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リアクション
第一幕 こんな幕開きのプロローグ
『悪意の仮面』
……それはかつて空京、そして2度目はヒラニブラに現れた忌まわしきアイテム。
装着した者の悪意を増幅し、欲望に誘いヒトの心の闇を目の前に突きつける事で街一つ混乱に陥れる力を持つ
それが再び、現れたのだという
…………現れたのだと、いうが………。
「なんで、よりにもよってヴァイシャリーなんですかね……」
少し離れた先にそびえ立つ、百合園女学院の巨大な校舎を見ながら非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)は呟いた。
この街で数日前から起こっている騒動に、例の仮面が見え隠れするという噂を聞いたのが数日前
今までの仮面騒動に関わった者同士で連絡を取り合って駆けつけてみたものの
調べてみれば騒動の中心には、眼前の学び舎の生徒が関わっているらしい
「いつもなら、さっさと学園に潜り込んでアレコレ実力行使で仮面を取りに行けばいいんですけど」
「……麗しき女の園じゃ、俺達は手も足も出ねぇよな」
引き続き漏れる近遠の呟きに、アキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)も苦笑いと共に答える。
百合園女学院と言えば男子禁制の女学校。言わずもがな、近遠含め多くの男は門前払いになる。
しかも、どうやら校長の桜井 静香(さくらい・しずか)も仮面の術中にはまっているという噂が本当なら
尚更、特例や融通など利くはずもない。
まぁ、此処まで来る道中でも仮面が原因と見られる悪事の噂が耳に入ってきたのだが
学園内の様子も含め、今迄以上に世間が動く様な騒ぎになっていない所を見ると
それなりの情報統制が敷かれているのかもしれない
ヴァイシャリー家の持つシャンバラ女王の血統とはそれ程までの力を持っているわけだ
「それでも、仮面がここにあるのなら、絶対に壊さないといけないよね!」
男共の悩みなどなんのその、近遠の後ろで仮面を手に小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が声を出す。
〜仮面に触れたものは、仮面に魅せられる様にその関わりから逃れる事が出来ない〜
ずっとこの仮面に関わってきた者達がいつしか口にするようになった言葉である。
別に仮面に魅せられた経験のある者だけではない
仮面の悪事を阻止して来た者達にもこの言葉の意味は当てはまる。
仮面は純粋に利用する者の心の底の欲望を暴き出す
その自身の欲望に駆られている記憶を目の当たりにした者は、必然的に自らの心と葛藤する事になる。
それを経験した者はその苦悩を味あわせまいと仮面の悪事の阻止を望み、
その苦悩を傍らで見つめ続けた者達も、それを見続けてきた故に手を差し伸べようと動き始める。
よって、この3度目の仮面の騒ぎには多くの事件経験者が駆けつける事となり
事態が事態ゆえに、今までにない協力体制を敷く事が可能になった。
「わかってますよ美羽。だからこその潜入班の結成なんですよ。イグナ、誘導の手引きの方は?」
近遠の質問にパートナーのイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)が口を開く。
「問題ない、例の授業の参加者リストも上手く調整できたそうだ。七瀬殿のお陰でな」
「例の授業って……アレでございますわよね?
