シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

七不思議 戦慄、ゆる族の墓場

リアクション公開中!

七不思議 戦慄、ゆる族の墓場

リアクション

 
 そばでは、林田樹や緒方章たちも、黙々と着ぐるみを広場中央に運んで積みあげていっている。
「はこぶでしゅね。こたも、こたも」
 自分でも運べそうなちっちゃな着ぐるみを手にとって、林田コタローもちゃんと一緒に働いていた。
「ここに積みあげればいいんだな」
 怪獣の着ぐるみを着たアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)も、大きな着ぐるみをちょっと引きずるようにして運んでいた。
 それにしても、着ぐるみの中は考えていたよりも暑い。着ぐるみの種類や構造にもよるのだろうが、中の熱が全然外に逃げないところへ、結構な労働で発汗と発熱が加わって結構劣悪な環境だ。たまらず氷術を使って着ぐるみと中の空気を冷やしてなんとか凌いでみる。
「それにしても、よくゆる族の奴らはこんなもん着て動き回れるもんだ。アリスも大丈夫なのかなあ」
 半ば呆れ、半ば感心しながらアキラ・セイルーンがつぶやいた。
 そのアリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)の方は、ちっちゃな体格もあってか、じっとアキラ・セイルーンたちの作業を見守っていた。
「中身のない着ぐるみって、こんなにくたっとして力ないものなのネ。ワタシの着ぐるみも、いつかはここに来るデスカ」
 ちょっとしんみりしているアリス・ドロワーズの近くで、五芒星侯爵デカラビアが、せっかく積みあげられた着ぐるみたちを乱暴に崩して何やら物色をしていた。
「むう、着ぐるみの亡霊が出たと聞いて、中の人の亡霊で着ぐるみ魔鎧を作れると思ったのに、なんなんだ、これは。みんな空っぽではないか。これでは、パンツ一つ作れないだろうが。まったく。やはり、さっきの人まねゆる族から魂をカツアゲしておけばよかったか……」
「アナタ、何荒らしてるネ。そんなことしていると、セイウチと大工が来て、偽ヒトデのスープにするネ」
 ぶつくさ文句を言いながら着ぐるみを荒らしている五芒星侯爵デカラビアを見て、さすがにアリス・ドロワーズが文句を言った。
「ああ、いけないのれす」
「チッ、ここはずらかるか。分身の術! あー、あんな所にもう一人の俺があ!」
 林田コタローにまで指を差されて、五芒星侯爵デカラビアがわざとらしく、遠くにいた星辰総統ブエルを指さして叫んだ。
 なんだなんだと、周囲の者が双方を見比べているうちに隠れ身で姿を消した。
「私は、あんなヒトデ野郎じゃないんだもん!」
 何がなんだか分からないうちに、アリス・ドロワーズたちに追いかけられて、星辰総統ブエルが逃げだした。
「やれやれ。今年は、なんだか変な者たちが多いな……」
 疲れると、墓守ががっくりと肩を落とした。
「今年は、供養する着ぐるみの数も多いのですか?」
 破れている着ぐるみを繕っていた綺雲菜織が、墓守に訊ねた。
「おーいのれすかー?」
 林田コタローが繰り返す。
「まあ、今年は、長らく空京とかの地下に埋まっていた着ぐるみたちが、やっと地上に出て来たからねえ。量としては、かなり多いかなあ」
 シーツお化けの墓守が、律儀に答えてくれた。
「そのせいか、今年はボランティアの手伝いも多いみたいだから、なんとかなっているけど。でも、みんな不慣れみたいだからねえ」
「みんな、毎年ここへ来ているのか?」
 いろいろと大変だなと言う感じで、アキラ・セイルーンが聞いた。
「いや、ゆる族なら、そこのへんのことは知っているはずだろ?」
 なぜ知らないと、墓守がアキラ・セイルーンに不信の目をむける。
「ごめんなーい。こたたち、ちっちゃから、まだよくわんないれす」
 ぺこりと、林田コタローが頭を下げる。
「まだ、ちっちゃい子もいるので、そのへんはちゃんと教えていないんだ。申し訳ない」
 すかさず、緒方章がフォローした。
「うーん、ちゃんと親が教えておいてくださいよ。まったく」
「うん、今後はちゃんとしておくのだよ」
 とりあえず納得する墓守に、林田樹が口裏を合わせてそう言った。
「まあ、今年はいろいろと予想外のことが多かったからねえ。確か、空京に埋まっていた着ぐるみは、戦争中に供養をしていたら、どこかの攻撃を受けて埋まってしまったって話だからねえ。私も、そのへんは伝聞だから……。なんでも、墓守である巫女さん着ぐるみの一族が、そのとき仕切っていたらしいんだけど、なにぶんに古い話でねえ。まあ、でも、ちゃんと供養してほしかったんだろうなあ。地球人たちがあそこに神社を作ったせいかは分からないけれど、そんな大昔のゆる族たちの思いが、着ぐるみを動かしてここまで運んできたんじゃないのかな。だからこそ、ちゃんと供養してやらないとねえ。さあ、お仕事、お仕事」
 簡単に説明すると、墓守が再び指示を飛ばし始めた。
「ふむ、運べばいいのだな」
 コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)が、言われるままに着ぐるみを集めていく。
「ふーん、そうなんだあ」
 頭でっかちな妖精の着ぐるみを着たラブ・リトル(らぶ・りとる)が、感心したようにうなずいた。
「めもめもですぅ」
 神代明日香も、きっと今の墓守の話をメモにとる。
 一応は、着ぐるみたちが動きだしたことも、ちゃんと理由があったわけだ。だが、なぜに今だったのであろうか。パラミタに地球人が来たせいなのであろうか、あるいは、奈落人との交流が可能になったせいなのであろうか、それは未だに分からないままだ。
「……というわけだそうです。また何か分かったらメールしますね。……送信っと」
 隅の方では、御神楽舞花が御神楽陽太にきちんとメールで報告をしていた。
 七不思議であったゆる族の墓場の謎も、これできっちりと記録されてしまうのであろうか。
「うーん、なかなか隙がないのだ。もう少し様子を見るか……」
 墓守に近づいて、中の人を確かめようと狙っていた尼伏 賢志郎(あまふし・けんしろう)が、なかなかそのチャンスを見つけられなくてつぶやいた。可愛らしい犬の着ぐるみを着て、とりあえずは真面目に仕事をしているふうを装い続けることにした。