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先物買いの銭失い?

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■骸骨マスコット販売道 ~後編~
 通常業務班の働きがいいため、賑わいを見せる雑貨店。実はその隣にある空き倉庫でも、骸骨マスコットの工夫された販売が行なわれていた。
「きゃーーーっ!!」
 空き倉庫から響く叫び声。……現在、この倉庫では木本 和輝(きもと・ともき)が提案した、低額お化け屋敷が展開されていた。もちろん、事前に店主から了解を得ている。
 主な流れはこうだ。まず四季 椛(しき・もみじ)が担当する受付にて、入場料を払い入場。この時、椛は和服を着てお化け屋敷っぽさを演出し、ニャンデットの水引 冬樹をうまく動かして客引きをしている。
 そして椛には、入場の際にはこっそり『アボミネーション』を使い、お客さんを畏怖状態にするという細工を施す大事な役割があった。これにより、普通の状態で入るよりも怖がってもらえるだろうし、中で脅かし役としても起用されている骸骨マスコットも印象に残るだろう……とのことらしい。
 お客さんが入場後は厳島 春華(いつくしま・はるか)が『テレパシー』と『根回し』で椛や他のメンバーと念話をし、お客さんの入り具合の調整を行なう。雑貨店横の小さなお化け屋敷なので、下手に回転率を上げると和輝たちの処理可能な領域を超えてしまうからだ。この作業に加え、お客さんも驚かせなくてはならないので、このチームの中では一番忙しいかもしれない。
 お化け屋敷に入ったお客さんを、裏方に回っている和輝が協力を頼んだフラワシの水尾が使う、常人には見えないゼリー状の物体を首筋に当てたり、火遁の巻物を火事にならない程度に使って火鼠などを出して、驚かしていく。
 さらに、和輝と春華の『サイコキネシス』で骸骨マスコットを自在に動かし、一番の悲鳴を上げさせる。ここが最大の盛り上げ点なので、気を抜くことはできない。
 ……存分に驚かされたお客さんが出口に到着すると、そこではネコ耳メイドコスをした封神 鬼叉羅(ほうじん・きさら)が、従者のニャンルーと共に記念ショップのようなお土産コーナーをやっていた。とはいっても、売っている物は骸骨マスコットだけだったが。
 お値段は少し控えめなものの、実は入場料と合わせると元値1000Gから少し利益が出るという仕組みである。
 恐怖からの解放、そして一息つけることもありお土産コーナーは人気があるようだった。しかし、畏怖が抜け切れていないのかマスコットを見るなり逃げ出してしまうお客さんもいたりする。
 鬼叉羅の写真付きでなら買う! というお客さんもいたりし、鬼叉羅は人助けのため……と、被写体としても頑張っていた。無論、破廉恥な撮影やお触りをしようとする不埒なお客さんには容赦なかったが。
 ――ともあれ、賑わう雑貨店の隣という立地条件もあってか、低額お化け屋敷はそこそこ盛況。お土産としても無事に売れたようであった。

 ……空京で人気のある公園では、アリッサ・ブランド(ありっさ・ぶらんど)プロデュースによる骸骨マスコット販売作戦が始まっていた。
「よろしかったらどうぞー。どちらもまだまだ受付中です」
 にっこりと微笑みながら受付を担当しているのはフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)。アリッサから「おねーさまは参加しちゃダメ!」と言われ、受付嬢として動くことに。これでも何かしらの役に立つ、と本人は実に楽しそうだ。何も知らない、というのは実に幸せなのかもしれない。
「たぁぁぁぁぁっ! ――この程度では我に勝てぬぞ! 次っ!」
 広めの場所を確保し、手加減抜きの戦いを繰り広げているのはレティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)。本人は修行のつもりで本気の闘いをしているようだが……。
(何も見てない聞こえない。写真ばら撒きも知らないし、興味もないもん)
 ――客寄せと目立つために歌を歌いながら、こんなことを考えてるアリッサ。レティシアには全く伝えていないが、二つある客寄せ用の看板の片方には『美人ヴァルキリーと勝負して大人のデート権ゲット!』と書かれている。
 内容的には、まず参加費として4000G支払い、骸骨マスコットとレティシアの写真5枚(盗撮した奴っぽい)入りを参加賞としてもらう。そしてレティシアと一騎打ちをして、勝ったら何してもOKなデート権を獲得、負けたら骸骨マスコットを追加購入(1500G)という、ある意味で恐ろしいぼったくりに近い何かな商売である。
 アリッサが事前に説明した内容は「挑戦してきた人と戦うだけでいい」というもの。参加賞のことも負けた時のことも一切説明なし。だがレティシア本人は戦えればそれでよし。手を抜くつもりも毛頭ないので、現時点で負けなしの状態である。
(まぁ、負けたらちょっとは面白いかもね~。さて、ベルクちゃんはどうしてるかな~?)
 もう一人、腹黒策略に利用されている男がいた。その名はベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)。アリッサはちらりとそっちのほうを向く。
「くそ……あのクソガキ、俺の魔力をなんだと思ってやがる……」
 ……こちらのほうに書かれている客寄せ用の看板には『一流の死霊術師による本場呪いのアイテムで幸運をゲット!』と書かれている。
 内容は一つ2000G(魔力込め代含む)で、魔力のこもった骸骨マスコットを購入できるというもの。その場において実演販売で魔力を込めなきゃいけないので、ベルクの重労働具合はかなりのものである。なお、レティシアの勝負を先に受けて骸骨マスコットを手に入れていた場合は500Gで魔力を込めてもらうことができ、雅羅の災難には適応外である。
「絶対、あいつの嫌がらせに違いない……ぐぬぬ」
 フレンディスから頼まれては断ることはできない。改めて、アリッサの腹黒さを思い知りながら、お客さんがきたら対応するほかなかった。
 ……腹黒商法ではあったが、レティシアを負かそうと頑張った男たちのおかげでかなりの儲けが出た様子である。げに恐ろしきは、男の欲か……。

