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取り憑かれしモノを救え―救済の章―

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取り憑かれしモノを救え―救済の章―

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●再生の力

 膨れ上がったゼラチン質の単細胞生物――スライム――は、ぷるんぷるんと体を揺らしながら酸を撒き散らしている。
 これでは近寄れない。そう思っている人と、
「よしっ、そこだ、溶かせ!」
 なんていう、煩悩にまみれた呟きをしている閃崎静麻(せんざき・しずま)みたいな人物もいる。
 木陰に隠れて、スライムの行動を見ている静麻は時折そんな煩悩にまみれた呟きをしているのには理由があった。
 目の前に広がるのは、魔法戦。
 ただし自身とは相性が悪すぎる。だからこそ、魔法が使える助っ人が到着するまで機を待っているのだ。
「しかし、でかいなあ……」
 素直な感想を述べる。膨張したゼラチン質の体は木々よりも背が高い。
 辺りに撒き散らされる酸が煙を上げているが、本当に人体に影響がないのかも怪しいくらいだ。
「……む?」
 まず異変に気がついたのは涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)だった。
 体に力が漲っている。
 結界に入ったときの体の重さが少しだけ緩和されていた。
「これは……、どこか一つ結界の要をどうにかできましたか……」
 呟き、そして、
「皆さん、一気に押しましょう!」
 そんな号令と共に、魔法を放つ。
 主に炎熱の術式が辺りを飛び交う。
 考えることは皆一緒のようで、水分からできているのならば蒸発させてしまえという話のようだ。
 元々その考案をしていたのは、秋沢向日葵(あきさわ・ひまわり)だ。まだ契約者としては未熟な部分はあるが、その推測は的を射ていた。
「みんな、力を合わせましょう」
 そういって、パートナーのアンデルセン著「雪の女王」(あんでるせんちょ・ゆきのじょおう)――雪――とエイン・ヒューレン(えいん・ひゅーれん)に攻撃のタイミングを合わせるように言った。
 もう一人のパートナーモルル・エルスティ(もるる・えるすてぃ)は、炎熱の術式が使えないため、戦いの輪の外から危険予測をしている。
 3人の【火術】が連なり、スライムの体の一部を抉り取った。
 しかし蒸発仕切れなかった水分は、酸の攻撃として、向日葵に降り注ぐ。
「危ない!」
 モルルが声をあげた。
「よし、行け!」
 それにかぶさるように、木陰から身を乗り出して静麻が言う。
 緊張感が台無しだった。
 しかし、モルルの声は届いたようで、雪が身を挺して向日葵を突き飛ばす。
 そのときに服の一部が溶けてしまうが、静麻の期待しているような露出ではなかった。
「野郎の露出なんて……くぅ……!」
 がくりと肩を落とす静麻だったが、一応はまだばれていないらしい。
「全く、体液に気をつけた方がいいって言ったのは誰だったかなぁ?」
 ちょっとだけ険を込めて、雪は向日葵に手を貸した。
「ごめんねー」
 のんびりと謝る向日葵。
 そんな向日葵と雪の関係をエインは見ていた。
「私も雪みたいに向日葵を助けられるようになりたいなー……」
 そして頑張らないとと気を引き締めて再度、スライムへと向かう。
 体積はさっきの一撃で減りはしたものの、まだ大分ある。というよりも減ったようには見えないくらいしか減っていない。
「北都も気をつけてくださいね」
 リオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)がやる気に満ちた様子で、清泉北都(いずみ・ほくと)に言った。
「分かってるよー」
 降り注ぐ体液の雨を華麗に交わしながら、湖の周囲を【ヴォルテックファイア】の火炎で充たしていく。
 炎の渦に閉じ込めてしまえば、持続的なダメージを与えることができるだろう。
 そして、触手のように伸びてきた体の一部はリオンの【我は射す光の閃刃】の光の刃が断ち切っていく。
 あられもない北都の姿は誰にも見せないという意思と、効果は発動していないようだが、ひょこひょこ揺れ動いている北都の犬耳と尻尾で気合が違っていた。
「リオンも気をつけて、コイツの酸は本当に強力みたいだ」
 北都は向日葵たちの様子を見ながら言った。
 服の一部が瞬時に溶けている雪の様子を見て、そう思った。
「ええ、分かっていますよ。それにしても……」
 大分魔法による攻撃を受けているにもかかわらず、スライムはタフだった。徐々に縮んではいるようだったが、それでもまだ体長はリオンの倍以上はある。
「危ないですわよ!」
 声が一つ北都たちに離れて欲しいように響く。
 エイボン著『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)が自身の依り代の、羊皮でできている[禁忌の書]を開きながら、詠唱を始める。
「魔法陣展開」
 その声に呼応するように、エイボンの書の周りを魔法陣が取り囲む。
 【禁じられた言葉】による術式の増幅だ。
「魔力開放、轟け――雷鳴!!」
 ぶわっと辺りに濃密な魔力があふれ出し、周囲に【サンダーブラスト】の雷が落ちる。
 それは、スライムの周囲を取り囲んでいる北都の【ヴォルテックファイア】に呼応する形で、さらに炎を巻き上げる。
 ちょっとした火種が、周囲の草木に伝播しメラメラと燃え上がる。
「後もう一押しかな――」
 誰かがそういったとき、スライムに異変が起こるのだった。