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リアクション
★第一章「正しい雪の遊び方」★
「夏に雪なんて……すごいね。せっかくだし、凄い雪像でも作ってみよう」
雪合戦会場から少し離れた場所で笠置 生駒(かさぎ・いこま)が意気揚々と雪を自分の身長以上に積み上げ、板などをつかって直方体に固めていた。しっかりと固まったのを確認してから枠を外し、頭に思い浮かべた設計図をもとにスプレーで当たりをつける。
中々に本格的だ。
「うむ。雪像とはな。寒い中、よくこれを作ろうと考えたものじゃ」
生駒の指示通りに道具を運んでいたジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)が感心の声を上げる。これもこの立派な防寒具のおかげなのだろう。
「何ぶつぶつ言ってんの? ノコギリとって」
「おう、すまんな。ほれ」
生駒は受け取ったノコギリで大雑把に形をとり、そこからスコップで細かく削っていく。ジョージは「一体何を作っておるのか」と興味津津に見守る。
段々と雪像が段々と形になっていく。全体的に丸みを帯びたシルエット。二頭身。
それはディフォルメされたたぬきっぽく見える。しかしなぜだろう
「ほ〜ら出来上がり〜ってなんでモザイクがかかってるのこれ〜」
なぜかかけられたモザイクにより、詳細はよく見えない。
「む、なんという魔力がかけられておるのか。一体誰が」
大人の事情ですね。分かります。
「仕方ない。もう一つ作ろう」
再び雪を固めて、削っていく生駒。それを見守るジョージ。やはりこちらも頭? の部分が丸い。そして微妙にモザイクがかかり始めている。
と、その時。生駒へ何かが飛んできた。
「なっ」
それはたくさんの雪玉。鼻歌交じりに作業中の生駒は気づいていない。
「危ない」
「え?」
生駒を突き飛ばして雪玉を受けたジョージ。その中でも最もスピードの出ていた雪玉が彼の身体を押し倒す。
「あああああっ」
蟻が寄ってきそうな頭のヒーローとたぬきの雪像を巻き込んで。
雪が飛んできたと思われる方向には誰もいない。
そう。すべては大人の事情である。
* * * * *
楽しげに遊んでいるグラートを優しく見守っていた杜守 柚(ともり・ゆず)が、「よかった」と小さくつぶやいた。
1人の時の不安を、柚はとても理解していた。彼女にも同じような経験がある。だからこそ、海から話を聞いた時、傍にいようと思ったのだ。
「柚お姉ちゃん? どうしたの? どこか痛いの?」
グラートが不安げに柚を見上げる。少し考え込んでしまったらしい。いつの間にやら雪合戦は終わっていたようで、参加者たちが雪の上で大の字になっていた。
「ありがとう。私は大丈夫……あ、そうだ。一緒にかまくら作らない? みんな、疲れてるみたいだし」
そっとグラートの頭を撫でて提案すると、グラートの目が輝く。さすが子供。まだまだ元気だ。
「ふふ。とても大きなカマクラを作って、お母さんをそこで笑顔で迎えようね」
「うん! お兄ちゃんお姉ちゃんたちにも休憩してもらおうっと」
「かまくらか。僕も手伝うよ」
杜守 三月(ともり・みつき)が、名乗りを上げる。
(グラートには元気になってもらいたいな。柚もちょっと思い出して複雑な思いみたいだし、2人ともにね)
「三月のお兄ちゃん。バケツもってきたよ」
「ありがとう、グラート。よし、じゃあやろうか」
雪をバケツで運んでいく。ある程度の大きさになったところで、3人でしっかりと踏み固める。
「こんなものかな。じゃあ掘ろう。勝負だよ、グラート、海……はもう疲れてるから無理かな?」
三月がにっと笑って海を見る。雪合戦で疲れていた海だが、しかしむっと顔をしかめて立ち上がる。
「……望むところだ」
「この前の雪合戦は僕が勝ったし、今回も勝つよ」
「あれはノーカンだろ」
「僕も負けないもん」
「ふふ。頑張ってね。応援してる」
「うん! ありがとう、お姉ちゃん」
こうして始まった穴掘り対決。最初こそムキになっていた海と三月も、最後の花をグラートに譲った。
決して、途中で体力が尽きたわけではない。大人の対応である。
最後はグラートが絵を描いた旗(雪だるまの絵)をてっぺんに突き刺して、完成だ。
