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【蒼空ジャンボリー】 春のSSシナリオ

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【蒼空ジャンボリー】 春のSSシナリオ
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リアクション

 

空京デパートにて

 
 
「おっかいもの〜♪ おっかいもの〜♪」
 るんるんとリーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)と共に、緋山 政敏(ひやま・まさとし)の両腕をかかえるように挟んで歩きながら、カチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)が歌うように言った。
「こ、この扱いは……」
「こうしないと迷子になっちゃいますからねー」
 俺をどうするつもりだという緋山政敏に、カチェア・ニムロッドがにこやかに言った。
「大事な荷物運びだものね。男には男の役目があるのよ。それとも私やカチェアに荷物を持たせるつもり」
 そう言いきられて、緋山政敏に言い返す権利はすでにない。すでに、さっき寄った店でリーン・リリィーシアが買ったなんちゃら時代劇の第2シーズンブルーレイセットの入った紙袋をしっかりと持たされている。はっきり言って重い。
 可変型機晶バイクのカップルがのほほんと走りすぎる空京大通りを、緋山政敏をずりずりと引きずりながらカチェア・ニムロッドたちは進んで行った。
「女帝コンテスト? まったく、空京はまた変なことをやっているですぅ」
 同じ空京大通りの反対側を歩いていたエリザベート・ワルプルギスが、壁に貼ってあったポスターを見て小首をかしげた。
「空京では、色々な催しがしょっちゅう開催されてるよね。たまには、エリザベート校長も参加したり開催したりするといいと思うけど」
「このコースは、以前、ペットレースをやっていたはず」
 ちょっと懐かしく重いながらジュレール・リーヴェンディが言った。
「うーん、考えておくですぅ」
 少し考え込みながら、エリザベート・ワルプルギスが言った。
 何ごともない休日の空京では、表通りから少し中に入った所で、ずっと締め切られていた二階の窓が開けられた家からたまりにたまった埃が外に掃き出されていた。中からは、それは捨てるなとか、若い男の悲鳴が聞こえてくる。
「平和だよね」
 空京デパートにむかいながら、リーン・リリィーシアがまったりと言った。
「そうでもない気がするが……」
 さっきの悲鳴はなんだったのかと言う緋山政敏を無視して、カチェア・ニムロッドたちは目指す婦人服売り場目指して直行した。
「ふう、俺はここで待ってるから好きな物選んでくれ」
「カチェア、政敏の奢りだそうよ」
「わーい、予定通りですね」
 なんだか、凄く芝居じみた会話をリーン・リリィーシアとカチェア・ニムロッドが交わす。
「好きにしていいよ」
 ブルーレイの入った紙袋をかかえてレジ近くのベンチに深々と座りながら、緋山政敏が言った。いつもいろいろ世話になっているのだから、たまにはいいだろう。
 やったとばかりに、女の子二人は飾ってある服に群がっていった。
「それよりは、もっと軽めの春めいた物の方がいいんじゃない?」
 黒いスーツを物色していたカチェア・ニムロッドに、リーン・リリィーシアが言った。
「そうかなあ」
 春物コーナーに移動すると、色々な姿のマネキンなどがならんでいた。
 一気にゴスロリふうの、透かし模様の入ったタイツに黒いドレスとか、下にスパッツを穿いたチャイナドレスとか、結構刺激的な物もある。
「このへんがカジュアルでいいかなあ」
 ショートジャケットにホットパンツという組み合わせを見て、カチェア・ニムロッドが興味を示した。
「試着してみたら?」
 リーン・リリィーシアに言われて、カチェア・ニムロッドが試着室で着替えてくる。
