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恐怖! 悪のグルメ組織あらわる

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恐怖! 悪のグルメ組織あらわる

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 背後から襲ってきた怪人スパゲッティ男爵の攻撃に、無限 大吾(むげん・だいご)セイル・ウィルテンバーグ(せいる・うぃるてんばーぐ)廿日 千結(はつか・ちゆ)の三人は苦しめられていた。
 大吾が怪人の足止めをしている隙に、セイルと千結が向かってくる戦闘員を倒して(食べさせて)いるのだが、じわりじわりと追い込まれていく。
 原因は怪人が放つ謎の麺のせいだった。
 蜘蛛の巣状に辺りへ張り巡らされた麺によって、大吾たちは動きを制限されてしまい、思うように動けないのである。

「おい大吾、この麺邪魔だからお前全部食べて処理しろよ」
「大吾ちゃん大食漢だからこれぐらい平気だよねぇ」

 すでに戦闘モードのセイルが無茶なことを言い、千結もそれに同意しているが、

「それは俺の姿を見てから言ってくれないかな……?」

 と、謎麺によってぐるぐる巻きにされた大吾がくねくね動く。
 普段ならばこんな麺ぐらい簡単に引き千切れるのだが、妙に固く締めつけてくる。

「フハハハハ、吾輩の謎料理パワーによってその麺は謎強化されているのだ。簡単には抜け出せまい。残りの二人も今のうちにやってしまうのだ!」

 抵抗する大吾に、スパゲッティ男爵が高笑いを上げる。
 命令を受けた戦闘員が一斉にセイルと千結へ飛びかかっていく。


「淳二、あれもやっぱり料理バトルなんでしょうか?」
「あそこまでいくと料理というよりは謎バトルだよなあ。面白いけど」
「ZZzz……」


 千結は飛び掛かってきた戦闘員をアクロバット飛行でひらりとかわし、空振りした隙をついて塩おにぎりを押し込んでいく。

「こ、この味は……遊び疲れ、腹ペコで帰ってきたときに……おばあちゃんが笑顔で作ってくれたあの懐かしい味!」

 セイルはスウェーで攻撃を避けつつ、カウンターで必殺の桜餅を食らわせていた。
 一級品のもち米と漉し餡を使い、一つ一つ丁寧に仕上げた桜餅は、最後に特製の隠し味によって強化されている。
 その威力たるや、桜餅を受けた戦闘員は全身を爆発させ、素っ裸となってしまう程だった。(あ、やっぱりパンツはあります)
 これを見ていた千結がポン、と手を叩く。

「大吾ちゃん、そこから抜け出す良い方法を思いついたんだけど、死なないでね〜」

 大吾の近くで浮きながらそう言うと、大声でセイルを呼んだ。
 呼ばれたセイルが千結の方に振り向くと、今度は大吾の口を指差してこう言った。

「その桜餅、大吾ちゃんにも食べさせてあげて〜」

 意図を悟った大吾の顔が青くなる。
 味方の盾となって料理を食べる覚悟はできていたが、セイルの桜餅を食べるつもりはまったくなかったのだ。
 大吾はこっそり見ていた、昨日の夜にセイルが怪しげな笑みを浮かべながら作っている光景を。
 いやいやと首を振る大吾の頭を千結ががっしりと掴む。
 その瞳には容赦なく迫りくる桜餅が映っていた。

 ◇

 大吾が謎麺もろとも大爆発を起こしている頃。
 左側の戦闘では異色の雰囲気に包まれていた。

「もう少し、もう少しだから待っててくれ」

 道路の上にシートを敷き、その上に設置した天ぷら鍋を前にトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)が真剣な顔をしていた。
 その後ろではミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)が腕を組み、戦闘員に睨みをきかせている。
 機晶エネルギーにより、摂氏180度で熱せられた油で揚げられているのは、丁寧に下ごしらえをされたエビだった。
 トマスは揚げている天ぷらをときどき箸で返しながら、火が通ったものをお皿に乗せていく。
 本来ならば問答無用に戦闘が起きていても仕方のない状況なのだが、怪人スイカ男や戦闘員もグルメ組織のメンバーだった。
 料理に対する思いは本物なのだろう。
 邪魔をせず、律儀に出来上がるのを待っていたのだ。

「完成だ!」

 最後の天ぷらをお皿に乗せてトマスが言った。
 お皿の上には野菜、魚類、そしてエビの天ぷらが綺麗に並び、揚げたてという格別のスパイスが粒子状の光となって放たれている。
 おお、という歓声と共に拍手が飛び交う。
 意外な展開にトマスが顔を赤くしていると、戦闘員たちの間から怪人スイカ男が近づいてきた。
 顔を強張らせたトマスを守るようにミカエラが前に立つ。
 だが、怪人スイカ男はそれを気にすることなく、トマスへ声をかけた。

「一つ、貰おうか」

 トマスは無言で頷くと、割り箸と天だしをいれた小皿を渡す。
 怪人スイカ男は手馴れた手つきで割り箸を割ると、天ぷらへと箸を伸ばしていく。
 そしてエビの天ぷらを掴むと天だしをつけ、ゆっくりと口へ運んで行った。

 ごくり。
 沈黙が世界を支配する。
 固唾を飲んで見守る中、エビの天ぷらは一口、二口と小さくなっていく。

「ぐおおおおお、ばたっ」

 突然苦しみだした怪人スイカ男は、自分で擬音まで発しながら倒れて動かなくなった。
 いきなりの事態に、材料や手順に間違いがあったんじゃないか、と慌てるトマスの肩をミカエラがぽんと叩いた。

「たぶん、食べ合わせが悪かったのよ」

(スイカと天ぷらの食べ合わせは危険です。注意しましょう)