校長自らの【桜井式実践メイド学】でございましたような……?」
「ええ、既に何人かは授業に参加する為に校舎内に入っています。
ですが校長が仮面に操られている可能性がある以上、生徒会としても少数で穏便に事を納めたい。だから……」
イグナの言葉を受けたアルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)の質問に隣にいた七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が説明を続ける。
生徒会(白百合会)に属する彼女は学園以外の協力を得る為、今回色々手を回してくれたのである。
中に入れない面々との連絡がとりやすい様に、指令所として学園が望めるこの場所を用意してくれたのも彼女だし
外部の者が入りやすいように、本日846プロのアイドルイベントをセッティングしたのも彼女の功績だ。
……ただ、そうやって外部の人間を手引きする傍ら
学園の事情に通じるからこそ、学園を愛する者として守りたいものも彼女のはある。
そんな懸念を案じるように、イグナは役割を再確認することにした。
「わかっているよ七瀬殿。我等と美羽殿の役目は出来る限り外を警戒し、騒ぎを大きくしない様務める、と言うことだな」
「でも……わたしちょこっとだけそのメイド学の授業に興味ありましたわ。勿体無いなぁ〜」
イグナの確認の言葉に本音を漏らすのは仲間のユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)
クスリとその呟きを笑って聞きながら小型カメラを調整しつつ宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が口を開く。
「その点はご安心なく。ちゃんと授業内容は記録に取って置くから」
「……卒がなくて結構、と言いたいところだがよ。実際のところ只の記録目的じゃないんだろう?それ」
アキュートの突っ込みに、祥子は笑顔を崩さず答えた。
「いいえ、記録よ……ただこれを望む人は案外多いでしょうね、私以外に学園的にも……ね?」
「さ、お喋りはそこまで!いよいよ潜入開始!仮面の因果をここで断ち切ってみせるんだ!」
役割を再確認した後。
美羽が決意の証明がわりに手にした仮面を高く掲げた後、地面に叩きつけて壊す。
その様子をそれぞれが決意とともに眺めながら、七瀬 歩の案内でイグナが、続いてアルティアとユーリカが門を通る。
「ほら、コハクも覚悟を決めて行くよ!」
「やっぱり……行かないと駄目?で、でも僕……」
続けて美羽が物陰で小さくなっていたパートナーのコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)を引きずり出す。
その外見はどう見ても可憐な女の子……つまり潜入の為の女装である。
……まぁ、厳密にはアイテムを使って肉体レベルで変化した女装なのであるが。
「大丈夫!メタモルキャンディーの効果は絶大なんだから!
誰が見たってコハクは今とびっきりカワイイ女の子だよっ!」
「……あんまり嬉しくないんだけど」
「ゴチャゴチャ言わない!困ってる人を助けに行くんでしょ!今更迷うのはらしくないぞ!ほら!」
ズリズリと美羽に引きずられるコハク。
そんな二人をカメラテストと称して撮影しがら祥子が続き、潜入組は姿を消した。
いささか不安が残る彼女達の自由気味な後姿を見送りながら近遠が溜息をつく。
「……本当に、大丈夫でしょうかねえ?」
「不安ならお前もコハクみたいになって追いかけてみるか?似合うと思うぜ?」
くくく……と笑いながらアキュートが沈んだ彼の肩を叩いて茶化す。
恨めしげに睨む近遠の目線をものともしないあたり、いい加減彼はこの事態を楽しんでいる風情だ。
「どのみち、人の心が不可解である以上予測範囲は起こりうるんだ。
騒ぎが大きくなったらお祭り気分で楽しむしかねぇだろう?
さ、俺も外回り班として行動開始と行こうか。案内頼むぜお嬢ちゃん」
アキュートの言葉に傍らの少女が頷く。彼女の名は高峰 結和(たかみね・ゆうわ)
実は今回の出来事を彼らに知らせたのは彼女なのである。
先にも述べたが、ヴァイシャリーを納める者が学園創設に関わっている故か
実はここまで美羽や近遠達が動いているにも関わらず、街からは不思議な程仮面の『か』の字も出てこない。
とはいえ、大層愉快な通り魔の噂はしっかり聞こえてくるので、何らかの情報統制は敷かれているのだろう。
そんな中、偶然街で彼女が仮面を拾い、同じインスミール魔法学校生で仮面の回収をしているという人物……
近遠に仮面を渡しに来た事で、彼らは騒ぎの根源を知ることが出来たのである。
そしてその仮面を拾ったという事実は、街の通り魔騒ぎも仮面の仕業である可能性も濃厚にする訳で
アキュートの様に百合園にが入れない者(主に男)はそちらの収拾を担当することになった。
「自分の意思にかかわらず、悪事を働いてしまうなんて…怖い仮面もあるのですね…。
アキュートさん。私も協力して、被害を小さく留めたいと思います、宜しくお願いします」
仮面の事を初めて知った彼女の、彼女なりの協力の誠意を、アキュートは彼なりに受けとる。
「ま、俺は楽しんでやれれば結構なんだ。どうやらこっちの方もそれなりに愉快そうだしな
……じゃ指令塔は任せたぜ近遠。楽しいお仕事の時間だ」
「頼みます、そちらの手筈は予定通りなんですよね?」
近遠の言葉にアキュートは振り向かず、手をひらひらと返しながらその問いに楽しげに答えた。
「ああ、そろそろ蔵部達が目標を捕まえる頃だと思うぜ」
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