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デート、デート、デート。

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デート、デート、デート。
デート、デート、デート。 デート、デート、デート。 デート、デート、デート。 デート、デート、デート。 デート、デート、デート。

リアクション


●Hot Hot Summer Night!!

 夏だ夏だというわけで、昼のうちに鵜飼 衛(うかい・まもる)はスプラッシュヘブンを軽く覗いていた。
 いやはや――これが衛の第一声だった。
 あちらもこちらもカップルカップル、そんな盛況の夏が展開されていたのである。
「さすが夏。恋愛、熱愛とお熱いことじゃのう、カッカッカッ!」
 そう笑いながらさっさと、日が暮れる前に衛は退散したいと連れ二人に告げたのだった。
「あら、打ち上げ花火は見ませんの?」
 追いすがるようにしてルドウィク・プリン著 『妖蛆の秘密』(るどうぃくぷりんちょ・ようしゅのひみつ)は問うたが、彼は意に介さなかった。
「カップルはもうよい。わしはもう年じゃし、そこまで餓えておるわけじゃないしな」
 少年のような外見でそう言われても説得力がないものの、衛によればそういうことらしい。さらに彼は言った。
「それに両手に美女二人もおるし、どーでもよいわい」
「あらやだ、お上手ですわ。美女ですって」
 これであっさり前言を翻し、プリンもそそくさと衛に同行したのだった。
 かわりに彼らが出席を選んだのは、こちら残念花火大会のほうだった。三人そろって浴衣姿だ。
「自分は恋愛には興味ないし、カップルもどーでもいい。じゃが、世間一般的にはカップルじゃないと『負け』らしいので、そういった連中は可哀相じゃろーけー」
 そう言いながらメイスン・ドットハック(めいすん・どっとはっく)は、おなじみの屋台を引いている。
「残念賞でお好み焼きを配ってやろうと思ってのー」
 するといきなり、屋台の袖につかまって食い入るように鉄板を眺める人影に出くわした。
 いや、人影……だろうか。
「がらららぅごぉがぅ!」
 ひとつくれ、と言わんばかりに、着ぐるみの手がメイスンの前に差し出されていた。
 ステゴサウルスの着ぐるみ、その口にあたる部分から、赤い目が光っている。声からして少女のようだ。
「あら可愛い恐竜さんですわね」
 プリンが屈み込んで「お名前は?」と訊いた。だが帰ってくる返事は、
「がぐらがぁぁ!」
 だったりする。常に恐竜の着ぐるみをまとう少女、彼女の名はテラー・ダイノサウラス(てらー・だいのさうらす)という。(だが、人語で名乗らないので衛たちにはわからない)
「ふーむ、身も心も恐竜というわけかのー。その着ぐるみの下、見てみたいのう」
 というメイスンを衛は軽く制した。
「中身は気になるが、それを剥ぐのはマナー違反じゃろう。謎は謎じゃから良いということもある。恐竜殿が自分で脱ぐのでない限り、我らはその扮装に手を触れまい」
 カッカッカッ! 恬淡に笑いながら衛が皿に載せたお好み焼きを手渡すと、テラーはぐるぐる声を上げながらこれを食べ始めた。熱いのか、ちょっとずつ食べていたりする。
 さて少し、離れた場所では、
「テラーが他の人間と接触したぞ! ううむあれでコミュニケーションが取れておるのか!? ……ええい、テラーがしっかりと楽しんでくれるか心配でたまらん!」
 少女英霊チンギス・ハン(ちんぎす・はん)が、『花火大会はこちら!(ただしカップルは入場をご遠慮下さい)』と書かれた立て看板の裏側よりテラーを見守りやきもきしている。
「テムジン、あの人たちは悪党のたぐいではなさそうです。そこはなんとかなると思いますが……けれど、いよいよ花火となったら、テラーが怪我をしないかが心配でなりませんわ!」
 そのすぐそば、『バケツに水を入れて用意しましょう』と書かれた立て看板の裏側に身を隠して、やはりバーソロミュー・ロバーツ(ばーそろみゅー・ろばーつ)も気を焼いている。テムジンつまりチンギス・ハンは小柄な少女なのだが、彼女バーソロミューはモデルか女優なみに背丈があるのため、小さな看板の裏に隠れるのは非常に窮屈だ。でもその窮屈に堪えてでも、テラーを見守りたい気持ちがバーソロミューにはあった。
