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花屋の一念発起

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花屋の一念発起

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『栄養が足りない。もっと栄養をちょうだい』

 先ほどまで大人しかった花は再び不満を叫んでいた。
「すぐに持って来ます」
 花屋なので必要な物は全て揃っているため盈月は迅速に栄養剤をお喋りな花に与えた。

『こんな、まずい物、入れないでよ。根がおかしくなっちゃう』

「……他の物ですか」
 花の要求に少し困ってしまった。花が訴えるような上質の美味しい栄養剤は盈月が確認した限り置いてはいなかった。

 そんな時、

「何か必要な物はありませんか?」
 銃型HCを持った舞花が現れた。

「必要な物ですか、栄養剤をお願いします。お店にある物では合わないみたいで」
「それでしたら最高品質の栄養剤を注文しますね。少しだけ待って下さいね」
「ありがとうございます」
 盈月の必要な物を記録してから奮闘しているミッシェルの所に行った。

 盈月はしばらくの間、
「少しの我慢ですよ」
 そう花に話しかけながら栄養剤を待つことにした。

『こんなまずい水なんかいらない。もっと美味しい水をちょうだいよ』 

「……美味しい水ってあげた以外ないわよ」 
 うるさい要求を聞いたというのにそれに文句を言われてはたまらない。しかも、不満を満たす美味しい水なんかこの店には無い。

 ちょうど良い具合に舞花が登場した。
「何か必要な物はありませんか?」

「美味しい水があれば大人しくさせることが出来るわ」
 舞花の言葉に即答した。数秒でも早く花を大人しくさせたい。 
「……美味しい水ですね。すぐに調達しますから待ってて下さい」
「なるべく早くしてね」
 銃型HCに記録してから舞花はミッシェルと別れた。

「さて必要な物はこれぐらいですね」
 舞花は調達内容を再度確認してから取り寄せた。
 『資産家』があるので費用については何も問題はなく、『根回し』によって迅速に品を調達でき、『博識』によって選ぶ商品には間違いが無い。

 数十分後、最高品質の栄養剤、栄養たっぷりの肥料、素敵な鉢植え、どんな花も満足する水が届いた。数は大量で花にとって必要不可欠な水は小型の給水車で登場した。
 あっという間に現在の不満は解決した。

 しかし、花達の不満の合唱は続く。

『水、水、水、水、水』

「……水って、さっきあげたのに」
 ミッシェルはじっと水を要求する花を見つめていた。

「引っこ抜こうかしら。引っこ抜いたところで誰かが死ぬわけじゃないんだから引っこ抜いちゃえばいいんじゃないかしら。うるさいのは一瞬だけ、問題ないはず」

 手を花に伸ばし、ゆっくりと持ち上げようとした時、

「あっ、抜いちゃ駄目です!!」

 ミッシェルの行動に気付いた盈月が止めようと言葉をかけた。

「……三百瀬さん、大丈夫よ」
 ミッシェルは手を止め、何でもないことを示すために手を花から離して答えた。
 止めに入った盈月は舞花が調達した鉢植えを持って不満を吐き出す花の相手に戻って行った。

『水、水、水、水、水』

「……でもうるさい。少しは大人しくして」
 引っこ抜くのは諦め、じっと花を見る。引っこ抜けないのなら少しばかりの腹いせに花の首根っこを捕まえて少し引っ張ってみる。
「……あ、これちょっと楽しいかも」
 くいくいと引っ張って少しだけ落ち着くも聞こえてくる不満はやまない。

『肥料、最高の肥料が欲しい』
『こんな狭い鉢植えに咲きたくないわ。根がこってたまらないわ』

「……水に肥料に植木鉢とうるさいわよ。引っこ抜かれたい?」
 じっと叫ぶ花々に苛立ったように言い放つも彼女に答える言葉を相手は持っていない。

「……はぁ、あなた達が皆大人しくなるまでお世話してあげるわ」
 答えない花にため息をついたミッシェルは、手を花の首根っこから離して花のために世話を続けた。

『虫、虫、早く追い出してちょうだいよ』

「……どうしよう、虫が」
 いきなりの害虫に盈月は戸惑ってしまった。
 盈月の声を聞きつけた舞花が現れた。

「大丈夫です」
 先ほど調達した栄養たっぷりの土を使って生み出した『種モミマン』に害虫駆除をさせた。この後、『種モミマン』力仕事にも従事することに。
「ありがとうございます」
 盈月は助けてくれた舞花に礼を言った。花はすっかり静かになっている。
「いえ、お役に立てて良かったです」
 舞花は、そう言って栄養剤を要求する花の元に戻って行った。

「手伝いに来ました」
「何か手伝えることはないか? あとはこの部屋にいる花だけだぞ」

 リュースとリクトが賑やかな事務室に現れた。二人はたっぷりとガヤックを説教し、慰めてからすっかり綺麗になった店内を通り抜けて来たのだ。

「この部屋だけということはラグランツさん達、あの花を助けることができたんですね」
 鉢植えと共に事務室に移動した時のことを思い出し、盈月はほっとした。

「それでは事態収拾まであと少しですね。頑張りましょう」
 舞花も事態が少しだが好転してきていることに安心した。

「……あともう少しね」
 ミッシェルも終わりに向かいつつあることにほっとしていた。

「とりあえず……」
 近況を話した後、不満を口にし続ける花のためにリュースは『幸せの歌』を歌った。『演奏』を使用した彼の歌は、花達の心に強く響き、言葉を奪ってしまうほど幸せな気分にさせた。歌で癒されるのは何も人だけではないということだ。

「水も肥料もやりすぎは毒ですし、あまり声を上げると可愛い声が台無しですよ」
 落ち着いた花達にリュースは歌う前に水や肥料を要求していた花達にいつものように愛情を込めて優しく語りかけた。

「せっかくの可愛い顔なのに怒ったら台無し、笑顔の方が可愛いぞ。今のままで十分だぜ」
 リクトは栄養剤を激しく要求していた花に笑顔で話しかける。人だけではなく花も笑顔の方がいい。鮮やかに咲き誇り、元気なのが一番。

「……ガヤックさんに話してからになりますが、いくら失敗作とは言ってもちゃんと枯れるまでお世話をしてあげたいです」
 優しい言葉でさらに花達を大人しくさせるリュースとリクトに続いて盈月も静かになった花と目を合わしながら優しく言葉をかけた。この後、盈月はガヤックに話し、自分が相手をした花を連れて帰り、花は枯れるまで部屋を賑やかに飾った。

「……あとは散歩する花だけですね」
 舞花はヘッドホンを外して静かになった花を見渡しながら残る迷惑植物の名前を呟いた。

「……ようやく解放ね」
 ミッシェルは疲れたように息を吐いた。うるさいと何度か言いながらも何とか花達の世話をし終えた。

 五人は、街に花を追いかけて行った仲間達が戻るまで一休みをすることにした。