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古代兵器の作り方

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古代兵器の作り方

リアクション

    ◆

 牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)ナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)ラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)と共に店の中を回っていた。それは――脱出経路を探すため、ではない。
「あれー? 何で店員さん居なくなってるのー?」
「今なのか?!」
 アルコリアは歩き疲れたのか、頬を膨らませながらその場にしゃがみこんだ。彼女の発言に、傍らに立つシーマが思わずツッコミをいれる。
「にしても、本当に人がいないですわね。この静けさは異常としか言えませんわね………」
 ナコトが周りを見渡すが、周囲には店員はおろか、客の姿も見当たらない。が、ラズンだけは、何かを見つけているのか頻りに一点を見つめている。
「どうした、ラズン。さっきからずっと向こうの方を気にしているが」
「あっちで何やらやってるみたい。面白そうな事をね」
 ニヤニヤ、何やら狂気じみた表情を浮かべている彼女の言葉に、しゃがみこんでいたアルコリアが立ち上がった。
「もー、買い物も出来ないですし、帰る?」
「こら、帰るな………ラズンの言葉を聞いていたか? 向こうの方で何かがこっているらしいのだぞ」
「シーマ。マイロードの意見は絶対。わたくしたちがそれを害して良い謂われはありませんわよ」
「………それでも、もしかしたら何かわかるかもしれないじゃないか。この状況のきっかけとか」
「ねぇ、行きましょうよアル。絶対に楽しいって」
「んー、ま、いーでしょ。何かあったって別に何って訳じゃないですけどねー、何かむしゃくしゃするから、やつ当たってみるのありでしょー」
「ありじゃない! それは全力で無しだ!!」
 さらっと物騒な事を言ったアルコリアにツッコミをいれ、しかし彼女の言葉を聞いていない三人は先に進んでいく。
「はぁ………何なんだこれ」
 がっくりと肩を落とし、三人の後を追うシーマ。