「ね〜、何やってるの〜?」
 そんな二人の背後から、なにやら脳天気ぎみな声がする。
「ね〜ね〜、かくれんぼ〜?」
 トトリ・ザトーグヴァ・ナイフィード(ととりざとーぐう゛ぁ・ないふぃーど)である。彼女もテムジン、バーソロミューと同様にテラーのパートナーだ。
 もちろんトトリとてテラーのことは心配だけれど、それ以上にチンギスとバーソロミューが何をやってるのかが気になる様子で、つんつんとつついてきたりもする。
「つつくでない! というかトトリも草葉の陰(?)に隠れておれ!」
「そんなことしなくても眷属テラーはこっちなんか見てないよぉ。あの食べ物と花火に夢中で」
「いわば様式美ですわ! たとえ気づかれてなかろうが、こっそり見守る保護者の気持ち!」
「そういうものなのかなぁ?」
「そういうものである!」テムジンと、
「そういうものですわ!」バーソロミューの声が、ぴったりとハーモニーを奏でた。
「いまのところテラーに手を出そうという不埒者はないようだが、いざとなれば飛び出して、そやつをボッコボコのギッタギタにしてくれるわ」
「ええ、恐怖のズンドコもとい『どん底』を味あわせてやりましょう」
 今日はなんとも意見一致しているテムジンとバーソロミューなのである。
「誰か手を出してこんかな……」
「ええ、わたくし、早く不埒者悪党をボッコボコのギッタギタにしてさしあげたく思いましてよ」
「ね〜、それって、心配している人の言動っぽくなくない〜?」
 というトトリも、いざ鎌倉となれば眷属『無形の巨人』でどっかーんと痛めつけてやる決意であった。
 ……残念ながら(?)そういう連中は見あたらないが。
「花火、ここでいいの?:
 看板のところに、緋色の浴衣を着た少女が立っている。日本人形のように長く黒い直毛、気が強そうだが整った目鼻立ち、有名人なのでトトリも彼女を知っていた。
 夏來 香菜(なつき・かな)である。実は彼女も非リア充すなわち独り者、退屈なのでやってきたのだという。ここに、
「やっぱりここなんだね。よし到着! 通称『残念花火大会』! 非カップル限定の手持ち花火大会なんだもんねー!」
 ぴょんと飛び込むようにして、やってきたのはネスティ・レーベル(ねすてぃ・れーべる)だ。
「非カップル限定手持ち花火大会、とはね。なんというか……」
 彼女の連れは榎本 尚司(えのもと・しょうじ)である。尚司は複雑な表情をしていた。急に誘われてなにかと思って来てみれば――というやつだ。
「おや?」
 有名人の予感……! 香菜の姿に気づいて、ネスティ臆することなく話しかけた。人生、楽しんだ者勝ちが彼女のモットーだ。ここで話しかけそびれたら、もう一生、香菜と話す機会はないかもしれない。
「ええと……蒼学の夏來さんだよね? 夏はどこもかしこもカップルだらけでイヤだよねー」
「そうだよ……うん、まあ、同感」
 香菜は戸惑いつつも、人好きのするネスティに釣り込まれたように苦笑いを見せた。
 ここでネスティは簡単に自己紹介した。
「でも、意外だなぁここで顔を見るなんて、夏來さんって結構モテそうなのになあ」
 失礼すぎない程度に率直にネスティは笑った。
「モテそうだなんて買いかぶりよ。実際、これまでもたいてい独りだったし……レーベルさんこそ、立派な彼氏さんを連れてるじゃない?」
「彼氏!?」
 ぎょっとしてネスティはばたばたと手を振った。
「違う違うって、あのおっちゃん(榎本尚司)は保護者みたいなもん。彼氏だなんてないから。絶対ないから!」
 尚司自身も口添えるのである。
「まあそういうことだな。おっちゃんはおっちゃんなんで、そういうのとは違う」
 と言いながらも――別に構わないがそんな全力で否定しなくたって――と、ほんのり寂しい尚司だったりもする。
「ところで夏來さんって、誰か一緒に遊ぶ予定の人いるの?」
「特には……」
「じゃあ、私たちと一緒に花火しない? どんどんやろうよ! ロケット花火やねずみ花火、あと、なんかうねうね動くのもあったよね。名前なんだったかな〜??」
