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 アルバート・ヴァン・ローゼンクローネは陽子に拘束され、礼拝堂にはルドルフ・メンデルスゾーンをはじめとした一同が集結していた。
「では、ご説明を願いましょう、詩穂さんこちらへ」
「はいはーい。それでは、説明しちゃうぞっと」
 詩穂は大事そうに抱えていた1枚の絵画を掲げた。
「当のローゼン卿が禁忌の書を引っ張り出してまで生き返らせたかったのは、この色塗りの途中になっている絵画の女性だと思います」
「そ、それをどこから……ずっと探していたのに。マルー……」
 驚嘆したローゼン卿をそのままに、詩穂が続けた。
「屋根裏を画廊にしてたみたいだけど、そこに投げ込まれた絵画の下敷きになっていたんだよ。この絵の額縁の裏には、こう記されていたの。最愛の人、マルグレーテ・エスタ・スターフィールドの恢復を祝いて」
 がっくりと力なくうなだれたローゼン卿は、その場に跪いて涙を流した。
「すまないマルー。どうする事も、できなかったっ……せめて、せめてお前の死に目には、会いたかったのだ――」
「ナラカの道に足を踏み入れてまでして再会したかったのは、最愛の人だったのね」
「これで事件は、解決って事かなあ」
 しかし、弥十郎の意見は否定される事になる。
「まだこれの始末が残っています。みなさん力を貸してください」
 それは陽子が手にした暴走気味の禁忌の書だった。
「みなさんの魔法力を、私に送ってください」
「よし、みんな力を貸してくれっ、ローゼン卿、アンタもだぜ」
「わ……分かった」
 高円寺 海に促された一同は、ありったけの魔法力を緋柱 陽子に集結させた。
 眩い光を放った禁書は徐々に見開きのページを閉ざし始めると、ピタリと閉じた瞬間に不思議な封緘が現われて、その封印が完了した。
「終わったようですね」
 ルドルフの安堵する声が漏れると、突如として少女の声が礼拝堂にひびいた。
 石棺の上に現われた少女の幻影こそ、絵画にあるマルグレーテその人であった。
「マルーっ!!」
 呆然と見上げるローゼン卿の姿は、神に許しを請う亡者のようだった。
「………………あ り が と う アルバート ――」
 そして彼女はゆっくりと、礼拝堂へと降り立った。這いつくばったローゼンは恥も外聞もなくマルーへと駆け寄ると、それをひしと抱きしめようとした。
 しかし彼女には実体がないようで、非情にも彼の姿は宙空をかき抱いた。はらはらと光の片鱗を散らせるマルーの姿が、はかなくも散り始めていた。
 涙に頬を濡らしたローゼンは慈悲に満ちた微笑みを湛えたマルーの虚像に寄り添って、その身を抱き寄せていた。
「――さようなら、マルー」
 その言葉を聞き届けたかのように、マルーの姿はローゼンの前から泡となって消えてしまった。
 ローゼン卿の周りを漂い続ける僅かな光源が、マルーとローゼンが幸せそうに寄り添う姿を淡く映しだしていった。幻灯虫だ。1匹、2匹と、ゆったりとたゆたう。

 その光景はなんだか、

 「ローゼンとマルーが、幸せそうに踊っているみたいだねっ」

 って、誰しもが感ぜられた事かも知れない。



▼△▼△▼△▼


 ルドルフの寛大なる酌量によって、ローゼン卿はその身を洋館へ拘束される事となった。
 洋館の所有は薔薇の学舎で引受ける事となったのだが、管理と維持は引き続いてローゼンに一任される事となる。

▼△▼△▼△▼


 ――後日のこと。
 ローゼン卿の洋館には、早川 呼雪を筆頭とした著名な画家が集められた。
 彼らの手によって描かれた壁画は、館のグランド・エントランスに掛けられたのである。

 この館を訪れれば、ローゼンとマルーの幸せそうに寄り添う姿を見る事ができるだろう。

(おわり)

担当マスターより

▼担当マスター

剣 祐名

▼マスターコメント

 こんにちは、剣 祐名です。
 今回の作品は、いかがだったでしょうか。

 ご意見やご感想がございましたら、ご遠慮なくお寄せくださいませ。

 それではまた、お会いいたしましょう。
 ありがとうございました。