これがクマラの舌の上で混ざり合いぃぃぃーーーッ!!」 巨大化するクマラ(イメージです)が、パレードの山車を引きずり出す。 「そしてぇぇ!! お伽話じゃカボチャは馬車になったけど、今、そこに乗っているのは泣く子も黙るプリンにゃ!! この魔法は12時超えても解けないにゃああぁぁぁ!!!」 一口目でそう感想を述べたクマラの熱弁は暫し続いたが、ここでは割愛する。因みに、クマラのイメージ内ではカボチャの馬車に乗った彼は宇宙まで行ってしまったそうである。 「ゼェーゼェー……どうにゃ?」 クマラが後攻のアンネリーゼに振り向く。 「やりますわね。小さいの……ですが、少々下品でなくて?」 「……そこ、競うんだ」 屋台で頬杖を付いて、二人の死闘を見ていたネージュが呟く。 次に、小さな口を開いて、『ジャック・オ・ランタンのプリンパイシュー』を咀嚼したアンネリーゼが静かに口元を動かす。 「(負けるな、アンネリーゼさん!)」 「(この勝負、勝ち負けってあるの?)」 二人を見守っていた朔夜と桜が話す。エースはいつの間にか姿を消していたので、しょうがなく……。 「フゥ……」 アンネリーゼが息を吐き、クマラが身構える。 「美味しいですわ」 年頃の少女っぽくニッコリと笑うアンネリーゼ。 「(しっ、しまったにゃーー!!)」 クマラが焦る。 「(昔、料理漫画であったにゃ……コッテリ料理を出したライバルの後に、アッサリした料理を出した主人公が勝つという展開!!)」 クマラが恐る恐る審査を行うネージュを見ると、ネージュがアンネリーゼの方に手を上げている。 「こっちの勝ち!」 「にゃああぁぁぁーーーッ、エースぅぅぅーーッ!!」 敗北を喫したクマラがエースを求めて駈け出していく。