 ――山岳地方にある名も無き村へやってきた葛たち。村から少し離れた場所へ白滝やレッサーワイバーンたちを待機させ、小型飛空挺だけを村の広場に下ろすと、店主は葛たちの販売方法を聞き、なるほどと頷いた。
「せっかくここまでやってきたわけだし、俺も手伝わないとな!」
 腕まくりをすると、店主はこれから行商を行なうから広場に集まるよう、村の人たちへ伝えにいった。ここまで機嫌がいいのは、同行したリカインが教えてくれた業者確保の報のおかげかもしれない。
 ……少しすると、村人たちが広場に集まってくる。あまり人の来ない地域だからか、珍しい行商に興味を引かれているようだ。小型飛空挺アルバトロスから看板を取り出すと、その看板にはダイアの『ソートグラフィー』で描かれた龍人族の谷の風景(葛のレッサーフォトンドラゴンの白滝と、従者であるスパルトイのいりこさんも描かれている)が大きく写っていた。村人たちはその看板に簡単の言葉を上げる。
 準備が整ったことを葛たちに知らせると、さっそく葛たちも行商を開始。――小型飛空挺アルバトロスを駆るダイアは、荷物を降ろし終えると、一度その場を飛空挺ごと離れていく。すぐなくなるであろう水晶を補充しにいくためだ。
 アルバトロスが飛び立ったのを合図に、葛とヴァルベリトは豪華に飾りつけたレッサーワイバーンに乗って広場へと神々しく空から下りてきた。
「おお、龍じゃああ……龍が降り立ったぞぉぉぉ……」
「ありがたやありがたや……」
 龍関係の人気が高い……というよりは、神格化しているほどらしく、村人たちは拝んだりして龍の登場を大歓迎しているようだ。
 続いてレッサーフォトンドラゴンである白滝も空からゆっくりと下り立つ。白滝は美麗な白龍であるため、その神々しさも増して見える。ただ、気位の高い性格のためか愛想はまったくない。
「今回お持ちしましたのは、龍騎士の従者であるスパルトイを模したマスコット! このマスコットと共に付けますは龍人族の谷奥深くでのみ採掘できる水晶。対となるこの二つを持ち歩けば、きっと災厄からあなたをお護りすることでしょう! 今なら龍の加護も得られて……1500Gでお譲りします!」
 葛の従者である高位のスパルトイ・いりこさんの剣舞パフォーマンスなどで盛り上がる中、声高らかに商品の説明をするヴァルベリト。実は最初、15Gで売ろうとしていたところを店主に怒られてしまったりしていた。
 しかし、すぐに店主は「商人ってのは利益あって何ぼだ、慈善事業ってわけじゃない。商品は商人の心でもあるし、それを安く売るって考えはやめておきな。――催眠商法にかかった、俺に言えた義理じゃねぇけどよ」と、ヴァルベリトの頭をポンポンと軽く叩きながら、商人としての心構えを口にする。
 いつかは立派なトレーダーになりたい。そんな夢を持つヴァルベリトの話を移動中に聞いたからこそだろうか、店主は応援したくなったのだろう。その叱咤激励を受け、ヴァルベリトは元気良く商売に励む。
 水晶の在庫を取って広場に戻ってきたダイアは真面目に取り組むヴァルベリトの様子を見て、小さく微笑んで少し見直しているようであった。
 ……やはり人気がものを言ったか、すぐに持ち込んだ在庫分売りきり、葛たちや店主は機嫌良く雑貨店へと戻ることにしたのであった。