シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

優雅と激流のひな祭り

リアクション公開中!

優雅と激流のひな祭り

リアクション



終章 『母と○○が早く訪れることを』


「ふえぇ、疲れた……」
「静香さんも皆さんも、お疲れ様ですわ」
 ラズィーヤは激流下りを終えた面々を迎え、労いの言葉を掛けた。
 へとへとになっている静香だが、まだまだ元気な人たちも居る。
「タコがあがったぞ! さあ、刺身の準備だ!」
 カルキノスがタコ足をドサリッと置く。
「たこ焼きの用意は出来てる?」
 美羽も待機していたベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)を呼んだ。
「大丈夫です。準備は万端ですよ」
 鉄板を加熱し、生地をこねるベアトリーチェ。
「外はカリカリ、中はトロトロの熱々。最高のたこ焼きを作ってあげます」
 メガネが多少曇っているが、これは熱気のせい。断じて危険信号ではない。
「期待してるよ!」
「静香さんも、水分を取って疲れを癒してください」
 桃のジュースを手渡す。
「ありがとう、ベアトリーチェさん」
「いえいえ。雛あられや桃花酒、桃まんじゅうも用意してあります。出来上がるまで、皆さんもくつろいでいてくださいね」
「酒だ! これがなけりゃ風流とは言わねぇだろ!」
「カルキはやはり、食べ物中心だな」
 嘆息するダリル。
「あれ? セレンフィリティ、着物脱いじゃったの?」
「濡れたからね。でも、下は水着だから大丈夫」
「うん、そっちのほうがしっくりくるね」
「ルカルカもそういう認識なのね……」
 セレアナも嘆息する。気苦労の多い二人だ。
「ところで皆さん、TV放映のことをお忘れになられていませんこと?」
『そうだった!』
 ラズィーヤのおかげで思い出す。
「でも、無事に下りきるって曖昧ですわ」
「会場までたどり着いてる方は結構いるますわ」
 イングリットと美緒がラズィーヤに尋ねる。
「ええ。ですから厳正なる審査を行い、放映権を獲得された方をご紹介しますわ」
 そう言って紹介されたのは二人。
 まずは、仕丁の出で立ちの南天 葛(なんてん・かずら)
 怒り、泣き、笑い、の表情から三人上戸とも言われるのだが、彼らには良く当てはまっている。
「実はボク、お母さんを探しているんです」
 カメラに向かって切実に語りだす。
「この番組に参加したのも、パラミタ全土に放映されるからって聞いて、それで……」
「ほら葛、お母さんに声が届くようにしっかり」
 隣から白銀の狼、ダイア・セレスタイト(だいあ・せれすたいと)が優しく応援する。
「このために激流くだりを頑張ったんでしょ?」
 葛は激闘を思い出す。
 【ランバレスト】で芸人を退け、時には動物の力も借りた。
 危なくなれば、ダイアが【ヒプノシス】で援護もしてくれた。
 そして、この舞台を勝ち取ったのだ。無駄にしたくない。
 いざ呼びかけを、とした矢先、横槍が入った。
「オレも忘れちゃ困るぜ」
 声の主はヴァルベリト・オブシディアン(う゛ぁるべりと・おびしでぃあん)。ダイアと同じく、葛を援護していた。
「【サイドワインダー】で落としたあいつらと来たら、今でも笑えるぜ」
 悪魔らしい笑みをこぼし、葛を見る。
「って、何だ? まだちんたらやってんのか? さっさと言いたいこと言っちまえよ」
 促すヴァルベリト。しかし、当の葛は嗚咽を漏らし始めた。
「何泣かしとんじゃごらぁ!」
 ダイアの咆哮。ヴァルベリトは耳を押さえる。
「え!? 何で泣くんだよ!? そんなに酷いこと言ったか!?」
「せっかく勇気を振り絞っているところに、余計な茶々を入れて気を削いだんだ。時と場合を考えな」
 気弱な人なら、それだけで泣いてしまうことがある。ましてや、子供なら尚更だ。
「泣かすつもりなら、容赦しないよ」
「オレは泣かすつもりなんてねぇよ! ただ、ばかずらが――」
 急に口を噤む。
「ただ、なんだい?」
「別に、何だっていいだろっ!」
 そっぽを向くヴァルベリト。
 本当は、「ただ、ばかずらが早く母親を見つけられるように」そう続く。
 しかし、性格からか葛の前では言い出せない。
「まったく、難儀な性格だね」
 ダイアもそのことは分かっている。
「今日はばかずらの誕生日。母親を見つけるために奮闘しているんだ、放映権獲得が最大のプレゼントになるぜ」
 そう呟いているのを目撃したのだ。
「いつかは素直になれるのかね」
 未だ背を向けるヴァルベリト。
 やれやれと首を振り、ダイアは葛に向き直る。
「ほら、葛。気を取り直して頑張りなさい」
「うん……頑張るっ」
 目尻に溜めた涙を拭い、叫ぶ。
「お母さん、葛だよ! パラミタに会いにきたよ! このロケットに見覚えのある方いませんかーー!」
「上出来じゃないか」
「うん!」
「TV局に何か連絡がくれば、わたくしがご連絡いたしますわ」
「お願いします」
 丁寧にお辞儀し、葛はダイアと共に母親探しに旅立つ。
「ベリー、行くよ」
「ちっ、わーったよ」
 渋々付いていくヴァルベリト。でも少し、少しだけ、頬が緩んでいたのは気のせいではない。
「さて、もう一人ですわね」
 ラズィーヤは名前を呼ぶ。
「『エヴァルト☆マルトリッツ』って、本当にこれでいいんですの?」
エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)だ! おまえの所為で『エヴァルト☆マルトリッツ』のまま提出するハメになっただろおぉぉぉ!!!」
「え? かっこいいじゃん」
 しらじらしく応えるロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)
「どうしてボールペンしか用意してなかったんだ?」
「なんか、かっこいいじゃん? ボールペン」
「意味わかんねーよっ!」
 会場に居る全員が思った。
『馬鹿だな、こいつら』
「そんなことより、ほらほら、撮影撮影」
 エヴァルトをカメラの前に押し出すロートラウト。
「お茶の間はぼーん! 木っ端微塵! なのを頼みますよー」
「ハードル高ぇよ!」
 ツッコミを入れ、カメラの前に立つ。
「そこはほら、超ウルトラスーパーダイナミックミラクルハイパーアルティメット――」
「エヴァルト・マトリッツだ」
「最後まで言わせてー」
 ロートラウトの台詞を遮り、話し出すエヴァルト。
「えーっと、特に言いたいことがあるわけじゃないが……」
 無駄に上げられた敷居のせいか、先ほどまでの勢いがない。
「早くしないと、『きんにくモリモリ、きらいだー』って、お茶の間はチャンネルを回しちゃうよ?」
「ここでその話題!? いじめか!? 俺の筋肉いじめて楽しいか!?」
「ツッコんでないで、早く早く」
「誰のせいだと思っているんだ!?」
 気を取り直すため、深呼吸をする。
「よし、いくぞ!」
「こんばんわ。19時55分、夜のボクちんです」
「そんな時間じゃねぇだろ! って、何勝手に映ってんだ!」
「えー、少しは映っていいって言ったじゃん」
「それは二人だけの約束だろ! みんなの前で言うなよ!」
 収集が付かなくなってきた二人。
「放映は漫才ということで、もう終了でよろしいわね」
 さすがのラズィーヤも、事態の収束に取り掛かる。
「ふう、疲れた疲れた」
 流れてもいない額の汗を拭き、ひな壇へ腰掛けようとするロートラウト。
「今! 俺の怒りが……有頂天に達したぁ!」
 奇妙な言葉と共に、エヴァルトが発狂。事の根源へと地を蹴る。
 危険を察知したロートラウトは向き直り、
「ひょいっと」
 軽々しく避ける。
「もう、服汚れるじゃないですか」
 抗議を上げようとするが、
「あ……」
 後ろはひな壇。
 日頃から「筋肉筋肉ー」と鍛錬しているエヴァルト。その体格、堅固さは折り紙付き。舞台骨を幾本も巻き込んでいく。
 そうなるとどうなるかなど、誰だってわかるだろう。
「た、退避ー!」
 轟音と共に崩れだすひな壇。
 そして――

