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リアクション
一階、受付。
営業が始まって時間が経ち、人の波もだいぶ落ち着いた頃。
「一段落みたいじゃのぅ」
ルファンが紫と黒色のグラデーションのジュースと目玉の形をしたクッキーの皿とどす黒いソースがかかったパンケーキを持って来た。料理を作ったイリアに代わってルファンが届けに来たのだ。イリアは心霊現象が苦手なので。
「もしかして差し入れ?」
「見た目すごいアルね」
「ありがとさん」
レキ、チムチムと裕輝はクッキーとジュースを快く受け取った。
「そなたもご苦労じゃ」
受付の三人に渡した後、ポチの助にパンケーキが載った皿を置いた。
「この僕は、下等生物からの施しなど受けないぞ!」
そう言ってパンケーキから目を逸らす。
「気が向いてからでよいからのぅ」
ルファンはそう言った。ポチの助の尻尾が嬉しそうに揺れているため食べるだろうと分かっていてもあえて言わずに食堂に戻った。
ルファンがいなくなってポチの助はちらりとパンケーキを見たと思ったらかぶりついた。
「……ん……おいしい。いや、これは毒味だぞ。下等生物が作る食べ物など」
美味しさに心が緩むも視線を感じて強がりを言うポチの助。
「良かったね」
レキは自分の視線を感じて強がりを言うポチの助に言い、クッキーを食べ、ジュースを飲んだ。
「残り二枚しかあらへんで」
ふと皿に残ったクッキーが気になった裕輝は数を数えた。
「え、ボクまだ二枚しか食べてないよ。九枚あったよね」
数を聞いたレキは驚き、自分が食べた数を数えた。
「チムチムも二枚アルよ」
「オレも二枚や」
チムチムと裕輝も答える。そうなると残っているのは三枚のはずなのに一枚足りない。
「……まさか。いや、誰かの仕業だよ」
レキは一瞬、青くなるがすぐに思い直し、驚かし役の誰かだろうと考える。
「……誰かいるアルか?」
チムチムはレキの言葉を確認するため周囲に声をかけるが、返事は返って来ない。
「お化けが出たちゅーわけか。こりゃ、ええ宣伝になるなぁ」
不気味な音楽と裕輝の声と時々聞こえる悲鳴だけの周囲。
「大丈夫アルよ。何かあったらみんな来るアル」
チムチムはそう言って温和に場を和ませた。
「……そうだね。とにかく、クッキー食べよう。チムチム、半分こしよう」
レキはクッキーを半分に割ってチムチムと食べた。
受付から離れた所で『光学迷彩』で子供達の霊がやる事を見物していたニコは訊ねた。
「あのクッキーおいしかったかい?」
子供の霊は笑顔で頷き、走り回った。
二階、狩猟好きの主人のコレクション部屋。
「……お兄ちゃん、ここ」
望美は薄暗い中、光る獣の目にびくつき、剛太郎の腕を掴む手がいっそう強くなる。
細かな探索や検索は剛太郎に任せながらも宝物のヒントは無いかと軽く周囲を見る事は忘れない。
「……大丈夫だ」
剛太郎は、ぎゅっと自分の腕を握る手を軽く叩いて励ました。
部屋の様子にホラーを感じていた時、
「望美、離れろ」
『セキュリティ』を持つ剛太郎は驚かし役の気配を感じ、腕を掴む望美を向かいに押した瞬間、頭上から白い物体が落ちて来た。
「うわぁ」
いきなり押されてよろけそうになってしまう望美。背後に忍び寄る者。
「……な、何だ」
望美を優先した剛太郎は避けきる事が出来ず、白い物体を受けてしまった。
自分の隣には床でべちゃりとなった白い物体。
「ふふふ、恐怖の豆腐攻撃はどうだ! 気持ち悪いであろう」
ナノマシン拡散をしているンガイの声が部屋中に響く。
「豆腐?」
頭に付着したぼろぼろになった豆腐を手に取って確認する剛太郎。
「ふふふ、安心するが良い」
そう言い、剛太郎の頭上にタオルを落とした。
「……何とも親切だな。望美、大丈夫か?」
タオルで拭きながら望美に無事を確認するが、悲鳴が返って来た。
「きゃぁぁ」
ウェアウルフのオルフィナに捕まっていた。
「お前、なかなか良い物持っているな。食べ応えがありそうだ」
よろけた望美を受け止めたオルフィナは望美の大きな胸を掴み、耳元にささやいた。
「望美!」
剛太郎が助けようとするが、
「今は食事中だ。邪魔をするんじゃねぇよ」
『鬼眼』で剛太郎を睨み付け、胸を掴んだまま望美を床に押し倒す。
「くっ」
ほんの一瞬だけ足を止めるもすぐに駆けつけ助けようとした時、再びドアが開いた。
「俺を楽しませてくれよ。ん、また獲物か」
オルフィナは唇を奪おうと顔を近付けるも来客が気になり、顔を上げてドアの方を見た。
現れたのは、優と零だった。
「……優、大丈夫?」
「……あとはここだけだ。早く探そう」
どんな驚かし役がいるのか知らずに入る優と零。
優が部屋に入った途端、部屋が激しく揺れ始めた。
「地震か!?」
オルフィナは望美から離れ、すぐに対応出来るように周囲の警戒を始めた。
その隙に何とか剛太郎は望美を奪還。
「望美!!」
