リアクション
気づいた時には列車は横倒しだった。
「いてて……弁当が全部めちゃくちゃだよ……」
頭を擦りながら美羽が起き上がる。
「地面がある……てことは地球についたのか?」
唯斗が言うならば、ここは上野ということに成るが、にしてはおかしい。
異空間と世界の行き来は列車に同車する魔導師が行う。だが、今回この列車が異空間から出ることは無いはずだった。
なぜなら、その魔術師たる女性はトレインジャックにより、豪華寝台の一室で殺されていたのだから。
それを彼らが知るのはもうすぐのことだろう。だが、今はこの現状の説明が先だ。
列車は煉瓦の上に横倒しになっていた。幸いして火災は発生していない。けが人はいるだろうが、死人は殺人鬼に殺されたもの以外はいなかった。
葛葉が開けた食堂車の天井の穴がそのまま出口となった。皆そこから外へと脱出する。
アリサもその穴から外へと出た。
「ここがもしかして、カナン……」
空の彼方まで聳え立つ、巨大な機械の壁。立ち並ぶビル群と浮遊するディスプレイの広告と車の群れを見て、彼女はそう呟いた。
明らかにそこはカナンではない。地球でもない。異世界の未来都市だった。
「のぉ隊長……わらわたちが回収するはずだったものはなんだったのじゃ?」
刹那が雇い主に尋ねる。回収するものが何かは彼女も教えてもらっていなかった。ただ、それを地球にもたらしてはならないとは聞いてはいた。
「もういいじゃろう。それを地球には持っていかずには済んだのじゃ。ほか奴らにも説明してやる義務もあると思うぞ」
「ですわね。ちゃんと説明してくれる約束でしたし」
綾瀬も答えを求める。
しかたないと、ルイスはそれが何か答えた。
「お前ら、自分たちが乗っていたあの列車の車両番号わかるか?」
ここに電車男が居たら即座に答えていただろう。しかし、それをすぐに答えられる奴は居なかった。
運転車両のプレートにはこう書かれていた。
「Cf205――俺らが探していたのは252だが、パラミタの天然原子炉で見つかったカリホルニウム放射性同位体『Cf252』の金属結晶体だ」
それは何か、ロボット好きのエヴァルトはすぐに分かり驚嘆した。
「カリホルニウムだと!? 100gで7兆円するシロモノだぞ! それが結晶体でだと!?」
「ほうほうそれはまた混乱を呼びかねない高価な代物ですわ……で、それが何故キケンブツなのですか? 放射性物質ということでですか?」
綾瀬が尋ねるとエヴァルトが答えた。
「それだけじゃない。カリホルニウムは超小型の反応弾を作ることができる物質なんだ。それこそ、トラックバック程度の大きさの爆弾で十数Kmを吹き飛ばすやつがな」
WLOはパラミタからもたらされる天然のカリホルニウムを事前に回収し、地球に同時にもたらされるであろう経済的混乱、そして軍事的脅威を防ごうとしていたのだ。
「どこぞの闇商人がそれを列車で運ぶとリークがあった。もし、すでに小型爆弾化されて運ばれているであろう想定で武装していたが……どうやら、まだ爆弾にはなっていないようだな」
車内を調べて回った結果、どこにもそれは見つからなかった。もしかしたら情報がブラフだったかもしれない。
「うん……そういえば……」
今は縄で簀巻きになっている、吸盤の痕だらけのハデスが何かを思い出す。
「投げ出された時に、車体の下に何かくっついているのが見えたような気が……」
そう彼が言った瞬間、列車で爆発が起こった。
どっかの誰かが仕掛けたポンコツが今更爆発したのだった。
幸い皆列車から離れていたために死傷者は出なかった。
だが、全員が元の世界へと帰る手段がなくなった瞬間でもあった。
電車を乗り間違えた迷子に関わっていたら、皆、異世界規模で迷子になっていた。
「里帰りの……よていが……」
エレナ声が虚しくかきえた。
男は歓喜した。
彼女がもたらしたであろうこの導きに、この奇跡に――
男は言った。
ここが約束の地……!!
お久しぶりです。そしてだいぶ遅れてしまいました。
どうも、書き始めたら連日本当に黒服だった黒井威匠です。ご無沙汰しておりました。
本シナリオはシリーズの導入部となっております。故に、敵の紹介とアリサの説明が主となっております。書くことが多くて大変でございました。時間がかかった原因は別にありますが……本当にすみませんでした。
今回は私的にはそんなに黒くないかなと思っています。思っているだけで要所要所でやっぱりなのかな? これからやろうとしていることに比べたら序の口もいいところですけどね。ああ、大丈夫ですよ。ちゃんと元の世界には帰れますから。生きて。
さて、このシリーズはアリス・イン・ワンダーランド的に異世界が舞台となります。私が書くSFな異世界とかもうあれしかないじゃないかとか思われそうですが、まあどうなることやら。
それではみなさん。次のシナリオで会いましょう。今度は異世界探索と言うなの迷子探しとなります。だいたいアイツのせいでみなさんも迷子なんですから。