 アルコリアたち四人が歩いていると、遠くの方から何やら銃声の様なものが聞こえてきた。
「ねっ? 面白いことになってるでしょ?」
 音が近付くにつれ、一層顔を歪めるラズンに対し、アルコリアは別段何、という様子もなく返事を返す。
「銃声くらいじゃあまだまだでしょー、しょっちゅう聞いてるし」
 四人が歩けば歩くほどに、聞こえてくる銃声は大きくなり、人の声の様なものが聞こえ始めた。
「それにしても、なんの騒ぎだ? テロリストか何かなのか?」
 冷静に分析しようとしているシーマ。対してアルコリア、ナコト、ラズンの三人は思考を巡らせている様子はない。そして四人は、食料品が並んでいるスペースに到着した。
「くっ! そっちに行ったぞ………!」
「あいよぉ、兄さん。引き付けるから追撃よろしく頼むよ」
「お兄ちゃん……! 援護するよ」
 鏨、聖、爽麻の声がその空間に飛び交い、その中心にいるラナロックが捻れた笑顔を浮かべている。
「どうぐヲつかウノモナカナカニおつナモノネェ! キゃッハは!!」
 聖は野分を構えを、ラナロックの接近に備えていた。後ろでは璃央が心配そうに三人を見守っている。
「くそっ!! その女は俺の獲物だぁ!! 横取りしてんじゃねぇよ」
 エヴァルトに取り憑いているエスが叫ぶが、璃央に腕をしっかりホールドされていた為に動けていない。
「うーん、どういう状況? なかなか分かりづらいですね」
「わからないなら、皆殺しちゃえば良いのよ」
「そう言う問題じゃないだろ! あの女性の様子がおかしい、きっとあれが元凶で――」
「どっち殺りましょうかぁ、ラリっ娘? 暴漢さん達?」
 これ以上は話がややこしくなる、と踏んだのか、シーマがすかさず提案した。
「あの女性を止めよう。事情はその後聞いても遅くはない!」
「うーん、ま、いいや。そうしますか」
 クスウスと小さく笑みをこぼしたアルコリアは、そう言うとのんびり足を前へと進める。自分の意見が通ったことに、一先ず安堵したシーマは、歩き出したアルコリアの横を駆け抜け、聖の前へと躍り出る。彼女は英雄の盾を構え、ラナロックの攻撃に備えた。
「んん? お姉さんは?」
「気にするな、協力者だ」
「アラ、がーどガかたイノネぇ、しっとシチャウワぁ………」
 シーマの構えていた盾に、ラナロックの放つ銃弾が数発衝突し、彼女の両腕に負荷がかかった。
「もー、勝手に先に行っちゃってるしねー。さてさて、私たちもやりましょー、それはもう盛大に」
 足を止めることなくアルコリアは前進し続け、意味深に空手である右の腕を前に掲げる。
「ナコちゃん、久しぶりに力、借りるわね」
「御意のままに、我がマイロード………」
 アルコリアの言葉に返事を返したナコトは、アルコリアの腰辺りに下げてある本を高らかに蹴りあげた。ホルスターの様な物に収納されていた本がそこから抜けてアルコリアの頭上を舞い、彼女が前方に掲げていた手の上で停止――。
「ラズンちゃん、援護よろしくね」
「任せて、沢山バラ撒いてあげるわ。弾も、臓物も、その何もかもを――」
 ラナロックと同様の真っ黒な笑みを、歪みきり、寧ろ整っているような笑みを浮かべながら、ラズンが取り出したのは怯懦のカーマイン。小柄な体には不釣り合いなそれを構え、シーマたちに飛び掛かるラナロックへ向けて引き金を引いた。単発式のそれとは違い、けたたましい音でがなり立て対象へと向けて殺意を放つ。銃弾はアルコリアの僅か数センチ横を通り抜け、ラナロックへと飛んでいく。
「イキナリナンテずるインジャナイカシラぁ? ウッフフフ」
 笑顔のまま、ラナロックは体を捻って弾丸を寸前のところでかわし、シーマの目の前で着地した。
「動きを止めたら………チャンス!」
 その瞬間をついて、彼女の背後から爽麻がワイヤークローを伸ばす。が、直ぐ様しゃがみ、ワイヤークローの射線から外れた彼女は、横たわった姿勢のままに銃口を爽麻と鏨へと向けた。しかし今度は、彼女の手のした、床から氷が空へと突き立ち、ラナロックの握る銃を宙へと跳ね上げた。
「完全方位――逃げられまい」
 空手になった彼女の腕に鞘を落とし、動きを封じる鏨。地面に押し当てられ、押さえ込まれたラナロックは彼の顔を見上げる。笑顔のままに。
「ほんとうニすてきダワぁ、あなたタチ………うれシクテあたまガドウニカナッチャイソウヨ」
「既にどうにかなっているのだろう」
 もう片方の手に握られていた銃を蹴飛ばし、彼女の腕を踏んで動きを完全に封じたシーマが言う。
「ソレデまんぞく? ソレダケデまんぞくナノ? オッカシイワァ、うっふふふふ………」
 鏨とシーマが彼女の顔を見下ろしているのに対し、聖と璃央、爽麻、アルコリアたちは全体像を捉えていた。それが故、取り押さえている二人にはわからない動きを見付ける。
「離れなさいっ!!!!」
 アルコリアが声を荒げ、突然の言葉に後ろへと飛び退いた二人の顔、数センチ手前を何かがかすめた。ラナロックは蹴りの体勢を取っており、ブレイクダンスの要領で足を大きくかいてんさせ、二人の顔面目掛けて蹴りを放っていたのだ。勿論――回転したときの力を利用し体勢を起こしたラナロックは、ポンポン、と服を叩く動作を見せた。
「ざんねんネェ…………たのシカッタノニ――どこかノオばかサンガめヲさまシテシマウワぁ………マタたのシミマショウごきげんヨウぅ…………う、ううぅっ………ウガッッァアあぁぁああああああアぁ!!!!!! あー、クソ、くそくそクソクソくソッがぁああアアア!!!!!」
 再び口調が入れ替わり、その様子を見ていた一同が首を傾げた。エスを除いて――。
「ちっくショうがぁ!!! 最悪だヨッ、クソッたレメ!!!」
 と、同時に、ラナロックの体がぐらつき、後ろに背負っていた売り物の陳列棚に倒れ込む。何やらバチバチと電流のはぜる音を鳴らしながら。
「ひさしぶりぃっ………ぎぃいいいイイイッ!!!! に、外ニ出れたッツーノニよぉおおぉ…………ぐっがっがっがあああ…………」
 バタバタと頭を抱え込み、その場に転がり出したラナロックを、気味が悪そうに見詰める璃央が、誰にともなく尋ねる。
「ラナロックさん、大丈夫なのかな…………?」
「まぁ、殺しちゃえばいいんですよー、煩し」
「ちょうどいいところに銃ならあるわよ、ラズン持ってるよ? きゃっはは」
「待て、お前らは少しそこから離れろ。殺すところから離れろ」
 何とか取り押さえようとした鏨と聖。途端、暴れていたラナロックがその動きを止めた。
「あら――? 私はここで何を…………?」
「ラナロックさん!?」
 いつもの声色に戻った彼女の見ていた璃央が声をかける。
「璃央さん。それに聖さんまで。どうかなさいました? 他の皆様も――」
「……………誰?」
「知らんな」
 爽麻は呟き、鏨が即答した。今までの様子しか知らない一同は言葉を呑んで見詰めるだけだ。
「ラナロックさん、あんたぁ此処で今までの暴れたんだよ。覚えてないのかい?」
 聖の言葉に首を傾げたラナロック、が次の瞬間――、普段のラナロックの顔が大きく歪んだ。先程の様に。いつしか拾っている銃をそれぞれ、自分の近くにいた聖、鏨に突きつける。
「こんなモンダロぉぃぉおおぃ!!! ギッヒャッヒャッヒャ!!! あぁああアアアああ気持ち悪ぃぃいいなぁ!!」
「「……………………………………!?」」
 思わず言葉を呑んだ一同と、詰まらなそうにその様子を見ているアルコリア。
「ラズンちゃん、やっぱりこのラリっ娘、殺しちゃいましょーよ」
「やれるモンならヤッテミナァアぁああ……………」
 突き付けていた銃から音が響き、聖と鏨が自ら腹部を確認する。とーー
「じゃあぁああなぁああ!!! アトできっちりぶっ殺しにキテやるからさぁあああぁあ!!!」
 そう言い残し、ラナロックはその場を走り去っていく。
「お、お兄ちゃん!!!!!」
「聖ぃ!!!」
 爽麻と璃央がそれぞれ、鏨と聖に駆け寄り、その身を抱える。しかし、二人は何処にも怪我をしていないではないか。
「――空………砲?」
「空撃ちの衝撃か?」
 思わず声を上げ、驚いたのはラズンだった。シーマは顎に指をあて、考え込みながら呟く。
「なぁ、鏨の兄さん。今のって――」
 体を起こした聖が、鏨に向かって声をかけた。鏨も体を起こし、暫く言葉を探しながらも口を開く。
「………わからんが……あの女性(ヒト)が………一瞬正気に、戻ったのは」
 腹部を擦りながら、何やら口籠る二人を、一同は不思議そうに見つめている。