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【なななにおまかせ☆】恵方巻き冬の陣!?

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【なななにおまかせ☆】恵方巻き冬の陣!?

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第一章 交錯する思考

「ヒャッハー!!!」

 いつもなら、そんな掛け声をあげるはずのパラ実の生徒。
 だが、目的地に向かうパラ実の、ヴェルデ・グラント(う゛ぇるで・ぐらんと)は違った。
 木から木へと飛び移るヴェルデの動きは忍者そのもの。
 それを追う様に地を行くエリザロッテ・フィアーネ(えりざろって・ふぃあーね)は空を見上げながら、恨めしそうに呟いた。

「何がスタイリッシュに事件を解決するよ! ついていくあたしの身にもなりなさいよ」

 フライング恵方巻きが恵方巻き鬼を生み出している以上、フライング恵方巻き自体を止めなければ鬼が増え続ける。
 まともな常識人っぽい対応は、パラ実では異端児と呼べるかもしれない。
 真紅のモヒカンに真っ赤なツナギは派手だが、この行動ヴェルデにとって普通である。
 エリザロッテもそんな性格の彼の事を重々承知しており、あるアドバイスを教えていた。

「おそらくは製造元、もしくは今年の恵方……」

 何かしら重要な情報が得られそうな二つの問いに、ヴェルデが気にする恵方巻きが飛んでくる方向が合致した。
 方角は場所はヴェルデの向かう方角。
 行き先はスーパー【トヨトミ】だ。



 ☆     ☆     ☆



「む、むむむっ、あの動きは…………」

 金元 ななな(かねもと・ななな)の無線を聞いた戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)だが、フライング恵方巻きを見て立ち止まってしまった。
 ピチピチと飛び跳ねるように蠢く、黒い恵方巻き。
 それがもしも、アイスキャンディーやフランクフルトでやれたら……。
 黒い(桃色?)呪詛は小次郎の脳内に入り込んだのだろうか?

「ぜひ、やらねばです!」

 小次郎はなななの援軍には向かわずに、ジャンプ一番で一匹の恵方巻きをゲットする。
 手に掴むと恵方巻きの表面は乾燥しておらず、作りたてのようだった。
 食べ物が勝手に増える訳もない……と言うことで浮かぶのは、スーパーの惣菜調理場だ。
 小次郎はデジタルビデオカメラを携えると、もちろんスーパー【トヨトミ】に向かう。



 ☆     ☆     ☆



「人がせっかく公園でのんびりしてたのに……。面白そうな事をしてますわね。じゃあ、少しの間、遊んで差し上げますわ」

 大型の鬼が、漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)による魔鎧を纏った小柄な少女の元へ突進してきた。
 だが、中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)は少しも慌てる様子なく、左手を突き出し鬼の動きを制する。
 恵方巻きを食わせようとする鬼は、スキル【歴戦の立ち回り】を使用した綾瀬に遅れを取らざる得ない。

「その手にした物は恵方巻きですか……それでは質問をさせて頂きますが『今年の恵方はどちらでしょうか? 傍観していましたところ、皆様、様々な方向を向いたまま無理矢理食べさせられてているご様子ですが?」
「???」

 恵方とは、陰陽道でその年の福を司る神の存在する方角である。
 2022年の恵方は北北西で、恵方巻きをその方角を向いて食すと幸運を招くという。
 だが、鬼と化した人は、それを理解している様子はなく、無理やり食べさせようとするに過ぎなかった。
 その事が綾瀬の気に障ったようだ。

