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【ぷりかる】老婆とお姫様の贈り物

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【ぷりかる】老婆とお姫様の贈り物

リアクション

「……何、この野次馬」
 イングリットから事情を聞いた後、ローズは消火と被害者の救助に急いでいたのだが、赤々と燃え上がる炎に群がるように大勢の住民が集まってる様を見て苛立っていた。

「何だこの炎」
「すげぇ」
「だめだ。水じゃ無理だ」
 野次馬と消火しようとする人がちらり。

「……普通の水での消火は無理。僅かな魔法の気配……お手伝いします!」
 ローズは炎に魔法の気配を感じた後、消火しようと頑張る住民を発見し声をかけた。
「あぁ。でも水じゃ消えないぞ」
 バケツを持つ男性は効果の無い何度目かの消火をしようとしていた。
「分かっています。ですから、私が教える素材を集めて粉末にして水に混ぜて下さい」
 『薬学』、『医学』を持つローズは魔法成分の炎を消すために必要な素材を教え、指示をする。
「あぁ、分かった!」
 男性はバケツを地面に置き、急いで言われた物を集めに奔走した。

 それからローズは野次馬に向かい、
「皆さんも騒いでいる余裕があるのなら消火と被害者の手当を手伝って下さい! このままでは街全てが犠牲になりますよ! それでも騒ぐ人は逃げていてもらえますか。埃が舞って不衛生ですから」
 声大きく一喝して災害を祭りのように騒ぐ人達の空気を大人しくさせた。

 ローズの言葉でざわつく人々。
「……あぁ、分かった。火を消すのはどうすればいいんだ」
「手当を手伝えってどうすりゃいい」
 手伝おうという人がちらちらと現れ始めた。
「大量の水と布に消毒液と包帯を用意出来るだけ持って来て下さい。あと、怪我人を手当で寝かすための毛布か布もお願いします」
 ローズは名乗り出た人達に指示をし、怪我人の治療のため急いだ。

「……一体何が」
 たまたま街に遊びに来ていた長原 淳二(ながはら・じゅんじ)は、騒がしさとあちこちで立ち昇る炎に眉を寄せていた。

 その時、
「ふやぁあぁ、火が火が……消えない……消えないよ」
 服に火が燃え移り、水をかけて消火しようとするも消えず、大慌ての女性がいた。
「……水で消えない火」
 淳二は急いで女性を襲う炎を『氷術』で消火した。
「……これで大丈夫ですよ。火傷はしていませんか?」
 消火を終えるなり淳二は女性に優しく言葉をかけた。服が焼けた以外に怪我などは無いかと。
「……してません。あの、ありがとうございました」
 女性は幸い怪我はなく、ぺこりと淳二に頭を下げた。
「いえ、それより早く安全な場所に避難した方がいいですよ」
 淳二は女性に避難をするように促した。詳しい事は分からないが、悪い事が起きているのは確かだから。
「はい。あの、助けて頂いてありがとうございました」
 女性はもう一度淳二に礼を言ってから急いで避難した。
「……魔法でしか消火出来ない炎。事件の予感だ。これは誰かに事情を聞く必要があるな。分からないまま関わらない方がいい」
 淳二は事情を知っている人が必ずいると考え、捜す事にした。

 捜し回ってすぐ
「……あれは」
 忙しく怪我人の手当をしているローズを発見した。
「おい、何が起きたんだ」
 近付きながらローズに呼びかけた。
「あ、淳二……実は……今手が空いている方はすぐに治療が終わった人をどこか安全な場所に運んで下さい! 大変な事が起きていて」
 淳二に気付くも治療の手は止めない。事情を話す間も手伝う住人に指示を出したり冷水で患部を冷やしたり体の大部分が火傷に冒されている人には『命の息吹』を使用し、煙にやられた人は指示をして作らせた薬を使う。『応急手当』を持つローズに無駄な動きは無い。
「……そうか。俺も手伝おう」
「助かるよ」
 ローズは頼りになる人手に礼を言った。
 淳二は『氷術』を使い、消火活動や避難誘導に勤しむだけではなく『応急手当』も持つので手当も手伝っていく。

