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空京古本まつり

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空京古本まつり
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 藤原 歩美(ふじわら・あゆみ)はかねてから探していた本を見つけて嬉しい悲鳴をあげた。
「おお!! これは!?「伝家の宝刀必勝法則 入門編」!?」
 両腕に抱えてピョンピヨン跳ね回る。
「うわ〜、喉から手が出るほどちょ〜欲しい! でも、私のお財布じゃ、ギリギリかも?」
 生唾を飲んで財布を開けた。

 ── 足りない! ──

 悩んだ末に店長に相談する。
「ねね、店長さん、この本、少し安くしてもらえませんか〜? 掃除します! 本棚の整理とかします!」
 頼み込んだものの色よい返事はもらえなかった。
「ええ〜? やはり、ダメですか……しょぼーん……」
 園芸王子を自任するエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ) は植物関連の本を、メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)は昔の日記や手書きの随筆などを、クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや) はお菓子のレシピ本を探して歩いていた。
「地球では見られない稀少本もあるな」
「エース、買うのは良いが、私の分も持ってもらいますので程ほどに」
「メシエ、なんで俺が君の本まで……」
「私は杖より重いものは持たない主義なのだよ。若者の君が肉体労働したまえ」
「仕方ないな……」
「その点、オレはリュックサックを持ってきたもんねー」
 クマラはクルッと背中を見せた。
「クマラにしては考えたが、帰りにはお菓子が詰まってるのではないのですか?」
 メシエが言うと、エースも「そうかもな」と笑う。
 クマラは「そんなことないよ」と言い張るものの、露店の食べ物に目を奪われていたのは間違いなかった。
『美味そうだなぁー。お菓子の本が見つからなかったら、ホントにお菓子を詰めちゃっても良いよね』
 こっそり考えていたのは言うまでもなかった。
 しかしエースやメシエがニヤニヤ見ているのを感じて、とっかになんでもないフリをする。
『ばれた? ……かなぁ』
 ゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)はパートナーのシメオン・カタストロフ(しめおん・かたすとろふ)と共にコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)の店を訪れていた。
「魔道書も何冊かあるが、品揃えがバラバラじゃん」
「素人の出店ではこんなものだろう。目ぼしいものがあるだけでもマシだな」
 ゲドーが手にした本をシメオンがスキル財宝鑑定で調べる。まぁまぁの値打ち物と分かるが、買う程のとは思えず元あった棚に戻す。
「何でも蒼空の図書館から盗まれた本があるって噂だよ。そんなのがあったら買いたいんだけどね」
 カマをかけたゲドーに、コアは表情を固くする。
「冗談だよ。じょ・う・だ・ん」
 ゲドーとシメオンは「ヒャハハハ」と笑いながら店を移って行った。
「今の人、山葉校長に伝える?」
 ラブ・リトル(らぶ・りとる)に聞かれたコアは「その必要もないだろう」と首を振る。
「しかし噂は随分と広まっているみたいだな」
「早く見つかると良いんだけど……」
 中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)はいつも通り漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)をまとって古本まつりで掘り出し物の探索に勤しんでいた。トレジャーセンスで目についた本を眺めては棚へと戻す。
「掘り出し物は、そうそう見つからないものですのね」
 ため息をつく綾瀬に、ドレスがささやきかける。
「綾瀬、その状態で読めるの?」
「本には書いた人物の気持ちが込められていますの、それに目では見る事の出来ない面白い発見もありますわ……」
