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寂れたホラーハウスを盛り上げよう!!

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寂れたホラーハウスを盛り上げよう!!
寂れたホラーハウスを盛り上げよう!! 寂れたホラーハウスを盛り上げよう!!

リアクション

「ひゃぁぁぁ」
 青白い顔をして次女の練習部屋から出て行く男性。

「……もうそろそろ準備をしないと」
 ローズから透過飴・改を貰ったアメリは男性と入れ違いに部屋に入った。
「……アデリーヌ、完璧よ。まぁ、カップルには勝てなかったけど」
「それは無理な事ですわ。わたくしもあなたと一緒なら目の前に何がいても大丈夫ですもの」
 さゆみとアデリーヌは写真を手に入れ出て行った聖夜と陰陽の書の事を思い出していた。

「……交代するわ」
 アメリが二人に言った。
「お願いね」
「……任せましたわ」
 さゆみとアデリーヌはアメリにバトンタッチした。
「……頑張るわ」
 こくりとアメリはしっかりと二人から役目を引き継いだ。

 そして、準備をするべくゆっくりとピアノの前に座った。
「……こうやってピアノに触るのは久しぶりだわ。病気になる前はたくさん弾いてたのにね」
 そっと感触を確かめるように鍵盤の上に両手を置き、軽く音を鳴らしてみる。馴染みある心地良い音。聞いているとピアニストだった頃を思い出して懐かしさと寂しさを感じてしまう。
「……」
 次女に扮したアメリは透過前・改を食べた。ゆっくりと体が透けて上半身は薄ぼんやりと見えて下半身は完全に見えない状態になった。
「……うまく弾ければいいけど」
 呼吸を整え、ゆっくりと演奏を始めた。
 悲しげで繊細な旋律が部屋を漂っていく。『演奏』を持つアメリのピアノは完璧だった。
 その音色に誘われ、長男の書庫を諦めた九十九がやって来て、耳を楽しませつつも目は少しばかり怖がらせた。
「……何か、怖ぇ。早く、写真を見つけて出るか。長女の部屋みたいな事に遭いたくないし」
 そう言って本棚の裏側に隠されている次女の写真を見つけ、急いで出て行った。
 その後、九十九は部屋を巡り、残す部屋は長男の書庫だけとなっていた。
 アメリのピアノはその後も訪れる客を順調に怖がらせていった。

 一階、読書好きの長男の書庫。

「本当に面白いわね」
 唇を拭いながらセフィーは楽しげに呟いた。今ちょうど、通常の驚かせ方ではなく、特別な驚かせ方をしたところだ。
 特別な驚かせ方となると何人たりとも写真を奪える者はいなかった。セフィーの濃厚なキスの餌食となり、相手の身体を弄んでは自ら作った落とし穴に落として強制的にハウスの外に出してしまう。餌食となった者達は恐怖の顔ではなく、女も男も色香に酔った顔をしていた。ある意味幸せそうであった。まさにサキュヴァス。ほんのたまに強者がいるが、最後の罠をはねのける事は出来ず、手に大怪我を負ってリタイアボタンを押していた。
「もう少し楽しませて貰おうかしら」
 と、セフィーは呟いていた。実は準備を終え、早く楽しみたくて途中でルカルカと真一郎に順番を交代して貰ったのだ。ちょうど、九十九が諦めて出て行ってからすぐの事。

 ルカルカと真一郎は部屋の二人だけになれる場所に移動していた。
「……真一郎さん、こんな所でダメだよ。誰かが来たら……」
「……邪魔をする無粋な者は来ませんよ」
 九十九が訪れた時よりもずっと事態はエスカレートし、真一郎は、触れられる場所全てに口づけをし、ルカルカの金色の目は一瞬たりとも真一郎を映さない時はなかった。見ている方が恥ずかしさで卒倒するほどだった。

「ここも不気味ですね。ホラーハウスですから仕方は無いんでしょうけど」
「写真を探してすぐに出よう」
 手を繋いで仲良く入って来たのは陰陽の書と聖夜。次女の部屋と礼拝堂で次女と主人の写真を回収した後だ。

「……ありませんね」
「そうだな」
 ゆっくりと本棚の間を写真を探しながら歩く二人。その間もしっかりと手を繋いでいる。

 突然、バサッと二人の背後の本が落ちた。実際は落とされたのだが。

「ん……って本か。ただ落ちるだけでもこんなに薄暗いとびっくりするぜ。なぁ、セツ那?」
 落ちた本に気を取られた聖夜は後ろを振り返り、何も無い事を確認し、隣を見ると誰もいなかった。繋いでいた手にも陰陽の書の手の感触がなくなっている。
 陰陽の書がどこかに消えた。

「セツ那? どこだ」

 聖夜が『超感覚』を使って見回した時、

「きゃぁ」

 離れた場所から陰陽の書の悲鳴が響いた。

「セツ那!!」
 聖夜は声のする方へ急いだ。

 聖夜が本に気を取られている隙に闇に紛れ、セフィーが陰陽の書の背後に回り、

「今日の獲物は美味しそうね。たっぷりと酔わせてあげるわ」
 陰陽の書の耳元で舐めるようにささやき、無理矢理聖夜から引き離し、連れ去った。
 ゆっくりと月の光が誘拐犯を照らし出す。月光はセフィーが用意した光の球だ。本当にこのホラーハウスにはいろんな道具が揃っている。

