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学生たちの休日10

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海京のラジディストヴォー

 
 
「ううむ、まだ少し甘いな。昨日の酒が残っているのか?」
 愛用の小銃を組みあげた大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)は、いろいろな角度からそれを確かめるようにながめました。
 いったんすべて分解し、カーボンなどをすべて掃除してから組み立てています。これを手早く、完璧にできることが、銃を扱う者の一つの条件なのですが、どうも、まだ気に入らないようです。昨日遅くまで晩酌をしていたのが悪かったのでしょうか。
 いずれにしても、異教のイベントなど、仏様には関係のないことです。ですから、大洞剛太郎にも関係ありません。
「一息ついたら? お昼もまだでしょう?」
 昼食を載せたお盆を持ってきたコーディリア・ブラウン(こーでぃりあ・ぶらうん)が、大洞剛太郎に言いました。
「ああ、そうするであります?」
「剛太郎は、今日は出かけないんですか?」
 ちょっとおずおずとコーディリア・ブラウンが訊ねました。
「いや、別に必要ないであります。もともと、信仰心もないのにわざわざ祝うこともないでありますから」
 あっけらかんと、大洞剛太郎が答えます。
「今日って、祝日だったのですか?」
 ちょっと驚いたようにコーディリア・ブラウンが言いました。
「私は、てっきり、リア充な人たちがデートするお祭りかと……」
「それは……」
 どこで仕入れた知識なんだと、ちょっと大洞剛太郎が呆れて見せます。
「正確には違うが、まあ、今はそのようなものかもしれないでありますな」
 よくよく考えれば、キリストの誕生日を祝っている人が幾人いることでしょうか。だいたいにして、本当のキリストの誕生日は、別の日だという話ですし。
「だったら、ちょっと真似というか、体験してみませんか?」
「えっ?」
 しばし、何を言われたのか分からなくて、大洞剛太郎がきょとんとします。
「世間で何が行われているのか偵察するのも、たまには必要だと思うのですが……」
「そうでありますねえ……」
「少しぐらい、一緒に街を歩くとか。できたら、一緒にケーキを食べるとか……。それから、それから、プレゼントとか……」
 ちょっと緊張してうるうるした目で、コーディリア・ブラウンが大洞剛太郎を見つめながら言いました。何か、もの凄くいっぱいいっぱいです。
「まあ、たまにはよいでありますよ。ちょうど補給物資もほしいところでありましたし」
「本当ですか!? すぐに用意しますね!」
 そう答えると、コーディリア・ブラウンは大洞剛太郎の気が変わらないうちに、急いで支度をしに行きました。
 海京の街は、すっかりクリスマス仕様で、商店街にもクリスマスソングが絶えず流れています。
「さすがにちょっと寒いですね」
 海風にあおられて、コーディリア・ブラウンが両手に息を吹きかけて暖めました。それでも足りないとばかりに、ぴとっと大洞剛太郎にくっつきます。
 いきなりでしたが、さすがにその程度で大洞剛太郎はよろけたりはしません。とはいえ、どうにも、今日の街の雰囲気にはなじめないものがあります。
「さて、さっさと買い物は済ませてしまうであります」
「ええと、そ、そうですね」
 淡々と、大洞剛太郎が必要な物を買いそろえていきます。主に、冬用の装備のようでした。いまひとつ、いえ、いつものことですが、ほとんど色気はありません。
「さて、用は済みましたから、少し休むとするでありますか」
「はい」
 待ってましたとばかりに、コーディリア・ブラウンが大洞剛太郎の腕を引っぱってケーキ屋さんに入っていきました。
 クリスマス用に、ツリー型になったモンブランを頼みます。やっと、少しクリスマスデートらしくなってきた……のかもしれません。
「そうそう、さっき補充した物資でありますが、コーディリアの分もあるでありますよ」
 そう言うと、大洞剛太郎が、綺麗ラッピングされた袋を差し出しました。
「いや、今日はこの袋しかないそうでありまして」
 そう言って大洞剛太郎が差し出した袋は、赤地に銀の雪をあしらったクリスマス模様で、丁寧に緑のリボンがつけられていました。
「これは、クリスマスプレゼントですね。そうですね!」
 ちょっと身を乗り出して、コーディリア・ブラウンがそれを受け取ります。
「開けてもいいですか?」
「どうぞでありますよ」
 わくわくしながらコーディリア・ブラウンが袋を開けると、中から革製の手袋が出てきました。
「これなら、かじかんでトリガーを引けないと言うことはないと……」
「ありがとうございます。そうだ、忘れずに私のプレゼントも……」
 なんだか少しずれた理由を無視して、コーディリア・ブラウンがもっこりとしたつつみを大洞剛太郎に差し出しました。中から出て来たのは手編みのマフラーです。
「いや、プレゼント交換というわけでは……」
「さっそくつけてみてください」
 そういうイベントは俗っぽすぎると言いかけた大洞剛太郎でしたが、すでに手袋を填めているコーディリア・ブラウンは皆まで言わせませんでした。
「だから、クリスマスというわけではないわけであります」
「じゃあ、デートですね」
「買い出しであります」
 空気を読まないで、ドきっぱりと答える大洞剛太郎でした。
「さて、そろそろ行くであります」
 ちょっとちぐはぐな会話の後で、モンブランを一口で平らげた大洞剛太郎は、さっとマフラーを首に巻いて立ちあがると、コーディリア・ブラウンに言いました。