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ジヴォート君のお礼参り

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ジヴォート君のお礼参り

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★ぷろろ〜ぐ《世間知らなさすぎ注意報》★


 街中を歩いているジヴォート・ノスキーダ(じぼーと・のすきーだ)の後ろを、フードを目深にかぶったいかにも怪しい男がついてまわっていた。
「お礼参りって……どうすりゃいいんだろうな」
 そんな男に気づかぬまま、ぽつりとジヴォートは呟く。お礼参り(恩返し)と一口に言っても、人によってありがたいこととは違うもの。
 困ったな、と考え込む彼に話しかけてきたのがあの男だった。
「りあじゅうが世界を滅亡させる? 本当なのか、それ?」
 それは突拍子もない話すぎて、普通なら「頭悪いんじゃないのか?」と相手を心配してしまっただろう。しかし幸か不幸か。ジヴォートは普通じゃないほどにお人よしで、世間知らずだった。

「見て下さいマスター、ポチ。あそこにイキモさん所のジヴォートさんがおりますよ。
 一体何をやっていらっしゃるのでしょうか?」
 そんな時に近くを通りがかったのはフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)だ。腕の中に忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)を抱きしめ、ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)と散歩をしていたらしい。ポチの助を連れてきたのはベルクと2人きりだと意識してしまうからだ。
「(ご主人様は嬉しそうなのです……エロ吸血鬼め)」
 ポチの助は複雑な犬の気持ちを抱えつつ、主人の気持ちの変化を察して大人しく抱かれていた。時折首がしまっても我慢である。
 そんなフレンディスたちがジヴォートに近づいていくと明らかにフードの男が「げっ」とした顔をしたのを見て、ベルクは嫌な予感がしてたまらない。
「あんたはたしかフレンディスだったか? ……いやそれがこいつが言うには、りあじゅうってのが世界を襲うらしい」
「りあじゅう……リア獣が世界を襲うのですか? それは大変です! 何とかしなくてはいけませぬ!」
 そしてここにも、突拍子ない話を信じてしまう人物がいた。
(リア獣が世界を襲う……うーん、獣人さん大行進なのでしょうか?)
(りあじゅう、リア獣ってことだよな? どんな獣なんだ? 話合いですまないかな)
 真剣に考え込むジヴォートとフレンディスに、ベルクが額を押さえた。その横でジヴォートはポチに気づいて優しげに瞳を細め、ポチは動物好きオーラを感じ取って本能で尻尾を振る。
「フレイ。お前は手伝う必要はねぇぞ? 寧ろ逃げるか止める立場っつー事に気づけ」
「え? なぜですか?」
「ジヴォート、逃げるぞ。そいつらはりあじゅうだ!」
「えっ? でも」
「行くぞ」
 謎の男がほぼ無理やりジヴォートをひきつれてどこかへ行こうとする。フレンディスは驚き、手を振った。
「わ、私もリア獣だと勘違いされております!? 確かに耳と尻尾はありますが、これは金狼さんなので違います! 決してワンちゃんではありませんよ?
 いずれに致しましても敵ではありませぬ……!」
 誤解を解きに追いかけようとしたフレンディスだったが、周囲を囲まれたことで動きを止めた。
「リア充は爆破だ」
「ですから私は」
「……なんなんだよこれ……リア充が羨ましい連中の仕業ってヤツか」
「む。そこの下等生物共! ご主人様を攻撃するのは、この超優秀なハイテク忍犬の僕が許しません。
 そこのエロ吸血鬼だけにするのですよー!
 よければ僕もお手伝いしてあげましょう!」
「おいこらポチ! お前も余計な事しやがったら野良にするぞ!」
 ベルクは今日も周囲に振り回されつつ、変なことになってきたなと囲んできた連中を見た。全員顔が分からないように仮面や布を巻いている。
(変なことに巻き込まれたな。ジヴォートも変な男と一緒だし、報告しとくか、一応)
 動きを予測して連中たちの攻撃を避けつつそう考え、あまりにもしつこかったので暗黒を生み出してそれで全員を包み込んだ。威力は抑えたが、闇の中で膝をつく音が聞こえた。
「チッ」
「おいポチてめぇ、今舌打ちしたろ?」
「なんのことですか?」
「マスター! 早くジヴォートさんを手伝いに行きましょう」
「いや、だからなフレイ。協力したらダメなんだよ」
 なんとか分かってもらおうと説明するベルクだが、フレンディスは「?」と首をかしげるばかり。最終的には諦めて、とりあえず報告だけでもしておこうと携帯を手にする。
「ご主人様には手を出させません! ぐぁるるるるっ」
「ですから私は違います」
「……はぁ」
(なんか、めっちゃ疲れた)



