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空京古本まつり

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第五章 蔵書の回収

 東條 カガチ(とうじょう・かがち)エヴァ・ボイナ・フィサリス(えば・ぼいなふぃさりす)コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)の店に居た。
「これは間違いないようだねぇ」
 カガチは少し高いところに並んでいた本を手にすると、エヴァに目配せした。
「こういった本探していたんです、どちらで買われたんですか? ずっと読みたかったんですけど図書館でも貸し出しができなくって」
 手にしたエヴァがコアに尋ねる。ハッとするコアに、エヴァもカガチも身を固くした。
 コアとラブ・リトル(らぶ・りとる)は「彼ならばらしちゃっても良いよね♪」と話して、「実は……」とカガチに打ち明けた。
「それじゃあ俺達とは別に動いてたんですねぇ」
「山葉校長だけに伝えてあったんだ」
「そうなんですねぇ。道理でいろんな情報が来ると思ったら、ありがとうございましたぁ」
 話すカガチにコアが「シッ!」と人差し指を唇に当てる。
 新たに来た男の客が、コアの店の品揃えを見て、「これを買い取って欲しいんだが」と袋から本を出した。カガチ達にも図書館から盗まれた蔵書であることがわかる。そのまま捕まえるかと思いきや、コアは値段を言って、相手が了承するままに買い取った。
 帰る客に、コアはカガチに合図を送った。
『なるほど、後をつけろってことですねぇ』
 カガチとエヴァは散策するフリをして男の後をつける。他の回収メンバーにも連絡して、男に対する包囲網を調えていった。
「あんまり長引くと困りますねぇ」
 ぶらぶらと会場を回り続ける男に、回収メンバーが痺れを切らしつつあった。
「他にも確保しなくちゃいけない本もありますから、そろそろ決着をつけても良いのではないでしょうか」
 カガチは意を決して他のメンバーに男の身柄確保を伝えた。
 何か雰囲気の変わったことに気付いた男は、いきなり走り出す。その先には小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が居た。
「美羽さん、気をつけてください」
「任せて!」
 美羽は華麗にハイキックでしとめようとしたところで、山葉の言葉を思い出す。
「あんまり大騒動にしちゃだめだよね」
 空中で軌道を変えて男の足元を払った。
 足を払われて転んだ男は、ゴロゴロと転がると壁にぶつかってようやく止まる。そこに美羽が馬乗りになった。
「えっと、あなたには弁護士を雇う権利があります。黙秘権があります。太極拳があるかもしれません。来来軒から出前が取れるかもしれません。高倉健と松平健と、えーーっと……」
「美羽さん、それ何ですか?」
「一度、やってみたかったの。良く憶えてないんだけど……」
 結局、男は拾った本を売りに来ただけと分かった。

 大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)の持っている蔵書を巡っても、ちょっとしたやりとりがあった。
「それは暴利だろう」
 値段を聞いた源 鉄心(みなもと・てっしん)は抵抗する。
「値段ちゅうもんは、売り手と買い手の合意で決まるんや。高いと思ったら買わんでもええで」
「しかしあの店ではもっと安く売ってたはずだ」
「ま、早いもん勝ちやな」
 フランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)は「そんなにふっかけなくても」と言うが泰輔は聞く耳を持たず。讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)は我関せずとそっぽを向いていた。
 イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)ティー・ティー(てぃー・てぃー)と相談すると、鉄心の前に出た。
「おっ、お嬢チャン、買ってくれるんか? お嬢チャンなら1割負けてもええよ」
 調子に乗る泰輔に向かってイコナは冷静に「結構ですわ」と言い放った。
「最後にもう一度聞きますけど、お店の買値で売る気はないのですね」
「あれは過去の話やからなー」
 泰輔の言葉を聞いたイコナは、その場にうずくまると大声で泣き始めた。

「その本が無いと、私達、困ってしまうんですー」

 何事が起きたのかと周囲に人が集まり始める。タイミングを合わせてティー・ティーが泰輔にすがる。

「お願いします。その本を譲ってください」

 この強烈なワンツーと周囲の目で勝敗は決した。
 どこからか「譲ってやれよー」とか「女の子を泣かせるなー」との声が次々に聞こえてくる。
「わかった。わかった。持ってけや」
 泰輔はイコナに本を押し付けると、人込みの輪を掻き分けていった。シューベルトと顕仁も後を追う。
「上手く行きましたね」
 イコナもティー・ティーもケロッと笑顔になった。
「嘘泣きだったのか」
「全部嘘ではありません。本が好きでもない人のところに行くなんて我慢できません」
 イコナは寂しそうにつぶやいた。

「お譲りするのは構いませんけど、きちんと証明していただかないと」
 中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)樹月 刀真(きづき・とうま)に蒼空学園の蔵書であった証明を求める。
「そう言われましても」
 封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が言いよどむ中、刀真は綾瀬の襟元をつかむ。
「ごちゃごちゃ言うな。俺達は重要な任務を行っているんだ。俺にとってお前の命はその本よりも軽い……選べ、このまま首の骨を折られるか、俺達に本を売るか」
「これがあなたのやり方なのですね。それなら私も……」
 刀真は危険を感じて手を離す。数歩下がって距離も置いた。
「その服、魔鎧か?」
「フフ、勘の良いこと」
 綾瀬は笑みを浮かべる。 
『綾瀬、本気で行きますか』
『それは無いわ。ちょっと遊んでみるだけ。ここは空京ですもの。あなたも駄菓子屋に行けなくなったら困るでしょ』
『それもそうね』
 刀真が柄に手をかけたところで、白花と月夜が止める。
「刀真、私達がそんなことをしてはいけないわ」
 深呼吸をした刀真は柄から手を離す。
「すまなかった。ついやりすぎた。改めて頼む。どうか譲ってもらえないだろうか」
 深々と頭を下げる。
「証明は?」
「ない。こっちのリストにその本があるというだけだ」
「そう……まぁ、良いですわ。買値なら損もありませんし」