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囚われし調査隊、オベリスクの魔殻

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囚われし調査隊、オベリスクの魔殻

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2章 「闇と影」


 〜遺跡最深部・通路〜


 通路を走るアルエット・シーニュを追いかける騎沙良 詩穂(きさら・しほ)
 その距離はアルエットに同行する辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)の妨害により、徐々に離されていた。

 刹那は袖から毒虫の群れを撒き散らし、その間を埋めるようにしびれ粉を散布する。
 詩穂は覇者の剣で巧みに毒虫を打ち払い、即座に機晶シールドを展開させ、しびれ粉を回避する。

「アルエットさん! どうしてこんなことをッ! そんなにこの奥の物が大事なの!?
 一緒に頑張った調査隊の人達を犠牲にしちゃってまで、手に入れなきゃいけない物なの?」

 詩穂の問いかけにアルエットは答えない。背中を向けているため、その表情は見えないが、
 こちらのことなど眼中に無いようであった。

「うるさい虫が飛んでいるようですね……刹那、お願いしますよ」
「了解じゃ、アルエットは先に行け。片づけたら追いつく」

 刹那はくるりと方向を変え、一気に詩穂へと急接近する。
 警戒し、足を止める詩穂を空中から刹那が襲う。
 袖の中から柳葉刀が詩穂に向かって投擲された。機晶シールドでそれを弾くが、目の前には刹那はいない。
 壁を利用して跳躍し、刹那は詩穂の背後に取っていた。

「……ッ!? しま……」

 防御の間に合わない詩穂と襲いかかる刹那の間に何者かが割って入り、刹那の攻撃を受け止める。
 それは紫月 唯斗(しづき・ゆいと)であった。そばにはリーズ・クオルヴェル(りーず・くおるう゛ぇる)もいる。

「……唯斗ちゃんッ!」
「ちゃ、ちゃん……ちゃんづけはなかなかに慣れないが……まぁ、お前はアルエットを追え」

 いまだに慣れないちゃんづけに少々動揺しながらも唯斗は詩穂に先へ行くように促す。

「そうそう、唯斗ちゃん、の言う通りあんたはアルエットをお願い!」
「リーズ……お前まで……」
「えー可愛いじゃん、唯斗ちゃんって」

 言葉では他愛のない会話をしているが、その動きは止まっておらず
 刹那の放った轟雷閃を唯斗が受け流し、リーズが攻撃をかけるなどの連携攻撃を行っている。
 巧みに周囲の壁を利用し、刹那も唯斗達の反撃をすれすれで躱し続けていた。

「……わかったよ。ここはお願いするね!」

 詩穂はアルエットを追い、通路の奥へと消えていった。

「さて、そうそうに片づけて詩穂を追わないとな」
「ずいぶんと余裕のある物言いじゃのう……」
「こっちは二人、そっちはお前ひとり……そんなに時間が掛かるとは思えないな」
「そうか……ならば、これでどうじゃ?」

 刹那は妖しくにやりと笑うと武器を投擲し、通路の松明を全て破壊する。
 辺りの明かりは一瞬にして無くなり、周囲を暗闇が包み込んだ。

「なっ!? これじゃ何にも見えないじゃない! ……きゃあああッ!?」

 何処からか刹那の攻撃がリーズを襲った。
 辛うじて防御はしたものの、肩を少し裂かれてしまう。

「ぐぅ……この……」

 肩を押さえながら、リーズは武器を構えなおすが、痛みと
 どこから攻撃が来るかわからない感覚によって落ち着きがなかった。

「リーズ、落ち着いて気配を探れ」
「気配?」
「そうだ、相手の動く音、風の流れ……それを感じ取れば暗闇など、恐れるに足らん!」

 唯斗は気配を頼りに攻撃を放つ。
 攻撃は的確に刹那を捉え、その体を裂いた。
 唯斗の顔に温かい液体のようなものがかかる。それは出血した刹那の血液であったが、
 特に唯斗は驚くことも無く、攻撃の手を緩めない。

「ぬぐぅッ!」

 数度武器を打ちあった後、刹那の気配は徐々に遠ざかっていく。

「追わなくていいの?」

 落ち着きを取り戻していたリーズは刹那の気配をしっかりと感じ取っていた。

「ああ、俺達の目的はあいつの捕縛じゃない。アルエットの捕縛だ。
 逃げた方向から考えると、出口の方だろう」
「仲間を見捨てて逃げたって事?」
「いや、あの動きは暗殺者のもの。なら、金で雇われたって言うのが一番有力だろうよ。」
「金……ねぇ」
「かなりの深手を負ったはずだから、もう手出しをしてくることはないだろう。
 さて、詩穂を追うぞ!」

 唯斗達は先に向かった詩穂を追い、通路の奥へと消えていく。

 少し離れた通路のに刹那はいた。

「あの唯斗とかいう者……手心を加えおったな。あの距離であれば、わらわを絶命させる事もできたというに」

 応急処置を施し、何とか動ける体力までの回復を待つ。

「奴の甘さか……それとも強者故の余裕か……ふっ、面白い男じゃな」

 刹那は天井を眺め、呟く。

「唯斗……か」