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 曰く、『鈴の音を連れる巫女、この地を救う』

 古くより言い伝えられるこの文言にぴったりそぐう耶古が、踏み固められた土の道を、鈴に飾られた神輿に乗せられて行く。
 三角頭巾で顔を隠した白装束の男達が神輿を牽き、囲み、一団はさながら白布に包まれた小山のようであった。
 路傍に跪き額を地にこすりつける町民は皆、口々に念仏を唱えている。
 蓋し、その言葉は人々の信心を示しているに違いない。
 ふと白装束の男たちが歩みを止める。
 そこはちょっとした広場であった。
 広場を囲むように並んでいる出店はすべて軒を伏せ、耶古を迎え入れた。
「謹聴せよ!」
 集団から一歩出た大柄の男が――――もちろん顔は見えないが、太い大音声を以って静寂を手に入れる。
――――ちりん
 耶古の神輿の鈴が鳴った。
「献言せよ!」
 それと同時に数多の怒号が飛ぶ。
 いや、大勢が一同に声を発したためにそう聞こえただけだ。
 各々が願いを一斉に耶古に伝える。
 さすればその願いが成就する。
 そういったものだった。

「いつまで暢気にこの村にいるつもりなのかしら」
「魚釣りものどかでいいじゃない」
「悠長すぎるわよ、セレン。明らかに不穏な空気びんびんよ」
 その頃、湖畔で行われている釣り大会に参加しているセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は小船に揺られ凪いだ湖面に釣り糸を垂らし周囲に気を配っていた。
「やった、5匹目よ!」
「そうね。私たち以外に釣り人はいないけどね」
「まあまあ、相手の出方を見るのも作戦の内よ」
 そうなのだ。
 これだけ幟を立て宣伝しているというのに、釣り場にいるのはセレンフィリティとセレアナだけだった。
 セレンフィリティは力の限り竿を振り、仕掛けを遥か遠くまで飛ばした。
「どう? これだけ普通じゃないってことは、魚じゃないモノが釣れるかもしれないわよ?」
「……そうね、亀が釣れたら逃がしてやって」
「亀ね……。私の予感ではもっともっと大物よ」
「もっと大物? この湖の主とか?」
「いいえ! どっちかというと、きな臭い何かよ」
「あなたは何を望んでいるのかしら……。私、トラブルはごめんよ?」
 すると、糸を巻き上げたセレンフィリティが言った。
「私の勘もよく当たるってことね」
「まったく、どうしてこうトラブルを釣り上げるのかしら」
 糸の先にぶら下がっていたのは金属製の物体だった。
 縁のついた円形の径を渡すように取っ手がついていた。
「蓋……かしらね」
「だとしたら、何の蓋なのかしら。こんな湖底に何のため? どうせ不法投棄が関の山……じゃないみたいね」
 セレンフィリティが突如背後を振り向き岸に目を凝らす。
「狙われてる?」
「ええ、ご丁寧にライフルを構えているわ」
「だからトラブルは嫌と言ったのに」
「もうこうなってしまっては仕方ないわよ」
「そうね……。でも安心してセレン。あなたは私が守るわ」
「まあ、心強いわ。だけど待って。私にいいアイディアがあるの」
 セレンフィリティはそう言うと、にやりと笑った。
 そして、二人の乗った船は爆発した。