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忘れられた英雄たち

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忘れられた英雄たち

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 二十五章 蒼の空へ


 ネームレス戦隊の慰霊祭の準備中。

 動ける者は慰霊祭の準備を手伝い、動けない者は安静にさせられ治療を受けていた。
 それでも、死者が出なかったのは奇跡と言っても差支えが無かい結果だろうか。

 氷藍は隊員たちの持っていた武器にサイコメトリを使用し、彼らが歩んで来た道のりを調べた。
 そして得た情報をレオは調べた情報と照らし合わせ、情報を纏めていた。

 ルカルカとダリルは飛空艇に山盛り積んだ弔いに必要な花を降ろし、準備を行っていた。

 そう準備を行う者達の一角。
 アキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)クリビア・ソウル(くりびあ・そうる)は、カルキノスの運んできた慰霊碑の前で話をしていた。

「ネームレス戦隊ですか……。私もかつて名を奪われた事があります」
「ああ、そうだったな。名前が無いってのは、どんな気分なんだい?」

 アキュートの問いに、クリビアは少し考えてから口を開いた。

「そうですね……。手で水をすくう様な、己の成した事、成すべき事に、一切の意味が見出せず、全て零れ落ちてしまうような……」
「器が無い……。そんな感じか?」
「そうですね。名前というのは、思っているより重要なモノなのですよ。この世に己の魂をを留める、最初の、大事な器なんです」
「成程な。墓標に名前でも刻んでやれば、こいつらも、ちったあ安らぐのかね?」
「ええ、是非、お願いしますよ」
「なんでえ、俺が名前付けるのかよ」
「得意でしょう?私の名前も、付けてくれたじゃないですか」

 クリビアは悪戯っぽく笑う。
 アキュートは少し肩をすくめながら。

「仕方ねえなあ……」

 そう了承するのであった。

 ――――――――――

 慰霊祭が始まる頃には、太陽は完全に昇りきっていた。

 見上げれば雲ひとつない空は、青く澄み切っている。
 そんな青空の下。昨日の戦闘で死亡した七人の葬儀が、遺跡のなかで行われていた。

 白花が鯨ひげのヴァイオリンでレクイエムを奏でる。
 ダリルが聖書のようにノパソを開き『聖書の詩篇第23篇』を朗読する。

 プログラムは着々と進み、やがて最後に差し掛かった。

「亡国の英雄。死してなを、戦い続けた気高き戦士」

 レオの声が辺りに反響した。
 参列するのは、戦いに参加した次世代の英雄たち。
 忘れられた英雄たちに託された言葉を胸に刻み込み、冥福を祈り祈祷を捧ぐ。

「七人のヴァルキリーよ、ここに眠る。その魂に救済のあらんことを」

 レオは祈祷を終えると、並べて立てかけられた赤い武具の前に花束を供える。
 そして列を下がり、参列者が前に出た。八つの紅の墓標に、赤や白の花を手向ける。

 色とりどりの花が飾られた、英雄たちの墓。
 もう一度整列し直した次世代の英雄たちは、それぞれの武器を抜き出し、天に掲げてから、地面に突き刺した。
 そして、レオが厳かに呟いた。その声に、最大の敬意と自らの矜持を含ませて。

「歴史が彼等に脚光を浴びせる事が無くとも、私たちは忘れない。
 彼等の壮絶な生き様を。名を明かす事すら許されぬ彼等の高潔を、僕たちの心に刻み込もう。
 歴史の闇に消された英雄たちの犠牲の上で成り立ったこの平和を。
 忘れられた英雄たちが守ったこの美しいパラミア大陸を。
 だからこそ、僕たちは誓う。この現世を守り続けることを。
 僕たちは忘れない、いつまでも語り継げよう。
 ――英雄の戦隊の物語を……!」

 レオの声と同時に、八つの武具から解き放たれたかのように光の粒が散る。

 光は魂の輝き。
 それは平和な世界を夢見、戦場を駆けた英雄たちの魂の欠片。

 儚い光の粒子は荒野の風に乗り、蒼の空へと旅立つ――。