「ぷはっ!」
 瓦礫の山と化したひな壇の中からエヴァルトが顔を出す。鍛錬の賜物と言うべきか、無傷だった。
「うおっ! これは一体!?」
 どうやら我には返ったらしい。
「誰がこんなことを!?」
 辺りを見渡して犯人を捜す。が、会場に居た全員の視線がエヴァルトに集中していた。
 物理的威力は皆無だが、精神的威力は計り知れない。
「えっと、これは、あれだ……」
 事の次第を悟ったエヴァルト。
「よく言うだろ? ひな壇は早く片付けないと、婚期が遅れるって」
『それで許されると思うか!』
 雷鳴のような怒声が会場に轟いた。
「ごめんなさいでしたーーー!!!」



担当マスターより

▼担当マスター

Airy

▼マスターコメント

 はじめましての方ははじめまして。そうでない方はご無沙汰しております。
 ゲームマスターのAiry(えありー)です。
 シナリオ『優雅と激流のひな祭り』をお送りしましたが、いかがだったでしょう?

 ジャンルが学園生活となっておりますが……ええ、コメディです。
「こいつ、またか」
 などと思われていそうで怖いですが、すいませんごめんなさい。
 他のジャンルも精進します。
 今は生暖かい目で見守ってください。


 さて、ひな祭りを題材にしたシナリオで、多数の女性キャラが参加をしてくださいました。また、男性も多く参加してくださり、誠にありがとうございます。

 色々波乱ばかりの展開で、最後はあんな感じになってしまいましたが、
「マスターがAiryなら仕方ない」
 と思っていただけたら幸いです。


 それでは短いですが、これにて。
 またお会いできることを願って。