「お兄ちゃん、怖かったよぉ」
望美はひしっと剛太郎に抱き付いた。
「もう心配無い」
しっかりと抱き締め、望美を落ち着かせた。
揺れが終わったと思ったら壁に飾られている剥製から背筋が凍り付きそうな叫ぶ声。
「……まずいな。引き寄せてしまったようだ」
自分が恐れた事が起きてしまった。
「……優、ドアが開かない」
ドアノブを回したり、押したり引いたりしていた零は困ったように言った。
「……開かない?」
「何が起こっているんだ」
望美が不安そうに言い、剛太郎は状況確認のために新たに来た二人に訊ねた。
「ごめんなさい。優が引き寄せてしまったみたい」
零が部屋にいる他のみんなにぺこりと頭を下げた。
それと同時に狩った獣の皮をはぐためのナイフが飾られていたガラスケースから何本も飛び出していくつもの剥製と共に部屋を飛び回り、弾が込められていない猟銃に弾が込められ発砲が始まる。ガラスケースの破片も飛び回る。
「……こんなもの大した事ねぇよ」
オルフィナは飛んでくるナイフの刃をバスタードソードで切り落とした。
ウェアウルフをしている場合ではない。
「リタイアボタンは押さなくても何とかなる。心配するな」
『シャープシューター』で飛んで来る剥製を撃ち落としながら望美を励ます。何があってもリタイアボタンは押したくはない。
「お兄ちゃん!!」
望美も一緒に戦う。『ライトニングウェポン』で帯電させたシングルアクションアーミーで剥製を焦げ落とす。
「このままではまずいな……鳴らない」
優は助けを呼ぶためにリタイアボタンを押すも鳴らない。
「優? ボタンが鳴らないの? だったら……私のもだめ」
零のボタンも鳴らなかった。実は二人に配られたのは裕輝が鳴らないように細工したバカップル用の物だった。
「零、携帯は通じるか?」
「携帯も通じない」
ボタンを諦め、携帯電話を使って助けを呼ぶ事を思いつくも引き寄せたものの影響で圏外になって使えない。
「……まずいな」
そう言いつつ優は『ツインスラッシュ』で暴れ回る猟銃を刻む。
「……外に呼びかけてみるね」
零はそう言ってドアを叩いて呼びかける。
「誰か、来て!! 誰か!!」
必死に零が叫び続けている間も戦いは続く。
「ふむ、手助けをするとしよう」
異常事態にンガイも姿を現し、防衛に参加する。通常の猫の姿。
『雷術』で飛び回るガラスの破片を粉々にしていく。
薄闇の戦いと必死の叫びが続いていた。
ようやく、助けが近付いて来た。
「聖夜、向こうから零の声が聞こえます」
一階の廊下を歩いていた陰陽の書は助けを呼ぶ声を聞きつけた。しかも零の声。
「もしかして」
気付いた聖夜もただ事では無い様子に何が起きたのかを察した。優の体質が霊などを引き寄せてしまったと。
「急ぎましょう」
陰陽の書が聖夜に言い、二人は声が聞こえる部屋の前に急いだ。
「む、ここから人の声がするが」
近くを歩き回っていた三郎景虎もまた主人の部屋の前にいた。
「そなたも来てくれたんですね」
駆けつけるなり陰陽の書は自分達の他に人がいる事に少しだけ安心した。どれぐらい酷い有様なのか分からないだけに人手が多いに越した事はない。
「おい、零! 来たぞ!」
「その声は、聖夜!」
聖夜がドアを叩きながら零に話しかけた。ドア向こうの零の声は少しだけ安心の色があった。
「開きません」
聖夜が話しかけている間、陰陽の書がドアノブを回してみるが動かない。
「代わってくれ……無理だ」
そう言って聖夜は、『ピッキング』で開けようとするが、開ける事が出来ない。
「……ならば、ぶち破るしかなかろう」
様子を見ていた三郎景虎の一言。
「そうだな。零、離れてろ」
三郎景虎の言葉を受け、聖夜は妖刀村雨丸を抜き、霧を生み出すと共にドアを切り裂いた。ドアは、凍り付き前に倒れた。
「零、大丈夫ですか」
陰陽の書が零の無事を確認した。
「大丈夫よ。みんな早く!」
零は戦っているみんなに呼びかけた。
「すまない」
優が外に出た。
「望美、出るぞ」
「うん、お兄ちゃん」
剛太郎は望美を護りながら外に出た。
「仕方無いね」
オルフィナも撤退した。
「ふむ、逃げようか」
ンガイもさっさと外に出た。
「ドアを閉める」
優は被害が外に漏れないよう倒れたドアを起こそうとした。
「……面妖な事になっているな」
三郎景虎も手伝い、ドアを元に戻した。
ドアを元に戻してすぐ騒がしい音は消えた。
「……静かになったようだぞ」
ンガイが部屋が静かになった事を知らせた。
「……俺が様子を見てみる」
聖夜が少しドアをずらして中の様子を確認する。
ンガイの言う通り平和が戻っていたが、状態はめちゃくちゃだった。とても使える感じではなかった。
「……部屋は静かになっているが、営業には使えない」
ドアを元に戻してから聖夜が包み隠さず報告した。
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