 イングリットから事情を聞いた後、
「しかし、毒の林檎を食べてか、まるで白雪姫だったな。もしかしたら王子様のキスであっという間に目が覚めたかもしれないぜ?」
 ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)は眠るグィネヴィアを思い出しながら軽い調子で 清泉 北都(いずみ・ほくと)をからかった。
「そうだとしてもそれは僕の役目じゃない。恋人が居る身でそれはまずいよ。それよりも消火活動をするよ」
 北都は軽く受け流し、仕事について話し始めた。
「……それならソーマが怪我が、オレが解毒って役割な」
 白銀 アキラ(しろがね・あきら)が分担を話した時、早速最初の仕事が舞い込んだ。
 三人は急いで現場に向かった。その途中、北都はリースからグィネヴィア目覚めの連絡を受けた。

 火事、現場。

「な、何だよ、水で消えねぇよ」
「どうしよう、目が覚めないよ!!」
「凄い火事だな」
 上手く行かない消火に慌てたり被害に遭う者、野次馬。

「ぐはぁ……何なんだよ、この煙」
 獣人で五感が優れている白銀は予想外に強烈な煙に参った様子でマスクを装着した。
「……すげぇ、火」
 煙避けの布で口元を防御しながら火を見上げるソーマ。
「消火するよ」
 北都は煙避けのハンカチを口元に当てながら『氷術』で消火した。
 その間に白銀とソーマは被害者の治療に当たる。
「大丈夫か」
 白銀は素速く煙を吸った人に『ナーシング』を施して治療。
「すぐに治してやるからな」
 ソーマは、火傷の重傷者に『命のうねり』で治療した。

 消火と治療を終えた後、
「……マスクしてもあまり調子出ないぜ」
 と白銀。
「……さっさと始めて終わらせるか」
 とソーマ。
「……少年を騙してグィネヴィアを陥れた犯人、何か嫌な感じだねぇ。もしかしたらいるかもしれない」
 北都はふと思った事を口にした。子供を利用し契約書を小鳥に変え、グィネヴィアを陥れる。火事を見ずに安全な場所に避難しているとは思えない。
「犯人捜しをしている奴がいるんだろう? すぐに捕まるんじゃねぇか」
 ソーマが肩をすくめながらあっさり言った。
「だと思うけど、一応警戒はしておいた方がいいね」
 北都もソーマの言葉通りだとは思うが、用心に越した事はない。
「……さっさと次の現場に行こうぜ」
 早く終わらせたい白銀は話を戻し、本格的な消火活動が始まった。
 北都は宮殿用飛行翼を使い火の手が強い場所へ向かい、上空から『ホークアイ』で火の広がりを確認し、風向きも考慮して『ブリザード』での広範囲消火をソーマに指示。きっちりと火の粉が周囲に拡散しないように火の外側から指示された『ブリザード』で広範囲を凍らせて封じ込めていく。白銀は『超感覚』を使い、救助の声を追って機晶マウンテンバイクで走り回っては風の流れを読み、適切な場所にある壁やドアをぶち破って救助をした。

 イングリットから情報を得た後、舞花に遭遇する少し前。
「……火事か。人も家も守りたいが、火災によっては難しいかもしれないな。犯人は財産や思い出を灰にされる家人の心痛をどう思っているんだ。犯人を見つけて彼らの心痛を理解して貰いたいが、情報を得るには生け捕りだろうな」
 消火に向かう陽一は犯人について考えていた。犯人をどんなに痛めつけても全く胸は痛まないが、自分の立場や場所を考えると無法な事は出来ない上に今回の事件の情報を得る必要がある。たまたまグィネヴィアが狙われたとはとても思えないのだ。
 陽一は近くに火事現場に駆けつけた。

 火事現場。

「おぉ、すげぇ」
「何なんだ。水で消火出来ねぇよ。逃げろーーー」
「うぉっ、煙が来るぞ!」
 騒ぐ野次馬。多い煙に驚いたように散り散りになるも祭り気分の人はいなくならない。
「……祭りでもないというのに。しかし、水で消火出来ないのか」
 陽一は呆れたように言いつつも野次馬達の安全も守る。漆黒の翼を羽ばたかせ煙を無人の方向に流す。野次馬の騒ぎからそのまま漆黒の翼を大きく広げ、炎を覆って消火した。
 この後、消火に回っている時に舞花に遭遇する事に。