巨大かまくらの中で、さっそくみんなに休憩してもらった。
* * * * *
「一度、氷の城とかやりたかったんだよな。この機会にやってみるか」
やむことなく降り注ぐ雪の下で、夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)がそう呟いたのは今から1時間ほど前。最初は雪だるまを作っていたのだが、物足りなくなったのだ。
「羽純。その氷をここへ縦に置いてください」
「む、こうか?」
「はい。そのままです」
城の設計図を描いたブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)の指示の元、巨大な氷の塊をサイコキネシスで移動させる草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)。
羽純の横で甚五郎が氷術で氷のパーツを作っている。接着面は火術で少しだけ溶かし、氷術で再び凍らせる。
「飲み物買ってきましたよ〜。休憩しませんか?」
そこへ買い物に行っていたホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)が戻り、そう声をかけた。その声に甚五郎は顔を上げ、時計を見た。作業を始めてから大分経っている。休憩は必要だろう。
「そうだな。10分休憩しよう」
「了解しました。では羽純。その椅子はそこに置いておいてください」
「わかった」
甚五郎はホットコーヒーを飲みつつ、城を見上げた。基礎はできている。あとは細かい装飾や内装の家具だ。
「わぁっすごいですね。これで完成じゃないんですか?」
「はい。あとは細かい装飾や、家具でしょうか」
「まったく。家具まで再現せずともよいだろうに」
「いや、やるからには徹底的に、だ」
気合い十分な甚五郎。もうそろそろ「気合いがあればいける!」とでも言いだしそうだ。そうなると暑苦しいが、今は寒いのでちょうどいいかもしれない。
温かい飲み物をすすりつつ、羽純はそんなことを考えた。
「さて、休憩は終わりだ。続きをやるぞ。ホリイは2階の装飾部分を手伝ってくれ」
「2階までやるんですかっ?(完成するのかな)」
「しかし今日中にできるのか?」
「問題ありません。ゴッドスピードを使います」
ブリジットの発言と、スキルの発動。一体どちらが早かっただろうか。その後は効果が切れては使用。きれては使用を繰り返し、なんとかお昼頃に氷の城は完成した。
「よーしっ! 一般開放するぞ!」
早く動くことができる。というのはつまり、その分疲れやすいはずなのだが……甚五郎はまだまだ元気そうだった。
「ブ、リジットはともかく。甚五郎はなんであんなに元気なんでしょう」
「さっさあな。わらわにも謎じゃ」
へとへとになっている2人を見て「気合いが足りないぞ、2人とも」と言う甚五郎だが、すでに気合いだけの問題ではない気がする。
「甚五郎。さっそくの見学者ですよ」
「おおっようこそ。わしらの氷の城へ」
街中に突如出現した氷の城は、瞬く間に人を呼び、見学者が途切れることはなかった。
「ふむ。まあよい出来じゃな」
「わぁっすごいですね」
休憩した後、改めて氷の城へと入った羽純とホリイは、感嘆の声をあげている見学者を見て「苦労したかいがある」と笑った。
◆
「あれはなんでしょう……氷の城?」
そんな氷の城に目をひかれた東 朱鷺(あずま・とき)は、雪だるまを作っていた手を止める。雪だるまはそれはもう見事な丸みを帯びた球だった。
「なるほど。氷術で氷のパーツを作り、火術で溶かして接着ですか……見事ですね」
ひとしきり感心した後、雪だるまを見つめる。
「ふむ。いろいろな技を駆使して作ってみるのも楽しそうです。やってみましょうか」
頷いた朱鷺は雪を積み上げてから、いきなり刀を抜いた。目にもとまらぬ速さで刀を動かす。
キンっ。
刀がさやにおさまった時、そこには立派な雪像があった。おおっと周囲から歓声が上がる。
「……少しここの角度が甘かったですか。丸みを表現するのは難しいですね」
本人はどこか不満そうで……この後も次々と雪像を生み出していく。これも1つの楽しみ方だろう。
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