「そしてもう一つ……先程から無理矢理食べさせていますが、恵方巻きは本来『無言で食べる』もののはず……ちょっと、最後まで聞きなさい!」

 だが鬼も聞いているだけではなく、野太くなった腕を振り回して暴れてくる。
 綾瀬はフワリとそれを避わすと、後ろに飛びのき、扇を構えた。

「まったく、乱暴な鬼たちですわ。拒否の言葉も発してはいけないのに……、貴方様方は恵方巻きでは無く『ただの太巻き』を無理矢理食べさせているだけに過ぎません事よ!」

 綾瀬は仰ぐと大風を起こす扇を使用し、鬼を転ばしていく。



 ☆     ☆     ☆



 泉 美緒(いずみ・みお)たち恵方巻き鬼が、空京市街に出ないように出口を警護する金元 ななな(かねもと・ななな)の傍らには、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)のパートナーであるノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)がいた。
 節分だったので、偶然にも恵方巻きをパクついていたノーンは、恵方巻き鬼のターゲットから除外されている。
 不思議な事に、普通の恵方巻きを食べた者には鬼は襲ってこない。
 つまり、フライング恵方巻きさえ食べなければ、鬼に変化する事はないのだ。

「まだ被害は公園内に収まっているけど、外に出したら……せっかく、CY@Nのトークショーのチケットを手に入れたのに……」

 そんな事を考えるとゾッとする。
 皆がなななやノーンのように、恵方巻きを食べているとは限らない。
 鬼が市街から逃げ出せば、かなりの人間が鬼になって、彷徨い始めるに違いないだろう。
 しかも、鬼たちは一般人の変化した姿で、殺すわけにはいかないし、かと言って傷つけるのも危険すぎる。

「♪〜♪♪〜♪ ♪〜〜♪」

 ノーンは囁くように【子守唄】を歌うと、鬼をふらつかせた。
 大きな音を立てて膝を突く鬼たち。
 だが一曲を聞き終わるまでの時間を稼ぐのは難しい。
 【氷術】との併用も、物量作戦の前では厳しく、戦況は悪くなっていった。

『ベントラー(弁当屋)! ベントラー(弁当屋)! 恵方巻き、嫌いな奴はいねがー? この三本目の恵方巻き、美少女限定で食えええぇぇッ!!』
「きゃああああぁぁぁッ!?」

 バシイイイィィンッーーーツ!
 打撃音が交差する。
 どうやら、その鬼の中に南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)がいたらしい。



 ☆     ☆     ☆



 光一郎の恵方巻きによる攻撃を防いだのは、健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)だった。
 敵の腕に当身をあて、払いよけると眼鏡を僅かに動かした。

「あちゃ……美緒さん、また酷い目に遭ったな……何とかしないとな」

 応援要請を受けた勇刃は前方に飛び出し、鬼たちの注意を引くように動く。
 どうやら、前衛と後衛と言った陣形を作り出したいようだ。
 人数が多ければ多いほど、陣形は重要となる。

「えっと、一般人なので攻撃はできませんね……それなら、ヒプノシスで皆さんを寝かしますね!」

 天鐘 咲夜(あまがね・さきや)もスキル【ヒプノシス】を使用し、鬼たちを眠らせていく。
 だが、それをレジストする鬼もいるし、光一郎のように力を持った冒険者たちが鬼になった場合、知能は落ちるようだが筋力は上昇して強くなる傾向があるようだ。

(おおよその事情は察したが厄介だな。食べ物も粗末に出来ないし……)

 勇刃はチラリと熱海 緋葉(あたみ・あけば)の方を見た。
 こんな時には緋葉が役に立つからだ。

「ええ!? ちょ、ちょっと、何よこれ! みんなの頭に角が生えてるじゃない! しかも無理矢理に恵方巻きを食べさせようとしているし! こんなの絶対おかしいわよ! 何とかしないと!」

 しかし、わめく緋葉は勇刃の視線に気づいていない。
 ノーンと一緒に【子守歌】を奏でる紅守 友見(くれす・ともみ)は鬼たちの行進に手一杯の様子だ。
 ただ救いなのは、咲夜によって勇刃も恵方巻きを食べている事だった。