 綾瀬は手にした本を開くと、そっと指でなぞる。
「すると、挟まれてペチャンコになってるゴ○○リの気持ちも分かるのね」
 とっさに本を放り投げる綾瀬に、ドレスは「嘘よ」とささやいた。
 本を拾って店主に平謝りした綾瀬は「この次、つまらない嘘をついたら、思いっきりプレスにかけるわよ」とドレスに忠告するものの、「それで誰が着るの?」と聞かれて綾瀬は答えに詰まった。
 心弾ませる禁書 『ダンタリオンの書』(きしょ・だんたりおんのしょ)を先頭に佐野 和輝(さの・かずき)アニス・パラス(あにす・ぱらす)も古本まつりの会場を訪れていた。
 人ごみに埋もれそうなアニスとダンダリオンは、和輝にしっかりしがみついている。
 和輝は興味のある歴史書を探して歩き回る。そしてようやく習得しつつある人当たりの良い言葉で値切りにかかる。
「素晴らしいです。貴方の見識深さには憧れてしまいますよ」
 そう言って慈愛の笑みを浮かべたが、百戦錬磨の男性店主には「何言ってんだい、兄ちゃん。こっちは忙しいんだ。買わないならどいてくれ」と押しのけられる。
 また女性店員を見かけて「お姉さん。え? あ、すみません。あまりにも若々しかったので」と言うものの、「見え見えだよ。持ち合わせがないの?」と聞かれて、「いや……その……」と言葉が続かなかった。
 しかし少ないながらも経験値が溜まっていくのか、まれに「仕方ないねぇ」といくらか安くしてもらえる店も出てくる。
『俺は間違ってなかったー』
 和輝はしみじみと成果を実感した。
 古代文学や伝承系の本を探す天城 瑠夏(あまぎ・るか)とパートナーのシェリー・バウムガルト(しぇりー・ばうむがると)。既に何冊かの本を購入していたが、もっと無いものかとコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)の店を訪れる。
「これ……良さそうだ」
 瑠夏が手にしたのは薄汚れた本だったが、パラパラとめくっただけですぐに気に入った。
「シェリーは……何も……買わないのか?」
「んー、ワタシは瑠夏程、本を読まないしからねー」
「じゃあ、画集……とか詩集は……どうだ?」
「良いの?」
「探して……みよう」
 瑠夏はシェリーの手を握る。いきなりの行動にびっくりしたシェリーに瑠夏が言う。
「また……人が多くなって……きたようだ。迷子になるな……よ」
 シェリーも手をしっかりと握り返した。
 パートナーであるサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)が古本まつりに出かけると聞いた白砂 司(しらすな・つかさ)は、自らも専攻している文化人類学に関する本を探しにきた。
「もっと気楽に色んなもの読んでかないと、つまらない大人になっちゃいますよっ」
 サクラコに背中から寄りかかられる。かく言うサクラコは民話や説話の本を見つけていた。
「じゃあ、これなんですけどー」
「俺に持てってのか?」
「それもあるけど、代金もよろしくっ!」
「自分の趣味は自分で払え」と言ったものの、さっさと次の店に行くサクラコに、仕方なく司は財布を取り出した。
「仲が良いねぇ。コレかい?」と小指を立てた店主に、司は表情を暗くする。
「ああ、女ってこと思い出したよ。さっき背中に乗っかかられた時、辞書かと思ったくらい、重くて真っ平らだったからね」
「司くーん、なーにが辞書だってー」
 いつの間にか戻ってきたサクラコが、獣のツメを司の顔に立てていた。
「そう言うところだよ」
 司もサクラコの耳を引っ張る。
「まぁまぁ、仲良くしなよ。はい、本とお釣り」
 店主は本をサクラコに、お釣りを司に渡した。
「司君にも読ませてあげるね。それとも枕元で読んであげようかっ?」
 最近、料理に凝っている奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)は、パートナーの雲入 弥狐(くもいり・みこ)を連れて散策に来ていたのだが。
「なんか人が増えてきたね。沙夢、平気?」
「うん、大丈夫だけど……」
 沙夢は弥狐の手に触れた。意図を察した弥狐は、沙夢の手をしっかり握る。
「あたしは沙夢のお母さんかお姉さんかって」
 そう言いながらも、弥狐の声は明るい。
「ここは料理本ばかりだよな。あっちに行ってみない?」
 弥狐に手を引かれて、本を入れた袋を抱えた沙夢はついて行く。