 舞花と会った後、
「……よし、これで消火完了だ」
 陽一は『絶零斬』の氷結属性をまとわせた深紅のマフラーで炎を長く伸ばして高速連続はたきで鎮火したところだ。
「あぁ、店が、私の店が」
 被害に遭った店主は地面に膝を突き、叫び声を上げる。顔は涙と鼻水だらけ。
「……何だ」
 店主に声をかけようとした時、陽一は視線を感じその方向へと確認に走った。

 現場から離れた場所。

「……誰もいない。いや、逃げたか。感じた気配は間違い無い」
 陽一は周囲を見回した後、言葉を洩らした。
「……犯人か。この様子を眺めていてもおかしくないな……不愉快だな」
 と陽一。思い当たるのは犯人以外無い。まだまだ消火の終わらない今、どこにいてもおかしくない。人が悲しみ苦しむ姿を愉しく見ているだろう。その事を思うと不愉快しか無い。
「……戻るか」
 ここにいても仕方が無いと判断するなり陽一は現場に戻り、店主を何とか避難させた。
 それから多くの現場を片付け終わった時、
「……あれは、凄い炎だな」
 陽一は少し離れた場所からひときわ大きい炎と大量の煙を吐き出している事を発見した。
「この周辺は消火し終わったし、あそこに向かった方が良さそうだな」
 陽一は見える大きな炎を目指し、急いだ。建物だけでなく命まで炎で焼き尽くし灰になる前に。
 そんな時、ローズからの連絡が入った。
「……ん? 連絡か。もしかしたら」
 相手を確認するなり連絡内容は話す前から分かった。
 話はすぐに終わった。いや、終わらせた。長々と話している時間は無いからだ。

 連絡を終えて
「……予想した通りだ。あそこか。最後の現場になりそうだ」
 陽一の予想通り発見した現場への救助要請だった。その場所が最後の現場となる。
「……急ぐか。建物だけでなく命まで灰にされる前に」
 陽一は大きい炎を目指して急いだ。

「……あれはヨッシュ君」
 上空からヨッシュを発見した北都は心配のためヨッシュの付近にいる白銀に連絡を入れた。
 連絡を受けた白銀は素速く駆けつけた。ちなみにヨッシュの目的地の消火救援も入っていた。

「おい、ヨッシュ!」
 白銀はマスクを外し、機晶マウンテンバイクに乗ったまま声をかけた。
「あ、兄ちゃん!」
 ヨッシュは、声をかけたのが幼稚園で交流して顔を知っていた白銀だったためすぐに反応した。
「事情は知ってるぜ。家族の所に行くんだろ」
「うん。あの姉ちゃんが何か言ったのか。一人で戻れるのに」
 ヨッシュは余計な事をしたルカルカに頬を膨らませた。ルカルカの対応は決して間違っていないが、複雑な年頃なので反発する。
「そうだな。おまえは兄ちゃんだから一人でも大丈夫だろうけど、今街は火事が多くて危ない」
 ヨッシュの気持ちを察した白銀は頭を撫でて認めながらも注意をする。
「……でも」
 ヨッシュは言葉を濁らせる。危ないのは分かっているが、飛び出したのは自分からだ。そのため付き添いがいるのは恥ずかしい。赤ちゃんではなくお兄ちゃんだから。

「どうした? あぁ、連絡にあった子供か」
 光る箒で走り回っていたソーマがヨッシュに気付いて戻って来た。
「……僕達をヨッシュ君の妹さんに会わせてくれないかな。どんな子かなぁ」
 ヨッシュのプライドを刺激せず送り届けるために言葉を選ぶ北都。
「ちっこいぞ。エンドリンって名前でさ。エンって呼んでるんだ。よく笑うし、いっつもオレに付いて来るんだ」
 妹の事を聞かれるなりヨッシュは嬉しそうに話し始めた。
「優しいお兄ちゃんだねぇ」
 北都は微笑ましいヨッシュの様子に言葉を洩らした。
「……それは」
 北都の言葉に照れるヨッシュ。手にはルカルカと交換したチョコバー。
「早速、会わせて貰おうかな」
 と北都。

 この時には地上での火事はたった一カ所となっていたがヨッシュは北都と共に行動した。醜悪な犯人がまだうろついているので。白銀とソーマは先に現場、ヨッシュの目的地に向かった。