「どうかなあ」
「あー、いいんじゃね」
 カチェア・ニムロッドに意見を求められ、緋山政敏が気のない返事を返した。本心は、ニョキッと露出した生足にドキドキである。だが、緋山政敏としては、それを悟られるわけにはいかない……らしかった。
 まったく、女の子のおしゃれなどになると鈍感きわまりないと、カチェア・ニムロッドが緋山政敏を軽く睨み返した。聞いた自分がちょっぴり悲しくなりつつも、それでも聞きたいのにとカチェア・ニムロッドが軽く溜め息をつく。
「うーん、きっと政敏は外じゃなくて中身に興味があるのよ。ほーら、政敏は黒派? それとも白派?」
 手に取った半分スケスケのショーツを指人形ふうに両手に被せてひらひらしながら、リーン・リリィーシアが緋山政敏に訊ねた。
 その姿に、リーン・リリィーシアだったら黒、カチェア・ニムロッドなら白と即座に妄想してしまい、緋山政敏が一瞬惚けた顔になる。だが、すぐに激しく頭を左右に振って、その妄想を振り払った。
「もう勘弁して下さい。俺、こういう経験ないんだから」
「だったら、経験すればいいんですね」
 なんだか変な方に突き抜けたカチェア・ニムロッドが、バーゲンボックスの中に詰め込まれた色とりどりのショーツに駆け寄っていった。
 試着よとばかりに、その一つに手をのばしてむんずと掴む。
 掴んだショーツの感触がなぜかおかしい。この感触は、喪悲漢の感触だ……。
「ヒャッハー。よーくぞ見破ったあ」
 いきなりそう声がしたかと思う間に、ショーツの山の中から南 鮪(みなみ・まぐろ)が立ちあがった。
 あまりの出来事に、カチェア・ニムロッドがショーツを掴んだまま口をパクパクして立ちすくむ。
「パンツ性拳が奥義、その壱パンツ一体化を見破られるとは、貴様もパンツ性拳の奥義書を持っているのか!?」
 凛々しくパンツの海の中に立った南鮪が言った。パンツ性拳の奥義書は、パンティー番長としての南鮪が強大な妄想を纏めて書き記した奥義書で、先日からキマクで販売が開始されたレア本だ。もちろん、P級四天王の愛読書として、広まりつつある……というか広まったらいいなあと南鮪は考えていた。
「そんなわけ……」
 言い返そうとするカチェア・ニムロッドに、南鮪が素早く含み針を吹きかけた。ふいをつかれたカチェア・ニムロッドがそのまま眠ってしまう。
「パンツ性拳奥義その弐パンツ見切り。うむ、なかなかいいパンツだ」
 倒れたカチェア・ニムロッドのチラリと覗くショーツをのぞき込みながら南鮪が言った。
「カチェア!」
 あわてて、リーン・リリィーシアが駆け寄ろうとする。
「貴様の脱ぎたてほかほかのパンツをいただく。パンツ性拳奥義その参パンツ蘇生!」
 むんと南鮪が印を結ぶと、リーン・リリィーシアの手に被せていた白と黒のパンティーが式神化してもぞもぞと動き始めた。
「きゃあ!?」
 驚くリーン・リリィーシアの手から、パンティーが南鮪の手に移った。
「うーん、この手触り。やはり脱ぎたては……。むっ、違う!? パンツ性拳奥義その肆パンツ履歴!」
 違和感に南鮪がサイコメトリでパンツを調べた。新品だ。
「やるな、貴様。いかにも脱ぎたてのように見せかけるとは」
「さっきから何言ってるのよ。政敏、やっちゃいなさい!」
 とにかく変態は退治だと、リーン・リリィーシアが緋山政敏に命令した。
「ふっ、仕方ないな。ちゃらら〜ん」
 口三味線でBGMをつけると、緋山政敏がブルーレイの入った紙袋をブンブン振り回して南鮪に投げつけた。
「ぐはっ!」
「きゃあ、私の『必笑!お仕舞い人』の限定版ボックスが!」
 頭に直撃を受けた南鮪とリーン・リリィーシアが悲鳴をあげる。
「き、今日はここまでにしといてやる。パンツ性拳奥義その伍パンツ隠れ!」
 南鮪が、自分の周りにあったパンツを周囲に巻きあげると、その姿を消した。
「逃がしたか……」
「何が逃がしたかよ。私の限定版ボックス、私の限定版ボックスぅ!!」
 悔しがる緋山政敏を、リーン・リリィーシアがボコボコにした。