「今日は節分なので、恵方巻きを作ってみました。健闘くんが喜んでもらえて、私も嬉しいです!」

 咲夜、友見は食べていないが、緋葉は食べているため、一部少数の鬼を除いて攻撃はしてこない。
 その一部の鬼らも、たまにしか攻撃をしてこないのは有利このうえなかった。
 だが、あくまでそれは恵方巻き鬼をスルーする場合のみだ。
 鬼らの目的は、人間に恵方巻きを食べさせる事だし、その数もどんどんと増えていく。

「どうしよう。子守歌で寝かせるには人数が多すぎますわ。何か作戦を考えないと」

 友見の言葉通り、勇刃らが公園の出口を守る以上、どうしても鬼を足止めせざる得なかった。



 ☆     ☆     ☆



「だ、大ピンチです!?」

 しかし、その言葉通りのピンチには違いなかった。
 三人の生徒らを渦巻くように旋回するのは、フライング恵方巻き達。
 クナイを投げながら叫ぶ火動 裕乃(ひするぎ・ひろの)を嘲笑うように動く、動く。

「美味しそうだけど、絶対に食べたくないわね……」

 裕乃のパートナーである伊撫神 紀香(いぶかみ・のりか)も、身体を翻しながら恵方巻きから逃れていた。
 もう一人のパートナーである長谷川 平蔵(はせがわ・へいぞう)も、払いのけるしかない状況である。

「てやんでぇ、鬼平ことこの長谷川平蔵を舐めるんじゃねえ! うわっ!? どうすりゃいいんだ、裕乃!!」

 だが裕乃もそれどころではない。
 この三人、いつまで抵抗できるだろうか……。


 ☆     ☆     ☆



「何だ!? この血沸き肉踊るエキサイティングな展開は……フライング恵方巻き、鬼……それに宇宙刑事ななな!!!」

 そんな時、たまたま空京に買い物に来ていて、たまたま事件に出くわしたのはドクター・ハデス(どくたー・はです)たち一行だった。
 ハデスの目の前で、恵方巻き鬼と一緒に居る金元 ななな(かねもと・ななな)
 カチャカチャカチャカチャ……。
 ハデスは頭脳の中で、独自の論理を打ちたて始める。

 この騒動? → 悪の秘密結社である我々の宿敵、宇宙刑事なななが黒幕!
 我こそは? → 秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス!
 我が目は? → 節穴ではない! 他の者の目は騙せても、この俺の目は誤魔化せん!
 つまりは? → 恵方巻き鬼は宇宙刑事なななの仲間! 恵方巻き鬼はなななを攻撃してないのが証拠!

「この飛んでいる恵方巻きも、仲間を増やすためになななが仕組んだに違いない! すべての黒幕は、宇宙刑事ななな……貴様なのだっ!」
「ええぇっ!? なななさん! 正義のはずの貴女がどうしてこんなひどいことをっ!?」

 その推理にはアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)も驚いた。
 だが、参謀である天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)も、ハデスの意見に賛同したからたまったものではない。

「先ほど入ってきた情報によると……確かに、美緒さんが恵方巻きに襲われるところを見ていたのは、なななさんだけ。それを証言してくれる人はいません。つまり、アリバイのないなななさんが黒幕である可能性が非常に高いということです。被害者(美緒)の第一発見者が犯人というのはミステリーの基本ですね」
「そ、そんな……こうなったら、この私が、これ以上の罪を重ねる前に止めてみせます! オリュンポスの騎士アルテミス、参ります!」

 単純で純情なアルテミスは、ハデスらの言葉を信じて、大剣【緑竜殺し】を抜くと戦闘態勢に入った。
 十六凪はその横でほくそ笑みながら、なななを見つめていた。

(ふふっ、なななが黒幕でない事は明白ですが、ここで奴らの戦闘データを取るのも一興でしょう)

 なななの方はハデスたちを見つけて、厄介な相手が現れたと思った。
 それは……この戦いが敵味方入り乱れての、混戦になる事を意味したのだからだろう。