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求ム、告ゲラレシ天命ノ被験者

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7月生まれ:佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)のケース


『いい日になるといいねぇ』


 朝、食事をしながら弥十郎は佐々木 八雲(ささき・やくも)とともに、そのテレビ番組の占いコーナー見た。
「なんだか、今日の運勢はよさそうだねぇ」
 『追い風が吹いている』らしいし、道理で体中に取り込まれているドラゴン達も嬉しそうだなぁ、と清々しく考えている弥十郎の傍らで、八雲は、
「『一見怪しそうなもの』……?」
 と首を捻っている。そのキーワードで思い浮かぶのは彼の場合、【アスコンドリア】や【大帝の目】だが。
「…いつも身に着けてるしなぁ」
 そんなもので開運できるとは思えない。占いは信じていない。
 対して弥十郎は、
「ラッキーアイテムは『お面』……そういえば、【天狗の面】がありますねぇ」
 何だか楽しそうに準備している。
 今日は薔薇の学舎のバラ園に、二人そろって薔薇の手入れに行くという予定がある。


 社会通念として当たり前と言えようが、特に今日は占いでも『ドタキャンはNG』とあるので、弥十郎は予定の5分前にはバラ園に来ていて、場違いな天狗の面をぶら下げながら水を撒いていた。占いの文言がよかったから、というわけでもないが、鼻歌が自然と出るくらいには気分がよい。ここのところ雨が降っていなかったから、水を浴びるバラの木たちも何となく嬉しげに見える。この時期が盛りと花をつけているものも、秋冬に備えて整枝や追肥を受けているものも、まだ夏の暑さが立ち込める目の朝の空気の中で、緑色が瑞々しく見える。
「あれ……?」
 そんなバラの木々に目を向けていた弥十郎は、ある葉に目を止めた。
 葉の表面が少し擦れている。……注意して見てみると、一枚だけではない。ところどころに、幾つか。
 それを手に取り、裏を返してみた。
「ハダニ……?」


 同じ頃、やはりバラの手入れをしていた清泉 北都(いずみ・ほくと)は、
「あ、ちょっと」
 やってきた八雲に呼び止められた。
「念のために訊いているんだが、この中に君のもの、あるか?」
 そう言って差し出されたのは、趣も仕立ても異なる財布が三つ。
「いえ、どれも僕のじゃないです。落し物ですか?」
「あぁ。あっちの方で水撒きをしていて拾ったんだ」
「三つも? 多分、一人の人のものじゃないですよね」
「そうだな。まさか実ってたわけでもあるまいし」
 妙なこともあるもんだ、と八雲は頭を掻く。バラ園で作業中に、財布を3つも拾うとは。
 見つけた時、何故か【アスコンドリア】が「イー」と鳴いていたっけ……
「とにかく、落とし主は今現在この辺にはいなさそうだし、届けてくるか」

 学者の遺失物管理事務所。
「薔薇園でこれ拾ったんだわ」
「…3個も?」
「そうそう」
「あら…」
「あの辺りは夜涼しいしな」
「道理で……」
「ん? 困ってると思うから、あとよろしく」
「はいはい」
 引き取って記録簿に何やら記入する事務員をよそに、まだこの奇妙なことにどこか釈然としない顔のまま、八雲は事務所を出ていった。


「これくらいで見つけられたのはラッキーだったねぇ。これ以上進むと大発生だったから」

 弥十郎が見つけたハダニはまだ初期症状で、念のため見つかった木の辺り一帯の木を調べてみたが、広がっている様子もなかった。
「全くだな、見つかったのが早くてよかった。助かったよ」
 薬剤を出すのを手伝ってくれた専任の庭師さんにも言われ、弥十郎ものんびりゆったり微笑んだ。
 酷い状況になる前にささいな兆候を発見して食い止められたのは、幸運であった。


『占い、あたったのかな


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●委員Bによるチェック●
 アンラッキーに至らせなかったのがラッキー…そういうのもあるのか。
 しかし、財布3つとは……知ってたら薔薇学に忍びこ   …………いやいやいやいやいや。