 いきなりの出来事に動きが鈍っている陰陽の書の顎を優しく掴み、

「……あたしと良い夢を見ましょう。淫魔の夢を……」
 ささやき、キスをしようと顔を近付けるセフィー。

「セツ那に触れるな!!」
 急いで現れた聖夜が陰陽の書の顎を掴む手を腕ごとねじ上げた。

「聖夜!!」
 陰陽の書は心底ほっとした声を上げた。

「手荒い事はやめてちょうだい。写真をあげるから」
 セフィーは観念したように声を出した。ここが引き際だろうと。いつの間にか両腕を後ろ手に回され、陰陽の書に一切触れられないようにされてしまっていた。

「……観念したから離してちょうだい。写真を渡せないでしょ」
 後ろにいる聖夜に言った。
「……分かった」
 仕方無くセフィーを自由にした。
 自由になったセフィーは、ゆっくりと胸元をはだけさせた。
「ほら、写真よ」
 胸の谷間に確かに写真の切れ端があった。あくまでも差し出すだけで、写真を取って手渡すような事はしない。

「聖夜、私が」
「いいや、大丈夫だ」

 陰陽の書は聖夜にも何かされるのではないかと危惧するが、聖夜は陰陽の書にこれ以上怖い思いをさせたくなくて断った。

「ほら、早く写真が欲しいんでしょう」
 セフィーは、なかなか動かない聖夜に艶やかな声で誘う。

「……」
 聖夜はゆっくりと写真に手を伸ばす。

 写真を掴み、引き抜こうとした時、
「いい? 余計な事をやったら、噛み殺すわよ……」
 ぎろりと聖夜を睨む。動揺を誘い、少しでも心を乱れさせ手を滑らせるように仕向ける。ここで少しでも手を滑らせ余計な事をすれば本当に噛み殺されかねない。
 しかし、聖夜は細心の注意を払って無事写真を手に入れた。

「……早く出よう」
 陰陽の書の手を握り、急いで部屋を出た。

 部屋を出てしばらく黙って歩く二人。
 最初に沈黙を破ったのは陰陽の書だった。

「……ありがとうございます、聖夜」
 助けてくれた聖夜に礼を言った。
「いや、俺が本に気を取られていたから。悪かった」
 聖夜は申し訳なさそうに言った。自分が注意を逸らされていなければ、陰陽の書は怖い思いをしなくて済んだはず。責任を感じてしまう。
「いえ、助けてくれました」
 陰陽の書はにっこりと笑い、大丈夫だと示した。
「……今度は絶対に離さないからな」
 自分を気遣うその笑顔に救われた聖夜は、陰陽の書の右手を握る左手に力を込めた。
「はい」
 聖夜の言葉に嬉しくなり少し頬を染めながら頷いた。
 二人は、次の部屋に向かうため二階に移動した。

「……来たな。フレイ、これが」
 フレンディスに見本を見せるためのターゲットを発見した。今の禍々しい状態だけでもフレンディスよりも多く客を驚かせていたが、今はそれよりも凄いものを見せようとしている。
 ゆっくりとベルクは禍々しい姿で仲良く手を繋いでる聖夜と陰陽の書に近付いて行った。
「……マスター」
 フレンディスは、『冥府の瘴気』は使わず、『隠形の術』で気配を消して邪魔にならないようにベルクを見守っていた。

「……聖夜」
「……俺がいる」

 目の前をアンデッド:小型屍龍とアンデッド:邪霊を従えたベルクが現れる。辺りには禍々しい気が溢れている。

「来ます」
「……む」

 虚無霊:ボロスゲイプが二人目の方に向かって来た。陰陽の書を守るために構える聖夜。しかし、虚無霊:ボロスゲイプは途中で消えてしまった。
「……逃げるぞ」
 陰陽の書を握り、来た道を急いで逃げようとするもベルクの幻影龍のバングルで幻覚を見せられ、思わず足を止めてしまう聖夜。大切なものを見せるそのバングルで見たのは優と零、そして陰陽の書。
「聖夜、大丈夫ですか」
 足を止めた聖夜を心配する陰陽の書。
 その隙にベルクは弱めの『その身を蝕む妄執』で二人に恐ろしめの幻覚を見せる。戦いではなく、あくまで驚かすのが目的なので弱めで十分である。

「……」
「……」

 それぞれちょっとした恐ろしい幻覚を見ていた。弱めなので見せられた悪夢は究極的に熱いお茶を数秒という時間制限で飲まされる陰陽の書。聖夜は、陰陽の書が自分が作った料理に意識を失った上、大嫌いと言って自分の元を去ってしまう幻覚を見た。もし全力であれば、もっと恐ろしいものだっただろう。

「……こんなところか」
 ベルクは静かに聖夜と陰陽の書の横を通り去った。
「……マスター、すごいです」
 フレンディスは、ベルクの手腕に感心しながらついて行った。

 途中、長女の人形部屋から悲鳴を上げ、写真を忘れて出て行く男性客を発見。
「マスター、悲鳴を上げて逃げて行く人がいますよ。コツを聞いてきます」
「フレイ! 行ってしまった」
 ベルクが止めるのも間に合わず、フレンディスは部屋に入った。

 残された者達は、

「……大丈夫か」
「……はい」
 弱めだったためすぐに現実に戻った聖夜と陰陽の書は互いの無事を確認した。

「……行こうか」
「そうですね」
 二人はゆっくりとデートを続けた。