「それヘビ花火じゃない?」
「そうそう、ヘビ花火! こちらスネーク!」
 彼女たちは知るまいが、今日、この会場でもっとも消費されている花火は実はヘビ花火だったりする。なんとも『残念』な感じが人気の秘密なのか……?
「ところで私のことは、『香菜』って呼んでくれたらいいわ」
「本当? じゃあ私のことは『ネスティ』で! あ、そうそう、おっちゃんのことも『おっちゃん』でいいから!」
 あっとういう間に打ち解けて、ネスティと香菜は友達になった。なんだか優等生っぷりの目立つ香菜、悪く言えば面白味に欠けるところのある彼女と、一見ちゃらんぽらんながら明るく友達の多そうなネスティは互いを補い合ういい組み合わせともいえよう。
 花火会場は活気に満ちていた。もう残念なんて言わせないぞ、とでもいうかのように。
「ぐぁる?」
 テラーが大筒花火を手にして、『これ、どうやるの?』とでも言いたげに衛を見る。
「ああこれは手持ちの打ち上げ花火じゃな。どれ恐竜殿、やってみせるから見ておれよ」
 衛はこれを夜空に向けたまま着火した。ぱんぱんと色とりどりの炎が空に上がっていく。
「どうじゃどうじゃ、これが花火の威力じゃ。カッカッカッ! 次は恐竜殿の番じゃぞ」
「着火はおまかせ下さいまし」
 プリンが火をつけた大筒をテラーに手渡した。だがどうしたことか彼女はこれを手で持たず、
「ぐぁるぐぁるぐぁああーーぅ!」
 口でくわえて走り回った。当然、火の玉がバンバン水平に飛ぶ。
 これにはケンカしていたレンとユニも中断するほかない。
「えっ、な、なにっ!」
「ちょっと! こっちへ逃げてこないでよ!」
 などと言いながらもつれ合うようにして火焔を避け、
「キル、こっちだ!」
「だけどアル、ヘビ花火十六連発がー!」
 キルラスの手をしっかり握ってアルベルトも走った。
 なお衛は全然平気で、
「若いのう……」
 と、何やら得心したような顔で頷いていた。
 だがテラーの巻き起こしたテラー(恐慌)は、テラー自身に収斂することとなった。
「げぁるぅ!」
 大筒の火がテラーの着ぐるみに引火したのである。転げ回って火を消さんとする彼女に、バーソロミューもテムジンも馳せ参じ、この二人が壁になってその隙に、
「持ってて良かったスペアの着ぐるみ」
 と、トトリがテラーを手早くに着替えさせて、完了。
 普通世間ならこれはちょっとした騒ぎになるところだが、あいにくと普通世間ではない契約者ばかりがこの場所には集まっているので、
「うん、ま、落ち着いたみたいね。花火再開しよーっと♪」
 とネスティが言ったように、あっと言う間に平穏を取り戻していたのだ。
 パチパチと拍手が鳴るのを見れば、不死鳥のようにテラーが、
「ごらごらごぁらげーぇ!」
 しっかりアロサウルスの着ぐるみ姿になって、再登場したのであった。これも含めて一連のショーであったかと、納得している観衆すらいた。
 ところでネスティは、彼女いわく『とっておき』の花火を手にしていた。
「ネスティそれは?」香菜が訊く。
「ロケット花火」
「いやわかってるんだけどなんか変じゃない?」
「そりゃあ、二十束くらい束ねてるんだもん。変なはずさ!」
「それよりも!」尚司がぐいと口を挟んだ。「お嬢ちゃん、何でその物騒なウェポンいやロケット花火を俺に向けてる? それは手で持つもんじゃねえし、ましてや人に向けるものでもないぞ」
「そう、人に向けたらダメでしょ!」
 学級委員気質の香菜はすぐに止めるも、ネスティはやっぱり平然としていた。
「そう? 花火ってさ、持つと何かに向けてみたくなったりしない? え? ダメ?」
「ダメ!」と声が重なった。香菜と尚司の変則ミックス。
「……ちょこーっとだけでも??」
「ここには他の人たちもいるんだから止めといて……いやいや、いなかったらいいとかいう問題でもないよ」
 尚司の額を、つーっと汗が伝った。
「撃つなよ……絶対に撃つなよ?」
 これはまさか誘い文句? それとも本音?
 ネスティは本当に撃ったか!? 発射したか!?
 ……正解はコマーシャルの後で。
 

 いや、この作品にはコマーシャルはないので、オチは各自想像してみて下さい。(丸投げ)