「はあ、世間知らずとは聞いていたけどまさかここまでとはな」
 ベルクからの知らせを受けて頭を抱えたのは、山葉 涼司(やまは・りょうじ)。その後の調べでジヴォートたちはとあるお化け屋敷で何かをしようとしていることまで分かったのだが、呆れるしかないだろう。
「あの……涼司くん、一緒にお化け屋敷へいきませんか?」
「え?」
 そんな涼司へ山葉 加夜(やまは・かや)が話しかける。
「ジヴォートさん、巻き込まれてらっしゃるみたいで心配ですし、すでに中に入ってる人たちを守るためにも、と」
 できれば今度は普通に2人で来たいなぁ、と思いつつ加夜は涼司を窺う。涼司も「そうだな」と了解して2人はお化け屋敷へと向かうことになった。
 手をつなぐ2人の顔が少し楽しげなのは、見間違いではないだろう。

「説得に成功しても他に仲間がいそうだし、本人を説得しても男の仲間が起こした罪を着せられる恐れがある」
 説得に向かう面々を見送った玖純 飛都(くすみ・ひさと)は、少し考え込んでから行動を開始した。
 罪を着せられる可能性があるのなら、その『罪』をなくしてしまえばいい。
 お化け屋敷のジンクスについて『(ランダムに起こる、ちょっとアブナイ妨害イベントを切り抜けて)二人で出口にたどり着けば、永遠に結ばれる』という噂をさらに流す。これによって、吊り橋効果も期待してやる気満々のカップルばかり来ることだろうし、何かあってもイベントですむ。
 あとは飛都自身がアルバイトとして潜入し、危険な罠や非リアたちを排除していけばいい。
 迎える準備は万全だ。



 こちらは場所が変わって蒼空学園の家庭科室。
 佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)はそこで授業の手伝いをしていた。その時、兄の佐々木 八雲(ささき・やくも)がドライフルーツを戻すために用意したブランデーを間違ってペットボトルに紅茶ともに詰めていた。
 そうとは知らず、無事に授業を終えた弥十郎がそのペットボトルを一気飲みした。
「ぃっく、あれ〜。なんだか気分がいいや〜」
 顔を赤くして様子がおかしい弥十郎を見て、真名美・西園寺(まなみ・さいおんじ)が八雲をつつく。
「ねぇやくもん。弥十郎の行動かなりおかしくない?」
「そうだな。で、やくもんって何?」
 真名美のやくもん呼びに八雲が少し眉を寄せるが、真名美は全く気にしない。
「あぁ、授業中に紅茶を入れてたからペットボトルに入れておいた。あと、この瓶に入ってたメイプルシロップも一緒に。ところで、やくもんってなに?」
「え、やくもん、この瓶の中身いれたの?」
「そうだよ。良い香りするよね。ところで、やくも…」
「これ、甘くしてあるブランデーだよ。だめじゃない、やくもん!」
 驚いて言う真名美に対し、八雲はやはりあれが気になるようで。
「僕、ゆるきゃらじゃないんだけど。呼ぶなら、八雲って名前でよんでよ」
「そこか!」
 やはり呼び方が気になる八雲だったが、いつの間にか目に見える範囲からいなくなってしまった弥十郎を探してくるようにと背を叩かれた。
「僕にもイメージあるんだけどね。やくもんは……、はぁ、すげぇ、イメージ崩れる」

 その時弥十郎がどうしていたかと言うと

「え? リア獣を爆破するという人たちがいるの? どこ? お化け屋敷? ふ〜ん」
 酔っているはずだというのに軽やかなステップを踏みながら、弥十郎はお化け屋敷へと向かったのだった。